息子が、レストランでお子様ランチを頼む。
お子様ランチ以外の世界もあるんだぜ? とロースとんかつのページを見せても、パンダが笹を食うみたいな、DNAに刻まれている感じで、息子はお子様ランチを頼む。
すると店員が、DNAに刻まれている感じで、なんかよくわからないおもちゃが山盛り入ったカゴを持ってくる。
さらに息子が、DNAに刻まれている感じで、車のおもちゃを選ぶ。
なんだそのお前らの決定論に基づく一連の所作は。そろそろ「○○の儀」みたいな名前つくんじゃないか。今度俺が後ろでプァ~みたいなの吹いてやろうか。
それはいいんだけど、真面目な話、息子は特に車が好きとかじゃなくて、多分消去法でそれになっていて、じっさい家に帰ってから一切それに興味を示さない。だからまあ、おもちゃに惹かれているとかではなくて、味が好きなんだろうね。お子様ランチの味が。知らんけど。
そんなわけで、誰にも遊ばれないおまけの車が家に増える。
レストランに行くたびに車が増える計算だから本当はもっとたくさんあると思うんだけど、さっきおもちゃばこひっくり返して出てきたの意外と少なかった。
そろそろ処分しようか、みたいな話が定期的に出るんだけど、あの、僕ね、こいつらけっこう好きなんですよ。それで、あーそれはちょっと待ってください、と言って今に至る。なんか少なかったから捨てられているのかもしれないけど。
まあ、とにかく、僕はこういう車を捨てないでいる。積極的に集めているわけでもないのでこいつらのマニアだと言い張るつもりは毛頭無いんだけど(もっと集めている方いますよね絶対)、捨てないでいる、これも消極的な愛の形だろうと思うのです。
さて、これからいくつか紹介するにあたり、僕が考えるこいつらの魅力を改めて考えてみた。
まず、ツッコミどころの多さがいい。
そのテールランプどうなってんのよ。シールのとこがランプだとしたら、下の四角はどういうつもりで金型作ったんだ。ランプがどっち担当か、社内でそういう会話は無かったんだろうか。あと、センターに来るように貼ろうや。それからナンバープレートがエアポート!
眺めているだけでも10分は持つ。正しい遊び方だと信じている。
それから、出自の不明さがいい。
昔一度調べたことがあるんだけど、こういうおもちゃは景品グッズなどを扱う卸問屋などからまとめて買うことができるらしい。
そう、こいつらはおもちゃというより最初から「景品」としてこの世に生を享けている。だから以降、暫定的に「景品カー」と呼ぶことにする。
景品カーの発売元として、たとえばトキワ商事という会社を良く見かける。
https://www.superdelivery.com/p/r/pd_p/3679746/
なかでも「スーパーポリスカーシリーズ」というのが全16種類ある。
パッケージには「スーパーカーのパトカー!!!」という、なんだろう、カレーのラーメン!!! みたいな、男子の好きと好きを魔合成したワードが踊る。わりと定番なようで、探したら家にも2台あった。知らないうちにトキワ商事が家に潜んでいる。
よく見ると小さく People's safety is ensured. とある。人々の安全を確保するという目標が書かれている。
さて、これは運良く「スーパーポリスカー」だということが分かった。
それ以外の車の出自が全く分かんない。いやまあ、消極的な好きさだから、マジのマジで調べたことは無いんだけども、「景品 プルバックカー」などで出てくるおもちゃをわりとしらみつぶしに眺めたことがあって、全然分かんなかった。インターネットに答えが載っていない感じ、久しぶりじゃない?
