the Saber Panther (サーベル・パンサー)

トラディショナル&オリジナルの絵画芸術、化石哺乳類復元画、英語等について気ままに書いている、手書き絵師&リサーチブログ

食物源を巡る大型肉食獣の熾烈な競合🔥 ディノクロクタ(“テラー・ハイエナ”)と マカイロドゥス (剣歯猫)

2023年02月21日 | プレヒストリック・メガファウナ

The Neogene Eurasia : Super Predators' competition for trophic resources


前の記事(下リンク)で、パキクロクタ・ブレヴィロストリス(ジャイアント・ショートフェイスハイエナ)獲物獲得手段にまつわる初期人類との競合という側面について、少し触れました。初期ヒト属とパキクロクタの骨格が一緒に出土する化石累層は、複数知られているのです。

 

プレヒストリック・サファリ 其の33 古代の三大ハイエナ=パキクロクタ、ディノクロクタ、ホラハイエナ❕ 『ザ・リプレイスメント(骨砕き型ハイエナの盛衰)』 +毛サイとパレオ・タイガーも登場だ(記述)

※皆さんにお知らせです。今後、記事を読みやすくしたい意向から、作品のオリジナルサイズの画像と、「記述用」にかなり縮小したサイズの画像とを、二つの記事に分けてアップ...

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南欧における最古の初期ヒト属遺跡(更新世前期 146万年前)、スペインのバランコ・レオンもその一角で、同遺跡に集積する有蹄動物の骨にみられる歯痕(tooth pits)を分析した、直近のタフォノミック調査(Courtenay et al., 'Deciphering carnivoran competition for animal resources at the 1.46 Ma early Pleistocene site of Barranco León (Orce, Granada, Spain)' 2023)など、興味深い知見を提供するものです。肉食動物由来の痕と、人為的に処理された痕ある骨が見られ、肉食動物と初期人類との間に、獲物資源の獲得を巡り、相互関与が存したことを示すといいます。


以下、主にこの研究に絡めて、少し思うところを雑記します。


Pachycrocuta brevirostris
 life restoration

by ©the Saber Panther(Jagroar)(All rights reserved)
パキクロクタ 生体復元画


旧来の伝統的解釈としては、剣歯猫などハイパーカーニヴォラが捕食した獲物の残り(死骸)へのアクセス(スカヴェンジング)を巡り、パキクロクタと初期人類が、ある種の競合関係にあったというもの。近年では、中新世後期の巨大ハイエナ、ディノクロクタ・ギガンテアの襲撃を生き延びたらしいサイの化石記録などから、大型骨砕き型ハイエナ(少なくともディノクロクタ)が、おそらく大物猟にも長けていたことが示されました。パキクロクタと初期人類の相互関与があったにしても、一方がスカヴェンジングに特化していた、というような見方については、見直しが必要かもしれません。

 
それはともかく、上述の有蹄動物の骨の歯痕調査の結果から出された仮説は、これら獲物動物へのアクセスの割合は、モスバッハオオカミ(ハイイロオオカミの直系祖先とみられるイヌ科の古代種)、パキクロクタホモテリウム(シミター型剣歯猫)、エトラスカグマ(クマ属の古代種で、後代のヒグマ、ホラアナグマの直系祖先筋)、ゼノキオン(現生リカオンと近縁な古代イヌ科種)の順に大きかったらしいということ。


これが第一次的アクセス(つまり狩猟)と二次的アクセス(スカヴェンジング)のどちらを示すものなのか、判然としません。雑食性(メソカーニヴォラ、ハイポカーニヴォラ)か否かによっても、アクセスの割合は変化することでしょう。しかし、モスバッハオオカミは(現生ハイイロオオカミのように)おそらく高度な群れ社会を形成したであろうし、体のサイズで他に劣りながらも、同ファウナで最も優勢な肉食獣であったとしても、別段、不思議ではないかもしれません(もっとも、剣歯猫ホモテリウムについても、群れを形成したことが現在の主流の仮説になりつつあるのですが)。

