ハマスとイスラエルの停戦にあたって
1.停戦が成立したからこそパレスチナ問題を自分の問題として
イスラエルのガザ侵攻の停戦が8月26日に成立した。ニュースが伝える停戦の条件は、ハマスの要求などは1ヶ月経って交渉を開始するというものであり、現時点でもたらされたものは戦闘行為の停止のみであり、それもいつまで続くかは何の保証もない。しかし、本格的空爆開始から7週間・50日以上の地獄の苦しみからとりあえず解放されたガザの人々の嬉しさ、生き延びた嬉しさはたとえようもないだろう。その嬉しさもつかの間、ガザの人々の苦悩と生活苦は依然として変わらない。ミサイルや爆弾の攻撃と違って、日常的にガザの人々の首を真綿で締め上げ、人間性を壊し、社会を破壊する攻撃が戻ってくるからである。
マスコミの悪意に満ちたハマス攻撃キャンペーンとは一線を画し、停戦の継続が危ういことや停戦で世界の人々からまた忘れ去られるパレスチナの現実に危惧を抱き、停戦が成立したからこそ警鐘を乱打する意見も少なくはない。この危機感を共有しながら、停戦が成立した今だからこそ、パレスチナ問題を日本の問題、自分自身の問題としてとらえ返すよう訴えたい。
2.パレスチナ人に強いられている惨状は変わらない
イスラエルの7月8日以降の攻撃で殺されたパレスチナ人は2100人を超えた。そのうち子どもは490人以上だと報道されている。イスラエルの死者は68人、うち兵士は64人だ。パレスチナ人の犠牲者の数字については、攻撃の最中にハマス政府が正確に調査できるわけでもない。瓦礫の下敷きになったり、爆弾で砕け散った人々などは掌握されないであろう。実際の犠牲者の数はこんなものではないと思われる。
イスラエルからガザ入りを拒否されている福岡市在住のカオリ・フジナガ・ナセルさんのガザの家族も避難先からガザ市内の自宅に戻った。子どもたちは9月14日から新学期が始まるとはしゃいでいる。ハマスがイスラエルの攻撃による家の被害届けを出すようにと言ってきた。08年から09年の攻撃の時は攻撃で壊された家の修復の費用をハマスが負担したことがある。近所の家は空爆で破壊されているが、幸いにもフジナガさんのガザ家族の家は窓と水道のポンプが壊れているだけだ。壊れた窓はしばらくは毛布でふさぐしかない。彼女の夫の一族とともにかつて住んでいて、今回の攻撃で一時避難していた家はミサイルの直撃を食らって破壊された。2度目の避難の決断が遅かったら危ういところだった。
食糧品の値上がりは激しい。近所のスーパーが攻撃時にはツケで売ってくれた食料品ももうツケは効かない。売る食料品がないのだ。彼女の夫は瓦礫で右足を7針縫うけがをした。食糧・医療・電気・水道などの復旧は目処がたつはずもない。瓦礫から掘り出したマットなどの生活必需品を巡って争いが起こる。余談だが、イスラエル建国以前からガザ地区に住んでいる人たちは国連の難民に認定されない。だから国連の支援を受けられず食料の配給は勿論、国連運営の学校にも行けない。ハマスの運営する学校は制服を着用しなければならず、新学期のたびに制服購入のお金の都合で苦しんでいる。フジナガさんのガザ家族の3人の子どもたちの制服代金が700シュケル(約200ドル、2万円くらい)もかかる。ガザの人々にとって停戦と停戦後の生活の苦しさに違いは何もない。
停戦で戦闘が終わったわけではない。7月8日の本格的攻撃開始以前も、以後も、8月26日の停戦後も事態は何も変わらない。イスラエルがガザ地区を封鎖している限り続く現実だ。西岸地区を占領する限り続く現実だ。イスラエルによるガザ地区への攻撃は本格攻撃以前も以後も続いている。停戦が成立したからこそ、パレスチナ問題が忘れられないためにもこの現実に目を向けなければならない。
▲イスラエルによって徹底的に破壊されたガザ。
3.直視すべき「日常的な抹殺攻撃」の現実
イスラエルのガザ地区への攻撃は6月30日に行方不明のイスラエルの3人の少年が遺体で発見された翌日から本格的に始まった。一時停戦をはさみながら7週間以上続いた。
