帰りの学活が終わった。朝からケツペンや正座を食らってる上野亜美は、早々に帰ろうとしていた。いつもつるんでいる小原美穂と帰ろうとすると、美穂は探し物をしていた。
「美穂、どうしたの?何か探してるの?」
「うん。私の携帯がないんだけど、亜美、知らない?」
「えー、知らないよぉー」
そんなやりとりをしていたところ、担任の原幸絵がやって来て、声をかけた。
「美穂、あんた体育の時間、携帯を机の上に置きっぱなしにしてたでしょ?預かってるから職員室に取りに来なさい。亜美も一緒に帰るんでしょ?あんたも一緒について来なさい」
「ハーイ」。美穂は答え、亜美と二人で幸絵の後に続いて職員室に向かった。
教室から出てしばらく経ったところで、美穂は「ヤバッ!」と小声で叫んで、口に手を当てた。
「どうしたん?」。亜美は美穂に尋ねた。
「この間、マックに行ったじゃん?」
「うん」
「あん時、写メ撮ったでしょ?あれ、残ってる!ばっちし」
「えーっ!だから、私にも着いて来いって言ったんだ」
「たぶん、そうかも……」
「ってことは、絵理と遙もやばくね?」
「かも……」
明倫女子高校では、携帯電話を持ち込むこと自体は校則違反ではない。もちろん、授業中にメールをしているところを捕まればタダではすまないが、問題は携帯に入っている写メだった。
小原美穂と上野亜美、そして、隣のクラス2年4組の仁藤絵理と渡辺遙の4人は、小学校時代から同級生。この4人はいつもつるんで出かけたり、互いの家を泊まり合ったりするほどの仲良しだ。しかし、4人ともやんちゃ娘で、中学時代からの問題児だ。
その4人が、日曜日にマックに行った。そこでハメを外して、タバコをくわえたり、鼻に突っ込んだりしてふざけて写メを撮ったのだ。彼女たちの携帯には、その時の写真がしっかり残っていたのだ。
*
2年4組。生徒指導担当の体育教師・平野真紀子のクラスでも帰りの学活が終わり、生徒たちが帰宅したり、部活に向かっていた。帰宅部の仁藤絵理と渡辺遙の二人も帰ろうとして昇降口に行ったところで、担任の真紀子から声をかけられた。
「絵理、遙。ちょっと、携帯出しなさい」
「えっ?!何でー。私、携帯持ってないし」。絵理が答える。
「嘘、言うんじゃないの!いつも授業中にメールしてるあんたが、携帯持ってない訳ないでしょ。カバン貸しなさい」
真紀子は、絵理のカバンを取り上げると、携帯を見つけ出した。
「ほら、あるじゃない。嘘をつくんじゃないの!」
真紀子は、取り上げた絵理の携帯の写メをものすごい勢いでチェックし始めた。そして、例の画像が見つかった。
「これは何?!」
言い逃れはできない。観念した遙は、自ら携帯を真紀子に手渡した。当然、例の画像が見つかった。しかし、すべてをお見通しの真紀子は、遙に言い放った。
「遙、あんたもカバン見せなさい」
真紀子は、遙のカバンを取り上げると、ポーチの中からタバコを見つけ出した。
「動かぬ証拠ね。二人とも口を開けて」
「えっ!?」
二人が戸惑っていると、真紀子は突然両手で二人の鼻をつまみ上げた。呼吸ができない二人は、自然と口を開く。真紀子は、二人の口元を覗きこんで言った。
「二人とも歯にヤニがついてるし、タバコの臭いもするわね」
真紀子は、二人の鼻から手を離すと、ビンタをお見舞した。当然ビンタを覚悟していた二人だが、鼻から手を離されたところでの不意を突かれたビンタはさすがに痛い。
「あんたたち、喫煙は停学モノだからね。職員室前で正座してなさい!」
絵理と遙は、ビンタされた頬をさすりなが職員室前に行き、正座をした。
*
幸絵に着いて行った亜美と美穂は、職員室前で正座させられている絵理と遙を見つけた。先に正座させられてる絵理と遙は、「あんたたちも?」と指でジェスチャーした。美穂は「ゴメン!」と手でジェスチャーしながら、職員室に入って行った。
「そこに座りなさい」
幸絵が自席に座り、亜美と美穂に指示した。当然二人の座る椅子はない。床に正座だ。
「もうわかってると思うけど、これは何?」
幸絵は、美穂の携帯を取り出して、問題の画像を二人に示した。
「すみませんでした……」
亜美と美穂は、神妙に答える。
「亜美、あんたの携帯も見せなさい」
亜美は、おそるおそる携帯を幸絵に渡した。当然、例の画像が見つかる。
真紀子は、「フゥーッ」と大きなため息をついた。
