脚本:重森孝子
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女、吉野屋に嫁ぐ
雄一郎 村上弘明 :悠の夫に。「吉野屋」の息子、考古学の先生の手伝い中
智太郎 柳葉敏郎 :悠の初恋の人。戦死した筈が復員してきた
源さん 北見唯一 :「吉野屋」の板さん、戦後数年後に戻り、板さん復活
秋子 酒井雅代 :喜一の浮気相手の連れ子、吉野家の養女
若い客 木村律子 :吉野屋の宿泊客、夜明けの霞を見に行った
福島日出子 :吉野屋の宿泊客、夜明けの霞を見に行った
山下幸奈 :吉野屋の宿泊客、夜明けの霞を見に行った
客 植田 功
吉野屋の宿泊客
アクタープロ
東京宝映
喜一 桂 小文枝:雄一郎の父
お常 高森和子 :奈良の旅館「吉野屋」の女将、雄一郎の母
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
悲しい別れでした。15歳の時から思いつづけた人です。
笑顔で去っていった智太郎の後姿が悠の心に焼きついて、眠れぬ夜を過ごしました
「寝ていなくちゃだめじゃないか‥」
「起きてはったんですか」
「風邪をひいたときぐらい寝ていろ」
「でも、今日はお帰りになるお客さんがいっぱいいはるんです」
悠の額にさわる雄一郎
「まだ熱があるみたいだ。無理するな」
「ダイジョブです。風邪ぐらいで寝てられしません」
「たまには俺に言うこともきけ」
雄一郎はそう言って、寝かせなおして布団をかけた。
「うちはいつでも雄一郎さんの言うことだったら、聞いてますのに」
「よし。じゃぁ今日は一日寝ていろ。表の掃除ぐらい俺だってできる」
「そんなことまでしてもらったら、お義母さんに叱られます」
「かえって喜ぶさ」
「そんなぁ。たいしたことありませんし」と起き上がる悠
「怒るぞ」
「(うん)
」と寝る悠
「いい子だ」 (かぁ~~~! 聞いてるほうが(〃▽〃))
「けど何でやろ、めったに熱なんて出る性質やないのに」
「うん。人並み以上に丈夫やもんな」
「どうせうちは、丈夫なだけが取り得ですし」
「そうや。女房は丈夫なのが一番や」
「いや、ひどいわぁ」
掃除をする雄一郎を見て「んもう~」な顔をするお常
「雄一郎、そんなことあたしがしますがな」
「いいよ、たまには」
「主人がそんなことするもんと違います」
「ええやないか」
「悠、具合悪いんですか?」
「いや、たいしたことはない」
「やっぱりこたえましたんやろな、智太郎さん帰ってきはったことが」
「母さん、もう何も言うなよ、そのことは」
「せやな。 しかしあんたもなかなかたいしたもんやな。
2人でお水取りに行かせるやなんて」
「もう何も言うなって言ってるやないか」
「はいはい」
女学生たちが、にぎやかに降りてくる。
「お散歩ですか」
「夜明けの霞を見ようと思って」
「今日は暖っかくてよろしおましたなぁ」
「若草山の霞は最高なんだって?」
「ええ、みなさんなぁ、古代に帰ったようだと言ってくれてはります」
「ああ、眠たい。せっかくの休みなのに‥」と1人がぼやく。
「ほら、寝ぼけてないで~~」
「お気をつけてなぁ」
「行ってきま~~す」
「行ってらっしゃい」と雄一郎も声をかける
「おはようお帰りやす」とお常
「女学生が旅行できる時代になったんですなぁ」
「6~7年遅く生まれただけで悠たちとは大違いや」
「うん」
「お姉ちゃん、入ってええ?」と秋子
「風邪ひいたんやて? おばさん洋裁学校休んで、手伝え言わはんやで」
「堪忍え。悪いなぁ」
「まだ話してくれてへんの? おばさんに。私が大阪へ行くこと」
雄一郎の布団を片付けながら言う秋子
「堪忍。なかなかゆっくり話す時間がのうてなぁ」
「初恋の人に会う時間はあっても?」
「‥‥」