そもそも、3人の殺害がハマスによるものではないことは周知の事実として確定しつつある。イスラエルは事件の後、すぐに「ハマスの犯行」と決めつけたが、今に至るまで一片の証拠も提示できていない。ハマス側は明確に、自分たちは関与していないと表明している。実はイスラエルの権力中枢では「殺人犯はおそらくヘブロンの、いわばならず者一族、カワースメ一族だろう」と認識していたことが明らかになっている。
ガザ地区への大攻撃が始まる前には平和があったわけではない。イスラエルはパレスチナを日常的に攻撃している。この「日常的な抹殺攻撃」の三つの事例を指摘したい。
●ガザ地区封鎖の不条理
ひとつはガザ地区の封鎖だ。封鎖は真綿で首を絞めるようなものだ。大攻撃は直接、命を奪うが、封鎖はじわりじわりとガザ地区に住むパレスチナ人の人間性を破壊しながら社会の共同体の崩壊を作り出し、死へ追いやる。イスラエルはガザ地区で日常的に暗殺攻撃を行っている。
ガザ地区で移動する武装抵抗組織の構成員とされる人が乗った自動車やバイクが戦闘機からのミサイル攻撃で、ピンポイントで破壊される。イスラエルは武装組織のメンバーを暗殺したと発表するが、その攻撃は人口密集地の街中であろうとお構いなしだ。だから目標の自動車やバイクの前後の車も歩道の人たちも巻き添えをくらう。現に2012年の大攻撃の直前、カオリ・フジナガ・ナセルさんの夫と長男が9月の新学期のために制服や学用品を買いに出かけ、セルビス(乗り合いタクシー)に乗り、その前を走っていたバイクがミサイルを打ち込まれ粉々に大破した。その破片が後ろを走っていた夫と長男の乗ったセルビスに当たり、割れた窓ガラスやバイクの破片が2人に突き刺さり、病院で手当てを受けたことがある。おそらくイスラエルの内通者・スパイが車などに発信機を仕掛け、ミサイルを誘導するのだろう。
また、ガザ地区とイスラエルの境界線近くに近寄ったパレスチナ人が射殺される。境界線に近づく理由は、ガザ地区は封鎖されているために建設資材などは全てエジプトとのトンネルから運び込んでいた。しかしエジプトでムスリム同胞団のモルシ大統領が軍事クーデターで倒されて以降、トンネルの大半は爆破されるか水を流し込まれ、破壊された。イスラエルの攻撃で破壊された家を修理するためにセメントに使う砂利がいる。それを拾うために境界線に近づいた青年が監視塔のイスラエル兵のライフルで射殺されるのだ。何の警告もなしに! ガザ地区は狭い。360キロメートルだ。40キロメートル×9キロメートルのところに180万人も住んでいる。だから農地は境界線付近に多い。農作業中の人たちが狙い撃ちされ殺されることもたびたびだ。西岸地区では毎週のようにパレスチナ人の青年や学生、少年たちがイスラエル軍の兵士に撃ち殺されている。理由は何でもいい。パレスチナ人だから殺されるのだ。こんな事件が月に何件かは起こる。
●パレスチナ人というだけで行政拘留=投獄
二つ目は行政拘留だ。行政拘留とはイスラエルがパレスチナ人を理由も明らかにせず、裁判も受けさせずに長期に拘留する予防拘禁のことである。今回のイスラエルの少年3人が行方不明になった事件でも400人超のパレスチナ人が行政拘留で不当不法にイスラエルの刑務所に閉じ込められている。この行政拘留に抗議し釈放を求めて、行政拘留されイスラエルの刑務所に閉じ込められているパレスチナ人がハンガーストライキで闘っている。イスラエルはハンストで重体に陥ったパレスチナ人を釈放するのではなく、病院に収容し強制的に胃に食料を流し込もうとしている。国際的な非難の声が大きくなっているにも係わらずイスラエルは依然として行政拘留をやめようとしない。今回の大攻撃での停戦交渉で、ハマスは停戦の条件としてこの行政拘留を直ちにやめ、拘留されているパレスチナ人を釈放することを要求している。
●入植地がなぜあるのか
