第52回(2015年)宣伝会議賞、ヤマハの課題でシルバー賞を受賞したときは、どんな脳の回路で考えたのだろう…と思い、ノートを引っ張り出してきました。
最近でこそ、「WHO 誰に言うか(ターゲット)」「WHAT 何を言うか(コンセプト)」「HOW どのように言うか(手法)」「WHERE 最終的にどこを目指すか(目的地)」と地図を書いてから走り出すようにして、迷子になったときはその地図(コンセプトノート)」を開くようにしていますが、ほとんどの場合は、思考を止めない「ノンストップ方式」です。
「ノンストップ方式」とは、思いついた言葉をとにかく次から次へとノートに書いていきます。ちょっと言い方を変えたコピーも数に入れます(数が多いだけでも、安心感・満足感がありませんか?)
この方法で大切なのは、恥ずかしいなどと考えず、バンバン文字にしていくことです。この作業をパソコンでするとすぐに止まってしまうので、私はいつも手書きです。
この時はまだコピーになっていなくても大丈夫です。あとから磨けばいいので、流れを止めないことが大切です。土に埋もれたサツマイモを掘り起こすように、まさに芋づる式に自分の潜在意識の底に眠る言葉を引き出していきます。
3年前にシルバー賞を受賞したのは、ヤマハの課題。
「20〜30代の方がヤマハ大人の音楽レッスンに通いたくなるアイデア」でした。
その際に「たれ流し方式」で書いたコピーがこちらです。
まず、自分自身と音楽との関係を振り返りました。水谷豊が主演していた赤いドラマシリーズを見て影響を受け、母親に「ピアノを習いたい」と言ったのが小学4年生のとき。「ピアノを始めるには遅すぎる」と周囲の誰もが反対しましたが、ダンボールで鍵盤を作ると、母が習わせてくれました。
その後、中学生でバレーボール部に入ると、部活と習い事の両立が難しくなってやめてしまいましたが、もう一度音楽と出会ったのが結婚して妊娠したとき。
家にあったシンセサイザーを弾くと、楽しいなぁという想い出がよみがえってきました。そんな自分の原体験を探りながら、今まで言葉にしたことがなかったことを書いていきます。
このコピーを書いたとき、自分は40代ですが、ヤマハのターゲットは20〜30代なので、そういう年代の人たちはどんな毎日を送っているか、どんなときに音楽を習いたいと思うのか、音楽がもたらせてくれるメリットは何だろう?と、どんどん空想・妄想を膨らませます。
書いて書いてとにかく言葉を書き出して、ラストスパートでは入力しながら企画意図(作品意図)を書いている途中で、「こっちのほうがいいかも」と思ったコピーをガンガン応募していきました。
そしてシルバー賞をいただいたコピーがこちら。
「営業の田中」より、
「サックスの田中」のほうが、
自分らしい気がする。
お気づきの方もおられるかと思いますが、ノートに書いているときには思い浮かばなかったコピーです。ノートに書いたコピーの企画意図を入力するうちに、考えを深めていくなかで生まれたコピー。別名、「火事場の馬鹿力コピー」。
何も思いつかないなぁ…という方は、自分の原体験を振り返って、思いつくままに言葉を書き出す、そして少しでも浮かんだコピーをとりあえず入力して、企画意図を書きながら、自分は本当は何が言いたかったのかをじっくり考えてみてはいかがでしょうか。
【追記】締め切り間際にできること
★コピーを強くする、贅肉を落とす
・「◯◯という」「◯◯しませんか」など、なくても通じる言葉を削る
・「そして、また、けれど」などの接続語を削る。
・言葉を結ぶ「の」を省く
・「かもしれない」「だと思う」などの曖昧な表現を避けて言い切る。
★1本のコピーを大切に
・1本のコピーから10本20本、展開させてみる。
★没コピーを見直す
・「え、こっちが選ばれていたの?」ということは多々あります。自信がなかったコピーが、審査員には新鮮な印象を与えることも。
語尾だけを言い換えたコピーを応募するのはおすすめできませんが、違う言葉に置き換えたり、言葉の並び方を変えたりしたコピーはガンガン応募することをおすすめします。
ちなみに、授賞式の様子はこちらです。
目の前に並んだごちそうが凄すぎて、こんなオシャレな料理があるなんて!と、食事に夢中になっていました。ふと気がつくと、審査員の有名なコピーライターの先生たちはすでに帰られたあと。授賞式に参加される皆様、食事はそこそこに、まずは審査員の先生に、自分の作品の感想を聞きに行かれることをおすすめします。