ひねもすのたりのたり 朝ドラ・ちょこ三昧

 
━ 15分のお楽しみ ━
 

■■ 『かりん』 ■■

2006-04-01 23:59:59 | ’05(本’93) 50 『かりん』
     
1993年10月4日-1994年4月2日
(BS再放送 2005年10月3日-2006年4月1日 )

脚本 = 松原敏春 ヒロイン = 細川直美


第 1週 10月 3日~ (  1)(  2)(  3)(  4)(  5)(  6)  
第 2週 10月10日~ (  7)(  8)(  9)( 10)( 11)( 12)
第 3週 10月17日~ ( 13)( 14)( 15)( 16)( 17)( 18)
第 4週 10月24日~ ( 19)( 20)( 21)( 22)( 23)( 24)  
第 5週 10月31日~ ( 25)( 26)( 27)( 28)( 29)( 30)
第 6週 11月 7日~ ( 31)( 32)( 33)( 34)( 35)( 36)
第 7週 11月14日~ ( 37)( 38)( 39)( 40)( 41)( 42)
第 8週 11月21日~ ( 43)( 44)( 45)( 46)( 47)( 48)
第 9週 11月28日~ ( 49)( 50)( 51)( 52)( 53)( 54)
第10週 12月 5日~ ( 55)( 56)( 57)( 58)( 59)( 60)
第11週 12月12日~ ( 61)( 62)( 63)( 64)( 65)( 66)
第12週 12月19日~ ( 67)( 68)( 69)( 70)( 71)( 72)
第13週 12月26日~ ( 73)( 74) 
第14週  1月 3日~      ( 75)( 76)( 77)( 78)( 79)  
第15週  1月 9日~ ( 80)( 81)( 82)( 83)( 84)( 85)
第16週  1月16日~ ( 86)( 87)( 88)( 89)( 90)( 91)
第17週  1月23日~ ( 92)( 93)( 94)( 95)( 96)( 97)
第18週  1月30日~ ( 98)( 99)(100)(101)(102)(103)
第19週  2月 6日~ (104)(105)(106)(107)(108)(109)
第20週  2月13日~ (110)(111)(112)(113)(114)(115)
第21週  2月20日~ (116)(117)(118)(119)(120)(121)
第22週  2月27日~ (122)(123)(124)(125)(126)(127)
第23週  3月 6日~ (128)(129)(130)(131)(132)(133)
第24週  3月13日~ (134)(135)(136)(137)(138)(139)
第25週  3月20日~ (140)(141)(142)(143)(144)(145)
第26週  3月27日~ (146)(147)(148)(149)(150)(151)

『かりん』(151・最終回) ★霧が峰へのハイキング

2006-04-01 11:10:05 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【151】 4月1日(土)★最終回・霧が峰へのハイキング

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
田上あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
花山信太   林 泰文
花山みつ   貴島サリオ
小森弥之助  小林桂樹
本間洋一郎  笹野高史
田上伝六   不破万作
川原清三   河西健司
田上和則   堂本 剛(成長した和ちゃん)

小森弥太郎  大泉 翼
小森晶江   末永 遥
小森浩介   渡辺大輝
田上真知子  山口明寿香
田上 彰   水越友也
花山信子   吉若 恵
花山信代   石田比奈子

黒田忠治   佐藤B作
小森晶乃   岸田今日子
小森晶子   十朱幸代
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

あかりが伝六と洋一郎に話をしていると、今度は渉が和則に連れられてやってくる。
「亭主の心得ってもんを教えてもらったら?」
「もう1泊して、女房の心得を教えてもらったらどうだ」
と、再びケンカが始まりそうになるが、和則に
「オヤジ、言えよ。言えってば」と促されて
「あかり、オレが悪かった。
 もう口出さないから、お前のやりたいようにやればいいから」
と謝る。
「何よそれ。急に手の平返したように」
「田上渉得意の手の平返し~~(手をひらひらさせる)」
「うまいうまい」と拍手する洋一郎。
「いいだろ? これで」と和則
「いやよ」
「あかりぃ」とうんざりした声の洋一郎。
「少しぐらいは口だしてよ、相談にのってよ」

「はい、一件落着。シュークリーム出して・・」

中庭でみんな交えて記念写真を撮る。
忠治は「営業報告に来ただけなのになぁ」とちょっぴりぼやいて並ぶ。

千晶は蔵にひとりでそっと入ってくる。
大きな樽を眺めながら、ヒトリゴトのように、しかし話しかけるように言う。
「お母さん、何とかここまでやってこれたわ。守り通していきますから。
 子どもたち、弥太郎、晶江、浩介 育てあげてみせますからね」
「見てるわ」 割ぽう着姿の晶子がいる。
「ずーっと見てたわ、千晶。よくここまでやって来たわね。感心してるの。
 千晶のこと誇りに思ってるわ。これからも精一杯、精一杯‥」

そこに友行が呼びにくる。
「何してるんだ?」
「精一杯・・なんですって。 お父さん、ありがとう」
「なんだ、急に‥」

「晶子がね、(自分の胸のあたりをたたいて)見てくれている。
 守ってくれてるんだからね。まだまだこれからだ」

夜、子ども部屋。
おとうさんと書いた絵が3人分張ってあり、箪笥の引出しにはシールが見える。
机には黒いランドセル。
子どもたちの寝顔を見ながら千晶と浩平は話をする。
「10年後どうなっているかね」
「やれるところまではあたしがやって、子どもたちがついでくれればそれでよし、
 だめならだめで仕方ないんじゃないか」
「3人いるから誰かその気になってくれるんじゃないか。
 定年になったら、手伝うから」
「まだまだじゃないの」

「あなた。 世界で一番あなたが好き」
「よせよ‥‥。 ありがとう」


昭和40年(?)8月のある日の霧が峰。

3家族、総勢14人でハイキングに来ている。
ビューティフル・ドリーマー(夢路より)を歌いながら歩く。

「よくお客さん乗せてここまで来たよ。その度に思い出した
 あの時、俺熱出して来れなかったんだよな」
「そんなこともあったわねー」
「あかりと約束したのよね、10年経ったらまた来ようって」
「16年も経っちゃったけどね、こんな大勢で来れたんだものね」
「みんな家族でな」

「思いついたんだけど、ここグライダーで飛んだら気持ちいいだろうなぁ、
 子どもたち順番に乗せたら喜ぶぞ。 造ろうかな」と浩平
「手伝いますよ」と渉と信太。
信太は子どもたちと走り回りながら 「 ぶ~~ん」と飛行機の真似をする。
そんな信太と子どもたちの様子を見て
「観光バスの次はグライダー飛ばして儲けるんじゃねえか?」 と渉
「主人は、商売上手ですから」とみつ

カナディアン・アコーデオン が流れる  

千晶が言い出す
「何事によらず、けしてあきらめることなく、希望を心の友にして生きていくこと」
あかりも続ける
「希望の光を見出す明日を切り開いて行くこと」
「「 けして一人ではなく、誰かとともに手を携えて 」」声をそろえる二人

「小森千晶」
「田上あかり」
「あなた」と千晶にうながされて「小森浩平」
「あなた」とあかりにうながされて「田上渉」
「みっちゃん」「花山みつ」「主人の分も 花山信太」

信太と子ども達が走り回っている方に、駆け出していく千晶たち


                完
 
 

『かりん』(150) ★昭和39年10月、東京オリンピックに

2006-03-31 11:06:32 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【150】 3月31日(金) ★昭和39年10月、東京オリンピックに

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
田上あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
花山信太   林 泰文
花山みつ   貴島サリオ
小森弥之助  小林桂樹
田上伝六   不破万作
川原清三   河西健司
田上和則   堂本 剛  成長した和ちゃん
英        出雲崎 良
蒔田      茂木和範
雅       渡辺高志
田上真知子  山口明寿香
田上 彰   水越友也
花山信子   吉若 恵
花山信代   石田比奈子
小森弥太郎  大泉 翼
小森晶江   末永 遥
小森浩介   渡辺大輝

鳳プロ

本間洋一郎  笹野高史
小森晶乃   岸田今日子
小森晶子   十朱幸代
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

昭和39年10月 味噌は各地に出荷されるようになっていました。
94カ国が参加して、東京オリンピックが開かれようとしています
 とナレーション

袋詰の作業をする清三たちは小森屋の半纏ではなく、作業服を着ている。

千晶が出張から帰ってくる。
「ただいま」
「千晶、お帰り。 で、どうだった」 白髪が増えた友行が訊く。
「うちの味噌で作った味噌汁が、選手村で大好評」
「そうかぁ!」
「帰ってきたのか」と髪が真っ白になった弥之助が入ってくる
「お義父さん、あの寄付した味噌、喜んでくれたみたいですよ」
友行が、以前よりゆっくりと大きな声で話す。
「日本の選手だけじゃなくて、外国の選手も興味示してくれて‥‥」
「世界にはばたく、ミソ・スープずら。 いいモンは必ず残るんだ。
 チョコスロバキアの選手も飲んでくりたかなぁ」
「千晶、お帰り。お味噌汁がどうしたって?」
これまた髪が白くなった晶乃が入ってくる。
「好評だったって」
「それは何より」
「子ども達は? もうすぐオリンピックの開会式の時間でしょ」
「お前が帰ってくるんで、どっか隠れてるんだろ」
千晶は呼びに行く。

弥之助と晶乃、二人になったところで
「あなた。チョコ ではなくて チェコスロバキア」

蔵に捜しに来る千晶
「弥太郎~、晶江~、浩介~~~ いるんでしょ? お母さん帰りましたよ
 開会式始まるわよー、隠れてないで出てきなさい」
味噌樽の上や、陰からでてくる子ども達。

茶の間のテレビでオリンピックの開会式を見る千晶たち。
(小森家はカラーテレビだ!)
ファンファーレが鳴る。
「たいしたモンだなぁ。世界中から大勢の人がこんなに集まってくれてなぁ」
「日本もここまで来たんですねぇ。戦争に負けた時はどうなるかと思ったのに」
テレビの日本選手団の入場に拍手する。
「晶子にも見せてやりたかった 
「何かってとそれだ、弥太郎が生まれりゃ晶子に見せたい、
 晶江や浩介の時もそうだ。そう言っちゃメソメソ泣く」
「悲しくなるんだから仕方ありません」
「いい年して泣きすぎだ」
「いい年だから泣くんです、ほっといてください」
「おまけに反抗期だ」

「ただいまー」と玄関から浩平の声。
「お父さんだ!」「お帰りぃ」と迎えに出て行く子どもたちと千晶。
「今日はずいぶん早いんですね」
「オリンピックの開会式が気になって仕方なかったんですって」
「所長命令で、全員帰しました。ははは
 スイスの選手団は入場しましたか?」
「ええ、さっき」
「スイスの選手団に何か差し入れでもするかなぁ」
友行が
「浩平君、君ね、4年ぐらい居ただけで何かというとスイス・スイスって‥
 ちょっと聞き苦しいよ?」
「そうだそうだ、ワシもそう思っとった」
「そうかな、そう思うか? 千晶」
「いいえ、私は2年だったけど、いいところよ」
「いい所っていうのはわかってるんだけどね」
「友行さん、いいじゃありませんか。スイス永世中立な国、平和が何よりですよ。
 国でも家庭でも」
「はいはい」と友行
「晶乃のいう通りだ。お前よくまとめたな。お前、賢いな」
「聖火だよ! 聖火」
テレビは、聖火台に聖火が点灯される場面を映していた。