「二人とも、目をつぶって、奥歯をギュっと噛みなさい」
亜美と美穂も当然ビンタは覚悟していた。やんちゃな二人は、幸絵や真紀子から何度かビンタを食らった経験がある。幸絵のビンタは、真紀子ほど強烈ではないが、目をつぶらせて左手を右頬に添えて右手で左頬を叩くビンタのため、恐怖感が増して、その分痛みが強く感じる。左目と左頬が、いつも恐怖でピクついてしまう。
幸絵は、二人のあごを軽く上げさせると、パンッ、パンッとビンタをした。
「痛ってー!」
小気味良い音が職員室内に響くが、明倫女子高校では日常的な光景のため、誰も彼女たちに目を向ける者はいない。
「喫煙は停学だけど、処分が決まるまで廊下で正座!」。幸絵は、二人に命じた。
*
職員室から出ると、先に正座させられている絵理と遙が「亜美と美穂も見つかったの?」と尋ねた。
「ゴメン!私がポカして、携帯を机の上に置きっぱなしにしたから」。美穂が答えた。
「なーんだ」
「まっ、しゃぁないよね」
絵理と遙のあっけらかんとした答えに、美穂は安堵した。
4人が正座していると、通りがかる先生たちは「またお前たちか!」と言いながら頭をはたいたり、説教をされたりして正座を崩す暇がない。また、明倫女子高校の職員室は、別名・お仕置き部屋であるため、先生に連れられて職員室に入っていった生徒が、ケツペンを受けてお尻を押さえながら帰っていった。
一方、彼女たちの正座させられている廊下も、この日に先生たちから叱られた他の生徒たちも正座をさせられるため、多い時間だと30人近くが正座していた。
午後7時。部活動も終わる完全下校の時刻になった。彼女たちの正座も3時間近くになり限界に近づいてきた。すると、職員室から平野真紀子と原幸絵が出てきた。彼女たち4人はほっとした。
「あんたたちのやらかした喫煙は、校則違反どころか法令違反で、本来ならば停学3日だけど、あんたたちが今回のことを反省して、次回からやらないと誓えるのならば、初犯ということも考慮して、記録の残らない1週間の早朝登校と教室棟のトイレ掃除で勘弁してあげるけど、どう?」。幸絵が尋ねる。
亜美たち4人は、有無もなくその処分を受け入れた。「早朝登校」とは、午前7時から登校時間の午前8時25分までの約1時間半、職員室前の廊下で正座する罰である。トイレ掃除は、その期間中の放課後に教室棟にある6箇所のトイレを毎日1箇所づつ掃除する罰である。ただし、この罰掃除は、素手に素足でやらなければならないし、チェックも厳しいので嫌われている罰だ。しかし、彼女たち4人に選択の余地はない。
「そう。じゃぁ、これに懲りてタバコは二度と吸わないことね。それに、二度目はないからね。ハイ、正座終了」。幸絵は、彼女たちに言った。
正座から解放された4人は、すぐには立ち上がれない。3時間近くの正座は、さすがに彼女たちにも堪えた。
やっとの思いで立ち上がった4人は、カバンを持って帰ろうとすると、「誰が、まだ帰っていいと言った」と真紀子が厳しく言い放った。
「あんたたちにはまだこれが残ってるからね。ケツペン10発」。根性棒を平手に叩きながら、真紀子はニヤリとする。
「エーッ!まだあるのぅ」
「もう、勘弁してよー!」
「自業自得!今度タバコを吸うときは、お尻に聞くことね」。幸絵が厳しく言う。
今日既に10発のケツペンを受けている亜美と美穂は、もうケツペンは勘弁してほしいと懇願したが、真紀子は「それはそれ、これはこれ。愛の鞭だから、いくよーっ!」と厳しい。
4人は観念して、お尻を突き出してケツペンの姿勢をとる。
バシッ!、バシッ!、バシッ!……
職員室前にこだまするケツペンの音とともに、
「キャーッ!」
「痛ったーいっ!」
「もう、ギブ、ギブ、ギブ!!!」
「マジッ、きついよぉー!」
という4人の悲鳴が上がった。
やっとのことでケツペンの罰を受けた4人は、ほうほうの体で校門を後にした。4人ともカバンを持ちながら両手でお尻をさすっている。特に既にケツペン10発を受けていた亜美と美穂は辛そうだ。
「これ、マジで腫れてるよー」
「ケツ、割れてんじゃねぇ?」
「それより、明日7時にこれっかなぁ?」。絵理が言う。
「遅れたら、それこそケツプラスでしょ?」。遙が答える。
「そんなー!絶対、遅れられないよー!!!」
亜美と美穂が、同時に叫んだ。
やんちゃ娘4人の長い一日が終わった。
(終)