三つ目は入植地だ。イスラエルはパレスチナを占領している。占領下での入植活動は国際法でも禁止されている。あのアメリカでさえイスラエルのパレスチナ西岸地区での入植活動には「自衛権を認める」とも言えず、おおっぴらには支持もできない。昨年から今年の4月まで続いた和平交渉の最中にもイスラエルは入植地を拡大した。ネゲブ砂漠や西岸地区に住む少数民族ベドウインも入植地の被害者で、住んでいる土地からたたき出されている。
パレスチナ問題の解決はイスラエルによるガザ地区の封鎖をやめること、パレスチナ(西岸地区とガザ地区)の占領をやめること、やめさせることからしか始まらない。
●安倍政権によるイスラエル擁護を許さない
▲日本=イスラエル首脳会談で安倍政権はイスラエル擁護、同盟関係構築へ踏み込んだ。
2014年5月12日、共同記者発表するネタニヤフと安倍
日本の安倍政権はイスラエルによるガザ攻撃にたいして国際的な批判が巻き起こっている時、イスラエルを擁護し続けている。公式には「イスラエル軍の空爆によりガザの一般市民に多数の死傷者が出ていることは心を痛める事態」としているが、「暴力の悪循環」と規定し、ハマスによる必死の反撃を非難しているのだ。だがより重大なことは、日本が石油輸入大国であるため国際的には「親アラブ」と見られてきた従来の中東政策を安倍政権が歴史的に転換させてイスラエルとの関係を急速に緊密にしていることである。
民主党・野田政権の最末期の2012年11月29日、国連総会は本会議で、パレスチナの資格を「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に格上げする決議をあげた。イスラエルと米国などは反対したが、当時の野田政権は賛成票を投じた。ところがその後、一転して、安倍政権はイスラエルとの関係を強化する政策を進め、今年5月、安倍=ネタニヤフ首脳会談をもち、「北朝鮮の核・ミサイルの脅威」と「イランの核開発の脅威」にそれぞれが直面しており共通の懸念であると位置づけ、日本=イスラエル軍事協力を合意した。共同記者会見でネタニヤフは「両国の共通課題は核兵器で武装しようとする、ならず者国家の脅威だ」とその意図を露骨に表明した。安倍はネタニヤフとは中東和平に関して「2国家共存による解決」に同意した。今後は投資協定交渉を進め、先進科学技術と宇宙関連などで共同研究開発を促進することでも合意した。
それに先立って安倍政権は次期主力戦闘機である最新鋭ステルス機F35の製造への日本企業の参画を容認し、武器輸出三原則の例外扱いとすることを決定(13年3月)しているが、F35はイスラエルも導入する戦闘機である。つまり、紛争当事国への移転を禁じた武器輸出三原則を骨抜きにして日本からイスラエルへの武器輸出にゴーサインを出したのである。
こうして日本は日米安保同盟を媒介にして実質的に日本・イスラエル同盟関係に踏み込んだと言わなければならない。同時に強行されている集団的自衛権行使容認と重なる時、日本はガザ攻撃の当事国という位置にたつことになる。これまでとは次元を異にして、イスラエル・パレスチナ問題が日本自身の問題、日本の労働者人民自身の問題となっていることを直視しなければならない。イスラエルによるガザ攻撃、パレスチナ圧殺の加担者になるのか、という重大な問題がはっきりと突きつけられているのである。
私はかつて広島の地を歩いた時、この足の下に眠る、侵略戦争の結果、原爆によって殺された人々の上をどうやって歩くことができるのかと考え悩み、以来反戦闘争を闘ってきた。その第2次世界大戦後の現代世界をつくる土台の一つはパレスチナ問題だ。パレスチナの景色が沖縄の白いコンクリートと給水搭の景色とよく似ていると聞く。それは景色が単に似ているのみならず、戦後の日本が沖縄を踏みつけて成り立っているように、戦後世界はパレスチナを踏みつけて成り立っているがゆえに似通っているのではないだろうか。
私たちは現代世界の矛盾、そのあまりの不条理を私たち自身の行動で解決しなければならない。
2014年9月3日 小田原紀雄さんのご逝去を心から悼み、小田原さんの闘いに照らされて。
博多のアイアンバタフライ
1.停戦が成立したからこそパレスチナ問題を自分の問題として
