Prehistoric safari
The mid Miocene South western Africa 'the Predaceous Beardog Chasing the Water-Rhino'
イラスト&テキスト©the Saber Panther (All rights reserved)
イラストに描かれているのはアフリカ産のジャイアントベアドッグ(Amphicyon giganteus)と半水棲の大型サイ、ブラキポテリウム属種(Brachypotherium lewisi)。
中新世中期(およそ1500万年前)のアフリカ南西部、現在のナミビアに該当する地域の、拠水林に囲まれた湖水のわきで繰り広げられたバトルを描いています。
ジャイアントベアドッグ(アンフィキオン)の復元画には何度か取り組んできましたが、これは形態的に最も正確な描写ができたと思う。
この作品は複数の大型奇蹄類を一度にフィーチャーする『バトル・ビヨンド・エポック』の一部で、今後も全体を発表する前に一場面ずつ紹介していく予定。
以下、ジャイアントベアドッグとブラキポテリウムについて簡単な記述を付しておきます。
中新世中期(およそ1500万年前)のアフリカ南西部、現在のナミビアに該当する地域の、拠水林に囲まれた湖水のわきで繰り広げられたバトルを描いています。
ジャイアントベアドッグ(アンフィキオン)の復元画には何度か取り組んできましたが、これは形態的に最も正確な描写ができたと思う。
この作品は複数の大型奇蹄類を一度にフィーチャーする『バトル・ビヨンド・エポック』の一部で、今後も全体を発表する前に一場面ずつ紹介していく予定。
以下、ジャイアントベアドッグとブラキポテリウムについて簡単な記述を付しておきます。
:Species:
ジャイアントベアドッグ Amphicyon giganteus
ブラキポテリウム最大種 Brachypotherium lewisi
:ジャイアントベアドッグについて:
ベアドッグの俗称で知られるアンフィキオン科は管理人一推しの肉食獣群で、ブログ開設当初から縷々紹介してまいりました。この名前が示すように、複数の種、特に大型種はクマ科とイヌ科の中間的と称される形態要素を持つが、この特徴はアンフィキオン科の全種に当てはまるわけではありません。
アンフィキオン科は実に多様な種類からなるグループであり、複数の亜科(アンフィキオン亜科、ダフォエノドン亜科、テムノキオン亜科、サウマストキオン亜科)が下位分類され、大きさも小型種(体重5kg以下)から特大種(同500kg以上)まで多岐に亘っています。小~中型種の形態は総じてイヌ科に近似し、専門的学者であっても真正のイヌ科と骨格の見分けが困難だとされるほど。
もっとも、イヌ科的な種類であっても立ちスタンスは半庶行性(semi-plantigrade)であり、これが分類上の決め手の一つになるとともに、指行性という違いのあったイヌ科が生存競争で優位に立った要因の一つ※に数える学者もいます(Wang and Tedford, 2008)。
(※一般に指行性の動物はそうでないものより走力に優れ、草原など開けた環境系への適応度が高いとされます。アンフィキオン科とイヌ科の多くの種類は生態ニッチが重複し直接的競合関係にあったと思われるが、アンフィキオン科の多様性が縮小し始めた中新世後期頃から断続的な寒冷化の影響で開けた環境系が拡大し、その結果、こうした環境系への適応度の高いイヌ科の優位性が確立されたという考えです)
アンフィキオン亜科の大型種になるほどクマ的な形態要素が顕現し、典型的な「ベアドッグ」となるが、ジャイアントベアドッグ群に限っても食性は一様でなく、純粋な肉食性から雑食と考えられるもの、ハイパーカーニヴォラからハイポカーニヴォラ、メソカーニヴォラまでが混在していました。
例えば、2020年2月に頭骨の一部の新発見の報告('The apex of amphicyonid hypercarnivory : solving the riddle of Agnotherium antiquum', Morlo et al., 2020)があったアグノテリウム属種。
アンフィキオン科の中でも最後期(中新世後期)に現れた推定体重275kgの大型種でありますが、臼歯が退化し裂肉歯が発達したハイパーカーニヴォラとしての特質を具え、ポストクラニアルの機能形態はより大型ネコ科に近いものになっています。(余談ながら、この報告の中でアグノテリウムは過去に廃止されたはずの亜科、Thaumastocyoninae に再分類されており、あまつさえ複雑なアンフィキオン科の分類が余計難渋になった感が否めません)