弥之助・友行・浩平で晩酌していると、あかりが子どもを二人連れて来る。

千晶夫婦の部屋
「4月にオープンする洋装店のことなんだけどね」
「渉さん、ダメだって言ってるの?」
「いちいちうるさいの」
「どういう風に」
「店の場所。
 駅前のいい場所決めてきたのに、方角が悪い、オレが探すって強引に決めてきて。
 それはそれで言うこと聞いたわよ?
 今度は設計図! あたしの考え専門家に話して設計図引いてもらったのに、
 文句たらたら
 こんな垢抜けない地味な店じゃ客はこない、
 あの映画の店はあーで、この映画の店はこーで ってウルサイウルサイ!
 映画じゃないのよ? 現実に店を開くの!
 ここはNYでもパリでもローマでもなくて、日本の諏訪なのよ? わかる?
 で、それはそれで主人の意見取り入れて決めたわよ」
千晶と浩平は顔を見合わせて、苦笑いする。
「済んだ話はいいから、今もめてることを話しなさい~」

「名前よ、名前。店の名前。これだけは譲れないわ」
「あかりは何てつけたいの?」
「ビューティフル・ドリーマー」
「あぁ」ちょっと嬉しそうな千晶
「あたしと千晶のテーマソングみたいなものだものね」
「あのオルゴールの?」と千晶に聞く浩平。
「店の名前にしては長過ぎるって」
「そう言われりゃそんな気もするな」 浩平をにらむ千晶。
「で、こーなの。(声を真似て)『まかせとけ、オレがつける』」
「つけたの? 何て?」
「カサブランカ」
「ありゃりゃりゃ」浩平も苦笑い
「バーやキャバレーじゃないっていうのよ」
「あんまりよくないなぁ」浩平も賛同する。
「でしょ? 「ハスラー」「ライムライト」「バンドワゴン」「ニノチカ」「レベッカ」
 気がついたら、みんな映画のタイトル。バカにしてると思わない?
 いい加減にしてよって言っても次から次へと‥。
 あんなしつこい人だと思わなかったわ。
 もうダメ、別れる!」
「それはね、あかりさん、君のことを思えばこそ‥」と浩平はとりなす
「だめだめだめ。今度ばかりは止めてもムダよ」
「止めないわ。別れなさい。泊まってくんなら泊まっていけば?
 でも今夜一晩だけよ。あたし、子どもたちと遊んでくる」

深夜、大きくなった和則が来る。
「和ちゃーん」
「お袋たち来てますか? オレ連れて帰ります」
「今夜止めるわ。そのほうがいいでしょ?
 真知子ちゃんと彰くん、明日日曜日で小学校と幼稚園、休みだから」
ちょうど、真知子と彰が出てくる。
「お願いします。真知子、彰 いい子にしてるんだぞ」
「じゃ、失礼します」
「和ちゃん。心配しなくてもいいわよ」
「ハイ。慣れてますから」

翌日、信太とみつが女の子二人を連れて小森家に来る。
信太は鼻の下にヒゲがある。
「昨夜、うちに田上が来てな、飲んだんだ」
「ウイスキーです。うちはもらいものの舶来がたくさんありますから」
「あいつ酔っぱらって、お前のことばかり話すんだよ」
「どんなこと?」
「要するに、オノロケです 
「うそ‥」
「あいつと結婚して良かった、あいつのいない人生なんて って」
「酔う前はさんざん、気が強すぎるだの、強情だのけなしてたくせに」と みつ
「帰ってやれよ」
「お待ちかねですよ」
「あかり、別れるんですってー」とからかうように千晶。

そこに玄関から
「都座の伝六ですー」「湖水館の洋一郎ですー」と声がする。

「伝六さんが家に見えて、真知子と彰連れて、お前が出てったって」
「あかりさんよぉ、何かと気に入らんことがあると思うが
 渉にはよーく言って聞かせるから、帰ってきてもらえるか」
「帰ります。大げさよ。
 私は、ただ千晶と話がしたくて来ただけなのに。
 結婚前もあったでしょ?」
「別れるんじゃないの?」とつっこむ千晶。
「何いってるの」
「昨夜とは違うなぁ」と笑いをこらえる浩平。

あかりは小走りして庭に面した窓を開けて
「真知子ーー、彰ーーー お父さんのところに帰るわよーー」
と呼ぶ。

すると玄関から「今日はー、田上ですー」と 渉の声

(つづく)

『かりん』(149) ★花山くん&みっちゃん 結婚式

2006-03-30 11:04:27 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【149】 3月30日(木) ★花山くん&みっちゃん 結婚式

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
花山信太   林 泰文
花山みつ   貴島サリオ(今日から 花山姓 
小森弥之助  小林桂樹
本間洋一郎  笹野高史
本間二郎   三波豊和
田上伝六   不破万作
花山信吉   ニ瓶鮫一
川原清三   河西健司
本間三郎   丹羽貞仁
本間久美子  麻生侑里
関屋文雄   小磯勝弥(信太のところの従業員)
本間和則   蓮池貴人
信太の母   五十嵐五十鈴  ママハハちゃん
仲居      田中佳代
         萩原由美子
黒田忠治   佐藤B作
鶴本哲夫   矢崎 滋
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★
昭和30年、4月吉日
かりんの木に白い花が咲いている。
見上げる弥之助と晶乃、
「咲いたなぁ」
「咲きましたねぇ」
「切り倒さんで済んで、ちゃーんと花も咲かせてくれたなぁ」
「小森屋も小袋詰めのおかげですっかりもち直したし、(小さな声で)後継ぎもできるし
 いい春ですねぇ 晶子のおかげですね」
「うん、いい春だ」
「おじいちゃん、おばあちゃん、みっちゃん実家から帰ってきたわ。
 早く用意しなきゃ」

そこにツルヤが来る。
「ご免! 組合からのお知らせなんだが」と紙を千晶に渡す。
「すみません」
「ほぉ~、かりんの花が見事に咲きましたな」
「おかげさまで」晶乃が口調だけは丁寧に返事をする。
「まるで今の小森屋の隆盛を象徴しているかのようだ、なぁ千晶さん」
「ありがとうございます」晶乃が答え、千晶はお辞儀する。
哲夫の方を見ようともしない弥之助。
「小袋詰めとはなぁ・・。 さすがのこのツルヤの哲夫も恐れ入った。
 脱帽、脱帽。創業以来137年の歴史と年月は伊達じゃなかった
 ま、諏訪味噌の発展のためにお互い手を尽くそうじゃないですか。
 どゅはははは」
と高笑いしながら帰っていく哲夫。
「全く、なんて人でしょ」 と晶乃
「ありゃ所詮、あれだけの人間だ」

湖水館
花山家・宮下家 ご両家結婚披露宴会場 と看板がでている。

浩平の謡う 高砂や~ にのり、出席者たちが順番にうつる。

みつ側には
下座から、友行・(浩平)・千晶・和則・あかり・洋一郎・二郎・三郎 
信太側には
下座から、清三、忠治、信吉、信太の母、(たぶん関屋)、伝六、渉
新郎新婦の両脇には、弥之助と晶乃が座っている。

高砂や~を聞きながら
和則を挟んで、黒留袖の千晶と赤いツーピースのあかりが話をする。
「浩平さん、スイスへはいつ?」
「来週」
「千晶は?」
「(お腹をなでながら)この子生まれて落ち着いてから
 主人、乳飲み子、飛行機に乗せられない、ずっと先でいいなんて言うの。
 名前ね、生まれてくるこの子の名前、もう主人がつけたの」
「何て?」
「弥太郎。おじいちゃんの‘弥’の字をもらって」
弥之助の方を見る千晶とあかり。
弥之助は、まだ軽いとでもいいたげに高砂や~を声を出さずに謡っている。
「弥太郎君か。女の子だったら?」
「男の子にまちがいないんですって」
和則はちょっと飽きたのか、立ち上がって向かいの席の渉のところに行き、
渉のひざに座る。
その様子を伝六が微笑んで見ている。
「誰が見たってね、渉君と和ちゃん、お父さんと息子」と千晶。

湖水館の洋一郎・二郎・三郎の3人が、お囃子のような扮装に鼓を持ち
出し物をする。
洋一郎 ♪めでたいなめでたいな 今日はホントにめでたいな ポン(鼓)
二郎  ♪花山信太 めでたいな ポン(鼓)
三郎  ♪花山みっちゃん めでたいな ポン(鼓)
洋一郎 ♪桜が~丘~の 秀才と ポン(鼓)ポン(鼓)ポン(鼓)
二郎  ♪諏訪一番~の 器量よし~ ポン(鼓)
洋一郎 ♪小森の~味噌で 結ばれた~
三郎  ♪湖水館で 結ばれたっ!

宴はにぎやかになっていく。
弥之助がお銚子を手に浩平に注ぎに来る。
「ワシも遊びに行っていいだかな?」
「はっ?」
「スイス。晶乃 連れて‥」
「どうぞどうぞお待ちしてます」
「いろいろきついことも言った。カンベンしてくれ」
「とんでもありません」
「ホントはおもしろくないんだがね。
 スイスどころか今すぐ会社やめて味噌つくってもらいてぇ」
友行も近づいてくる。
「これでも折れたんだでな。お前ら夫婦の強い絆とでも言うか、
 それに負けたんだでな。 スイスでいい研究をな」
「そうだよ、うまれてくる子どもと千晶のためにがんばらなきゃ」

さらに時間が経過し‥‥

清三と忠治
「うーちのヤツ、また孕んじまった」
「おめでとうございます」 と千晶
「3人目。前いれて6人目ですよ」
「丈夫だなぁ」は清三の感想。
「ギンペイ生まれたときは、うちどめだと思ったんすけど、
 袋詰売れて、てんてこ舞いだってのに、まいっちゃうよね。あいつ」
「ご苦労様です」と頭を下げる清三。

何かやら顔を拭く友行がいる。
洋一郎、二郎、三郎は三人でお酒を飲みながら話す。
「あかりはいつになるだかな」
「何が」
「花嫁衣裳。こねえかもな」
「どうだかな」
「来る。きっと来る」と二郎
久美子がお銚子を持って来て座り、
「あなた、やけに自信たっぷり」
「そら来て欲しい。ワシにそれぐらいの親孝行しないでどうするよ」
「親孝行したい時は親はなし」と三郎
「さればとて墓に布団をかけられず」久美子が続ける。
「うるせ」

二郎は伝六にお酒を注ぎに行く。
「田上さん、どうぞ。 なにとぞよろしく」
「いやいや」
和則は伝六の隣の渉のひざにいたまま橋の袋でお面を作って遊んでいる。
「イヤイヤじゃなく、末永いおつきあいを」
「はいはい」
「そうそう、ハイハイ、家族ぐるみでね」