イスラエルのガザ侵攻の停戦が8月26日に成立した。ニュースが伝える停戦の条件は、ハマスの要求などは1ヶ月経って交渉を開始するというものであり、現時点でもたらされたものは戦闘行為の停止のみであり、それもいつまで続くかは何の保証もない。しかし、本格的空爆開始から7週間・50日以上の地獄の苦しみからとりあえず解放されたガザの人々の嬉しさ、生き延びた嬉しさはたとえようもないだろう。その嬉しさもつかの間、ガザの人々の苦悩と生活苦は依然として変わらない。ミサイルや爆弾の攻撃と違って、日常的にガザの人々の首を真綿で締め上げ、人間性を壊し、社会を破壊する攻撃が戻ってくるからである。
マスコミの悪意に満ちたハマス攻撃キャンペーンとは一線を画し、停戦の継続が危ういことや停戦で世界の人々からまた忘れ去られるパレスチナの現実に危惧を抱き、停戦が成立したからこそ警鐘を乱打する意見も少なくはない。この危機感を共有しながら、停戦が成立した今だからこそ、パレスチナ問題を日本の問題、自分自身の問題としてとらえ返すよう訴えたい。
2.パレスチナ人に強いられている惨状は変わらない
イスラエルの7月8日以降の攻撃で殺されたパレスチナ人は2100人を超えた。そのうち子どもは490人以上だと報道されている。イスラエルの死者は68人、うち兵士は64人だ。パレスチナ人の犠牲者の数字については、攻撃の最中にハマス政府が正確に調査できるわけでもない。瓦礫の下敷きになったり、爆弾で砕け散った人々などは掌握されないであろう。実際の犠牲者の数はこんなものではないと思われる。
イスラエルからガザ入りを拒否されている福岡市在住のカオリ・フジナガ・ナセルさんのガザの家族も避難先からガザ市内の自宅に戻った。子どもたちは9月14日から新学期が始まるとはしゃいでいる。ハマスがイスラエルの攻撃による家の被害届けを出すようにと言ってきた。08年から09年の攻撃の時は攻撃で壊された家の修復の費用をハマスが負担したことがある。近所の家は空爆で破壊されているが、幸いにもフジナガさんのガザ家族の家は窓と水道のポンプが壊れているだけだ。壊れた窓はしばらくは毛布でふさぐしかない。彼女の夫の一族とともにかつて住んでいて、今回の攻撃で一時避難していた家はミサイルの直撃を食らって破壊された。2度目の避難の決断が遅かったら危ういところだった。
食糧品の値上がりは激しい。近所のスーパーが攻撃時にはツケで売ってくれた食料品ももうツケは効かない。売る食料品がないのだ。彼女の夫は瓦礫で右足を7針縫うけがをした。食糧・医療・電気・水道などの復旧は目処がたつはずもない。瓦礫から掘り出したマットなどの生活必需品を巡って争いが起こる。余談だが、イスラエル建国以前からガザ地区に住んでいる人たちは国連の難民に認定されない。だから国連の支援を受けられず食料の配給は勿論、国連運営の学校にも行けない。ハマスの運営する学校は制服を着用しなければならず、新学期のたびに制服購入のお金の都合で苦しんでいる。フジナガさんのガザ家族の3人の子どもたちの制服代金が700シュケル(約200ドル、2万円くらい)もかかる。ガザの人々にとって停戦と停戦後の生活の苦しさに違いは何もない。
停戦で戦闘が終わったわけではない。7月8日の本格的攻撃開始以前も、以後も、8月26日の停戦後も事態は何も変わらない。イスラエルがガザ地区を封鎖している限り続く現実だ。西岸地区を占領する限り続く現実だ。イスラエルによるガザ地区への攻撃は本格攻撃以前も以後も続いている。停戦が成立したからこそ、パレスチナ問題が忘れられないためにもこの現実に目を向けなければならない。
▲イスラエルによって徹底的に破壊されたガザ。
3.直視すべき「日常的な抹殺攻撃」の現実
イスラエルのガザ地区への攻撃は6月30日に行方不明のイスラエルの3人の少年が遺体で発見された翌日から本格的に始まった。一時停戦をはさみながら7週間以上続いた。
