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鋼の錬金術師1  色々な事情がありました  キンブリーはデスワーク、スカーは墓参りに行ったそ うです

2021-04-04 12:21:07 | 二次小説

 その日は快晴だった、気分がいいのでルドルフ・キンブリーは自宅をいつもより早く出るとカフェでモーニングを頼んだ、死んだ筈の自分が生き返り再び、政府の為、軍人として働いているというのは不思議な気分だが、賢者の石の生成だけでなく、管理も厳しくするべきではないのかという意見が出たせいだ。
 石の本質、そのものをよく知っている人間がいるのは心強いという意見があり、軍の中でのキンブリーの立場は決して悪くはない、志願して部下になりたいという人間もいるくらいだ、好きな人間を使っていい、部下にしても構わないと上から言われてるので待遇としては、そこそこだ、不満があるとすれば一つだけだ。
 
 「珈琲のお代わりはいかがです、キンブリーさん」
 
 顔なじみになったウェイターの言葉に頷くと、カップに並々と珈琲が注がれると、ゆっくりと飲み干したキンブリーは、ご馳走様と席を立った。
 今日はデスワークだ、一日、机の前で書類と向き合わなければいけないのは少しばかり退屈だが、生きて行く為には金を稼ぐ、給料を貰わなければならないのだ。
 ところが、そんな予想を裏切るようにマスタングに呼び出された、急いで街に出て事件を調べろと、しかも協力しろという、個人プレー、一人で動く方が身軽で楽だが、だが、それはマスタング自身もわかっているのだろう、向こうも、そう思っているだろうと皮肉めいた言葉を吐かれて、何故と聞くと、返ってきたのは予想外の言葉だった。
 
 「傷の男と、協力しろと、それ本気で言ってますか、一体どういうこと」
 「軍人では話を聞き出すことが難しいからだ」
 
 どういうことなのかわからない、詳しく説明を求めるとマスタングは首を振った、自分の顔を見るのが嫌なのか、それとも忙しすぎて、そこまで頭が回らないのか、どちらにしてもキンブリー自身、執務室の中でマスタングと話をするより手っ取り早く、現場に行った方がいいだろうと決断を下した。
  
 くそっ、撒かれた、まずいな、傷の男、スカーは内心焦っていた、相手が凶悪な犯罪者なら問答無用で遠慮なく敵対できるのだが、子供相手だと部が悪い、強面の自分が声をかけると怖がられるだけならいいのだが、警戒心を抱かせてしまった。
 スラムの子供相手なら少しは慣れているつもりだった、ところが相手は市井の普通の子供だ、着ている物からして決して裕福ではないと思えた、だが、自分が声をかけると、その子供のそばにいたもう一人の子供が逃げろと叫んだのだ、自分の様子から察したのかもしれない。
  
 少女は息を切らしながら狭い通りを抜けて建物の陰に身を隠した、あの大きな体の男が声をかけてきた理由は分かっている。
  
 それ、賢者の石じゃないのか、仲良しのスラムの子が教えてくれたが、信じられない、だってとても高価な物だという、普通の家、貴族だって変えない位だというのだ、それに賢者の石は願いを叶えたら・・・・・・。
 だったら違う、何故なら石はちゃんと、ここにあるのだから。
  
 「見つけたぜ、小娘」
  
 振り返ると、男が立っていた、一人ではない、二人だ、しかも大柄で着ている服もボロボロだ。
  
 「あっ、あのときの」
  
 「そうだ、怪我をしたくなけりゃ、死にたくなきゃ、それを寄越せ、首から提げているやつだ」
  
 少女はぷるぷると首を振った、いやだ、これは大事なものだ。
  
 「賢者の石はな、子供が持ってたって」
  
 「違う、違うもん」
  
 少女は首を振った、友人もそう言った、この泥棒もだ、だが、違うのだ。
  
 二人の男が、ゆっくりと近づいてくる、その時、おやおやと静かな声がした。
  
 「昼間から子供の拐かしですか、感心しませんね」
  
 「なんだ、貴様」
  
 男が不快そうに呟く、帽子、スーツ、全身白づくめ、いかにも金を持っていそうな風体だ、だが、警察ですという言葉に二人の男は、まさかという顔をした。
  
 「ずらかるぞ、その前に」
  
  突然、二人の男の体が大きくなった、服が破けて、体が変化した、全身毛だらけの獣、オオカミにだ。
  
  「キメラですか」
  
 構えるキンブリーだが、二人は子供に向かって手を伸ばした、その瞬間、一人の体が吹っ飛んだ。
  
 「遅いですよ、まったく」
  
 キンブリーの言葉に建物の奥から表れたのは褐色の肌の大男、自噴に声をかけてきた男だ、少女は逃げ道を探して、通りに出ようとした。
  
  
 「おおっと、捕まえたぞ」
  
 悲鳴と同時に自分の体が毛むくじゃらの男に抱きかかえられる。
  
 「じっとしてろ、欲しいのは」
  
 大きな手、指が首にかかった銀の鎖にかかり、引っ張ろうとした。
  
 たっ、助けて、ここに自分を助けてくれる人はいない、だが、それでも少女は声を出すことこそできなかったが、心の中で叫んだ。
  
  
 その悲鳴はあまりにも大きすぎて、キンブリーもスカーも驚いた。
  
  
 地面に放り出されて転がった少女は男が自分の腕を押さえて悲鳴を上げていることに驚いた、いや、それだけではない、不気味な音をたてて、もう一人の男の体が建物の壁にめり込んでいるのだ。
  