「お母さん、おちゃけ」と和則があかりのところにお銚子をもらいに来て、
渉のところに再び戻る。
顔を拭く浩平。
弥之助は、ほっぺを赤く塗り腰に魚篭をつけたまま、信太の父と話し込んでいる様子。
友行もまだ顔を拭いている
( そうか、3人で ドジョウすくいを踊ったんだ! )

渉は席を立ち部屋を出て行く。千晶もそっと部屋の外に出てくる。
「田上君、どこへ?」
「便所」
「そう」
「花山のやつ、こちこちだな」
「そうね」
「少し飲ませてほぐすか」
「みっちゃん、きれい」
「うん」
「あたし、あかりのウエディング・ドレス姿も見てみたいわ。見たくない?
 あたしたち、初めて会ったあのころには戻れないわ。
 でも、始めることはなんだってできる。なんだって。
 あたしが母親になることも、それからあなたが父親になることも」

千晶とあかりはころあいを見て、立ち上がる。 拍手がおきる。
「花山君、みっちゃん、おめでとう」「おめでとう」
お辞儀する新郎新婦。
「こうやってお二人が並んでいると、これ以上お似合いのご夫婦はないように
 思います」
「みっちゃん、ウエディング・ドレス姿、すばらしいわ」
みつは、中腰になって
「みなさん、このドレス、あかりさんが縫い上げてくださったんです」
「ほぉ~~」と声が上がり、拍手。

「このおめでたい門出を祝って、私と千晶でお二人にこの言葉を送りたいと思います」
「これは花山君が、申請桜ヶ丘高校の卒業式で述べた当時の一部です」

 「先生方は僕たちに様々なことを教えて下さいました。
  そしてそこから僕自身が学び取った最大のことは
  希望という言葉であります」
 「何事によらず、けしてあきらめることなく、希望を心の友にして生きていくこと
  希望の光を見出す明日を切り開いて行くこと」
 「「 けして一人ではなく、誰かとともに手を携えて 」」
 「花山くん」 「みっちゃん」
 「「 二人で共にてを携えて」」

泣く信太とみつ。
一番最初に拍手をしたのは渉である。
信太とみつは立って二人でお辞儀する。

すると何と、和則が
「お母さん、映画のおじちゃんがボクのお父さんになってくれるって」
と言う。
「田上ぃ!」 驚きも嬉しそうな信太の声。
「そういうことです」と渉がみんなにむかってぼそり言う
「あかり‥」と千晶はあかりの腕を握る。
あかりは、両手で顔を覆って泣き出す。
「結婚します」 今度ははっきり宣言する渉。

「ばんざーい!」と真っ先に立って言う二郎。

(つづく)


・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

とてもいい披露宴。

映りはしなかったけど、弥之助・友行・浩平でドジョウすくいを踊ったんだなと
思わせ、
答辞の引用のお祝いの言葉では、渉が開校式・卒業式と同じく真っ先に拍手する。
和ちゃんが渉のひざに座り、遊ぶのも自然だし、
弥之助の ♪高砂や~ の頬の演技など、サイコー!

みっちゃんもあかりもよかった


【写真】本間二郎役・三波豊和さんのHPより

http://www.toyokazu.net/html/sakuhin/nhk_karin.htm

『かりん』(148) ★あかりの大告白と、焼酎で眠る味噌

2006-03-29 10:59:41 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【148】 3月29日(水) ★あかりの大告白と、焼酎で眠る味噌

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
田上伝六   不破万作
川原清三   河西健司
本間和則   蓮池貴人
英        出雲崎 良
蒔田      茂木和範
雅       渡辺高志
会社勤めの男 加藤忠夫  和則が遊んでいた男の子の父親

       劇団ひまわり
       鳳プロ

黒田忠治   佐藤B作
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

観客席に入ってくる渉とあかり。
あかりは、手に白いタオルを持ち、顔や髪を拭いている。
渉の背中に向かって話しだすあかり。

「ミシン、踏んでたのね、みっちゃんのウエディング・ドレス。
 そしたらね、そしたら急に胸が苦しくなってね、あなたの顔が見たくなってね。
 和則があなたの話ばかりするの。
 映画のおじちゃんがああして、映画のおじちゃんがこう言ったって。
 和則の父親になってあげて」
振り向く渉
「和則の父親になってよ」
「本間」
「あたしのこと、今好きじゃなくていい。キライでもいいから。
 和則の父親になってくれたら、あたし、何とかもう一度好きになるようにしてみせる。

 あなたがアメリカから帰って来た時、千晶と花山君と4人で会ったでしょ。
 あの時、言ってくれたわよね。
  『立派な能書きだけ堂々と並べて、自分は何ひとつ手を汚さずに、
   そんなことがいつまでも通ると思ってるのか。今にしっぺ返しが来るぞ。
   お前なんか先行きは誰からも子どもからも見捨てられて
   冬の寒空の下で野垂れ死にだ』
 そう言ってくれたわよね」
「憶えてねーよ」
「私、自分の手を汚してないとは思ってないけど、あなたの言ったように
 自分の勝手が通るとはおもってなかった。
 だからすぐ東京引き払って来たの。一生懸命和則の母親になろうとしたのよ。
 帰ってきて良かった。今は堂々とあの子の母親だって言える。
 和則が父親ほしがってるの。あなたになってほしいと思ってるの。
 
 好きなの。 あたしは あなたが 大好きなの。
 和則の父親になってあげて。あたしも和則も待ってます」

帰ろうとするあかりに「待てよ」と声をかける渉。
「傘、もってけよ」

映写室脇の部屋。
イカをあぶっていた七輪で、あかりの赤いコートを乾かしている伝六。
あかり、何も言わず帰る。

「こんな雨の中をなぁ。 あかりさん、何だって?」
「何でもねえよ」
「何でもねえよ か。渉、捨てる神あれば、拾う神ありか」
「何言ってんだよ」
「ない言ってんだろうな」

小森屋、研究室

「弥之助だ、へーる(入る)ぞ」と入り口の外で声がする。
「どうぞ」の返事があると、
弥之助が酒の一升瓶を清三がお盆に湯呑み茶碗を並べて持ち、入ってくる。
「どうだ、ぐえー(具合)は?」
「あとひとふんばりというところです」
「ほぉー、そうか。おい、清さん」
「へい」と清三は、湯呑み茶碗を並べる。
「大ダンナ、今酒なんか飲んでる場合じゃないでしょう」と忠治
「酒じゃない。焼酎だ。焼酎も酒にはかわりねぇがな へへへ。
 飲もうか」
「大だんな」重ねて忠治。
清三は、人数分の茶碗に焼酎を注ぎ
「旦那、浩平さん、どうぞ ‥ さあ、忠さんも」と言う。
不審に思いながらも茶碗を手にする三人。
「いやぁ、これを飲むとよく眠れるでなー」と口をつける弥之助。
「はは、やっとこさ、味噌が眠った。この焼酎で」と座る。
「ん? 生きている味噌を生きてるままで密封するにはどうしたらいいか、
 往生したわ。で、出た答えは眠らせたらいい ということだ。
 で、やっと眠ったわ、この焼酎で」
「お義父さん」
「味噌が醗酵するとアルコールが出るんです。
 そこで、予めアルコールを加えると、
 自分はもう十分醗酵したのかなーと勘違いして、醗酵が止まる」
「スゴイ! おじい様は天才だ 」
「これで無責任男呼ばわりされずに済みそうだ わはは」
「じゃぁ、たんまりといただきます」とちゃっかり忠治。

お稲荷さん
和則は近所の子どもたちと遊んでいるが、会社帰りの父親が「帰るぞ」と
兄弟を連れて帰る。
一人になってしまった和則を見ていた渉は、和則が持っていた吹き矢で一緒に遊ぶ。

年も押しつまって暮れの28日 とナレーション、続けて
袋詰め機と密封機が遂に完成した 

味噌をならし、如雨露で水分補給をしている。

「では、お願いします」と浩平が声をかける。
まず、味噌を入れ、浩平がしゃもじでならす。ビニールをセットして、ペダルを踏む。
味噌が綺麗にビニールに入り「おお」「わぁ」と歓声。
その袋を友行が秤に乗せ「250匁だ」(1kg)
それを千晶が密封機で口を閉じる。忠治に渡し、従業員みんなで見る。

その間、浩平は次の袋に味噌を詰め、友行は計量している。
「250匁、 同じだ! 定量だ!」
二袋目を密封する千晶。

「できたわね、あなた」かみしめるように弥之助に言う晶乃。手を握り合う。
「でかした、友さん、浩平さん!!」 弥之助が言う
「浩平君の力ですよ。浩平君が小森屋を救ってくれたんです」
「とんでもありません」
友行の言葉に頷く弥之助、「(違うよ)そう(なん)だよ」と友行。
嬉しそうに照れるように「続けます」と浩平は、袋詰めをする。

弥之助はもう一度「浩平さん」と呼び、深くお辞儀する。
「おじい様」目をうるませる浩平。
ばんざーい! 小森屋 ばんざーい!」 忠治が真っ先に言う。
みんなから再度歓声があがり、千晶も泣き笑いする。

千晶夫婦の部屋
布団によこになったまま話す二人。
「明日研究室に挨拶に行って来る。 仕事納めだし、こっちが一段落ついて
 年明けから出られること、報告してくる。
 それからスイス行きの件だが、まだ決まっていなければ
 行かせて欲しいと頼んでくる」
起き上がる千晶「あなた」
「いいね」「うん」
「もし行けたとして、千晶。無理して一緒に来なくていいよ」
「いいえ、行きます」
「離れていたってな、千晶、夫婦の心が1つならそれでいいんだ。
 1つだよな、千晶。俺たち1つだよな」
「ええ」
「うん」
「ひとつです。ひとつですとも」
「おいで ‥ さぁ ‥

昭和29年が終わろうとしています とナレーション

(つづく)


きゃ~~~~~~~~~ 

『かりん』(147)

2006-03-28 10:53:34 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【147】 3月28日(火)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
本間洋一郎  笹野高史
田上伝六   不破万作
川原清三   河西健司
本間和則   蓮池貴人
黒田忠治   佐藤B作
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

「何やってんだ このオレは
「ぇっ‥」
「タカをくくっていたのかなぁ
 こんなものワケない、お茶の子さいさい、鼻歌まじりで作ってみせらぁ
 ペガサス時計諏訪研究所主任研究室のオレ様にかかりゃあ
 赤子の手をひねるようなもんだ ってな。
 ところがどっこいわからないことだらけだ。
 おまけにプロペラでこんな単純なミスしてる、何が航空力学だ」
「あなた疲れてるんです。お休みになって」
「井の中の蛙 ってな。所詮こんなモンだ」
「疲れているだけです‥」
「たかだか味噌を袋詰めにするぐらいでこのザマじゃ、ちっ とんだお笑い草だよ」
床に散らばった部品を拾う千晶。
「やめろ」 拾い続ける千晶 「ムダだ」 まだ拾う千晶
「やめろって言ってるだろうが!」
千晶が拾った部品を再度払う浩平。
床にすわったままで
「あたしがいけないのよね。あたしがこんな事にあなたを巻き込んで‥
 つらい思いばっかりさせているのよね。
 こんなに大切にしてもらって、家のこともこんなにしてもらって
 あたし、あなたに何もできない。
 できないどころか、あたし、田上君に‥」
「よせっ」
「ごめんなさい。あたしなんかと結婚しなければ あなた‥ すみません」
部品を拾う千晶。 浩平も拾う。
プロペラを拾い両手でもち、浩平に渡す千晶。

