しるべない旅

幼い頃の思い出と日々の雑感気まぐれに綴っております。

フラッシュライト2

2023-09-16 14:37:00 | 日記

お昼寝から目覚め、井戸水汲みの時間になりました。母が鴨居から懐中電灯を取ろうとする姿に目が止まりました。「お母さん、でんち点けたい。」
「いいよ。どっちがいい?」
「赤いの。」
抱っこしてもらい、鴨居に手を伸ばして取りました。
「赤いのは、お母さんのお勤め祝い、クリームのは、あんたの誕生日祝いなんだよ。おばあちゃんが買ってくれたんだよ。」
「ぼくの生まれる前からあったんだ。」
「そうだよ。フック戻して。」
「はい。」
パチン
底面のホールダーに収納しました。ナショナルのロゴが刻まれていました。「バッグに入れたり、ポッケに入れたりしやすいよね。」
落とさないようにするため、母は、右ポケットにレンズを上にして突っ込んでくれました。
「便利でしょう?」
「うーん。半分くらい中に入れて持ち歩けるね。」
母は、親指と人差し指を丸めたり、尖らせたりして見せました。
「にぎにぎしたら父さん指と母さん指使うんだよ。」
歩きながら、仕草を真似すると、指先を触ってもらいました。
「こうだね、わかった。」
胴体を机の上に置きました。
「ここは、お母さんとおじさんが、勉強していた部屋だよ。前は、このランプに石油入れて火を点けて、照らして本を読んでいたんだよ。」
ピカピカに磨かれた石油ランプに注目しました。
「うーん。でんちって便利なんだね。」
ガサッ
引き出しを開けました。純正保管ケースを取り出し机の上に置きました。抱っこしてもらい、椅子に座りました。
「ここに中身と豆球入れてあるから、覚えてね。」
「はい。」

単1電池、豆球、本体ともに、とても高価な品物でした。電池は紙巻カバーで、液漏れしやすく放電しやすかったため、抜いていました。胴体も収納するものでしたが、よく使うから、鴨居にかけていました。
点灯前に丁寧に点検していたのをうろ覚えしています。

「レンズ開けてみな。」
「うん。」
カバーを外すと、牛乳瓶の底のような分厚いガラスレンズが出てきて、反射鏡とプラスチックカバーにセットされた豆球が外れました。
「豆球かざしてみな。中の線、切れていない?」
目を凝らしてよく見詰めました。
「切れていないよ。」
「じゃあ、戻してみな。」
「出来た。」
「中身入れないとピカピカ出来ないよ。後ろの蓋を開けて。」
「はい。」
「おへそのある方が前だよ。」
ポトンポトン
回路の仕組みを覚えるいいチャンスでした。
「入った。」
「後ろの蓋閉めて。」
「はい。」
裏面にバネが入って入るのがわかりました。開けるのは柔らかでしたが、閉めるのは、バネ力があり、力が要りました。
「閉まったね。」
母が蓋に触れてきっちり回して確かめてくれました。
いよいよ電灯です。右手でしっかり本体を握り、親指でボタンの真上を触りました。
「重いけどにぎにぎ出来た。」
「上手上手。」
「押すよ。」
ポン ギューッ
「点かないね。」
ボタンは止まらず点灯出来ませんでした。母に手渡すとレンズを私に向けてやって見せました。
「このスイッチ上げて、ボタンを押すんだよ。」
カチッポン 
「まぶしい。点いた点いた。」
「ボタン離すと消えちゃうから、こうやって。」
人差し指を脇に添えて、挟み押しして止めていました。
「やってみるね。」
母が親指でスイッチを戻して消灯させると、バトンタッチ。母にレンズを向けて、初めからやってみました。
カチッカチッギューッ
「点いたね。」
「まぶしい。」
微笑み合っていました。
「ボタン挟んでいると気持ちいいね。尖っている。柔らかーい。」
「そうだね。もう1つスイッチ上げてみな。」
カチッポンギューッ パチン
「ボタン押しても離しても点いている。面白ーい。」
「長く持ち歩いたり、置いて点けたりする時は、消さずにボタンおいた出来るね。」
「うーん。」
「じゃあ、井戸水汲みに行くから、底を照らしてみよう。」
「うん。」
父さん指と母さん指の意味がよくわかりました。これが私の道具デビューとなりました。
スイッチを消灯位置に戻して右手でしっかり握りしめました。胴体を右ポケットに入れて、下履きを履きました。
「父さん指と母さん指。」
「そうだよ。」
手を繋ぎ、指先に触れてもらいながら、井戸に行きました。百日紅、五葉松などの古木が鎮座していました。井戸は前庭のど真ん中にありました。
「お母さんが釣瓶下ろすから、底を照らしてね。」
「はい。」
蓋を開けて覗き込みました。水面はかなり深いので、怖かったです。釣瓶が水面を掴んでいるか確かめるには、灯りが必要な理由がわかりました。ポケットから胴体を出し、しゃがみました。
カチッギューッ
親指でスイッチを一段上げ、人差し指を添えてボタンを挟み押しして照らし始めました。
ガラガラガラガラ
母が落とした釣瓶がしっかり光り、水面を照らしていました。
パシャ
音がすると安心しました。
「明るくて助かるよ。」
「出来た!」
歓声を上げると井戸に反響していました。
ガラガラガラガラ
滑車を使って引き上げるまで釣瓶をしっかり照らしていました。釣瓶が上がると、指先を広げて、消灯させました。
ジャボジャボジャボジャボ
大きなたらいに入れました。入れている間に、スライドをもう一段上げ、常時点灯に切り替えました。
点灯させながら、指先を広げてボタン側面を左右に撫でていました。回転しているうちに、自然に凹むのがわかりフラッシュの時のように指先を狭めました。親指と人差し指を広げて回す、狭めて止める、仕草のコツがわかると、点灯を続けながら遊んでいました。
水汲みが一段落すると、休憩です。
「ほら、見て。」
点灯させたまま、母にレンズを向け、指先を見せて話しかけていました。
「照らしていると、ピストルみたいでカッコいいね。」
日光が当たれば、懐中電灯の光は眩しくなかったです。
「ボタンクルクルすると、凹むね。」
指先を触ってもらいました。
「どれ。ほんとうだ。面白いでしょう。どこから押しても、きちんと凹むようになっているんだよ。」
「うーん。これって指先痛くならないね。こんなに小さくても、ビカッと遠くまで照らせるんだね。」
「すごいよね。消してみな。」
「はい。」
カチッ 
「消えた。」
「ボタン押してごらん。」
ギューッ
「また、点くね。離すと消える。さっきより柔らかーい。」
「フラッシュってここだよ。消して。」
「はい。」
カチッ
「ボタン押してごらん。」
ギューッ
「さっきより柔らかーい。」
「接点が戻っているからだよ。」
「消えた。指離すよ。」
パチン
「いい音。さぁ、台所に運ぶよ。」 
井戸水に浸した雑巾できちんと拭き、レンズを上にしてポケットに入れました。コンパクトで、持ちやすいという母のことばが実感出来ました。
大きなたらいを2個運びました。1個は台所用1個はお風呂、おトイレ用でした。


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