「ねぇ、どうやった?」
「ん?」
「初恋の人に会うて。楽しかった? お兄ちゃんと結婚して失敗したと思った?」
「ううん。雄一郎さんと結婚して良かったーっと思ったえ」
「なんや面白ない。うふ」
悠は起きて、台所を手伝いに行った。
「悠、あんた大丈夫か? 寝ててよろしいのやで」
「もう大丈夫です」
「そうか。ほなな、まずご飯を食べなはれ。
風邪の神は膳の下ちゅうてな、食べたら治ります」
「あんまり食欲がないんです‥」
ん? というように見るお常
「悠さんに食欲がないなんて信じられまへんな」
「ほんまや、うちも信じられへん、ご飯の匂いもうけつけへんなんて」
(おお!そういうこと
)
「悠、ちょっと」と、悠の手をとって外に出るお常
「悠、ちょっとおかしなこと聞きますけどな」
「はぁ」
「あんた、毎月のお客さん、ちゃんとありますか」
「えー?」
「お客さんですがな、ほら、毎月の」
「あっ! ああ。 ‥ いえ ‥ あっ」
「悠、えらいこっちゃ、風邪なんかと違いますがな」とどこぞへ走り出すお常
源さんは「???」と見ている
悠は、いとおしそうにお腹をなでた。
お常ががらっと障子をあけると、喜一と雄一郎は、座卓に向かいあって朝食を食べてはいたが、
それぞれが新聞を読み、目をあわせたりはしていなかった。
「ごはんの時は、新聞読むのやめて下さいって言うてますやろ。
2人とも同じ格好して!」
「息子の顔見ながら朝ご飯食べるほど味気ないものおまへんでー」
「もうすぐあんたさんのお仕事ができます」
「もう男衆(おとこし)の仕事、堪忍してぇなー。腰が痛うなります」
「赤んぼのお守をせんといけませんのや」
「ん?」「へ?」と顔を見合わせる喜一と雄一郎、そしてお常を見ると
ほっぺを膨らまして、お腹が大きいジュエスチャーをしていた
そして、雄一郎を、あんたや と指さす。
雄一郎が飛び出そうとすると、悠が照れくさそうに廊下に立っている
「悠‥」
「あはは! 孫ですがな」
「さよか! あはは」
「寝てなきゃだめだ」と雄一郎
「これっ! これ。無理してでも食べんと丈夫な子どもはできませんのやで。
悠、つわりなんてもんはな、気の持ちようでどうにでもなりますのや。
主人や周りの人に甘える気持ちがあると、余計ひどうなります。
あたしなんて忙しすぎて、つわりなんてなってるヒマもありませんでした。
なぁ、あんたさん」
「なんで矛先がこっちに回んねんな。はっはっは。何はともあれ、めでたいこっちゃ」
「あぁ、孫ができますのや。
もうあんたさんも遊んでいるお年やありませんのやで」
「わかってまんがな。はい」と頭を下げる喜一
「悠、ヒマ見てな、いっぺんちゃんとお医者さんに見てもらいなはいな」
「さぁ、ごはんにしまひょか。はいはいはい」とご機嫌なお常
春日大社にお参りに来た雄一郎と悠
「10月か」
「予定日が、雄一郎さんのお誕生日と同じやなんて。うそみたい」
「俺の人生はこれで決められてしまったみたいだな」
「そんな寂しいこと言わんといて下さい」
「お前が俺の子どもを産んでくれる、それはそれで嬉しい、しかし手放しで喜べないんだ」
「いいんです、正直に言うてくれはるほうが」
「悠、俺‥、大島先生の手伝い、止めようと思う」
「子どもができたしですか?」
「うん。それもある。しかしもう自分が何をしたいのか手探りをしてる時でもないだろう。
時間と心の余裕がないとできない仕事や」
「雄一郎さん! そんな雄一郎さん、好きと違います」
「お前の怒った顔、悪くないぞ」
「んもう! 真剣に聞いてください。
妻や子どもために自分の好きなことやめてしまうような男の人、好きにはなれへんのです」
「わかった、わかった」
「毎日働いてたら、食べていくぐらい何とかなる旅館の女将です、うちは」