翌昼、はなれ

「説明してください」と浩平
「味噌は沸くんだ」
「沸くって、お湯が沸くとか、風呂が沸くとか、ですか?」
「そうだ。 
 味噌の中の酵母菌が動いて増えると、炭酸ガスを出す。これを味噌が沸くと言う。
 密閉すりゃあ炭酸ガスが行き場をなくしてビニール袋が破裂するほかはないんだ。
 やってみると案の定だわ」
弥之助がアイロンで密封し破裂した味噌の袋がアップになる。
「じゃあ袋が破裂しないようにするにはどうすればいいんですか?」
「わからん」
「わからんじゃ困ります」
「あ゛ーん?」
「袋を密閉しないことには出荷できないんでしょ?」
「そうそう」友行が助け舟を出す。
「だったら密封しても破裂しないようにするためにはどーすればいいのか、
 それぐらいのこと考えてくださいよ」
「それぐらいのこと?」
「そうです」
「あのなぁ、ムコさん」
「おじい様は、味噌のことなら何でもご存知の筈です。そうですよね、おばあ様」
「ぇぇ、そうですとも」晶乃が言う
「味噌の生き字引で」忠治も助ける
「炭酸ガスが出て破裂するなら、その炭酸ガスが出ないようにするには
 どうすればいいのか」
「要するに、生きている味噌を殺せばいいんですか?」友行が訊く。
「殺すと言ってもですねぇ」
「それじゃ風味がガクンと落ちる」
「じゃあ、どうすればいいんですか?」
「だからわからんと言っとるじゃないか」
「わからんじゃ困る といってるでしょ」
「何だとぉ」 
「おじいちゃん、
 お父さんも主人も寝る間を惜しんでこの小袋詰め機に取り組んでるんです。
 もし完成しても、袋詰めしたそばから破裂したんじゃどうにもならないでしょ?」
「そうです。
 炭酸ガスをどう押さえるか、醸造(じょうぞう)過程で何とか考えてもらわないと」
「おじいちゃん、お願い。考えて下さい」
「お願いします、おじい様」
「そうです、おじい様」 友行‘おじい様’攻撃(^^ゞ
「か・か・考えねーと言っとるわけじゃねぇ。なかなか難しいことだで」
「難しかろうがなかろうが、この件はおじい様に解決していただくしかないんです。
 きりっとフンドシ締め直して
着物の上から、おなかのあたりを触る弥之助。

研究室
浩平たちが作業している。

あかりが来る。
「ウエディング・ドレスのデザイン画を見てもらおうと」
「みちゃん、いま買い物に行っていないの」
「じゃぁ、置いていくから見てもらって」
千晶がデッサン帳を開き、見る
「すてきー。まさに白鳥」
「千晶、ちょっといい?」
庭のはじの方に移動する二人。
「聞いて欲しいことがあって。千晶にはやっぱり話しておいたほうがいいと思ったから」
「なあに?」
「好きな人ができちゃった。笑わないでね。
 その人、私のことなんとも思ってない人だけど ‥ 今はね。
 なーんでこんな風になっちゃうのかしらね。
 うまくいかないわね。気持ちすれ違ってばっかりで」
「あかり」
「でも毎日ハリがあって、朝目が冷めると、1日に胸はっていけそうな」
「田上くん?」
「ひょっとしてまた渉君、あたしを好きになってくれるかもしれないものね。
 ねぇ、あたし渉君を好きでもいいでしょ? いいわよね」
「(ほほ笑んで)うん」
「あたし、何もしてあげられないけど」
「ううん。 話しておきたかったの」

都座
映写機を回す渉。(何か曲が流れているがわからない )
和則は笛吹童子の写真を見ていたが、手袋の人形を手にはめて渉にみせる
「こんにちは、和則です。(指を曲げてお辞儀しているようにする)
 一緒にあそびましょ。あそびましょ。あそびましょーぉー」
「何してあそぶ? ん?」 

12月も半ば、研究は急ピッチで進んでいる。 とナレーション

弥之助と清三は、味噌にお酒を入れてみて工夫している。

激しい雨の夜。 湖水館

和則は、笛吹童子の写真(中村錦之助・東千代之介)を見ながらねてしまったようだ。
あかりは、みつのウエディング・ドレスを縫うのに、ミシンを踏んでいたが、
突然、コートを持って玄関にかけ降りる。
「どうした?」
「出かけてくる」
「こんな時間に? 雨だぞ、本降りだ」
「お父さん、あたし‥」
傘もささず、駆け出していくあかり。

都座
伝六はイカをあぶっている。
渉は雑誌を読んでいる(赤い表紙、キネマ旬報っぽい → コチラ

廊下から足音、扉があく。
ずぶぬれのあかりが立っている。

(つづく)

■『かりん』 最終週 (146) ★味噌の袋詰めの開発とあかりの告白

2006-03-27 10:55:21 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【146】 3月27日(月)★味噌の袋詰めの開発とあかりの告白

作    松原敏春
音楽  渡辺俊幸 コンセール・レニエ(演奏)
主題歌 井上陽水
語り   松平定知アナウンサー 


時代考証 小野一成
方言指導 有賀ひろみ
味噌指導 松井宏次
撮影協力 (財)日本学生航空連盟



小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
宮下みつ   貴島サリオ
川原清三   河西健司
大さん    大塚周夫
小森弥之助  小林桂樹
黒田忠治   佐藤B作
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二


制作統括 西村与志木

美術    深井保夫
技術    横山隆一
音響効果 平塚 清
記録編集 阿部 格
撮影    石川一彦
照明    田中弘信
音声    佐藤重雄
映像技術 菊地正佳

演出    兼歳正英 



解説(副音声) 関根信昭


・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

信州諏訪はすっかり冬です とナレーション

研究室
友行と浩平は机に伏してねてしまっている。
友行はいつも通りの白衣、浩平は小森屋の半纏を着ている。
浩平が目を覚まし、深夜2:30なのに気がつき「お義父さん、お義父さん」と起こす。
「ぉぉ・・」とよだれを拭きながら体をおこす友行。
「もう休んでください」
「君は?」
「もう少し。プロペラの形と角度を決めれば制作にかかれますから。
 設計図は机上のものですからね。
 そこからは造っていく過程で修正していくしかないです」
「浩平君ってのは大したもんだね。発想には毎日ただただ驚くよ。
 ココ(と自分の頭を指さしながら)が違うんだね」
「何をおっしゃってるんです。この袋詰め機は、ヒントはお義父さんの竹筒の心太方式が
 下敷きになってるんですからね」
「しかし、プロペラとはね。こんなところで君の専門の航空力学が役に立つとは‥」
そう言って部屋に戻る。

「あなた」と千晶がお茶とおにぎりをお盆に 入ってくる。
「ごくろう様  」
「お義父さん、今お休みになったよ」
「今会ったわ。明日から制作開始だ って」
「最初っからうまく行かないかもしれないけど、作ってみないとわからない」
設計図を見ながら、千晶が訊ねる。
「このプロペラで、味噌を下に押し出してくのね。
 そして、この先を細く絞って、ビニール袋で受ける」
「このプロペラの次、問題はペダルだ。
 定量の味噌が出てくるようにしなければいけない」
「年内まであと1ヶ月ちょっとあるわ。大丈夫」
「さ、もうお休み」
「あたしがいたらジャマ? 
「ジャマじゃない」
ほほ笑む千晶に「あったかくして寝ろよ」と浩平。
研究室を出る時、入り口で振り向き浩平を見る千晶。


中庭

かりんの木を診ている大さん
「切り倒さなくてもいいみてえだ」
「ホントですか」
「根本まで腐ってたらダメだと思っとったけど、そこまで腐っちゃいねえ。
 回復するのを待てば‥」
「千晶がそれは心配して、毎日さすって」
「木も生き物だでね。目をかけてやればそれなりに応えてくれる」
「味噌も同じだ」と弥之助。
「来年 花咲きますか?」
「花が咲くか実がなるか、そん時になってみないとわからん。
 こいつが咲く気があれば咲くし、当人の気持ちの持ち次第だ」
「そうね。千晶の気持ちが伝われば咲いてくれるわ。実もなる」
「切り倒さなくてよかっただで。ありがてぇ。大さん、ありがとう」
千晶と晶乃・みつも一緒に頭を下げる。

「こんにちは」 とあかりの声。
「みっちゃん、ウエディング・ドレスの寸法とらせて?」
千晶が‘ いいわよ、行きましょ ’という感じでみつの腕をたたくと
「はい」と嬉しそうに返事をするみつ。

研究室では、友行・浩平・忠治が、袋詰め機を組み立てている。
蔵では、清三が味噌を桶に入れ、弥之助に渡す。

千晶夫婦の部屋

「袖丈が50」 「袖丈 50」と千晶がメモする。
「肩幅が32 スカート丈が100」
スタイル・ブックを見ながら、晶乃が言う。
「一口にウエディング・ドレスって言ってもずいぶん違うのね」
「そうですよ」
「あたしも40年遅く生まれてきたら、こんなの着れたのね。
 みんなステキだわ」
「どうです? もう一度それを着ておじい様と写真だけでも」
「よしてよ、あかりさん。想像するだけでも自分が恐ろしいわ」
笑う若い女性3人。

「ねえ、みっちゃん。みっちゃんはどんなのがいいの?」
「わかりませんから、あかりさんにお任せします」
「いいわ。でもイメージだけでも、こんなになったらいいなというのを
 言っといてくれる?」
「私だったら、断然エリザベス・テイラー」と晶乃。
「『花嫁の父』っていう映画の中で着たウエディング・ドレスが・・・」
「わしゃ、白鳥みたくなりゃあいいなぁって」
「白鳥!」
「スワンね。 はい、確かに承りました」
「生意気言ってすみません」
「いいのよ、みっちゃん。新しい女はどんどん自分の思ったこと、言っていいのよ。
 ね、あかりさん」
「はい」

都座

渉が映写機の点検をしている。
「こんにちは」あかりが声をかける。
「おお」
「やってるやってる」
「まあな。そっちは」
「みっちゃんの寸法とって、その帰り」
「式、4月だった」
「ウチでやるのよ」
「儲かるな」
「花山君から儲けてどうするのよ。特別。お安くして・・・」
「あいつ、儲けてるんだからふんだくってやりゃいいんだよ」
「父に言っときます」

