大事な事、驚かないで聞いて欲しいのよと言われて、その日、緊張しながら目の前に出された紅茶に手をつける事もできないでいた、やはり母親の知り合いだからといって、その娘と一緒に暮らすというのは無理があるのかもしれない。
退院して三週間、その間、のんびりだらだらと過ごしていたのだから、出て行けと言われても不思議はない。
「実はね、あたし、男なの、元は、だけど」
言われて、はあっと頷いた。
「そう、ですか」
「もしかしたら、気づいてた」
「今、初めて知りました」。
ドラマや漫画、でもテレビの芸能人でも、オネェの人とか活躍しているし、損な事を考えていると良子さんは、そうと頷いた。
「もしかして一緒に暮らすのは嫌かしら」
「いえ、その、あたし出て行った方がいいんじゃないかと」
「何を言ってるの」
突然、良子さんは叫んだ。
「あたしは子供を産む事はできないの、だから一緒に暮らしてほしいの」
「でも、良子さん」
これから先の事を考えたらと、もし恋人や結婚したい相手ができたら、友人の子供と一緒に暮らしているなんて、正直、具合が悪いのではないかと思う。
今時、性転換して女になった元、男だって、あまり関係ないような気がする、というのも良子さんは普通に女性っぽく見えるのだ。
実は最初から良子さんには脅かされてばかりだ、退院して暮らし始めたとき、出掛けるときなど、行ってらっしゃいと抱きつかれたり、頬に軽くキスするのだ、びっくりした。
まるで、海外のホームドラマじゃないかと思ったね、すると、海外で暮らしていたからと言われてしまった、そうか、よく見ると顔つきもなんとなく日本人っぽくないかもしれないと思った、ハーフというより、クォーターかもしれないと思って聞くと笑われた。
嫌なら、もうしないからと言われたけど。
「びっくりしただけで、だっ、大丈夫ですよ」
平気なふりをしながらも内心は心臓がバクバクだった、でも、数日たつと慣れるものだ、今では自分から抱きついて、ハグできたりするまでになった。
そうか、良子さんが元♂だと知ると、心臓がドキドキしたのも生物のなんとやらだ。
ちなみに、ピーッ、竿、睾丸とか、全部とってるのか気になったけど、それは聞けなかった。
「木桜さんって、あなたの知ってる人」
その名前を聞いたのは久しぶりだ、娘がいるって知ってたと聞かれて、思わず、はあっと聞き返してしまった。
「知らなかったよ、結婚していたんだな、元気なのか、彼女」
「それがね、難産だったらしくて」
言葉が出なかった、亡くなっているなんて知らなかった。
「ねえっ、その子だけど」
元妻の言葉に、あり得ないと自分は電話を切ることしかできなかった。
病気、それも長く煩っていた、自分と知り合ったときは、そんな様子、少しも感じられなかったし、見えなかった、隠していたのだろうか。
「しかし、なんだって君が、そんなことを」
元妻が電話してきたことが気になる、すると、自分のところに探偵が来たというのだ。
「私立探偵だというんだけど、なんだか、変というか、女の勘って言うのかしら、本当に探偵なのって」
久しぶりに昔の知り合いと飲む酒だった、そこで彼女の話が出た。
「木桜さんだったかな、彼女の事好きだったろ、おまえ」
「いや、振られたんだが」
「何言ってんだよ、やることはしてたんだろ」
体の関係はあった、だが、一度、二度、寝て、しばらくすると向こうから避けるようになった、喧嘩をしたわけではない、彼女に好きな相手が、いや、用があるから会えないと言って、いつの間にか旅行に出かけて、それきりになったのだ。
娘、彼女に似ているのだろうか、会ってみたい、ただ顔を見るだけでいいのだ。
だから調べたのだ、人を雇って。
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