因みに、更新世前期というのは、ホラアナハイエナがユーラシア西方に移入する前になります。

個人的に興味深いと思うのは、新第三期・中新世後期(具体的には、ヴァレシアン(Vallesian) - テュローリアン(Turolian)境界の、著名な「ヴァレシアン・クライシス」を前後する時代です)ユーラシアの中部から西方にかけて分布した肉食獣ギルドも、更新世前半のそれと非常に「類似」していて、上述の第四紀タクソンを、それぞれ(モスバッハオオカミ➡)アドクロクタ(骨砕き型ハイエナ。ブチハイエナ属同様、おそらく群れ社会を形成した)、(パキクロクタディノクロクタ、(ホモテリウムマカイロドゥス、(エトラスカグマインダルクトス(近年、パンダ亜科に分類された古代の雑食性のクマ)、(ゼノキオンサラシクティス(コヨーテ大の、イヌ科的形態型のハイエナ)という具合に、置き換えができるということ。


イヌ科がいないじゃん、とお思いかもしれませんが、イヌ科が旧世界に進出したのは中新世後期終盤以降になるため、ヴァレシアン・クライシスの頃のユーラシアファウナには、含まれません。

ヴァレシアン末期のこれら肉食獣の分布が重複する地域では、ヒッパリオン系統の古代ウマ、古代シカ科、アセラテリウム属とチロテリウム属のサイ、古代ニルガイ系統のウシ科などが主な草食動物で、ヒッパリオンは特に頻繁に獲物となっていたようです(Domingo et al., 'Carnivoran resource and habitat use in the context of a Late Miocene faunal turnover episode' 2017)。

上述のように、ディノクロクタはクレプトパラサイティズムにも大物猟にも長けた肉食獣であったと考えられ、比較的閉じた系の環境に分布していたので、当時の大型剣歯猫(マカイロドゥス、パラマカイロドゥスなど。最大級の剣歯猫アンフィマカイロドゥスの出現は、ディノクロクタの衰退したテュローリアン期に入ってから)とのニッチ競合は、熾烈を極めたはず。(下図)

Image
マカイロドゥス・アファニストゥス Machairodus aphanistus
(推定体重220~kg※
※この復元画は実は、マカイロドゥスよりも後代のアンフィマカイロドゥス(Amphimachairodus kabir 中新世後期‐鮮新世初頭)を描いたものですが、ここではディノクロクタと同時代のマカイロドゥス属種(中新世中期~後期初頭)のサイズ(現生トラの大陸大型亜種と同等)として、スケール調整しています)

VS.

Image
ディノクロクタ・ギガンテア Dinocrocuta gigantea
(推定体重200~350kg
死骸は大型の長鼻類、テトラロフォドン属種)


直近の分類(Abella et al., 'The last record of an ailuropod bear from the Iberian Peninsula', 2019)でパンダ亜科に組み入れられたインダルクトス属のクマは、おそらく雑食性とされますが、かつてアグリオテリウム属(アグリオテリウム属の方は、Abella et al(2017)の分類でウルサヴス亜科からヘミキオン亜科に編入されています)の祖先ともされたタクソンで、比較的吻部が短い古代クマの一つ。インダルクトス属のサイズについて、テュローリアン期の種類(I. atticus)の推定体重350kgという記述がみられます(Agusti et al., 2002)。ヴァレシアン期の個体群(I. punjabiensis)はもう少し小さくなりますが、それでもディノクロクタやマカイロドゥスと同等ではあったはずで、獲物アクセスを巡っては、当時のいかなる肉食獣にとっても、脅威となり得る存在だったでしょう。

以上の肉食獣はアドクロクタを除きいずれも推定体重200kgを超え、これら以外にもヒョウ大の剣歯猫・パラマカイロドゥス、コヨーテ大の古代ハイエナ・サラシクテス、カッショクハイエナ大のイタチ科動物・エオメリヴォラなどが共生肉食獣として挙げられます。

