髪の毛は黒く、肩のあたりで綺麗に揃えて切ってある。身長は130センチ半ばくらいか。
目はクリっと大きく、瞳は茶色い。少し気の強そうな顔つきで、眉が…ああ、そういえば似てるかも、橋爪部長に。
…しかし、それにしても辻褄が合わない。だって、橋爪部長の子供は、この世に生まれでる前に、奥さんの痛ましい事故によって…。
そのまで考えた時、スマートフォンの電話が鳴った。
ヒカルからだ…!
私はすかさず電話に出た。
「もしもし、ヒカル!?」
「・・・うん、さっきはごめんなさい、急に電話つながらなくなってしまって・・・。そして、今もそんなに話せないから、聞いてもらっていい?」
ヒカルの声のボリュームが、やはり足りない。疲れているのだろうか。
「わ、わかった、話して」
ヒカルは一息ついてから話し始めた。
「あなたの目の前に現れた女の子は、リン。橋爪部長の娘さんよ」
それは、戸惑う私に対して、いきなり核心をつくような答えだった。
「…!え、え!?やっぱりそうなの?一体、どういうこと!?」
ヒカルは努めて淡々と話す。いつもと同じく。
「リンちゃんは、交通事故でお母さんのお腹の中でこの世界に生まれる前に去ってしまったけれど、存在そのものが消えたわけじゃない。ちゃんと別の次元で意識体は存在していたのよ」
「・・・!?」こ、これは、直ぐに理解できなさそうな話だ・・・。
ヒカルはつづけた。
「信じられないでしょうけど、この宇宙には無数の次元世界があるの。それらの次元は、あなたたち、現実世界の人間の思考や思い、そして行動が影響してつくられていくの」
「俺たちの、思いや、行動によって…?」
「そう。橋爪部長は、あなたと屋上で会って、リンちゃんの名聞いてから、毎日、毎日、奥さんのことだけじゃなく、顔も知らず、見たことないリンちゃんのことも忘れずに、大切に思いながら生きていた。その意識や故人を供養をする姿勢が、別次元のリンちゃん存在を、ここまで大きくちゃんと育てていたのよ」
「・・・十年以上前の、あの日から」
「あなたの中で、橋爪部長との巡りが新たにつながったその瞬間から、リンちゃんはお父さんの愛情の思いを受け続けて、ここまで大きく育つことができた。だから、今のリンちゃんには、とっても大きなエネルギーがあるの」
「それで、ヒカルの代わりに、こっちの世界に・・・?」
「そう。巡りに穴が空いて、次元が不安定になっている今だけ、次元間を行き来することができる。でも、今の私にはできない。エネルギーが少なくなってしまっているから・・・」
「そ、それはどうしてなの!?ヒカルは弱っているの?」
「・・・ごめん、今それを説明する時間も、エネルギーもないわ・・・。いいから、リンちゃんとアサダさんのところに行って。そこから、・・・また、話すから・・・」
電話の向こうのヒカルの声が急に萎むように小さくなり、通話がぷつりと切れた。
ヒカル・・・!?大丈夫なのか、このまま、消えたりしないでくれよ・・・。
不安と不思議が心の中で大きく入り交じった私は、スマートフォンを片手に、隣を歩くリンちゃんをまじまじと見た。
その視線に気づいて、リンちゃんはニコッとかわいく笑う。
私と、ヒカルとの会話も聞いていただろう。
全部わかっている、そんな思いが、くりくりお目々から伝わってきた。
私たちは、大通りにでた。
そこに、それまでの街の様子からは一変した光景が目に飛び込んできたのだった。
・・・つづく