 今しかない、少女は脱兎のごとく逃げ出した。
  
 
 
 ありがとうね、自分の差し出したパンを食べながら水を飲む姿に少女は不思議に思った、黒っぽいシャツ、長いスカート、肩にかかるぐらいの髪は黒っぽいが、白も混じっている、それに光に透けてところどころ茶色や金色に光っている、大きなスーツケースを持って、まるで魔女か旅行者のようだ。
 それだけではない、お腹を空かせていた、丁度、持っていたパンを渡すと代金だと紙のお札や硬貨を見せられた、外国のお金は見たことないと相手は少し考え込むような顔をしてトランクを開けた。
 中には色々な物が入っていた、服だけではない、シャンプー、いい香りのする石鹸、シャンプー、女の子の好きそうな物、いや、それだけではない。
 小さな箱の中には綺麗な色々な石が入っていた、これはね、旅行中に物売りのおじいさんに騙されて買ったのよと、その人は笑った。
 
 「インド人、嘘つかないなんていうけど、あれは嘘よ、こっちは騙されて嘘をつかれまくりよ」
 
 聞いたことのない国の名前だ、それに騙されたというのに笑っている、なんだかおかしくなって、思わず自分も笑ってしまった。
 赤い石が綺麗だと思って、これが欲しいというとペンダントにしてあげようと言われて思わず頷いた、すると袋から取り出した細い鎖や道具で、石を細工してくれたのだ。
 その様子を見ながら、この人は外国、遠い国から来た人だと少女は思った、亡くなった祖母が以前話してくれたことを思い出した。
 自分は子供の頃、遠くの国からから来た不思議な人に会ったんだよと、色々なことを教えてくれた、とても不思議な人だったと。
 
 まったく、傷の男ともあろうものが、先ほどからブツブツと呟くのは自分の対する完全な嫌みだ、二人のキメラの男を牢屋にぶち込み尋問する、赤い石なら賢者の石というのが有名な一説である為、二人のキメラは街中で偶然、少女の首のネックレスを見て、そう思ったらしい、単純過ぎると思ったが、夜中に忍び込んだ時に失敗したことで、本物の賢者の石だと思ったという。
 
 「では、あなたたちの仲間はもう一人いたが今は怪我をして隠れているという訳ですか、どうして」
 「あの石だ、ガキが叫んだら腕が吹っ飛んだ、だから本物なんだろう」
 
 泥棒の言葉にキンブリーは首を振った、もし、石の力で男達が怪我をしたとしても、それは運が良かったか、一度だけ、代価交換が伴う。
 
 「その子供、本人が何かの力を持っているとは思えませんか」
 
 キンブリーの言葉にスカーは首を振った、少女から、そんな感じは受けなかったというのだ。
 
 「石を複数、持っていたか、誰かが助けたと言うこともあり得ますね、祖母がいたようですね、今は」
 「病院らしい」
 「そうですか、では貴方に任せますよ」
 
 キンブリーの言葉にスカーは、えっとなった、そんなことを言われるとは思わなかったのだろう。
 
 「子供は苦手なんです、それに汚名挽回するのにいいでしょう、私は忙しいんです」
 
 デスクワークでと言いかけてスカーは黙りこんだ。
 
 「そういえば休んでいたんでしたね、葬儀で、体を動かすには丁度いいんじゃありませんか」
 
 「ただの墓参りだ」
 
 「そうですか、確かお兄さんのご友人とか」
 
 何故、知っているとぎろりと睨みつけたが、そんな視線を気にすることもなくキンブリーは、ティータイムに行ってきますと職場を出た。
 
 
 
 あの人は兄の友人で、亡くなってから、もう、三年がたつ。
 墓に花を手向けて、それで終わらせるつもりだった、ところが、偶然、出会ってしまった。
 
 「あなた、スカーさんでしょう」
 
 亡くなった彼女の友人だという女性が自分を見て驚いた顔をした、是非とも渡したい物があるといって自宅に招かれた。
 
 「これ、お守り、あなたムンクでしょう、彼女がね、あなたに渡そうと思ってたらしいの、その、隠していたみたいで最近になって、あたしの元に届いたのよ」
 
 何故と思ったのも無理はない、隠すとは、どういうことだ、すると、彼女の旦那さんはとわずかに顔を曇らせてああいう人だったからと、言葉を濁す。
 
 「お兄さんもだけと、貴方の事を気にかけていて」
 
 意味が分からないとスカーは女を見たが、いいの、知らなくていいのよと女は笑った。
 
 
 兄の数少ない女性の友人は自分のことも気遣ってくれた、彼女は自分よりも歳は上だった筈だと思う、いい年だから嫁にはいかないのかというと兄は少し困った顔をした、彼女は家族がいなくて独り身だ。
 だから、結婚は難しいだろうと視線をそらしていた、だが、それが本当の理由は。
 
 
 「彼女のこと家族のことは、あまり知らないのだが、家族はいなくても親族ぐらいは」
 
 自分が聞くと女は、知らないのと不思議そうな顔をして、お兄さんは知っていた筈よと言った。
 
 「彼女は、この国の人じゃないの、遠い国の、だから、シン国に嫁いだの、その、お守りね」

 女は何か言いかけたが、小さく呟いた。

 「私もわからないのよ、あちらの言葉は」