では、タウタンパク質はどうでしょうか?アミロイド前駆体やプレセニリンの変異が同定され解析された頃は、かなり劣勢に立たされました。しかし、1990年代になって「第17染色体にリンクしパーキンソン症状を伴う前頭側頭葉認知症:FTDP-17(Fronto-Tenporal Dementia with Parkinsonism linked to chromosme 17)」の原因遺伝子にタウ遺伝子であることが発見され、タウタウンパク質の重要性が再確認されました。
FTDP-17では老人斑は形成されず、神経原線維変化が生じて、神経変性に至ります。タウタウンパク質の異常が神経変性を起こしうることが直接的に証明されたことになります。実際、病原性変異を有するタウタンパク質を過剰発現するトランスジェニックマウスにおいても、タウタンパク質が蓄積し、神経変性が観察されました。これによって、タウタンパク質の異常がアルツハイマー病の病理学的カスケードにおいても大変重要な因子であることが強く示唆されました。これは、アルツハイマー病の神経病理学的時系列ともよく一致しますので、神経原因線維変化→神経変性という因果関係が存在することは間違いないと思います。
ただし、神経原線維変化に依存しない神経変性過程が存在する可能性は否定されていないので、この点は注意を要します。神経原線維変化存在するタウタンパク質は過剰にリン酸化されています。タウタンパク質過剰リン酸化の病因論的意義は長らく議論されている大切なトピックですが、過剰リン酸化は原因であるのか結果なのか、まだはっきりとわかっていません。同僚の高島明彦博士は、その病因論的意義と治療標的としての可能性を精力的に研究しています。