「あー、これ、和則に渡してやってくれ」
「何?」
「笛吹童子のスチール写真が入ってる。あいつ喜ぶだろうと思って、取り寄せたのに
 最近来ないんだ」
「あたしが行っちゃだめって言ってるの」
「何で。映画好きなんだから、見せてやればいいじゃないか」
「あたしが和則に来させてるみたいでイヤじゃない」
「誰がそんなこと思うんだ」
「あなた」
「なんだよ、オレそんな風に思ったことないよ」
「ならよかった」
「どうして」
「あたしはもう千晶の防波堤じゃないわ。あなたが好きなの。
 子どもをダシにあなたに会いにきてるって思われるのイヤだったの。
 でもまた来させるわ。
 その時、これ(笛吹童子の写真)本人に渡してやって。
 そのほうが喜ぶと思うから」

小森家、はなれ(弥之助夫婦の部屋)

弥之助は桶の味噌を取り、自分で袋詰めしている。(ちょっと不器用)
「何なさってるんですか?」と晶乃が入ってくる。
「見りゃわかるだで、味噌の袋詰めだ」
「だってそれは今、友行さんと浩平さんが」
「ちっと気になることがあんでな。 アイロンだしてくれんか」
「アイロン?」
「袋に入れたら、ここ封しなきゃいけねずら。アイロンで、ここジューっと」
「わかりました」と立ち上がり、アイロンを出しながら
「でも浩平さん、わざわざ休暇とって小森屋のためにねぇ‥」
「ああ」
「その辺のところ、よーく胸に刻んどいてくださいよ」
「わかっとる。 ‥‥ 小森屋が生き残れたらな」
袋の口をアイロンで閉じる弥之助。
「ここに味噌がついているからうまくつかないんだ」と晶乃。
あたしがやる、オレがやると一悶着。

研究室

深夜1:30 目を覚ました千晶は浩平がいないのに気が付き、研究室に行く。
浩平は独り座っていた。
「どうしたの?」
「これじゃダメなんだ つまらないミスに気がついた」
「ミス?」
「プロペラだ、プロペラの角度が間違ってた」
「ぇっ」
「(プロペラを手にしながら)これじゃ味噌をかき回すだけで、下に押し出さない。
 単純なミスだ」

「何やってんだ、このオレは   ド素人だ 

(つづく)

『かりん』(145) ★浩平、味噌の袋詰の研究を一緒に

2006-03-25 10:35:52 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【145】 3月25日(土) ★浩平、味噌の袋詰の研究を一緒に

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
宮下みつ   貴島サリオ
小森弥之助  小林桂樹
黒田忠治   佐藤B作
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

「しばらく研究所休んでもらえませんか」
「何?」 
「しばらく休んで小森屋のために働いて欲しいんです」
座る千晶
「今日、大豆が全部ツルヤさんに持ってかれたわ。
 手形の支払いができなかったんだから仕方のないこと。
 明日から味噌は造れない。
 在庫の味噌がなくなるまでに、今 父が進めている研究を実らせないことには
 小森屋はそれまで。
 あなたの力をかしてほしいんです」
「お義父さん、いま、どういうことになってるんだ」
「味噌の袋詰め」
「ん?」
「祥子さんの生活者連合会ではね、ウチから仕入れた味噌をわざわざ小さい壷に移して、
 小森屋のラベルをはって売ってるのよ。それが売れているの。
 安くしなくたって味さえよければ売れる、それが小森屋の味噌だってわかれば
 買って下さる、その確信はあるんです
 その壷にかわる、もっと安くて効率のよいものってことで、
 父がビニールの袋詰めを考えたんだけど、
 いかに手早くたくさんできるかって、そこでいきづまっているんです」
「もっと詳しい話をお義父さんから聞こう」
「じゃ、やってくださるんですね」
「言っただろ? オレも小森屋の一員なんだ。必要なら研究所だって休むよ」

「もうひとつお願いがあります」
「なんだ」
「味噌の袋詰めが実現できたら、スイスに行ってもらえませんか。
 スイスに行くかわりにしばらく休ませて欲しいと会社に約束してきてほしいんです」
「千晶‥」
「小森屋を守り通すのはあたしの生きがい。 
 それにあなたの力をかりて、今度はあなたの生きがいを夢を貫き通してほしいんです。
 私のわがままだと思ってきいて下さい」
「わかった、考えてみよう。まずお義父さんの話を聞いてみよう!」

研究室、友行は経緯を説明して、改めて協力を求めた。

離れ(弥之助・晶乃夫婦の部屋)
友行と千晶が、二人に話をしに来ている。
「味噌の袋詰めか」 「できるんですか? そんなこと」
「できなきゃダメなんですよ、どうしても。ですから浩平君にも頼んだんです」
「ムコさん やるって言ったのか」
「彼がいれば百人力ですからね」
「期待しとるだでな」
「はい」
「友さん、ワシはな、小森屋の味噌を待っている方、喜んで下さる方々に
 飲んでいただければいいんだ。ひたすらそう思ってやってきた」
「ボクもそう思ってます」
「そしたら、友さんと千晶が安い原材料で安い味噌を造らなきゃと言ってきた。
 (バツが悪そうに顔を見あわせる二人)
 それがどーしてもがまんできねぇで反対したんだ。
 ところが今のままで売れる別の方法を考える ってことで、
 それが味噌の袋詰めなんだな?」
「お義父さんのおっしゃる通りです」
「それならそれでいい。口を出さん。やったらいい。
 みんなの力でやってくれ。 そしていつまでも小森屋の味噌を造れるようにしてくれ。
 千晶、友さん、期待しとるだで」

台所。 大根を切っているみつが、千晶に話しかける。
「お嬢さん、わし 結婚してからも働かせてもらっていいですか。
 そうさせてください。お願いします」
「みっちゃん、社長夫人になるのよ。第一、花山くんが許してくれないわ」
「信太さんはいいって言ってくれました」
「ホントに?」
「わしがそうしたいんならそうすればいい。そのかわり家のこと、
 あ‥わしらの新しい家ってことです  しっかりやってくれって。
 わし、通いで来ます。土曜日は半ドンにしてもらって日曜日はお休みに‥
 信太さん、働きいいから、わしお給料いいです。
 ここが里だと思ってますから、里からお給料もらえないから‥
 買い物行ってきます」

午後になってあかりが来る。

「昨日、花山君が来たわ。あんな嬉しそうな顔初めて見たわ。
(声真似をして)『ついては本間、お前に頼みがある。仕事の話だ』って、こうなの。
 みっちゃんの花嫁衣裳、あたしに頼むって。ウェディング・ドレス」
「へぇ~、ウェディング・ドレス」
「あたしのお客様、第1号ってわけ。あんなに気配りのいい人だと思わなかったわ。
 おしいことしたわ」
「そうね(笑)」
「でも高校のころから嫌われてたから・・千晶一辺倒で」
「あたしもおしいことしたのかしら」
「一方通行ばかりで、なかなかうまくいかないモノよ
 ・・・・
 浩平さん・・まだ?」
「(嬉しそうに)ゆうべ帰ってきてくれたわ」
「そうなの!」
「ホッとしたわ。 これからです、もう1度私の方を向いてくれるように
 努力しなきゃいけないの」
「その通りです。 あたしも1度ウェディング・ドレス着てみたかったなー」
「まだまだ(大丈夫)よ」
「そうかな。和則がいても?」
「あかりの気持ち次第です」

そこに晶乃がくる

「あかりさん、いらっしゃい」
「みっちゃんのウェディング・ドレス縫うんですって」
「あらー。 みっちゃん角隠しだと思ったのに。花婿さんのご希望じゃね」
「きっと似合うわー」
「今日は和ちゃんは?」
「ひとりで都座行ってます。なんだか映画が好きで、同じ映画見ても厭きないみたいで」
「映画がねぇ~」

夜、千晶夫婦の部屋。
「特別休暇をもらってきた。但し年内いっぱい、正月明けには戻らなければいけない。
 年内にできなかったらどうする?」
「できます」
「そんな保証はどこにもないぞ」
「あなたを信じています。信じさせてください。
 私にはあなたしかいないんです」
「わかった、やってみよう。
 お前に言われて自動巻き時計に取り組んだ時のようにな。明日からだ」
「それで?」
「何だ」
「スイス行きの話は」
「それはまた別の話だ。今は二人で小森屋のことだけ考えよう。
 りっぱな婿養子になれるかどうかの瀬戸際なんだ」
「でも他の人のスイス行きが決まったら‥」
「それはそれで仕方ない。オレの頭には袋詰めのことしかないよ」

研究室。
友行、浩平、千晶、そして清三も交えて、研究を進めている。

小森屋復活をかけた戦いがはじまったのです とナレーション

『かりん』(144) ★オトコ花山信太、みっちゃんにプロポーズ

2006-03-24 10:30:34 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【144】 3月24日(金)★オトコ花山信太、みっちゃんにプロポーズ

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
田上 渉   筒井道隆
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
小森弥之助  小林桂樹
黒田忠治   佐藤B作
川原清三   河西健司
本間和則   蓮池貴人
ツルヤの従業員たち  溝口敏成 、久保田健太郎
             本田景久 、小林靖永      
鶴本哲夫   矢崎 滋
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

信太が通帳と印鑑を持って来て使ってくれと頭を下げている とナレーション

「ありがとう。本当にありがとう」
「じゃぁ、使ってくれるのか?
ううん と首を横にふる千晶。
「こんな大切なお金、使えるわけないでしょ」
「受け取ってくれ」 と通帳を千晶の方に押す信太。
「千晶の言った通り、ご厚意だけで‥」
「信濃屋さんはいい息子さんをお持ちになったなぁ」
「ご立派です」
「確かに家は今、困っています。
 でも小森屋の人間が小森屋を守り通していかないといけないの。
 花山君と花山タクシーに負けないぐらい頑張っていきますから」
「みつ、花山さんにお茶、出さないか」

(通帳をカバンにしまいながら)
「こうなると算段がおかしくなってきちゃうな」
「算段?」
「てっきり受け取ってくれると思っていたから、そしたらもう1つお願いの儀を
 切り出そうと思っていたんだ」
「もう1つって何?」
「えーい! あれこれ思い巡らした挙句、意を決して来たんだ。
 思い切って言おう。 宮下みつさんを僕に下さい
 みっちゃんと結婚したいんです、お願いします」
台所で湯呑み茶碗を取り落として割ってしまうみつ。
「花山君、みっちゃんと約束できてるの?」
「コチラに了承を得てから、それから‥」
「何言ってるのよ、あべこべじゃなーい!
 そもそもうちの了承なんていらないのよー。ね? お父さん?」
「(嬉しそうに頷きながら)そうですよ、ね? お義父さん?」
「決まってるよ。花山さんにもらってもらえればこんないいことはない」
「でもみっちゃんが何と言いますか‥」