「その立場に甘えるなって、最初に釘を刺したのは誰やったかな」
「それは浮気はゆるさへん言うことで、仕事は違います。
大島先生の手伝い、やめるなんて言わんといて下さい。
雄一郎さんがそんなこと言わはんのやったら、うち子どもなんて産みとうなくなってきます」
「何言ってるんだ。授かった命だ、大事にしてくれよ」
吉野屋にはお客さんが到着していた
「まぁまぁ、よう覚えていて下さいましたなぁ」
「おばちゃんのこと、忘れられるもんか」
「おおきに」
そこに「ただいま帰りました」と雄一郎と悠
「悠、お客さんのお見えになる時間の頃には、どこ行っててもちゃんと帰ってくるもんです」
「はい‥」
「はぁっ」
「悠、速達来てました。机の上に置いてまっせ」
「すんません」
それは、雅子からの手紙だった。
兄は、両親のところに一日いただけで、すぐに出て行ってしまったそうです。
それも自分のお墓の前に一日中立っていて、兄が行ってしまった後、
お墓に千人針が供えてあったそうです。
その様子を想像する悠
それから、兄はどこへ行ってしまったのか、誰もわからないのです
悠は自分たちの部屋で座り込んでしまった
(つづく)
風邪の神は膳の下
初めて聞きました
風邪の神様はお膳の下に隠れているから、
風邪を引いた時はたくさん食べると風邪の神様が出ていく。
ゆえに、治る・・・というたとえ
食費を切りつめて粗食に過ぎるとお膳が軽くなり、下に隠れている風邪の神が引っくり返して人間に取り付く。だから病気の予防には、日頃の食養生こそ大切なのだという意味。江戸中期に出版された「譬喩尽(たとえづくし)」にある諺です。
いずれにせよ、よく食べるようにってこと?
音楽:中村滋延
語り:藤田弓子
出 演
悠 加納みゆき:京都の繊維問屋「竹田屋」の三女、吉野屋に嫁ぐ
雄一郎 村上弘明 :悠の夫に。「吉野屋」の息子、考古学の先生の手伝い中
智太郎 柳葉敏郎 :悠の初恋の人。戦死した筈が復員してきた
源さん 北見唯一 :「吉野屋」の板さん、戦後数年後に戻り、板さん復活
秋子 酒井雅代 :喜一の浮気相手の連れ子、吉野家の養女
若い客 木村律子 :吉野屋の宿泊客、夜明けの霞を見に行った
福島日出子 :吉野屋の宿泊客、夜明けの霞を見に行った
山下幸奈 :吉野屋の宿泊客、夜明けの霞を見に行った
客 植田 功
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/new_color.gif)
アクタープロ
東京宝映
喜一 桂 小文枝:雄一郎の父
お常 高森和子 :奈良の旅館「吉野屋」の女将、雄一郎の母
・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
悲しい別れでした。15歳の時から思いつづけた人です。
笑顔で去っていった智太郎の後姿が悠の心に焼きついて、眠れぬ夜を過ごしました
「寝ていなくちゃだめじゃないか‥」
「起きてはったんですか」
「風邪をひいたときぐらい寝ていろ」
「でも、今日はお帰りになるお客さんがいっぱいいはるんです」
悠の額にさわる雄一郎
「まだ熱があるみたいだ。無理するな」
「ダイジョブです。風邪ぐらいで寝てられしません」
「たまには俺に言うこともきけ」
雄一郎はそう言って、寝かせなおして布団をかけた。
「うちはいつでも雄一郎さんの言うことだったら、聞いてますのに」
「よし。じゃぁ今日は一日寝ていろ。表の掃除ぐらい俺だってできる」
「そんなことまでしてもらったら、お義母さんに叱られます」
「かえって喜ぶさ」
「そんなぁ。たいしたことありませんし」と起き上がる悠
「怒るぞ」
「(うん)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/hikari_pink.gif)