アンフィキオン科の中でも最後期(中新世後期)に現れた推定体重275kgの大型種でありますが、臼歯が退化し裂肉歯が発達したハイパーカーニヴォラとしての特質を具え、ポストクラニアルの機能形態はより大型ネコ科に近いものになっています。(余談ながら、この報告の中でアグノテリウムは過去に廃止されたはずの亜科、Thaumastocyoninae に再分類されており、あまつさえ複雑なアンフィキオン科の分類が余計難渋になった感が否めません)
他方、北米のプセウドキオン属種、アンフィキオン・インジェンス、旧大陸のアンフィキオン・ギガンテウス(当復元画)など最大級の種類は軒並み骨砕き適応のメソカーニヴォラであったと考えられていて、これらは推定体重が500kg超にも達し(Figueirido et al., 2011)、イヌ科的な頭骨(裂肉と骨砕きの双方に優れる)、クマ科的に重厚で大柄な骨格、ネコ科猛獣のような骨格プロポーションと形態機能(長い背骨と尾、跳躍力やアンブッシュ能力)を併せ持つうえに、頭骨のプロポーション的な大きさは肉歯目ヒアエノドン科に近似しており、同様に咬筋力も途方もなく強かったことでしょう(既知の最大の頭骨全長は実に50㎝を超えます。
ただ、これはベアドッグの吻部が非常に長いことも一因として考慮すべきで、頭骨全体に占める吻部の相対的な長さはイヌ科やクマ科を上回ります)。
ただ、これはベアドッグの吻部が非常に長いことも一因として考慮すべきで、頭骨全体に占める吻部の相対的な長さはイヌ科やクマ科を上回ります)。
このように、食肉目の形態要素が謂わば「キメラ的に」顕現したベアドッグの大型種は、機能形態的にみて「史上最もヴァーサタイルな、最強クラスの肉食獣」であったということができるかもしれません。
かように優れた万能性を示したベアドッグ群が、中新世を超えて存続することがかなわなかった(全種が中新世末までに絶滅している)というのは、思えば不思議なことです。勿論、アンフィキオン科絶滅の諸要因を断定していくことなど容易にできようはずもありませんが、
万能性が必ずしも優れた存続力を保証するものではなかったということか。
万能性が必ずしも優れた存続力を保証するものではなかったということか。
これに関して、私がヴァーサタイル(万能)と評したアンフィキオン科の形態にはイヌ亜目における祖先形態型(plesiomorphism)の残存が認められ、機能形態学的にいえば、特化性(specialization)の乏しさの反照と解釈することもできましょうか。
有体に言えば、ベアドッグはイヌ科のごとく社会性(群れによる狩り)を発達させたことは恐らくなかったし、クマ科ほどに食性が柔軟で多様だったわけでも、さりとてネコ科のように単独狩猟に特化していたわけでもなかったということ。
有体に言えば、ベアドッグはイヌ科のごとく社会性(群れによる狩り)を発達させたことは恐らくなかったし、クマ科ほどに食性が柔軟で多様だったわけでも、さりとてネコ科のように単独狩猟に特化していたわけでもなかったということ。
UCLAのVan Valkenburgh博士はジャイアントベアドッグを指して'Jack of all trades, never a master of one'(多芸は無芸というような意味合い)と表現されています。
始新世の頃に出現して以来、長く繁栄を続けたアンフィキオン科に対しこの表現には語弊があるでしょうが、
こと食肉目の多様性が爆発的に増大した漸新世以降の状況に限ってみれば、一面、言い得て妙なのかもしれません。
中新世に世界中で多数の種類を輩出した半水棲サイの中の一種。半水棲のサイの大半がテレオセラス族(Teleoceratini)に含まれており、
ブラキポテリウム属も例外ではありません。ユーラシア、アフリカを中心に複数種が確認されていて、日本からも歯や下顎骨の化石が報告されています(日本産の種類はブラキポテリウム pugnator)。
『プレヒストリック・サファリ 28 「大型奇蹄類 と 肉食動物①」 半水棲サイ(ブラキポテリウム) VS. ジャイアントベアドッグ(アンフィキオン)』
始新世の頃に出現して以来、長く繁栄を続けたアンフィキオン科に対しこの表現には語弊があるでしょうが、
こと食肉目の多様性が爆発的に増大した漸新世以降の状況に限ってみれば、一面、言い得て妙なのかもしれません。
:ブラキポテリウム最大種について:
中新世に世界中で多数の種類を輩出した半水棲サイの中の一種。半水棲のサイの大半がテレオセラス族(Teleoceratini)に含まれており、
