新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

ブルー

2024-07-30 04:53:53 | 

岩場の片陰、人魚が海へ戻っていく
紺碧の空の陰、ひっそり波間に消えいった

海の底蒼く、仰げば揺らぐ陽炎青く
白き浜辺の幻に、僕らが駆けた足跡か
波がさらった砂の跡、夢の軌跡は辿れない

珊瑚の舞に遥か光月抱く夜
人魚の涙は泡と為り、蒼くたゆたい消えてゆく

小夜の漣詠うころ、僕らは何かを忘れゆく
それがなにかも知らぬまま
海は眠りに落ちていく

人魚はひとり海の底
いつかの夏は輝いて、月が彼らを映す夜
僕らは全てを忘れゆく


僕の中から消えていく
誓った言葉もあの砂浜も
東雲よ今ただ少しこのままで

彼女の瞳が遠のく前に、もう少し



目を閉じて

2024-07-19 15:11:50 | 

りーんと鳴る
あちらでさらさらと流れる
またりーんと鳴る
こちらでくるくるんとまわる
揺れているのは いつかの陽炎

りりーんと鳴る
あちらできらきらと笑う
またりりーんと鳴る
こちらでほっこりんと眠る
揺れているのは ちいさな思い出

りんりーんと鳴る
ずっと遠くで さわさわとそよぐ
またりんりーんと鳴る
すこし向こうで からからんと遠ざかる
揺れているのは こころの琴線





深淵の殻

2024-07-18 03:55:00 | 

時が満ちていく。

朝露に濡れる蕾が夜明けに花弁をひらくとき、小さな水滴が雫となって彼らを潤す。
眠っていた大地が息を吹き返し、今日を始める。

散りばめられた答えの欠片が、ゆっくりと『今』という地点に吸い寄せられ、集結していく。
なにもかもが、この《約束の時》を待っていたかのように。

彼女の中で息を潜め、じっとうずくまっていたものが動き出す。
真実の刃が、強く頑なに閉じた強固な殻をついに打ち割る。
遠く葬られたはずのものは、彼女の中の深く暗い淵に沈み、誰にも気づかれず、しかしずっとこの瞬間を願っていた。

思いがけぬ衝撃ののち、彼女の内側と外側はようやく繋がり、深く同時に呼吸を始める。
陽光が射抜く万物の鮮やかなる彩りを、彼女は『今』はじめて知った。まっさらな光は彼女を貫き、細胞を駆け巡る。

新しく顕れたその世界では、時は過ぎることをやめ、満ちていく。



京橋の夜

2024-07-14 20:38:00 | 

京橋の夜。明るい夜。ざわめく夜。顔のない群れ。星がない街。
俯く視線のその先に何を思い何を見ている。
片手に握った文明に、誰かの叫びは届いているのか。
電光帯が夜を行く。窓に映る無数の影には、ひとつの心が宿っているのか。

鳥が朝を迎えにいく頃、私は夜の切れ端にしがみつく。
白い夜は浅い夢をとりとめなく運ぶ。
翻るカーテンが夢のページを繰っていく。

京橋の夜はどこへ消える。人々の囁きは風に乗り、昨日と明日の狭間を渡る。
京橋の夜。
ざわめきが、静かに夜を奏でるように。




祈り

2024-07-09 00:54:06 | 

この時計の針を もう少し長くしたなら  
時間はゆっくり流れるのでしょうか
 
あのとんがった山の向こうに行けたなら 
夜明けは早く来るのでしょうか
 
あのオリーブの木で小舟を作ったなら 
あなたを迎えに行けるでしょうか

あの石垣をもう少し高く積んだなら 
今日の終わりを見届けられるでしょうか
 
この風に花の秘密を囁いたなら 
愛しい薫りを運んでくれるでしょうか
 
この空にあなたの名前を書いたなら 
夜空はあなたを癒すでしょうか


もしとても大きなほら穴を見つけたなら、その暗闇に小さな灯を灯し 
もしとても激しい雨が降ったとしても、その灯は消えることなく 
どんなに深い闇が世界に沈黙を与えたとしても、
ずっとあなたのすぐ傍で 
いつでもあなたのすぐ傍に どうか