○ 新海誠監督が書いた「小説 言の葉の庭」、2014年4月11日発売、約380頁、ハードカバー。
半日で読めますが、ようやく読みました。
アニメ映画「言の葉の庭」(2013年5月31日公開、46分、新海誠監督)の物語を軸とし、その行間や背景を、登場人物のそれぞれが抱えているものを、各話で語り手が異なる11話(1話からエピローグ)の群像劇のように描いたもの。
「ダ・ヴィンチ」誌に2013年9月号から2014年4月号まで連載されたものに書きおろしを加えたもの。
映画も良かったですが、小説も良かったです。
目次。
秋月孝雄(cv入野自由)の中学生のときのほろ苦い恋・幼い恋だとか(中3で2歳上の彼女、春日美帆がいい味を出していて、彼女の短編小説も出ないかなと思いました。)、孝雄の兄の翔太(cv前田剛)と寺本梨花(cv寺崎裕香)の実は微妙だった恋人関係とか、映画では雪野百香里(cv花澤香菜)イジメの主犯という悪役でしかなかった相澤祥子(cv小松未可子)にも紆余曲折というか少し同情できる理由があったとか、高校卒業後にイタリアに行って靴職人を目指す孝雄とか、4年半ぶりに新宿御苑であう孝雄と雪野とか。
誰にもそれぞれにそういう選択をした理由が明かされ、映画にはいた悪役のような立ち位置の者がいなくなってしまいましたが、それも却ってスッキリとするくらい上手く書かれていますし、映画とも合っています。
○ まともな小説は久しく読んでいませんでしたが、一文一文が映画を思いださせ、興味深く一気に読め、良い小説でした。(文字は大きくないですしイラストはありませんし改行も多くないですし、大衆文学に分類されるのかな?それともラノベかな?ラノベは読んだことないので、良く分かりませんが。)
あとがきで新海監督が、映像だから伝えられること/伝えやすいこと/伝わりやすいこともあれば、言葉だから伝えられること/伝えやすいこと/伝わりやすいこともあるという趣旨のことを書いていますが、映画と小説は相補的で、是非、両方見て/読んでほしいな、と思います。
ただ、この小説の短所は、小説単体として読むと少し説明し過ぎなところでしょうか。小説単体としてなら、もう少し説明不足にして想像させてもらった方が楽しめます。私は映画の補完として読んだので、詳しくて良かったですが。
なお、映画は小説全部ではなく、あの程度の量を描いたということで丁度良いと思います。でないと想像の余地が極端に減ってしまい、それは面白みに少し欠けます。
○ ところで、孝雄と雪野の、階段で叫び泣くシーン、孝雄が告白するシーン、ようやく感情を表に出せたシーンは映画でも小説でも感動的です。ここの一つ前で雪野も孝雄が好きだと自覚する記述が小説にありましたが、その後の2人は2か月に1回くらいメールのやり取りをする程度の関係でしかないですが(しかもあまりプライベートに関わらない内容。)、さて、ドキドキしながら嬉しそうに新宿御苑に向かう2人ですからハッピーエンドという理解で間違いないのでしょうけれど、実際に会ってからが描かれていません。
なので、雪野にとっては孝雄への恋や愛は終わっているとも描けます(孝雄の雪野への恋が終わっているとは考えられない記述。)。その方が雪野が大人になったということで雪野の成長譚としては良いですし、孝雄側から見れば、思春期の恋は叶いにくい上に叶わないことも成長の糧になるという孝雄の成長譚としても良い気はします。
ただ、前にも書きましたが、雪野のような依存心の強い女、かつ、モテる女はなかなか成長出来ないのですよねえ。孝雄への気持ちに区切りを付けていたとしても、孝雄ではない誰かに依存的な関係になっているかも知れませんし。。。
雪野は孝雄を、自分を救ってくれたから好きになったのか、孝雄だから好きになったのか、そこが曖昧です。後者でないと長続きしません。
階段シーンの後は2人は会っていないと思われ、また、プライベートな内容のメールをしないことから心理的にある程度の距離があることが伺え(だから、会うまでのドキドキしながら嬉しそうな2人という描写が少し理解しにくいところ。メールで深いやり取りをしていないのに、相手が自分のことを思っていてくれると考えているのだとしたら能天気な気がしますし、相手の気持ちは関係なく自分が嬉しいというだけなら、自分本位過ぎですから2人が付き合っても長続きするとも思えません。)、自分を救ってくれたから孝雄を好きになったのであるなら、2人が再開してから、雪野は孝雄をあらためて好きなる過程を踏まないといけません。でないと対等に好きな関係ではなく、長続きしません。
○ 映画の感想はこれ。
→「言の葉の庭」感想。叙情的で綺麗な絵、センチメンタルな物語がいい!(2013年6月6日)
→「言の葉の庭」感想再び。やっぱり良い映画。程良く省略していて好きに想像できるところも良い感じ(2013年8月17日)
小説を読むと映画を見て感じた私の理解がいくつか異なっていましたが、雪野百香里がナンパ(詳細は小説で。)されたりといった依存心の強さも描かれていたりするなど、概ね、ズレていないか、解釈の幅の範囲内でした。
ただ、カラスが新宿御苑付近上空を飛ぶシーンのカラスが何の象徴かは、私の理解が間違っていましたが。
○ 小説で一つ気になったのが、相澤祥子。
映画では彼氏が雪野を好きになったことの仕返しとして雪野イジメを開始しました。
小説ではプラスして、男子嫌いの祥子が雪野に好きに近いというよりも好きと言って良い感情を持っていて(雪野は何となく気付いた感もありますが、祥子は告白していない。)、そこから男子を好きになること自体に不自然さはないのですが、男子を好きになる過程が少し省略されています。これまで会った男子や男は祥子にとってはダメダメだったけれど、祥子にとって素晴らしい男子だった、というだけで十分わかることであるから省略したのでしょうし、十分わかるので実質的に問題はないのですが、映画ではただの悪役になってしまっていただけに、祥子の気持ちの変化を言葉できちんと読んでみたかったなあ、と。
○ アニメイトで買ったら付いてきた、1話の中学生の孝雄のイラストと新海監督のコメントのカード。
【shin】
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