ブラキポテリウム属も例外ではありません。ユーラシア、アフリカを中心に複数種が確認されていて、日本からも歯や下顎骨の化石が報告されています(日本産の種類はブラキポテリウム pugnator)。
今回ジャイアントベアドッグのコンテンポラリーとして描いたのは中新世中期‐後期にアフリカ南部、東部に分布していた角を欠く最大種、ブラキポテリウム lewisi 。
本種は他のブラキポテリウム属種に比べて大柄でやや四肢が長く、比較的高歯冠で臼歯の磨滅が目立つ場合が多いことから、典型的な半水棲種というより、開けた環境系にも分布を広げることができたであろうことが窺われます。
本種は他のブラキポテリウム属種に比べて大柄でやや四肢が長く、比較的高歯冠で臼歯の磨滅が目立つ場合が多いことから、典型的な半水棲種というより、開けた環境系にも分布を広げることができたであろうことが窺われます。
大型奇蹄類をメインにフィーチャーするバトル・ビヨンド・エポックに登場させた意図からも察しがつくかもしれませんが、本種はかなりの大型種であります。
かなりどころではなく、化石奇蹄類研究の世界的権威、E. Cerdeño博士はエラスモテリウム caucasicum に匹敵する真正サイ科中の最大級で、
前者とともにB. lewisiは体重4トン超に達したと断じているのです('Diversity and evolutionary trends of the family Rhinocerotidae (Perissodactyla)', 1998)。
かなりどころではなく、化石奇蹄類研究の世界的権威、E. Cerdeño博士はエラスモテリウム caucasicum に匹敵する真正サイ科中の最大級で、
前者とともにB. lewisiは体重4トン超に達したと断じているのです('Diversity and evolutionary trends of the family Rhinocerotidae (Perissodactyla)', 1998)。
件の論文でこの記述を読んで以来、私も興味を持って本種のサイズ、骨格寸法などを調べてみましたが、頭骨長(condylobasal長71㎝になる標本がある)、四肢長骨長など情報は限られているものの、何れも現生シロサイに匹敵するか下回るかという程度の大きさであり、
巨大なエラスモテリウム属最大種に比肩するという記述にはそぐいません。
よって、今回は本種の平均的サイズと考えられる肩高1.5m程度の大きさで復元していることを了承していただきたい。
巨大なエラスモテリウム属最大種に比肩するという記述にはそぐいません。
よって、今回は本種の平均的サイズと考えられる肩高1.5m程度の大きさで復元していることを了承していただきたい。
それにしても、Cerdeñoが無根拠の情報を記述したとは考えにくいし、個人的に、本種のサイズについては引き続き調べる価値はあると思う。
ブラキポテリウムなどテレオセラス族のサイは生態の類似からカバのごとき巨樽然としたトルソを持ち、長骨の骨幅など骨格の重厚さもサイ科随一だったのであり(古今のサイ科各種の骨格のロバストさの比較も、上記のCerdeñoの論文中に詳しい)、これら特有形態が一見過大と見える推定体重値の根拠となっている可能性も捨てきれないのではないか。
この話題をこれ以上述べても個人的憶測の域を出ないのでこの辺にしておきますが。
ブラキポテリウムなどテレオセラス族のサイは生態の類似からカバのごとき巨樽然としたトルソを持ち、長骨の骨幅など骨格の重厚さもサイ科随一だったのであり(古今のサイ科各種の骨格のロバストさの比較も、上記のCerdeñoの論文中に詳しい)、これら特有形態が一見過大と見える推定体重値の根拠となっている可能性も捨てきれないのではないか。
この話題をこれ以上述べても個人的憶測の域を出ないのでこの辺にしておきますが。
いずれにしても、ブラキポテリウム lewisi には現生サイのような機動力や角の武装もなかったので、復元画で表現している程度のサイズであれば、或いはジャイアントベアドッグにとって比較的与し易い相手だったかもしれません。
『プレヒストリック・サファリ 28 「大型奇蹄類 と 肉食動物①」 半水棲サイ(ブラキポテリウム) VS. ジャイアントベアドッグ(アンフィキオン)』
イラスト&テキスト by ©the Saber Panther (All rights reserved)
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