さらにアンフィキオン科・ベアドッグ群も、ユーラシア西方では最後期のタクソン(アミトキオン属やサウマストキオン属など。前者は推定体重200kg超級のハイパーカーニヴォラ)がおよそ900万年前まで存続していました。もっとも、アンフィキオン科はヴァレシアン・クライシスを生き延びることができなかったので、他の食肉類に凌駕(outcompeted)されたという見方も、できるのかもしれません。



 

サラシクティスや小型のベアドッグ類など、ある程度開けた系の環境に分布し、棲み分けていたという説も見受けられます(Domingo et al., 2017)。一方、Domingo et al. (2017) は、安定同位体分析に基づき、中新世後期・南欧の大型肉食獣ギルド(マカイロドゥス属、サウマストキオン属、インダルクトス属、パラマカイロドゥス属、エオメリヴォラ属 etc を含む)の獲物資源が重複していたことを示し、当時の異種間競合の度合いの高さを論じています。

多数の大型肉食獣が生息地、獲物資源の重複にもかかわらず共存し得たのは、当時のバイオマスの豊饒さがその所以なのでしょう。

 
この中で、ディノクロクタをリプレイスした(Spassov and Koufos, 2002)と表現されるのが、アドクロクタ(推定体重70kgほどで、現生ブチハイエナと似通った形態とサイズ(Agusti et al., 2002))。冒頭で触れた第四紀のモスバッハオオカミのように、このハイエナは群れ社会を形成し、他の肉食獣はおそらく単独性であったことも鑑みて、最も優勢な肉食獣の一つに挙げられるでしょう。のちにイヌ科がユーラシアに進出すると、アドクロクタは程なく衰退しますが、第四紀・更新世中期以降は、骨砕き型ハイエナのホラアナハイエナが、再度、ユーラシアファウナにおけるハイエナ科の繁栄を確立することとなります。

 
 
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2 Comments

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Unknown (Unknown)
2024-09-12 15:34:12
現生のイヌ科肉食獣のハイイロオオカミ、リカオン、ドール、キンイロジャッカル、セグロジャッカル、ハイエナ科で最も肉食傾向の強いブチハイエナは、大型草食動物を狩る際、鼠径部、後ろ足の付根や尻を狙い、食い破って内蔵を露出さ、そのダメージでダウンさせ、そのまま獲物が生きてたまま肉を引き裂き引きちぎり、出血多量で獲物を死に至らしめるそうで、ライオンやトラ、ヒョウ、チーター等のと比べて!その殺し方が残酷だと言われてますか、実はライオンやトラ、ヒョウ、チーター等も獲物がまだ生きてるにも関わらず食べ始め結果出血死させる方法とることが多いように思います。これらの狩猟方法は新生代のイヌ科のモスバッハオオカミやダイアウルフ、
lycaon sekowei..europe Dhole

またパキクロクタ等の新生代ハイエナやジャッカルも行っていたんですかね?
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Unknown (管理人)
2024-10-10 18:35:02
例えば大型ネコ科動物の場合、前肢(と引っ込められる鉤爪)を用いたホールドと、(主に頸部、鼻口部への)キラーバイトは、その殺傷法を特徴付けていますよね。仰るように、ネコ科動物が獲物を生きたまま食らうシーンも見かけますが、機能形態や系統由来の行動パターンが、殺傷のテクニックをある程度制限しています。それは古代のネコ科、イヌ科、ハイエナ科 etc. についても同様でしょう(どんな殺傷パターンであっても、我々の目には残酷に映りますけどね😓)。

ただ、剣歯猫のように、現生種と形態差異の比較的大きい、いわゆる「アウトライアー」が在ったことも考えられます(剣歯猫の殺傷法については、未だに複数の見解が錯綜しています)。例えばイヌ科の場合、ボロファガス亜科の大型種、エピキオン属(中新世・北米)など、前肢の機能形態がライオンに近いというのを、どこかで読んだ記憶があります(うろ覚えなので断言はできませんが)。
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