そもそも、3人の殺害がハマスによるものではないことは周知の事実として確定しつつある。イスラエルは事件の後、すぐに「ハマスの犯行」と決めつけたが、今に至るまで一片の証拠も提示できていない。ハマス側は明確に、自分たちは関与していないと表明している。実はイスラエルの権力中枢では「殺人犯はおそらくヘブロンの、いわばならず者一族、カワースメ一族だろう」と認識していたことが明らかになっている。
ガザ地区への大攻撃が始まる前には平和があったわけではない。イスラエルはパレスチナを日常的に攻撃している。この「日常的な抹殺攻撃」の三つの事例を指摘したい。
●ガザ地区封鎖の不条理
ひとつはガザ地区の封鎖だ。封鎖は真綿で首を絞めるようなものだ。大攻撃は直接、命を奪うが、封鎖はじわりじわりとガザ地区に住むパレスチナ人の人間性を破壊しながら社会の共同体の崩壊を作り出し、死へ追いやる。イスラエルはガザ地区で日常的に暗殺攻撃を行っている。
ガザ地区で移動する武装抵抗組織の構成員とされる人が乗った自動車やバイクが戦闘機からのミサイル攻撃で、ピンポイントで破壊される。イスラエルは武装組織のメンバーを暗殺したと発表するが、その攻撃は人口密集地の街中であろうとお構いなしだ。だから目標の自動車やバイクの前後の車も歩道の人たちも巻き添えをくらう。現に2012年の大攻撃の直前、カオリ・フジナガ・ナセルさんの夫と長男が9月の新学期のために制服や学用品を買いに出かけ、セルビス(乗り合いタクシー)に乗り、その前を走っていたバイクがミサイルを打ち込まれ粉々に大破した。その破片が後ろを走っていた夫と長男の乗ったセルビスに当たり、割れた窓ガラスやバイクの破片が2人に突き刺さり、病院で手当てを受けたことがある。おそらくイスラエルの内通者・スパイが車などに発信機を仕掛け、ミサイルを誘導するのだろう。
また、ガザ地区とイスラエルの境界線近くに近寄ったパレスチナ人が射殺される。境界線に近づく理由は、ガザ地区は封鎖されているために建設資材などは全てエジプトとのトンネルから運び込んでいた。しかしエジプトでムスリム同胞団のモルシ大統領が軍事クーデターで倒されて以降、トンネルの大半は爆破されるか水を流し込まれ、破壊された。イスラエルの攻撃で破壊された家を修理するためにセメントに使う砂利がいる。それを拾うために境界線に近づいた青年が監視塔のイスラエル兵のライフルで射殺されるのだ。何の警告もなしに! ガザ地区は狭い。360キロメートルだ。40キロメートル×9キロメートルのところに180万人も住んでいる。だから農地は境界線付近に多い。農作業中の人たちが狙い撃ちされ殺されることもたびたびだ。西岸地区では毎週のようにパレスチナ人の青年や学生、少年たちがイスラエル軍の兵士に撃ち殺されている。理由は何でもいい。パレスチナ人だから殺されるのだ。こんな事件が月に何件かは起こる。
●パレスチナ人というだけで行政拘留=投獄
二つ目は行政拘留だ。行政拘留とはイスラエルがパレスチナ人を理由も明らかにせず、裁判も受けさせずに長期に拘留する予防拘禁のことである。今回のイスラエルの少年3人が行方不明になった事件でも400人超のパレスチナ人が行政拘留で不当不法にイスラエルの刑務所に閉じ込められている。この行政拘留に抗議し釈放を求めて、行政拘留されイスラエルの刑務所に閉じ込められているパレスチナ人がハンガーストライキで闘っている。イスラエルはハンストで重体に陥ったパレスチナ人を釈放するのではなく、病院に収容し強制的に胃に食料を流し込もうとしている。国際的な非難の声が大きくなっているにも係わらずイスラエルは依然として行政拘留をやめようとしない。今回の大攻撃での停戦交渉で、ハマスは停戦の条件としてこの行政拘留を直ちにやめ、拘留されているパレスチナ人を釈放することを要求している。
●入植地がなぜあるのか
三つ目は入植地だ。イスラエルはパレスチナを占領している。占領下での入植活動は国際法でも禁止されている。あのアメリカでさえイスラエルのパレスチナ西岸地区での入植活動には「自衛権を認める」とも言えず、おおっぴらには支持もできない。昨年から今年の4月まで続いた和平交渉の最中にもイスラエルは入植地を拡大した。ネゲブ砂漠や西岸地区に住む少数民族ベドウインも入植地の被害者で、住んでいる土地からたたき出されている。