千晶は台所にいるみつを連れてきてテーブルに座らせる。
「聞こえたわよね」
「みつ、どうなんだ」
「みっちゃん‥」
みつは両手で顔を覆い、泣き出してしまう。
「‥そうなの‥本人にその気がないんじゃね」
「そういうことだで‥花山さん、せっかくだが」
と晶乃と弥之助は誤解する。
「違うの みっちゃん、嬉しくて泣いているのよ」
「えっ? そうなの?」「そうなのか?」
信太に向かって、ただ黙って深深と頭を下げるみつ。
「嫁さんになってくれるのか?」と改めて問う信太に、みつは頷く。
「そうかぁ~。  小森ぃ」
「おめでとう!」「よかった、よかった」 と喜びの声が続く。
静かに目を合わせる千晶と浩平。

千晶夫婦の部屋、千晶はお茶を入れている。
「良かったな、みっちゃん。いい家庭になる。幸せになれるよ」
「ええ」
「いい友達を持ったよな。ああやって全部自分の貯金出して・・
 小森屋のオレが何もできないでいるのに」
顔を曇らせる千晶。
「いや、そう思ったから、素直に話してるんだ」

「毎晩帰ってくる。しかし今度はオレが時間がほしい
 1番信じていたモノが一度見えなくなったんだ、信じられなくなったんだ。
 もとに戻すのに時間がかかる。
 どうしても渉君に行くのなら仕方ないとも思った。
 お前のためになるのなら‥とね。
 でも、そう思う自分が冷たい人間だとも思った。
 いろいろ考えたよ。それで今ここにいる。帰ってきたよ。
 自分を見つめなおす、お前を見つめなおす時間をくれ」
「わかりました」
「彼に気持ちが動いたことで、自分を責めたりするな。
 オレに償いをしようなんて思わないでもらいたい。
 ただただ嵐が大きすぎたんだ」

都座・映写室。
渉が映写機のフィルムをかけかえている、それをじっと見ている和則。
だっこして、小窓からスクリーンを見ていると、信太がやってくる。
「田上」 「よう、社長どうした」
「入ってもいいか」 「どうしたんだよ」
「オレ結婚することにしたよ」 「ええっ? 相手誰だ」
「へへ 」「ああ、みっちゃんか! 良かったな」
「昨日、小森のところに行って本人と家の人たちの了解、とってきた。
 小森が喜んでくれて」
「おめでとう。 式はいつだ」
「まだ決めてないけどでてくれよ」
「当たり前じゃないか。よばなきゃぶっ殺すぞ」

渉はひざの上の和則に話しかける。
「和則、このおじさんがね、結婚するんだ」 「けっこん?」
「みっちゃん、知ってるだろ、世話になった
 みっちゃんとこのおじさんが夫婦になるんだ」 「ふうふ?」
「ま、いっか、よ! バラ色社長


小森屋の蔵から大豆がなくなる日が来ました とナレーション
大豆を運び出すツルヤの従業員たち。
「看板一枚すっと出せば、こんな真似しねぇでもいいんだけんどね。
 むはははは!!」
ツルヤの哲夫は弥之助に捨てゼリフを残し、帰っていく。

研究室。
小森屋の命運は袋詰の開発が成功するかどうかにかかっていました とナレーション
友行は千晶に話す
「浩平君の知恵をかりることはできないかな。
 お前の本意じゃないことはわかっているよ。
 しかし、父さんの力じゃもう無理なんだよ。
 浩平君がいいアイデアをだしてくれると思う、頼んでみてくれないか」

そこに清三が声をかけて入ってくる。
「オレたちの給料ですが、働きもしねえのにいただくわけにはいきません。
 2~3ヶ月ぐらいなら、食いつないでいくぐれぇの蓄えもあります。
 オレもヒデも蒔田もマサも、どこにも行きゃしません。
 だから、どうぞお気使いないように」
頭を下げて出ていく清三。

千晶は中庭でかりんの木を見ている。

夜、夫婦の部屋、浩平が帰宅すると千晶は切り出した
「あなた、お願いがあります」

(つづく)


『かりん』(143) ★オトコ花山信太、80万円を小森屋へ!

2006-03-23 10:20:37 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【143】 3月23日(木) ★花山信太、80万円とみっちゃんへの求婚

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
小森弥之助  小林桂樹
本間二郎   三波豊和
田上伝六   不破万作
川原清三   河西健司
英        出雲崎 良
蒔田      茂木和範
雅       渡辺高志
本間和則   蓮池貴人
看護婦    川奈亜衣
黒田忠治   佐藤B作
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

倉庫で大豆の袋をなでる弥之助。手形の期限は2日後に迫ってきている。
大豆を手形のカタに持っていかれたら、味噌をつくることはできなくなる‥

小森屋・事務室
「今まで通り夫婦で生きていきたいってね」という浩平の言葉を思い出している千晶は
電話に手をのばす。

お稲荷さん近くの道。
千晶が待っているところに浩平が来る。
「お仕事中すいません」
「昼休みだ。 かりんはどうだ」
「毎日見てるんですけど、まだどうなるか。帰ってきていただけませんか」
 千晶は頭を下げる
「もういいのか、終わったのか」
「どう償えばいいのか」
「そうじゃないよ」
「帰ってきてほしいんです。そばにいてほしいの」
「わかった。考えてみる」

渉の退院の日。
あかりと和則が渉のカバンを持ち、後ろをついていく。
「いいよ」とカバンを取り返そうとする渉だが、あかりと和則は無言で離さない。

都座・映写室裏の部屋。
伝六は大徳利からお酒を注ぎながら話す。
「迎えに行ってやらんで悪かったな。こういう時に限って映像技師が休む ‥
 (酒を)飲め」
「いいよ」
「退院祝いだ  これからどうするんだ」
「どうしてほしい」
「こうしろって言ったらするのか」
「一応聞くよ。  ここで 映写機回すよ (照れくさそうに)いいか」
嬉しそうに照れくさそうに渉を見る伝六。

湖水館・あかりの部屋。
ミシンを踏んで、何か縫っているあかりのところに二郎兄さんが入ってくる。
「都座の渉くんが退院したってきいたよ。おめえ、毎日お見舞いに行ってたのか?
 父さんにも久美子には言わねぇ、おめえの好きな男は渉くんずら?」
「そう」
「向こうはどうなんだ」
「片おもい アメリカ行くまで私のこと好きで、私しらんぷりしてたからおあいこ」
「そんな おあいこ、あるか」
「兄さん、片おもいもなかなかいいわよ。相手の分も2倍、愛せるでしょ 
「立ち入るなって言ったけど、できることあったら言えよ。
 ちったあ頼りにしろ」

小森屋・夕飯時
従業員たち皆が揃ったところで、友行と弥之助は目で合図しあい切り出す。
「明日、倉庫の大豆がなくなる」
「そりゃあ、いってえ」と清三
「仕入れの支払いが無理になってね。月々の月給はきちんと支払うから
 何とか今年いっぱい、いや、もっとかかるかも知れないけど
 小森屋にとどまっていてほしい」
「頼むぞ、みんな」
「よろしくお願いします」
「夕飯にしましょ、みっちゃん」

そこに「ただいま」と浩平の声。忠治が玄関に出て行く。
「お帰りなさいっ! 帰ったと思ったでしょ、それがまだ帰ってなかったんですねぇ。
 こうして帰ってきたってことは、毎晩帰ってくるってことでしょ」
ひそひそ話しながら嬉しそうな忠治である。

「浩平さん、帰ってきましたよ。毎晩帰って来るそうです」と言いながら
茶の間に戻ってくる忠治。
「ということは、ほら研究所の仕事が一段落したってことなんだよね」と友行。
正座し、弥之助たちに「いろいろご迷惑をおかけしました」と頭を下げる浩平。

そこに玄関から「今晩は、花山です」との声。

「ここに80万円あります」と通帳を出す信太
「月々の利益を積み立てたお金です。これを小森屋の存続の為に使ってください。
 僕がいまこうしてあるのは千晶さんのおかげだと常々思っています。
 恥ずかしながら、千晶さんは、初恋の人です。
 
   まだあげそめし 前髪の  林檎のもとに 見えしとき
   前にさしたる 花櫛の  花ある君と 思ひけり」

と高校時代と同じように、島崎藤村の「初恋」(『若菜集』)の一節を暗誦し、

「残念ながら実は結びませんでしたが、家族で諏訪を離れる時、
 早朝、オニギリを20個握って持ってきてくれて、
 また会いましょう、と見送ってくれました。
 きっといつか諏訪に戻り、故郷で一旗あげてやるんだと心に誓ったんです。
 まだ 0.3旗ぐらいですが、心の励みに千晶さんという存在があったればこそ、
 なんです。
 その感謝の気持ちとして、この金を役立ててくれれば‥‥
 花山信太、これに勝る喜びはありません。」 


(つづく)

・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆

千晶がオニギリを作ったのは、
【38】 11月15日(火)【39】 11月16日(水) あたり

信太が前回、藤村の詩を暗誦したのは 【11】 10月14日(金) 

花山く~~~~~~~ん 
オトコだ~~~

浩平さん、おかえり‥ が、ふっとんでしまいます

【写真】本間二郎役・三波豊和さんのHPより

http://www.toyokazu.net/html/sakuhin/nhk_karin.htm

『かりん』(142)

2006-03-22 09:31:12 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【142】 3月22日(水)

小森千晶   細川直美
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
黒田忠治   佐藤B作
宮下みつ   貴島サリオ
鶴本哲夫   矢崎 滋
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

渉の病室。 窓際にオレンジジュースとリンゴ

「今、夢見てた。花山や本間、みっちゃんや小森もいた。
 神社の境内で映画会の準備してるんだ。
 夕陽の中でみんなの顔が夕陽に赤々と染まって‥」
「そう‥」
「(起き上がって)ジュース飲むか?」
「俺はな、小森。
 お前にふさわしい男になろうと思って映写室行ったんだよ。
 この手で映写機にフィルムかけて、映写機回して、スクリーンに映画映し出して
 そして、もう一回映画作ろうという気になれたら、お前に向かえる。
 胸張って、小森千晶が好きと言える。
 好きだと言っても恥ずかしくない、オ魔にふさわしい男になれると思った。
 そこにお前が来てくれた。抱きしめてくれた」
渉から目をそらす千晶。
「嬉しかった。愛される資格のある男になれると思った」
「田上君」
「でもお前は泣いていた 何故だ」
「ずっと悲しかったのよ‥。あたしの気持ちがあなたに向かえば向かうほど
 悲しくて辛くてしかたなかったのよ。
 あたしが初めて思いっきり好きになった人が、その人が、
 初めてあたしのこと好きだって言ってくれたんだもの。
 ふりきってもふりきっても向かってきてくれたんだもの。
 心がぐらぐら揺れたわ。主人には申し訳ないって思いながらぐらぐら。
 あの時わかったの、どうして悲しいのか。
 それはね、主人と結婚して幸せだったからなの。
 なのに、あなたがどんどん大きくなって行く、そんな自分が悲しくて苦しくて
 許せなかったよ‥」
椅子に座り込む渉。
「結局俺は小森を苦しませるだけの男なのか、苦しませて悲しませて」
「そうじゃないわ」
窓の方に向いて涙ぐむ渉。
「田上君、自分の夢に戻って来たじゃないの。いつか映画作るの待ってる。
 楽しみに待ってる」
病室の隅の洗面台に行き、持ってきた花を花瓶に活ける千晶。
「小森」