「いい子だ」 (かぁ~~~! 聞いてるほうが(〃▽〃))
「けど何でやろ、めったに熱なんて出る性質やないのに」
「うん。人並み以上に丈夫やもんな」
「どうせうちは、丈夫なだけが取り得ですし」
「そうや。女房は丈夫なのが一番や」
「いや、ひどいわぁ」
掃除をする雄一郎を見て「んもう~」な顔をするお常
「雄一郎、そんなことあたしがしますがな」
「いいよ、たまには」
「主人がそんなことするもんと違います」
「ええやないか」
「悠、具合悪いんですか?」
「いや、たいしたことはない」
「やっぱりこたえましたんやろな、智太郎さん帰ってきはったことが」
「母さん、もう何も言うなよ、そのことは」
「せやな。 しかしあんたもなかなかたいしたもんやな。
2人でお水取りに行かせるやなんて」
「もう何も言うなって言ってるやないか」
「はいはい」
女学生たちが、にぎやかに降りてくる。
「お散歩ですか」
「夜明けの霞を見ようと思って」
「今日は暖っかくてよろしおましたなぁ」
「若草山の霞は最高なんだって?」
「ええ、みなさんなぁ、古代に帰ったようだと言ってくれてはります」
「ああ、眠たい。せっかくの休みなのに‥」と1人がぼやく。
「ほら、寝ぼけてないで~~」
「お気をつけてなぁ」
「行ってきま~~す」
「行ってらっしゃい」と雄一郎も声をかける
「おはようお帰りやす」とお常
「女学生が旅行できる時代になったんですなぁ」
「6~7年遅く生まれただけで悠たちとは大違いや」
「うん」
「お姉ちゃん、入ってええ?」と秋子
「風邪ひいたんやて? おばさん洋裁学校休んで、手伝え言わはんやで」
「堪忍え。悪いなぁ」
「まだ話してくれてへんの? おばさんに。私が大阪へ行くこと」
雄一郎の布団を片付けながら言う秋子
「堪忍。なかなかゆっくり話す時間がのうてなぁ」
「初恋の人に会う時間はあっても?」
「‥‥」
「ねぇ、どうやった?」
「ん?」
「初恋の人に会うて。楽しかった? お兄ちゃんと結婚して失敗したと思った?」
「ううん。雄一郎さんと結婚して良かったーっと思ったえ」
「なんや面白ない。うふ」
悠は起きて、台所を手伝いに行った。
「悠、あんた大丈夫か? 寝ててよろしいのやで」
「もう大丈夫です」
「そうか。ほなな、まずご飯を食べなはれ。
風邪の神は膳の下ちゅうてな、食べたら治ります」
「あんまり食欲がないんです‥」
ん? というように見るお常
「悠さんに食欲がないなんて信じられまへんな」
「ほんまや、うちも信じられへん、ご飯の匂いもうけつけへんなんて」
(おお!そういうこと
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/heratss_blue.gif)
「悠、ちょっと」と、悠の手をとって外に出るお常
「悠、ちょっとおかしなこと聞きますけどな」
「はぁ」
「あんた、毎月のお客さん、ちゃんとありますか」
「えー?」
「お客さんですがな、ほら、毎月の」
「あっ! ああ。 ‥ いえ ‥ あっ」
「悠、えらいこっちゃ、風邪なんかと違いますがな」とどこぞへ走り出すお常
源さんは「???」と見ている
悠は、いとおしそうにお腹をなでた。
お常ががらっと障子をあけると、喜一と雄一郎は、座卓に向かいあって朝食を食べてはいたが、
それぞれが新聞を読み、目をあわせたりはしていなかった。
「ごはんの時は、新聞読むのやめて下さいって言うてますやろ。
2人とも同じ格好して!」
「息子の顔見ながら朝ご飯食べるほど味気ないものおまへんでー」
「もうすぐあんたさんのお仕事ができます」
「もう男衆(おとこし)の仕事、堪忍してぇなー。腰が痛うなります」
「赤んぼのお守をせんといけませんのや」