まあ、こいつらを見ていると、出自なんか知らなくてもいいのかもしれない、とも思えてくる。雑な車との一期一会を楽しんだらいいのでは……みたいな。知らないから楽しめるステージってある。
前置きはこれくらいにして、早速いくつか紹介していきたい。
◆ダッシャー
僕が思う、良い景品カーの要素が大体入っているなあと思うのがこいつ、ダッシャーだ。
レーシングカーのフロントがごちゃごちゃしているところって本来スポンサーロゴとか入っていると思うんだけど、まあ、景品のレーシングカーにスポンサーとか無いから、代わりにこう、なんかかっこいい言葉を入れることになる。ダッシャー。突進者。こういう、かっこいいワードのチョイスにセンスが出る。ダッシャーってそんなに聞き慣れないから、僕はけっこう掴まれてしまった。担当者が、ダッシュだけじゃ物足りないな……とか、辞書を引いたんだろうか。
バックには燃えさかる龍。龍にダッシュのイメージは無いので、これは「ぽさの龍」と呼びたい。
あと、これは全ての景品カーに共通するけれど、ヘッドライトに照明のようなシールを貼られることは殆ど無い。ライトはくぼみ。想像で楽しむことが求められている。
サイドにもダッシャー。ちょっと手が込んでいるなと思うのは、こちらのロゴには龍がいないので、フロントの龍が背面に居るロゴとは別のデザインなんですよ。
ただ、よく見るとフロントの炎の一部を使い回している。
▼フロントの炎/サイドの炎
炎の流れ方が一緒。それでもロゴを2つ用意した点は評価したい。最低限の手間で最大限の魅力を出そうとしているところに、たかが景品、されど景品のこだわりを感じる。
Dasherの下の文字、これがちょっと分かんない。HOT TOHSION? って書いてあるのかな。これは何だろう。子供に分かりやすいかっこいい言葉を選ぶと思いきや、ちょっと分からないのも撃ち込んでくる。HOT TENSIONのミスだったりするんだろうか。そうだったらすごくいいけど……
最下部のConquerorはメーカーなのか、かっこいいワード要員なのか判断つかない。かっこいいワードなのかな。征服者。ここは、かっこいいワードをもう一個ぶっ込んできたと解釈したい。
景品カーは、とにかくかっこつけたワードを詰め込む。材料費は有限だけど、ことばと想像は無限なのです。
◆レーシング
レーシング、これは頭一つ抜けている素晴らしい景品カーです。
かっこつけワードから確認していきましょうか。
まず、大きく「Racing」ってのがいい。レーシングカーだぞ! っていう主張。俺も「Salary」って書いたTシャツを着て仕事に向かいたいものです。
その下に「SUPER MVP」。MVPってのが Most Valuable Player で最も優秀という意味が入っているのに、それのSUPERだから。世界大会で優勝したら銀河系大会みたいなのにエントリーされてそこでも優勝するみたいなやつだから。価値のインフレがものすごい。
天井に「HIGH SPEED」そりゃそうだろうな。SUPER MVP 獲るような奴はHIGH SPEEDだろうな。
そんで、全体的な「ぽさ」。なんかかっこよくないですか。完全に分かってる人が、最低限の仕事をしている感じがする。
びっくりしたのはサイドの「Racing」のロゴが2種類ある。フロントと同じ「R」が大きいものと、末尾の「G」が大きいもの。
確かに、サイドは、ロゴのフロント側の文字が大文字でないとうまく収まらないから、「G」を大きくするパターンを作り出したと思うんだけど。
でも、ロゴをもっと小さくして押し込めてしまう、みたいな逃げもあったはずなんだ。躍動感は無くなるけど、景品カーなら許されたと思うんですよ。それをしなかったのは、デザイナーのこだわりなのか。
あれ? 景品カーってけっこうこだわって作ってんじゃん? と思うじゃないですか。や、そうなんですよ。よく見ると、この単価でここまで……という努力の跡が見えて嬉しくなる。
一方で、おまえ……仕事嫌いなのか……? みたいなのもある。次はそういうのを紹介していきたい。
◆スプリントワンダー
ようこそ、雑な景品カーの世界へ。問題作「スプリントワンダー」です。
前出のとおり、景品カーはかっこいい言葉を使う特徴があったのですが、そのかっこいい言葉の語彙が豊富な車と少ない車があって、これは、語彙が少ない車です。
「SPRINT」「WONDER」「SPRINT WONDER」
「SPRING WONDER」というワードが降ってきたんでしょうかね。この唯一の武器だけで乗り切ろうとしている。