「その映画作るとしたら、大メロドラマだな‥
 オレみたいな男が恋に落ちて、その女と結ばれる。
 誰がなんと言おうと、甘い甘いハッピーエンドにしてな。
 完成したら、まず星空の下の映画会するよ」
「みんなで見に行くわ。あかりも花山君もみっちゃんも」

あかりがちょうどお見舞いに来たところに千晶が病室から出てくる。
「来てたの?」
「あかり、言ったわよね。 自分を大切にしてそれでどうするか決めなさいって」
「言ったわ」
「あたしは主人によりそって生きていきます」
「そう」
立ち去る千晶。

あかりは病室で渉に話しかける。
「リンゴ、むこうか」 「いい」
「食べなさいよ」 「いい」 「そう‥」
「1人にしてくれないか」 「いいわ」

小森屋。 千晶が帰宅するとツルヤの哲夫が来て、弥之助たちの前に座っている。
「この非常時にどちらへおでかけだったのかな?」 イヤミを言う哲夫。
友行の隣に座る千晶
「昨日お前が言った、仕入先(タツノ? )の手形、ツルヤさんに渡った」
「何ですって?」
「タツノさん(?)が泣きついてきて、仕方ナシに割ってやったよ」と哲夫
「だって手形の期限はあと4日あるんですよ?」
「味噌は売れない、従業員は辞めて行くんじゃ、信用なくなるのは無理ねぇんだ」
「あんたが裏で手を回したんだろう!」と忠治がくってかかる。
「とにかく手形はワシの手元にある。
 塩問屋と米問屋からも手形、引き受けてくれと言って来ている」
「どこまでやれば気が済む!」さらに忠治。
「4日後が楽しみだ、額面の100万、耳を揃えて払ってもらえりゃよろしい。
 そうでなければ、大豆もらってくだで」
「うちの大豆もってったって、安いビタミン味噌は作れませんよ」千晶も言う。
「味噌にしねーでも、そのまんま売れる。
 何なら小森屋の看板でもいいけどな。むはははは!」
捨て台詞を残し、帰っていく哲夫。
「正念場が来たな」弥之助が厳しい顔で言う。

病室の渉は、リンゴの皮をむいている。
むいた皮が床に落ちる、その皮を見る渉。

友行・千晶・忠治で相談している。
「先代のツルヤさんだったら、こういう時こそ力になってもらえるのに」
「大豆は持ってってもらえばいいじゃない」
「千晶」
「今、手形の支払い、どうにかなってもその後どうするの?」
「同じ苦労が続くだけで、どうにもなりゃしないわ
 それより例の袋詰めの味噌が出荷できるようにするの。
 その時、小森屋が立ち直ることができるのよ」
「やってみる」と友行
「手伝わせてください こっちにいて、旦那と一緒にやります!」と忠治。
「小森屋の看板取られてたまるものですか!」

(つづく)

『かりん』(141)

2006-03-21 08:45:36 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【141】 3月21日(火)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
女将      花 悠子

       鳳プロ

黒田忠治   佐藤B作
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

浩平が家を出て5日経過しました。 とナレーション

手当てされたかりんの幹を心配そうになでる千晶(紫色のセーター)。
晶乃はその様子をそっと見つめつつ「おはよう」と声をかけてくる。
「心配なのね」
「枯らしたくないもの。元通り元気になってほしいの」
「千晶の分身ですものね。千晶の気持ちが通じればいいけど。
 あなたの方はどうなの?」
「え?」
「おじいちゃんの言ってた腐爛病(ふらんびょう)」
「‥もう大丈夫」
かりんの木に両手を合わせて祈る千晶。

研究室。
千晶が入ってくる。
「忠治さんから電話があったの、今日来るんですって。
 用件は来てからってことだけど、声の調子からあまりいい話じゃないみたい」

友行は、樽詰めにかわる味噌の少量出荷の方法を考えている。
心太を押し出す時のような竹筒の用具に味噌を入れ
棒で押し出しビニールの袋に入れて見せる友行だが
「これじゃ手間がかかってなぁ・・埒があかない。
 こんな時こそ、浩平君がいいアイデアを出してくれそうなのに
 いかに自動的にやるか、なんだが」
と言う。

渉の入院している病室。
信太が帽子に白手袋で、リンゴを持ってお見舞いに来る。
「ねてなくていいのか?」
「(リンゴ)むけるのか?  あと2.3日で退院だ
 いろいろ心配かけたな。都座きりまわしてオヤジに楽させてやることにするよ。
「ああ、それがいい。それがいいよ」 嬉しそうな信太。
「できそこないはできそこないなりにな」
そこに、あかりが来る。
「リンゴ持ってきたの」
「お前もか!」
「あら花山君も? むいてあげる」
「いいよ」
「いいいから」
まんざらでもなさそうな渉。
「毎日来てるんだろ? 旅館はダイジョブなのか?」
「仲居にだって休憩時間はあるんです」とあかり。
左利きのあかりはやはり左手にナイフを持ちリンゴの皮をむく。
窓辺にオレンジジュースの瓶が並べてある。
「小森は来るか?」  いいや・・と渉。
「そうか、みっちゃんから聞いたけど、大変だからな」

小森屋
夕飯の準備をする千晶とみつ。千晶は大根を切っている。
「ただいま」と浩平の声がし、驚いて振り向く千晶だが
友行が「今日、忠さんが来るっていうからお父さん(自分)が呼んだんだ」と
説明する。
浩平は「ちょっと部屋へ」と、すぐ部屋にひっこんでしまう。
千晶が様子を見に行くと、
「ちょっと資料をね。忠治さんに会ったら寮へ戻る」と、カバンに何か資料を入れる。
千晶は
「かりんの木、枯れるかもしれないわ。
 切り倒さなくちゃいけないかもしれないの。
 あたしどうかhしてたのよ。切り倒すようなことになったら‥
 心細くて仕方ないの・・」
と話す。
見つめる浩平。

忠治が来たのは夜の9時をまわった頃でしたが  とナレーション
忠治は「黒田忠治にお暇を下さい」と切り出し、
東京営業所はいらない状況です、何もお役に立てないと説明する。
「こちらから切らせようと、支払いをわざと遅らせるところも出てくる始末で、
 一時が万事、俺の手にはおえません」
「この小森屋を見限ろうってことだな。
 忠さん、おめえさんそういう男だったのか」
「俺の給料と東京営業所の費用、それだけでも減りゃぁ、ずいぶん楽に・・・」
「だって奥さんと子ども、どうするの」晶乃。
「貧乏には慣れてます」
「忠さん、すぐに結論出さないで2.3日のんびりして行かないか。
 諸々話し合おう。
浩平君、忠さんと飲みに行ったらどうだ。昔話に花を咲かせて、ね」

いつもの飲み屋。
「お嬢さんと何かあったんですか?」
「貧乏になんか慣れてるって言ったよね。
 そうなんだよな、
 貧しいことより人と人とが分かり合えない事のほうが辛いんだよな」
忠治と文江には、子どもが生まれたようだ。
千晶と浩平の結婚式の頃、臨月だったので、文江は来れなかったのだと言う。
4人目は「リンペイ」と言い、来年の5月で4歳になる。
「そんなになるのか。そんなに長く住んでいるのに」と浩平。
「お嬢さんと何かあったんですか?」
「貧乏なんて慣れてるって言ってましたよね」
「それがどうかしましたか?」
「大変だろうけど、人と人が分かり合えないことの方が辛いんだよな‥」

      ラジオから流れていた曲は ひばりの花売り娘

その頃、千晶は1人部屋で、長押にかけてある浩平の着物を手にとり、そして胸に抱く。

その翌日
渉の病室。ノックする音が聞こえる。
千晶が薄紫色のセーラーカラーのワンピースに、水仙の花束を持って見舞いに来た。

(つづく) 

■『かりん』 第25週 (140) ★腐爛病(ふらんびょう)のかりんの木

2006-03-20 10:29:04 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【140】 3月20日(月)★腐爛病(ふらんびょう)のかりんの木

作    松原敏春
音楽  渡辺俊幸 コンセール・レニエ(演奏)
主題歌 井上陽水
語り   松平定知アナウンサー 


時代考証 小野一成
方言指導 有賀ひろみ
味噌指導 森 健、  松井宏次



小森千晶   細川直美
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
田上伝六   不破万作
その弟子   信太昌之  大工の大さんの弟子?
看護婦    川奈亜衣
小森弥之助  小林桂樹
宮下みつ   貴島サリオ
大工の大さん 大塚周夫  かりんの木を治しに? 大工さんが?
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二





制作統括  西村与志木

美術    深井保夫
技術    三島泰明
音響効果 加藤直正
記録編集 阿部 格
撮影    熊木良次
照明    関 康明
音声    山中義弘
映像技術 沼田繁晴

演出    大賀章雄


解説(副音声) 関根信昭


・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

都座。

映写室、渉はわき腹の痛みをこらえながら映写機にフィルムをかけようとしているが、
フィルムを取り落としてしまう。
千晶はフィルムを拾い渉に近づく、渉は抱き寄せる。
「小森‥ 小森」きつく抱きしめる。
千晶はただ泣いている。
「どうしたんだ、何が悲しいんだ‥。小森!」
「あたしたちどうなるの。これ以上どうすればいいの? 
 どうにもならない‥ どうにもならない!」

千晶は渉の腕から逃げ、客席を走りぬけステージに立ち、後を追ってきた渉に言う。
「映写室に戻って! スクリーンに映画、映してよ!!」
渉はステージに上がってくる。
わき腹を押さえつつ、千晶を抱き寄せる。 しかし離れ座り込む人。

そこに伝六とあかりが入ってくる。
伝六が渉にかけよろうとするのをあかりは止め、自分がステージに行く。
「病院に戻りましょ」 渉に話し掛け、手伝って立たせる。
「どうする?」と千晶に話し掛けるが、千晶は首を横に降る。
渉は千晶を見るが座り込んだまま、顔を伏せている。
伝六とあかりは渉を支えながら出て行く。客席のドアがきしむ。

お稲荷さん前の広場。
竹筒から出るお湯を見ている千晶、そこに友行が来る。
「渉くんはいたのか?」 うん と頷く千晶。
「それで?」
「病院へ」
「伝六さんとあかりさんとか? お前は行かなかったんだね」
千晶をみてほほ笑む友行。
「じゃあ帰ろう。帰ろう」