パレスチナ問題の解決はイスラエルによるガザ地区の封鎖をやめること、パレスチナ(西岸地区とガザ地区)の占領をやめること、やめさせることからしか始まらない。
●安倍政権によるイスラエル擁護を許さない
▲日本=イスラエル首脳会談で安倍政権はイスラエル擁護、同盟関係構築へ踏み込んだ。
2014年5月12日、共同記者発表するネタニヤフと安倍
日本の安倍政権はイスラエルによるガザ攻撃にたいして国際的な批判が巻き起こっている時、イスラエルを擁護し続けている。公式には「イスラエル軍の空爆によりガザの一般市民に多数の死傷者が出ていることは心を痛める事態」としているが、「暴力の悪循環」と規定し、ハマスによる必死の反撃を非難しているのだ。だがより重大なことは、日本が石油輸入大国であるため国際的には「親アラブ」と見られてきた従来の中東政策を安倍政権が歴史的に転換させてイスラエルとの関係を急速に緊密にしていることである。
民主党・野田政権の最末期の2012年11月29日、国連総会は本会議で、パレスチナの資格を「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に格上げする決議をあげた。イスラエルと米国などは反対したが、当時の野田政権は賛成票を投じた。ところがその後、一転して、安倍政権はイスラエルとの関係を強化する政策を進め、今年5月、安倍=ネタニヤフ首脳会談をもち、「北朝鮮の核・ミサイルの脅威」と「イランの核開発の脅威」にそれぞれが直面しており共通の懸念であると位置づけ、日本=イスラエル軍事協力を合意した。共同記者会見でネタニヤフは「両国の共通課題は核兵器で武装しようとする、ならず者国家の脅威だ」とその意図を露骨に表明した。安倍はネタニヤフとは中東和平に関して「2国家共存による解決」に同意した。今後は投資協定交渉を進め、先進科学技術と宇宙関連などで共同研究開発を促進することでも合意した。
それに先立って安倍政権は次期主力戦闘機である最新鋭ステルス機F35の製造への日本企業の参画を容認し、武器輸出三原則の例外扱いとすることを決定(13年3月)しているが、F35はイスラエルも導入する戦闘機である。つまり、紛争当事国への移転を禁じた武器輸出三原則を骨抜きにして日本からイスラエルへの武器輸出にゴーサインを出したのである。
こうして日本は日米安保同盟を媒介にして実質的に日本・イスラエル同盟関係に踏み込んだと言わなければならない。同時に強行されている集団的自衛権行使容認と重なる時、日本はガザ攻撃の当事国という位置にたつことになる。これまでとは次元を異にして、イスラエル・パレスチナ問題が日本自身の問題、日本の労働者人民自身の問題となっていることを直視しなければならない。イスラエルによるガザ攻撃、パレスチナ圧殺の加担者になるのか、という重大な問題がはっきりと突きつけられているのである。
私はかつて広島の地を歩いた時、この足の下に眠る、侵略戦争の結果、原爆によって殺された人々の上をどうやって歩くことができるのかと考え悩み、以来反戦闘争を闘ってきた。その第2次世界大戦後の現代世界をつくる土台の一つはパレスチナ問題だ。パレスチナの景色が沖縄の白いコンクリートと給水搭の景色とよく似ていると聞く。それは景色が単に似ているのみならず、戦後の日本が沖縄を踏みつけて成り立っているように、戦後世界はパレスチナを踏みつけて成り立っているがゆえに似通っているのではないだろうか。
私たちは現代世界の矛盾、そのあまりの不条理を私たち自身の行動で解決しなければならない。
2014年9月3日 小田原紀雄さんのご逝去を心から悼み、小田原さんの闘いに照らされて。
博多のアイアンバタフライ
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