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着信を告げる、スマートフォン。画面には「三芳ひかる」の名前。
存在が消えてしまったと思った途端に、そのヒカルから電話がかかってきた・・・!?
正直、わけがわからない・・・けれど、それを言ったら、ここ最近の出来事の全部がわからないことだらけなので、もういい加減、観念するように驚くことをやめて、急いで電話に出た。
「・・・もしもし、ヒカルなのか?」
『・・・もしもし、イナダくん、無事のようね、よかった』
電話越しに聞こえたその声は、確かにあのヒカルの声そのものだった。
少し声が弱く遠く感じ、聞き取りにくいことを除けば、淡々とした話し口調もそのままだ。
この世界が変わってしまって混乱している今の自分にとって、一番の理解者であるヒカルと話すことができて、私は心から安堵した。まだ、出会ってから2日目なのだけれども・・・。
「一体、これはどうなっているの?巡りはつながったの?ヒカルは消えなかったの?さっき橋爪部長と話したら、ヒカルのことを知らないって言ってたし・・・」
もう、何がどうなったか、上手く脈絡を整理して話すことすら出来ない。
『イナダくん、落ち着いて。今から説明するから、よく聞いて』
「あ、う、うん」
私は落ちつくために、一つ深く呼吸をした。
『・・・まず、巡りのことだけど』
ヒカルも一つ呼吸をおいて話を続ける。
『・・・一部はつながった。でも、完全にはつながり切らなかったの』
「・・・!」
夢の中での私の行動が、宇宙が無事でいるための鍵を握っている、ヒカルからはそう聞いていた。
私は、なにか失敗してしまったというのだろうか・・・。
その思いをヒカルは察したかのように言葉をついだ。
『・・・でも、それはあなたのせいじゃない。仕方がなかったの。この巨大地震はわたしにも想定外の出来事だった。地震であなたの夢が途切れてしまったのだから。あのまま夢を見続けることができたら、恐らく何の問題もなかったと思う』
私はそれを聞いてやりきれない思いになった。
「そんな、まさか、こんな時に巨大地震だなんて、なんて間が悪すぎるんだ・・・」
『ただ、残念ながら、これも偶然の出来事じゃないわ。この地震は、宇宙の時空の歪みが、いよいよ物理現象となってこの次元世界にまで影響を及ぼし始めている証拠』
「ええっ!そ、それって、すごくまずくない!?」
ということは、宇宙の崩壊がはじまっているということじゃないか!
『そう。もうあまり時間が残されていないみたい・・・』
あの強烈な地響きと揺れ。ずっと動かずにあると思っていた地面から、地球そのものから振り落とされるような恐怖。
それが、宇宙の崩壊に向かうスタートの合図だというのか・・・。
突然の絶望感が私に襲いかかり、言葉を失う。
『・・・でも、まだ、望みはある。いい?長くなるけど、これから話すことを、まずは聞いて』
「わ、わかった!」
そして、ヒカルは話し始めた。
その話の内容とは、こうだった。
夢の中で私は一部の巡りを、見事つなげることができた。
それは、橋爪部長との関係に大きく影響している一連の出来事の体験だった。
現に、先ほどのフェイステレフォンで橋爪部長と話す間に、二人の関係についての“新しい記憶”を呼び起こされることで、鬼のような橋爪部長が、仏のようにやさしい橋爪部長に変貌していたことについて、そのすべての経緯が私の中で“腑に落ちた”。
この“腑に落ちた”というのが、巡りがつながった証しでもあるらしい。
しかし、残りの巡りをつなげる前に、夢から覚めてしまった。
そう、アサダさんとの関係についての巡り合わせのズレが、未消化のままだった。
そのため、夢から目覚めたこの世界の巡りは、さらに混乱することになる。
私と橋爪部長との間の巡りはつながったのに、アサダさんとの間の巡りはつながっていない。
つまり、二つの糸を1本につなぎ合わせるどころか、二つの糸がこんがらがってもつれてしまったような感じだ。
その結果、この次元世界が非常に不安定となり、もともと別次元の世界からやってきたヒカルは、この世界に留まり存在しつづけることが出来なくなってしまったらしい。もう、そのためのエネルギーが無くなってしまった、とも言っていた。
ただ、かろうじてヒカルは自分の意識をスマートフォンのAIをつかさどる量子コンピューターの超ミクロ世界の量子ビットのアルゴリズムに干渉することができるので、こうやって電話で会話は出来るのだと。・・・全然わからんが・・・、まあ、このあたりの詳しい話はいいとして、とにかく、ヒカルの姿は見えないが、電話なら出来る、ということらしい・・・。
そして、当のアサダさんは、異なる二つの次元の意識が、アサダさんの一つの心身の中で、二重に重なってしまっている状態にあると。
その状態でいたら、恐らくすぐに精神が分裂するように異常をきたしてしまう。
それを防ぐために、アサダさんの脳が自己防衛反応として、今はずっと眠りつづけている状態にあると。
橋爪部長も私も、アサダさんと連絡がつかない理由がなんとなくわかった。
そこまでの話を一気に聞いて、私は思わず聞き返した。
「・・・で、俺はいったい、どうすればいいの?」
ヒカルは少し間をおいて話した。
『・・・イナダくん、まず、あなたには、急いでアサダさんの元に行って欲しいの』
「わ、わかった・・・って、言いたいところだけど、俺、アサダさんの家知らないよ・・・」
そう言った途端、再びスマートフォンのアラームが鳴り響き、直ぐに強い揺れが来た。
ガタガタと棚が揺れ、壁がきしむ音に、先ほどの恐怖が蘇る。
先ほどの揺れほどではないものの、震度5はある強い揺れだった。
窓の外も騒がしい。
「うわ!また揺れてる!・・・こんな中に外出ていかなきゃならないわけ!?」
私は思わず情けない声を出した。
『・・・大変なのは、わかってる。だから、ちゃんと助っ人を用意したわ』
「す、助っ人・・・?」
・・・つづく
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