翌朝、弥之助がかりんの木を見ている。「晶乃! 来てみろ」

茶の間。
「お前、気づかなんだか!」「ぇぇ」
「自分の分身が枯れかかっているのに‥」
「あたしだって気がつかなかったんすから」
「腐爛病(ふらんびょう)ですか?
 見た目は枯れていても、幹の内は相当腐っているかもしれませんねぇ」(友行)
「気にかかっているんだがな」 「なんです?」
「千晶、お前も腐爛病(ふらんびょう)か?」 「あなた」
「何も言わないからだまっとったが様子がおかしい。
 そこにムコさんが帰ってこない。仕事のためだけじゃなかろう!
 会社をやめろとかスイスにいくなとか言ったのが悪かったか?」
「お父さん、浩平君、本当に研究所の仕事で‥」
「この小森屋も腐爛病の一歩手前ずら。
 何とかしなきゃな。 千晶もかりんも小森屋も。 何とかしなきゃ」

植木屋さんが来る。
幹を削り、何か塗っているのを、弥之助・晶乃・友行・千晶で見つめる。

腐爛病はかりんでもこわい病気で、治療は幹を削り石灰と硫黄を混ぜた薬を
刷毛や筆で塗る とナレーション。

千晶は「やらせて」と頼み、自分でも幹に薬を塗る。


渉は、病室のベッドで「あたしたちどうなるの」と言った千晶を思い出し、
千晶は幹をなでながら、渉のことを思い出している。

24歳のかりんの木が死にかかっています
とナレーション

『かりん』(139) ★浩平、渉の見舞いに

2006-03-18 07:00:41 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【139】 3月18日(土) ★浩平、渉の見舞いに

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
小森弥之助  小林桂樹
田上伝六   不破万作
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

渉の病室。 
渉は目を覚ましてベッドに起きていて、伝六が渉の世話をしている。
そこに浩平が入って来る。

「ゆうべはどうも」
「どんな具合かと」
「見ての通りですから」
「どうぞ」と見舞いの品の紙袋を差し出す。
「恐れ入ります。
 花山さんと千晶さんのご主人がここに運んでくださったんだ、お礼言わねえか」
腕を組んだまま、頭を下げる渉。
「オヤジ、もう帰ってくれ」 二人で話をしたいようである。
「失礼のないようにな」と言い、伝六は帰る。

「一度ゆっくり話したくてお見舞いかたがた来た。
 ゆうべ、あの後、家を出た。しばらく帰るつもりはない」
「なぜですか」
「今千晶の心は揺れている。そしてそのことを夫の僕に悪いことだと思っている。
 だから一度離れることにした」
「ものわかりがいいんですね」
「そうじゃないよ。彼女を手放したくない、添い遂げたいからこその判断だ。
 千晶にとって君は所詮思い出でしかない。そう思いたい。
 僕と千晶は4年近い時間がある。
 お互いの思いを、夢を、わかりあい尊重しあってやってきた。
 これからもかわることなく夫婦で生きていきたいと思っている」
 君には千晶を幸せにできない。今の君は町のチンピラと変わりない。
 君に気持ちが向いたとしても、彼女を奪ってその後どうする。
 考えたことあるのか?」
「二人なら、あいつと二人なら何でも出来る」
「そういうことは自分1人のことしか出来ない人間の言うことだ。
 本当に心底、彼女が必要だと思うんなら、彼女にふさわしい人間に戻るんだ!
 仮に向いたとしても長くは続かないし、後悔し続けるだろう」
 僕はそんな千晶を見たくない。
 君はもう一度彼女に悲しい思いをさせたいのか?」

小森屋 茶の間。
「ムコさんに会社やめてもらうしかないか‥」
「全くツルヤの哲夫さんごときにいいようにされて・・・忌々しい!
 晶子が生きていればねぇ」
「力足らずで申し訳ありません」小さくなる友行。
「いやいやおめさんがどうこうじゃねえんだ」

そこに玄関から「あかりです」と声がする。

千晶たち夫婦の部屋。
あかりは赤いセーターを着ている、千晶はブルーグレーの手編み風のカーディガン。

「どうしてるかなと思って。浩平さん帰って来てないのね」
「あたしがいけないのよ。あの人、大切に思ってくれてるのに」
「千晶が渉、振り切ることをできなかったんだからね。
 もともとあたしは悪い子で、千晶は良い子。
 でも今度ばかりは千晶も良い子ですまされないわよ。
 浩平さんか渉君のどちらかには悪い子にならいといけないのよ」
もともとはあかりの持ち物だったオルゴールを開くあかり。
夢路より(ビューティフル・ドリーマー)が流れる。
「ゆうべ、病院から帰ってきて眠れないの。涙が出てきて、泣けて泣けて。
 家のこと考えないといけないのに。自分のことどころじゃないのに‥」
「今のあたしにはこうやって話を聞くしかできない。
 涙が止まらなかったら、泣くだけ泣くしかないのよ。その内涙も乾くわ。
 あたしにもそんな時があったわ。悲しい時は悲しい、楽しい時は楽しい」
オルゴールの蓋をしめるあかり。
「今のあなたには、自分で決めなきゃいけないことがあるのよ。わかるわね。
 帰るわ。そこまで面倒見れないわ」
「もう少し、いてよ」
「和則、寝かしつけなきゃ」
「冷たいのね」
「あたしは冷たい、悪い子なんです」

玄関に浩平が来る。
友行に「千晶を呼んでいただけませんか」と頼む。
友行は千晶を呼びに行く。「浩平くんが呼んでいるよ」
「渉君に会って来た。君には千晶を幸せにできないと言って来た。
 これまで通りに、夫婦で・・ともね。
 そのことを伝えておこうと思ったんだ」
ちょうどあかりが降りてきて、浩平にお辞儀をし帰ろうとしたところに
あわてた伝六が来る。
「渉が来なかったか? 病院から消えちまった、あの馬鹿野郎!」
「お宅へは?」
「しばらく待ってみましたが‥」
「田上君、ここへ来ます!あたしに会いに! ここに向かっているのよ。
 見てきます」
「千晶!」とあかりが言うのもにも耳を貸さず、走り出す千晶。

「田上くーん!」と声をかけながら渉を捜す。

小森家の玄関前では、友行・浩平・あかり・伝六がしばらく立っていたが、
浩平は友行にお辞儀だけして、その場を去っていく。

都座。
千晶は都座まで来ていた。
ステージに上がり、息を切らして座り込む千晶だが、スクリーンに明りがつく。
千晶が映写室にかけあがってみると、
渉が傷口を押さえながら、映写機にフィルムをセットしていた。

(つづく)

『かりん』(138) ★「田上渉という嵐」

2006-03-17 04:49:23 | ’05(本’93) 50 『かりん』
【138】 3月17日(金)

小森千晶   細川直美
小森浩平   榎木孝明
本間あかり  つみきみほ
田上 渉   筒井道隆
花山信太   林 泰文
宮下みつ   貴島サリオ
小森弥之助  小林桂樹
田上伝六   不破万作
川原清三   河西健司
英        出雲崎 良(小森屋従業員)
蒔田      茂木和範(小森屋従業員)
雅       渡辺高志(小森屋従業員)
横井      藤森一朗(小森屋従業員 →ツルヤに)
中田      中田 浄(小森屋従業員 →ツルヤに)
鶴本哲夫   矢崎 滋
小森晶乃   岸田今日子
小森友行   石坂浩二

・‥…━━━★・‥…━━━★・‥…━━━★

渉は目をさまし、起き上がろうとする。
手伝う千晶とあかりだが、渉はさらにベッドから出ようとする。
「何してるのよ」
「帰るんだよ。このぐらいの傷、どってことない。
 死んだ方が良かったって思ってんだろ?」
「死に損ない。何やってるのよ、まったく。どうしようもなく情けないわ」とあかり。
「皆、悲しいと思うわよ。あたしもあかりも花山君も。
 誰よりもお父さまが。無茶しないで。1人で生きてるんじゃないんだから」
「飲むとか遊ぶとかだったら付き合ってやる。博打はダメだけど」
「オレは友達じゃないんだろ? もういい…帰ってくれ、一人のほうがいいんだ」
「明日、また来るよ」  
3人とも帰ろうとするが、渉は千晶に「小森、ありがとう」と声をかける
振り向く千晶、じっと見て目を伏せるあかり。

帰り道。信太とあかりが話す。
「田上のことで耳に入れたほうがいいことがあって。小森、小森、って二度呼んだ。
 浩平さんもはっきり聞いてる。あいつらどうなってるんだ?
 本間、何か知らない?」
「知ってる。別にどうもなってないわ。でもこれからはわからない」
「わからない?」
「千晶がその気になればすぐよ。 あっという間よ。
 男と女がお互いに好きになったらなるようにしかならない」
「本間、それでいいのか」
「良いも悪いも千晶が決めること。私は千晶じゃないもの」

小森屋。
「(少し責めるように)どこに行っていた?」
「病院へ。田上くん、ケガをして・・」
「そうか。  浩平くん、出てったよ。千晶には何も聞かないでくれって」
千晶は部屋に戻り、渉の「小森、ありがとう」を思い出す。

翌朝。
浩平が研究でしばらく帰宅できなくなった、と友行は説明する。
「何だ、もう逃げたのか?」「お義父さん、ですからですね、研究で・・」
「千晶、夫婦喧嘩でもしたんじゃないの?」
「いいえ」
「浩平さんが浮気でも・・・この人(弥之助)したことあるの」
「何をいうか、酔って飲み屋の女に送ってもらって・・」
と話している所に、大旦那さまと旦那さまに用事が・・と呼ばれる。

事務所に、従業員たちが揃っている。
清三が口を開く
「この二人がお暇を頂戴したいそうで…思いとどまる様に説得したんですが」
「そんなこと急に言われてもだね」と友行。
「横井さん、中田さん、不都合があれば直しますから」と千晶。
「そうじゃねえんです」
「どこへ行くんだ?」
「ツルヤです。ひでえもんです、俺(清三)にも声かけて来たんです」
「あんないいお給料で誘われちゃな、
 俺ら二人は呼び戻してもらったから、そうはいかないけどな」
そこにツルヤの哲夫登場!
「おや、みなさんおそろいですね。迎えに来たぞ」
「ツルヤさん、やり方が汚すぎる」
「もういい、うちとは流儀が違う」と弥之助。
「気がかわったら、みなさんもいつでもおいでなさい。
 気のせいか、このうちも大分傾いてきたねえ、むはははははっ」
と捨て科白を残し、哲夫と2人は去る。

ペガサス時計の研究所。あかりが浩平を訪ねている。
「千晶の心は揺れ動いています。それはあなたが嫌いだからじゃなく、
 思いもかけない嵐が目の前に吹き荒れてるんです。田上渉という嵐が。
 千晶がその嵐に吹き飛ばされていなくなるか、
 あなたにしがみついてやり過ごすか、自分の意志で追い払うか…。
 あなたへの愛情が本物で強くて深ければきっと嵐を渉君を追い払うと思います。
 しっかり見つめておいてあげて下さい。」
「家を出る時俺にはお前しかいないって言ったんだ。
 でもねあかりさん、いま俺の気持ちも嵐なんだ。吹き荒れてるんだよ。
 でも、見てるよ、千晶を。今はそれしか出来ないんだしね」

一葉だけあった紅い葉さえも散ってしまったかりんの木を見上げる千晶。

渉の病室に浩が来る。

(つづく)