「回らない寿司」って変だと思いませんか。
川合裕之
「回らない寿司」という表現、よく考えると可笑しいのです。
きょうはそういうお話。
おっと、失礼、はじめまして。散歩のウェブマガジン「サンポー」からお邪魔しております、川合と申します。
25歳、ヒゲ。ロン毛、しゃらくさ丸メガネ。
職業はライター。フリーランス。
静かに家で過ごすことと、住宅地を散歩することを愛しています。
そして文章が好き。(とくに自分の書いた文章がいっとう好き)
そんな典型的なしゃらくさ文系の僕が愛してやまない「現象」を紹介しましょう。「回らない寿司」現象です。
寿司は、回らないよ!
寿司は、元来回らない。当たり前である。
そりゃそうだ。
繰り返す。
寿司は、普通は回らない。
にもかかわらず、この語彙は非常に広く浸透しているのであります。
庶民にとって「回転寿司」の方が一般的であったために、高級な「回らない寿司」が異化されてしまったのです。「回る寿司」よりも「回らない寿司」の方がはるかに先輩であるにもかかわらず、先輩の方がレアキャラ扱いされてしまっているわけですよ。
・紙の辞書
・固定電話
・手書き文字
・布おむつ
・生演奏
・モノクロ写真
挙げだしたらキリがありません。このような現象、および語を「レトロニム」と呼びます。お気づきの通り、技術革新がきっかけとなることがほとんどです。ガラパゴスケータイ、とかもそうですね。
古くなってしまったのに、いいえ古くなってしまったからこそ価値が付加される点も面白い。日頃から僕はこのレトロニムを収集しています。
これを読んでいるあなたも、暇な時間にぼんやり考えて探してみてください。
「暇な時間」
おっとこれは広義のレトロニムか? 今と同じような意味合いの「忙しい」という概念が生まれたの近代前後に違いない。なんせ「ビジネス」という語は “busy” から派生しているのですから。
と、こういう具合です。
こんなことをしているといくら時間があっても足りませんが、時間を持て余しているような時には丁度良い遊びです。
家のお風呂にとぷんと浸かっている時にゆっくり――
「家のお風呂」
ムムム、あやしい。
いやでもちょっと待て。
「家のお風呂」つまり公衆浴場ではない「内風呂」が普及したのは明治以降。となればこれは順当に新たな付加価値を修飾語として足しているわけでだ。う~~ん、じゃあこれはレトロニムじゃないですね。残念。
……と、こんな感じでぐだぐだと頭の中で文字を並べて遊泳するわけです。みなさんも是非、考えてみてください。きっと楽しいです。たとえばエスカレーターを待っている小さな時間でもいいし、たとえば青春18きっぷで在来線の旅をする大きな移動時間なんかにも。
ん……?「在来線」……?
おわり
注1:僕が最初にこの現象をはじめて知ったのは、歌人の佐々木あららと仁尾智によるPodcast番組「僕たちだけがおもしろい」です。この番組で紹介されていたのが僕の「レトロニム収集」のきっかけです。
注2:言語学者の鈴木孝夫氏はこの現象を「再命名」と表現している。
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川合裕之
ギター、ベース、ドラム、作詞作曲など、全部が出来ない。
映画のwebマガジンも運営している。
川合裕之の散歩/ Twitter
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