新月のサソリ

空想・幻想・詩・たまにリアル。
孤独に沈みたい。光に癒やされたい。
ふと浮かぶ思い。そんな色々。

風が運ぶもの

2024-09-19 05:33:09 | 

風が吹く。びゅんと吹く。
何もかもをさらっていく。
じめじめといじけた気持ちも
もやもやとやり切れない気持ちも
ぜんぶキレイにさらっていく。
あとはスカッと晴れるだけ。

風が吹く。ざざっと吹く。
何もかもをうばっていく。
やっと芽がでた小さなフタバも
やっと掴んだちっぽけな温もりも
ぜんぶキレイにうばっていく。
はじめからまたやり直し。

風が吹く。町に吹く。
海にも山にも空にも何処にも
みんなのところに風が吹く。
うらの空き地や、ふるびた門扉、
野原のくぼみや、ビルの谷間に。
猫の背中に、あなたの頬に。

そうして風とたっぷり遊んだら
イヤなものもウレシイものも
無作為にためらいもなく空に返す。
ぜんぶをキレイに空に返す。

あきらめることをせず
逆らうこともせず
風の意味を知るのでしょうか。

それとも私たちの記憶の中に
不変の風が吹いていることを
ただ思い出せばいいのでしょうか。

去って行ったものたちは
少し形を変え、少し色味を帯び
私たちのもとへいつかまた

きっと風が運ぶのだろう。



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獣道

2024-09-13 01:51:11 | 

夜の山道 けもの道
月影の道は幾筋も。

思い出なのか夢なのか
綾取りをした赤い毛糸が絡まって
コデマリの種を植えた庭。

春に白い花が丸く咲き
南の島の唄うたい
綾取りをして帰る道。

水たまりに跳ねた泥
夕芒に洗われて
またコデマリの種を植えた午後。

にじり寄る月明かり 眠る蚊帳
かそけき光寄り添うも
軒が遮る夜の底。

君の寝息が夢見るころ
ぼくは夜の道を帰っていく。

月の影。獣道がひと筋に。



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エール

2024-08-13 09:17:00 | 

虚像の賊心 恐るるに足らん
灼熱の砂を掴み蠍の毒を飲め
極寒の海に潜り凍える夜を飛べ
悪魔の亡霊と底なしの闇に踊れ

隠された力は未だ目醒めず
妖の悪意に翻弄され
まやかしの善意に惑わされ

握った掌の空虚を見よ
過ぎたる花の朽ち果てん今
亡骸に別れを告げ進みゆけ

断崖の突風に大鷲の影近く
掴んだ枝先の傷滑りゆく
今ぞ秘めたる静寂を聴け
己の内なる清泉を視よ

微笑みの霆 盾裏の剣刃かわし
惑わす雅の企みを泳げ


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いつか

2024-08-07 11:30:00 | 

ブラインドからくぐもった光、立ち昇る線香の煙縞々に。
揺らめき昇る煙、光の在処教え、
光は煙ちらちらと照らし、昇天せし。
花に立ち寄りし煙、生気なぞりゆき、
やがて縞々の光に消ゆ。

