読む、書くの雑多な日々、気まぐれな日常

好きなこと、雑多な日々、小説などを色々と書いていきます

メインタイトル 愛ではないから複雑な家族構成です、恋愛には縁遠い、美夜さんの二度目の人生が始まります

2021-01-09 09:28:23 | オリジナル小説

 子供の頃から両親はいない、祖母との二人暮らしだが、別におかしいとも不思議とも思わなかった。
 大学に行こうなんて気持ちはなくて、どこでもいいから就職しようと思って探していたが、その会社が潰れてしまった。
 
 昨今は不況で潰れる会社なんて珍しくもない、仕方がないよ、バイトを探すから安心してと祖母に言うと、自分のしたいことを探しなさいという。
 
 生活には困っていないから、好きな今年なさいって祖母は変わっているのだろうかと思ってしまった。
 変わっているとは思うのだ、クリスマスの時にはホールケーキを買ってくるし、二人なのに食べきれないよと思ったが、毎年だ。
 
 駅でバイト募集の雑誌でも探そうか、いや、本屋にもあったはずと思い、大型書店に行こうかなと思って、その日は昼から外出だ。
 
 
 「あんた、見たよ、テレビに出てただろ」
 
 男の甲高い声が聞こえてきた、若い女の子に絡んでいるのだろうか、言い合いしているみたいだが、周りは皆、遠巻きにして見ている。
 
 なんだか見ていられない、よし、ここは、はったり、でまかせだ、勇気を出せと自分に言い聞かせ、大きな声で叫んだ。
 
 「お巡りさん、あそこですー」
 
 ところが、あたしの声に気づいたのか、振り返った男が突進してきた。
 
 えっ、これは予想外だ、慌てて逃げるか立ち去るかしてくれたらなんて思っていたのに、しかも、突進してくるのだ、逃げなきゃと思っていたが、衝撃を感じてブラックアウトとなった。
 
 
 目が覚めると天井が白い、ふと視線を動かすと壁も白、そばには白衣の女性、思わずここは死後の世界かと思ってしまったが、声をかけられて看護婦さんだと気づいた。
 
 ああ、病院だとわかって、ほっとした。

 

 「あの、祖母は」
 
 着いて聞いてくださいねと、医者はドラマのような台詞を口にした。
 
 お亡くなりになりました、って。
 
 自分は男性に殴られて意識を失い、ずっと眠り続けていたのだという。
 
 しかも、一日とか、数日ではない、正直言葉が出ない、絶句した、だが、それだけではない、見てくださいと言われて手渡されたのは手鏡だ。
 
 子供の頃からショートヘアだったが、肩口まで伸びていた、しかも、白、若白髪、自分だとは信じられなかった、それに顔、自分はこんな顔だったろうか。
 
 驚きは、それだけではない、祖母だと思っていた人は全くの赤の他人らしい。
 
 だったら自分の入院費とかどうなっていたんだろうと思った、祖母は、いつも家にいたのだ。
 
 事故はショックだ、ずっと眠っていたというのもダブルショック。
 これから、どうすればいいんだろうと思っていたら、保護者に連絡を取りますと言われて驚いた。
 
 まさに、トリプルショックだ。
 
 その日の夕方、女の人が訪ねてきた、綺麗な人だ、これから一緒に暮らしましょうと言われて、はあっとなった。
 
 沢木 良子(さわき りょうこ)彼女に連れられてマンションに着いた、今日から、ここが、あなたの家、そして十年近く眠り続けていたんだから世
間の事知らないだろうと良子さんは退院したとたん、あたしを外に引っ張り出した。
 
 流行しているものを教えてくれたり、オシャレなブティック、いろいろな場所に連れて行ってくれた。
 
 自分には家族、娘がいないから母親だと思ってほしいと言われて驚いた。
 
 近所の本屋は大型書店なので一度足を運ぶと半日なんてあっという間に過ぎてしまう、漫画も好きだけど推理小説やホラー、ゴシックも好きだ。
 
 バイトでもした方がいいかなあなんて思いながら散歩に出かけた、以前はすれ違う人の視線が気になっていたが、もう慣れた。
 
 というか、気にしても仕方がないと思っている、それに歳をとったら、いずれ真っ白になるんだからと自分に言い聞かせた。
 
 漫画や映画の主人公で敵対する相手が白髪ってパターンがあるけど自分には、関係ないなあ、そう思っていると、声をかけられた。
 

 振り返ると中年の男性が立っていた、道を教えて欲しいと言う。
 
 最近、引っ越してきたばかりなんですと言って断ったのだが、何故か、男性は黙ったまま、変な人とかじゃないのかと少し不安になってしまった。
 
 誘拐とか大丈夫だろうけど、最近は人通りのある街中でもナイフで刺されたりとか、物騒な事件があるって、そんな事を思っていると、いきなり手をがしっと捕まれた。
 
 「ハル、君」
 
 驚いて手を振り払うようにして、走り出したのだが、ほんの数歩、走り出した瞬間、つまずいて見事に転んでしまった。
  
 ううっ、情けないと思いつつ、大丈夫かいと声をかけられてしまった。
  
 驚かせて悪かったねと、男性頭を下げて謝ってきた、腰が低いというか、その様子に少しだけだが、自分の方が悪かったのではと思ってしまうくらいだ。
 
 「知ってる人に似ていたから、びっくりしてね、腕を掴んだりして、悪かった」
 
 いいえと答えながら、紙袋から飛び出した本を拾って立ち去ったのだが、家に帰って気づいた、一番読みたかった新刊がなかったのだ。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