北海道のぶどうのはなし
少年B
みなさまこんにちは。ぶどうが大好きフリーライターの少年Bです。
前回に引き続き、今日もぶどうのはなしをさせてください。今回のテーマは「ぶどうと北海道」です。
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2019年度における北海道のぶどう出荷量は6620t。これは山梨県、長野県、山形県、岡山県、福岡県に続く全国6位の数字です。日本を代表するぶどうの産地のひとつ、と言っても過言ではありません。
しかし北海道のぶどう栽培には、1~5位までの地域にはない特殊性があるのです。
それは、冬季における厳しい自然環境。北海道はほぼ全域が亜寒帯湿潤気候であり、日本屈指の豪雪地帯です。
みなさんが「ぶどう」と言われてまず思い浮かぶ品種は、恐らく「巨峰」じゃないかなと思います。
戦前生まれにもかかわらず、いまでもぶどう界の主役に君臨するぶどう of ぶどう。それが巨峰という品種です。
しかし、あまりにも寒い北海道の気候では、巨峰は栽培できません。つまり、もっともメジャーな品種である巨峰を抜きにして、これだけの量のぶどう栽培をしなければならないわけです。
そこには、いったいどのような謎が隠されているのでしょうか。
※ちなみに、巨峰栽培ができる北限は、秋田県横手市とされています。(横手市以北にも、園独自の工夫やハウス栽培などで巨峰を育てているぶどう園はあります)
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北海道におけるぶどうの最優先事項は「耐寒性」と「早熟性」です。いったいどういうことでしょう。
寒さの問題はもちろんですが、山梨県では7月末に熟す最早熟品種の「デラウェア」も、北海道での熟期は9月半ばごろ。北海道では、ぶどうのシーズンは2ヶ月程度遅れます。
しかし、11月になると雪や霜の問題があるため、ぶどうの収穫ができなくなってしまいます。
そのため、北海道のぶどう栽培においては、過酷な寒さに耐えうる「耐寒性」と、本州で8月中に収穫できるだけの「早熟性」が重要になってきます。
ぶどうにはさまざまな品種が存在しますが、その両方を満たした品種はそう多くはありません。近年の品種改良によって生まれたぶどうも本州向けのものが多く、耐寒性が満たせません。
本州では徐々に数を減らしつつある、原種により近い頑強な品種がいまでも残っていたり、「北海道向け」として耐寒性と早熟性を意識した独自の品種改良が進められています。
そのため、北海道で栽培されるぶどうの品種は他の地域とはまったく異なっています。
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じゃあ、いったいどんな品種が育てられているんでしょう。北海道で主に見られる品種はこちら。
北海道のぶどうではまず名前の上がる「ナイヤガラ」。独特の強い芳香は好き嫌いが分かれますが、好きな人にはたまりません。
ウェブなどではマスカットの一種と書かれていることもありますが、まったく別の品種です。
ほのかな甘さと酸味が特徴の品種で、粒の大きさはデラウェアと同程度。種があります。本州でもむかしは栽培されていましたが、現在はあたらしい品種に押され、縮小の一途を辿っています。
本州のスーパーではたまに売られていることがあります。もし見つけたらラッキーかもしれません。
「バッファロー」。アメリカ生まれのぶどうです。古い品種ですが、北海道の既存品種でおなじ黒ぶどうの「キャンベル」に比べるとはるかに糖度が高く、種なしになるのが特徴。
耐寒性に加えて味もいいので人気が高いですが、なぜか耐寒性がまったく必要とされない神奈川県の一部地域でも栽培されています。
本州のお店で見かけることは、ほとんどありません。直売所ではまれに見かける品種です。
「旅路」。北海道のなかでも小樽や余市周辺でしか栽培されておらず、来歴は不明と謎に包まれた品種です。
北海道の一部地域以外ではほぼ栽培されることがなく、また道外で入手することは極めてむずかしいぶどうです。
おいしいぶどうですが、粒もそれほど大きくなく、比較的安価な品種なので、わざわざ道外に出荷するメリットがないのかもしれません。
特筆すべき点としては「1粒1粒にしま模様が入る」というものがありますが、わたしが旅路を入手した年は2回とも「縞が出づらい年」だったそうで、実際にしま模様が入った粒を見たことがないのが残念なところです。「赤い粒に白のしま模様」という見た目は、わたしの知る限り唯一のものなのですが……
「スイートレディ」。北海道立総合研究機構が育種し、2016年に品種登録された、北海道の最新品種です。
北海道の気候にマッチする耐寒性、熟期に加え、「ホルモン剤を投与しなくても、もともとの状態で種なし」という特性を持ち、次世代の北海道エース品種になることを期待されています。
まだ作付け面積が多いわけではなく、現在では六花亭(マルセイバターサンドが有名ですが、ぶどうの栽培もしているのです)など、一部のぶどう園で栽培されるに留まっていますが、今後は増えていくのではないでしょうか。
残念ながら、わたしが入手したものは酸味が強く、お世辞にも「うまい」とは言えなかったのですが、友人が購入したものはとても甘くておいしかったとのこと。ぜひともまた入手して、わたしなりの評価を定めて行きたいと思っています。この品種も、道外での入手は非常に困難です。
その他、古い品種の「ポートランド」(緑)や、「シャインマスカット」を作った国の機関・農研機構が耐寒性を重視して生み出した北海道・青森県向けの兄弟品種「ノースレッド」(赤)と「ノースブラック」(黒)があります。黒色品種はバッファローやキャンベルと競合があるため、ノースレッドのほうが多く作られているようです。
また、北海道はワイン用の品種も多数作っており、白ワイン用では「ケルナー」、赤ワイン用だと「ツバイゲルトレーベ」と寒冷地向けのドイツ系品種が主力ですが、さいきんは人気の高い「シャルドネ」(白ワイン用)、「ピノ・ノワール」(赤ワイン用)といったフランス系の品種も増えているようです。
また、池田町では町をあげて「山幸」や「清舞」といった山ぶどうを交配させたオリジナルの赤ワイン用品種を育種しています。また、品種登録ホームページを見ると池田町名義で「銀河」と「未来」という2品種が2019年12月に出願されています。出願中のためページ情報がなく、詳細は不明ですが、2016年に「町独自の白ワイン用品種を開発する」という報道があったので、もしかしたらついに育種に成功したのかもしれませんね!
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なんかつい「いかがでしたか?」と言いたくなってしまう感じに未確認情報を書き足してしまったのですが、北海道のぶどう品種はよくもわるくも独特だ!ということが伝われば幸いです。
ただ、最近では大粒品種が人気なこともあり、巨峰系品種の「サニールージュ」の試験栽培が始まったり、仁木町のグループがシャインマスカットを北海道で作る研究をしているそう。北海道では熟期が遅くなるため、もしシャインマスカットを作れることになったら、収穫時期は日本でいちばん最後になるはず。合言葉は「クリスマスにシャインマスカットを」だそうですよ。
大粒品種への切り替えが成功すれば、今後は状況も変わってくるかもしれません。もし独自の品種がなくなってしまったら、ちょっと寂しいですけどね。
いまのうちに、北海道のめずらしいぶどうをたくさん食べてみるのもいいかもしれませんよ。
さて、こんな感じでサンポー本編では引き続き散歩を、ブログではぶどうのはなしをさせていただきます、少年Bです。どうぞよろしくお願いいたします。
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