手向け灰に隠れ、光陰り今日の舞終える。
天界との交信閉じ、垣間見たのはこの世の境か幻か。

黄色い葩が空へ。
白い花片が風ひらひらと委ねる切望の先、どこへ。

青い花菱わたしの麦わら。
誰かが見つめる眼差しの奥。
白き入道カルピスの昼下がり白く。
今も近く雲の切れまに。

移ろい続ける情景は、今も哀しみの欠片寄り添う世界。
いつか頬を寄せ合うような、あたたかで柔らかなものに、いつか。

眼には届かぬ余韻の気配。
今は遠く空の向こうに。


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ブルー

2024-07-30 04:53:53 | 

岩場の片陰、人魚が海へ戻っていく
紺碧の空の陰、ひっそり波間に消えいった

海の底蒼く、仰げば揺らぐ陽炎青く
白き浜辺の幻に、僕らが駆けた足跡か
波がさらった砂の跡、夢の軌跡は辿れない

珊瑚の舞に遥か光月抱く夜
人魚の涙は泡と為り、蒼くたゆたい消えてゆく

小夜の漣詠うころ、僕らは何かを忘れゆく
それがなにかも知らぬまま
海は眠りに落ちていく

人魚はひとり海の底
いつかの夏は輝いて、月が彼らを映す夜
僕らは全てを忘れゆく


僕の中から消えていく
誓った言葉もあの砂浜も
東雲よ今ただ少しこのままで

彼女の瞳が遠のく前に、もう少し


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目を閉じて

2024-07-19 15:11:50 | 

りーんと鳴る
あちらでさらさらと流れる
またりーんと鳴る
こちらでくるくるんとまわる
揺れているのは いつかの陽炎

りりーんと鳴る
あちらできらきらと笑う
またりりーんと鳴る
こちらでほっこりんと眠る
揺れているのは ちいさな思い出

りんりーんと鳴る
ずっと遠くで さわさわとそよぐ
またりんりーんと鳴る
すこし向こうで からからんと遠ざかる
揺れているのは こころの琴線




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深淵の殻

2024-07-18 03:55:00 | 

時が満ちていく。

朝露に濡れる蕾が夜明けに花弁をひらくとき、小さな水滴が雫となって彼らを潤す。
眠っていた大地が息を吹き返し、今日を始める。

散りばめられた答えの欠片が、ゆっくりと『今』という地点に吸い寄せられ、集結していく。
なにもかもが、この《約束の時》を待っていたかのように。

彼女の中で息を潜め、じっとうずくまっていたものが動き出す。
真実の刃が、強く頑なに閉じた強固な殻をついに打ち割る。
遠く葬られたはずのものは、彼女の中の深く暗い淵に沈み、誰にも気づかれず、しかしずっとこの瞬間を願っていた。

思いがけぬ衝撃ののち、彼女の内側と外側はようやく繋がり、深く同時に呼吸を始める。
陽光が射抜く万物の鮮やかなる彩りを、彼女は『今』はじめて知った。まっさらな光は彼女を貫き、細胞を駆け巡る。

新しく顕れたその世界では、時は過ぎることをやめ、満ちていく。


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京橋の夜

2024-07-14 20:38:00 | 

京橋の夜。明るい夜。ざわめく夜。顔のない群れ。星がない街。
俯く視線のその先に何を思い何を見ている。
片手に握った文明に、誰かの叫びは届いているのか。
電光帯が夜を行く。窓に映る無数の影には、ひとつの心が宿っているのか。

鳥が朝を迎えにいく頃、私は夜の切れ端にしがみつく。
白い夜は浅い夢をとりとめなく運ぶ。
翻るカーテンが夢のページを繰っていく。

京橋の夜はどこへ消える。人々の囁きは風に乗り、昨日と明日の狭間を渡る。
京橋の夜。
ざわめきが、静かに夜を奏でるように。



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祈り

2024-07-09 00:54:06 | 

この時計の針を もう少し長くしたなら  
時間はゆっくり流れるのでしょうか
 
あのとんがった山の向こうに行けたなら 
夜明けは早く来るのでしょうか
 
あのオリーブの木で小舟を作ったなら 
あなたを迎えに行けるでしょうか

あの石垣をもう少し高く積んだなら 
今日の終わりを見届けられるでしょうか
 
この風に花の秘密を囁いたなら 
愛しい薫りを運んでくれるでしょうか
 
この空にあなたの名前を書いたなら 
夜空はあなたを癒すでしょうか


もしとても大きなほら穴を見つけたなら、その暗闇に小さな灯を灯し 
もしとても激しい雨が降ったとしても、その灯は消えることなく 
どんなに深い闇が世界に沈黙を与えたとしても、
ずっとあなたのすぐ傍で 
いつでもあなたのすぐ傍に どうか




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木彫りの羊

2024-07-06 23:59:52 | 
動けないけど笑ってる。
くるんと巻いたしっぽ。くるんと巻いた角。くるんと笑う。
散らかった部屋の隅で埃をかぶってくるんと笑う。
誰にも気づかれずに  ひとりでにっこり壁を見る。

てのひらに乗せて明るい窓辺に大移動。一匹だけで大移動。モンゴルでは砂嵐。ぼくの羊は一匹目。蝶がひらひら窓の外。
駆け出して行くのかな、と見守った。
行っちゃうのかな、仕方ないけど。

だけど羊は窓辺でくるんと輝いた。
ぼくの羊はここにいる。


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