あとフロントに斜めに筆記体で何か入っていて、よく見ると「Sprint Wonder」って書いてあった。どんだけ気に入ってるんだ。こいつに「おはよう」って言っても「Sprint Wonder」って返ってきそう。
あと、このチーターよ。これもこの素材ひとつでなんとかしようとしているんだけど、シールの横幅に合わせてチーターをギュッ! としてしまっている。
多分天井のが正しいチーターの比率だと思う。ナショナルジオグラフィックで見るチーターはこれだ。
一方でリアのチーター、全然早そうじゃないもんな。おっさんのボレーみたい。
まあ、これが許されるのも、景品カーの魅力だと思う。我々も「チーターがおっさんのボレーみたいになってるな」と思っても、景品の会社わざわざ探してクレームなんてつけないじゃないですか。こだわるのも自由、放棄するのも自由。大クレーマー社会において、自由演技が許される数少ないフロンティアなのではないでしょうか。
そのような姿勢でアウディを名乗るとは大した……いや、輪が5つだ! オリンピック? おまえ、もっとたち悪いぞ。
◆スピードターゲット
語彙はどんどん少なく、というかおかしくなっていく。
SPEED TARGETって何なの。Google翻訳アプリにカメラで撮ったものを翻訳して写してくれる機能があって、それでねんのため試した。
まあ、そんな感じよな。そんな感じよ。55キロくらいで走るのかな。後ろから来た早い車に道譲るし、ウインカーとかもちゃんと出すだろうな。
あと、文字の後ろの爆発みたいなデザイン。
最初に紹介した2台はレーシングカーのフロント部分のゴチャゴチャ感を踏襲しようという意思があったけれど、これは雰囲気というか。たしか派手だったぞ? みたいな、雰囲気だけでやってないか。多分こいつはレーシングカーの画像検索すらしていない。こういうマインドの奴が17世紀の日本をチラ見して帰って「全員チョンマゲで毎日ハラキリ」みたいな雑な本を出すんですよ。いや、褒めてるんですよ。一緒に曖昧な世界を作っていきましょうよ。
◆イースタンダード
バイクタイプもあるんですが。
e-standard。オンラインの標準仕様か何かでしょうか。スピードとかですらなくなりました。SINCE 1971 も浮いている。
かっこよさの完全放棄。もしくは、英語ってかっこいい、みたいな感覚の人がやっている。
こうなってくると、ではその文字列はどこから引いたのか、という話になってくる。何らかの元ネタがあるのでは。
ねんのため「e-standard」で探したのですが、高いシャンプー、エドウィンのジーンズのシリーズ、大阪の良さそうな美容室などが見つかりました。
今のところ意図が分からない。不思議なバイクです。
◆スーパーランニング?
あなたに至っては、何とお呼びしていいか分からない。
フロントの幾何学図形のパワー。
小学生が考えたかっこいい図形みたい。真ん中に力の源であるクリスタルが埋まっているのかな。ディスティニーガンダムのシールドがこんな感じじゃなかったでしたっけ。
あと、線の太さがバラバラ。これ、手書きなのでは……? 手書きのレーシングカーが流通しているとか、ちょっと震えません? そしてシールの裁断がものすごくずれてる。こんなにずれることあるか?
サイドとリアを見ると、初めて文字が書いてある。
「SUPER」「RUNNING」
語彙が少ない、ひどい、と笑ってしまえばそれまでなんだけど、あのー、なんかもっとこう、僕は感じてしまった。なんというか、これさあ、必死に絞り出してませんか。
僕ね、これ、おばあちゃんが浮かんだんです。おばあちゃんが何故かレーシングカーのデザインを担当することになり、フロントの絵を描き、かっこいいワードを一生懸命探した感じがする。
おばあちゃんが作ったレーシングカーだと思ってもう一回見てくださいよ。
すごくいいでしょう? 手編みのレーシングカーですよ。あったけー。
さて、憎めないこいつらなのですが、我が家では定期的に捨てられる危機に陥る。
そこでわたくし考えました。こいつらに居場所を作ったらどうだろう。
居場所をつくる、それは生きる意味をつくること。それは、生の全肯定。
例えば、パンを買い付ける。
生きていて良かった、そんな夜を探す。
幼稚園のお迎えに行く。子供がすごい寄ってくる。かっこいいからな。
ミルクネコのお母さんはスプリントワンダーのおばちゃんと呼ばれている。
パン屋でもスプリントワンダーは大人気。
べたべた触られるし、あとスプリントワンダーの排気ガスは甘いと子供達の評判になっているので嗅ぎに来る。
いま、景品カーたちは、シルバニア村で楽しい余生を送っています。
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