最近、昨日のことを忘れたりするが、昔のことは・・・。
“あの日の拾得”
そう、この日のことは、忘れもしない。
今も鮮明に覚えている・・・。
リハーサルの約束時間に少し遅れ、リーダーの浅原さんがやってきた。
見れば、包帯でぐるぐる巻にした左腕を肩から吊るし、顔色も冴えない。
心配するアリヤンが尋ねても、何も答えようとしない。
多分・・・。
なんとなく察しはついたが、俺も聞いちゃいけないと思って黙ってた。
ふと客席をみると、あの稲冨英樹氏、通称トミーがマルちゃんを連れやってきてた。
いつもなら、対立する俺たちのliveなど来るはずもない、
マルちゃんと一緒なだけに、なんと無く悪い予感がする。
通称“マル”、本名は知らない。
当時、京極でアクセサリーの彫金をしていて、街なかでは目立ってたし、
かなちゃんが書いた、“ぷりぷり”の曲、“M”は、マルちゃんのことって言ってたから、
以前からよくは知ってた。
ただ、俺は、“シラフ”のマルちゃんには一度も会ったことがないが・・・。
マルちゃんは、その日も来た頃には、結構“入って”たんじゃないかと思う。
その日は、
“ニューエストモデル”っていう売り出し中の大阪出身のバンドが来てて、
また、“どりばんな”も“ドーナツ”を出したばかり、
入口には、“イエローナイト”と、彼らの“おもちゃの兵隊”の“ソノシート”を並べてたから、
マスコミ関係もチラホラ来てた。
そんな状況だっただけに、二人も気がかりだったのだろう。
俺たちの“女性ファン”を“押しのけ”、“かき分け”、最前列を陣取っていた。
“ニューエストモデル”のステージも終わり、
俺たちの出番になった。
“どりばんな”は、
A面が“イエローナイト”
B面には、ツノッチの彼女(現奥さん)と、みんなのマドンナ“まりこさん”が、コーラスで参加する
“ホットバイブレーション”入ったドーナツを発売したばかり、
浅原さんは、いつも以上にファンサービスが旺盛だった。
骨折しているのに「ねちがいしました〜。」と、MCで場を和ごます浅原さんのプロ根性には、
俺は、内心、胸が詰まったのを覚えている。
本当は、激痛が走り、ステージどころではなかったのに・・・。
新曲の評判も上場
二人は、両足をテーブルにかけてはいたが、特にこれと言った動きもみせないまま、
ステージは無事に終わった。
俺は、今も昔も、ステージが終わると客席でギターを自慢する癖がある。
いや、しなければならない。
対抗する彼らなら、尚更のこと。いつも以上に自慢せねばならない。
俺は息込み、彼らに見せてやった。
ストラトのフロントとセンターのピックアップを外し、“下敷き”をシコシコ削ってつくったピックガードをまとう、
その名は、“ダイアモンド・サトキスペシャル。特に、ヤマハアンプとの相性は抜群。
ギタリストなら、誰も?がギターに愛称を付ける。
俺は、マルちゃんに試し弾きさせ、いつものようにウンチクを語ってあげた。
うなずくマルちゃん。
しかし、多分?ほほ確実に、彼にはそんなこと、どうでもよかったのだろう・・・。
トミーにとっては、そんなこと、もっとどうでもいいことだったのだろう・・・。
帰らない客で賑わう“ハコ”のなか。
階段横の桝席で騒ぐ、ルパン、いや失礼、浅原さんと峰ターコら“女たち”
桝席に向かいトミーが言った。
「この勝負、も・らっ・た・な」
一瞬、俺は、耳を疑った。
アリやんのグラスを持つ手が止まった。
辺り一面、異様な空気が漂う中、
浅原さんの顔から、血の気が引いていくのが分かった・・・。
つづく
ニューエスト…懐かしい。