「ん?」「へ?」と顔を見合わせる喜一と雄一郎、そしてお常を見ると
ほっぺを膨らまして、お腹が大きいジュエスチャーをしていた
そして、雄一郎を、あんたや と指さす。
雄一郎が飛び出そうとすると、悠が照れくさそうに廊下に立っている
「悠‥」
「あはは! 孫ですがな」
「さよか! あはは」
「寝てなきゃだめだ」と雄一郎
「これっ! これ。無理してでも食べんと丈夫な子どもはできませんのやで。
悠、つわりなんてもんはな、気の持ちようでどうにでもなりますのや。
主人や周りの人に甘える気持ちがあると、余計ひどうなります。
あたしなんて忙しすぎて、つわりなんてなってるヒマもありませんでした。
なぁ、あんたさん」
「なんで矛先がこっちに回んねんな。はっはっは。何はともあれ、めでたいこっちゃ」
「あぁ、孫ができますのや。
もうあんたさんも遊んでいるお年やありませんのやで」
「わかってまんがな。はい」と頭を下げる喜一
「悠、ヒマ見てな、いっぺんちゃんとお医者さんに見てもらいなはいな」
「さぁ、ごはんにしまひょか。はいはいはい」とご機嫌なお常
春日大社にお参りに来た雄一郎と悠
「10月か」
「予定日が、雄一郎さんのお誕生日と同じやなんて。うそみたい」
「俺の人生はこれで決められてしまったみたいだな」
「そんな寂しいこと言わんといて下さい」
「お前が俺の子どもを産んでくれる、それはそれで嬉しい、しかし手放しで喜べないんだ」
「いいんです、正直に言うてくれはるほうが」
「悠、俺‥、大島先生の手伝い、止めようと思う」
「子どもができたしですか?」
「うん。それもある。しかしもう自分が何をしたいのか手探りをしてる時でもないだろう。
時間と心の余裕がないとできない仕事や」
「雄一郎さん! そんな雄一郎さん、好きと違います」
「お前の怒った顔、悪くないぞ」
「んもう! 真剣に聞いてください。
妻や子どもために自分の好きなことやめてしまうような男の人、好きにはなれへんのです」
「わかった、わかった」
「毎日働いてたら、食べていくぐらい何とかなる旅館の女将です、うちは」
「その立場に甘えるなって、最初に釘を刺したのは誰やったかな」
「それは浮気はゆるさへん言うことで、仕事は違います。
大島先生の手伝い、やめるなんて言わんといて下さい。
雄一郎さんがそんなこと言わはんのやったら、うち子どもなんて産みとうなくなってきます」
「何言ってるんだ。授かった命だ、大事にしてくれよ」
吉野屋にはお客さんが到着していた
「まぁまぁ、よう覚えていて下さいましたなぁ」
「おばちゃんのこと、忘れられるもんか」
「おおきに」
そこに「ただいま帰りました」と雄一郎と悠
「悠、お客さんのお見えになる時間の頃には、どこ行っててもちゃんと帰ってくるもんです」
「はい‥」
「はぁっ」
「悠、速達来てました。机の上に置いてまっせ」
「すんません」
それは、雅子からの手紙だった。
兄は、両親のところに一日いただけで、すぐに出て行ってしまったそうです。
それも自分のお墓の前に一日中立っていて、兄が行ってしまった後、
お墓に千人針が供えてあったそうです。
その様子を想像する悠
それから、兄はどこへ行ってしまったのか、誰もわからないのです
悠は自分たちの部屋で座り込んでしまった
(つづく)
風邪の神は膳の下
初めて聞きました
風邪の神様はお膳の下に隠れているから、
風邪を引いた時はたくさん食べると風邪の神様が出ていく。
ゆえに、治る・・・というたとえ
食費を切りつめて粗食に過ぎるとお膳が軽くなり、下に隠れている風邪の神が引っくり返して人間に取り付く。だから病気の予防には、日頃の食養生こそ大切なのだという意味。江戸中期に出版された「譬喩尽(たとえづくし)」にある諺です。
いずれにせよ、よく食べるようにってこと?