藤永茂のブログ「私の闇の奥」は世界情勢を知るうえで重要視しているサイトの一つだが、今回ウクライナへのNATO加盟を機にスェーデン、フィンランドも申請し再燃している問題について注視すべき記事が掲載された。
フランコとエルドアン - 私の闇の奥
スペインの独裁政治家フランシスコ・フランコのことをよくご存知の方々も多いと思います。あまり知らない人はまず次のサイト(世界史の窓)を読んでください:http://www.y-...
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トルコ政府が両国の加盟を反対しているのは、PKK(クルド労働者党)を合法政党としてスウェーデン、フィンランド政府が活動家を保護しているからだというのだ。6月29日付けの報道によると三国はPKKを「非合法テロ組織」として認定し、シリアクルド人自治区への武器禁輸措置を行うことで合意。トルコは、スウェーデン、フィンランド政府のNATO加盟を承認したというのだ。トルコのエルドアン大統領は、ウクライナ戦争の影で、トルコ軍をシリア国境に進撃させてクルド人自治区のせん滅を高らかと宣言するだろう。スウェーデン、フィンランド両政府の「人権」も首脳同士の軍事同盟を優先するためにあっさりと捨て去ったということだろう。
トルコ、北欧2カ国のNATO加盟支持に合意 難色の姿勢から一転 PKKの掃討、送還で全面協力:東京新聞 TOKYO Web
【マドリード=加藤美喜、カイロ=蜘手美鶴】トルコのエルドアン大統領は28日、マドリードで、北大西洋条約機構(NATO)に加盟申請中...
東京新聞 TOKYO Web
さらに藤永氏の今回の記事で注目すべきは、イラン、シリアで残忍な支配を敢行していたイスラム国(ISIS)を訓練、武器や資金援助などをしていたのは、トルコやアメリカ、イスラエルなどだというのだ。
ISISがシリア北部クルド人自治区に侵略したときクルド人部隊がISISの手から実質的な解放した時、アメリカは空爆をISIS地域に行いアメリカの勝利を演出するなどした。その後2013年クルド人自治組織はロヴァジャ革命として多民族共生の自治区を宣言する。
この自治区の少数民族をISISに代わって容赦なく叩き潰すエルドアンに怒りを覚える。
さらにエルドアンは、トルコ国内での約2480万人いるクルド民族の政党を認めず、不当に拘束するなどしている。
親クルド派の党、裁判所から禁止命令を受けた場合、党を再編成すると発表
トルコ当局はここ数年の弾圧で、何千人ものHDP党幹部を逮捕し、選挙で選ばれた数十人の市長と議員を追放しているイ・・・
Arab News
やはり、「人権」もあっさりと捨て去り自国の利益を優先する軍事同盟の本質をみた思いだ。
以前、私が『女たちの中東 ロヴァジャの革命』の書評をFacebookで掲載したので併せて。
「クルディスタン(「クルド人の土地」)という名称は12世紀に初めてアラビア語の歴史書に現れ、タウルス山脈の東部山麓が北部ザクロス山脈と出会う地域を指す。地球上のクルド人の人口はかなりまちまちだが、もっとも実際に近いのは、3500万人から4000万人の範囲である。このうち、1500万人がトルコ、1000~1800万人がイラン、560万人がイラク、300万人がシリア、50万人が旧ソ連、100万人がヨーロッパに住む。」(『女たちの中東 ロジャヴァの革命』p44)
国を持たないクルド人たちは中東の4つの国にまたがり、アラブ人、トルコ人に次いで多いエスニック集団である。
その中でも、トルコとシリア、そして一部はイラクにまたがる西部クルディスタンは、2012年バース党支配から住民を解放し、アラブ人、アラム人(キリスト教)、アルメニア人、ヤズディ教徒、チェチェン人が混在し、多様な人種、宗教、文化などのエスニシティを守り、アラブで唯一の女性解放(レイプ、殺害その他あらゆる家庭内も含めた暴力の根絶のため男性が審判権を持たない)制度を法的に導入した民主主義的連合主義を掲げた自治区を宣言した。俗にロヴァジャ革命という。
エスニシティ(民族的多様性)を認め、女性が男性と共に地域の共同代表制度による民主主義的自治を持ち得ている。
そこにシリアの内戦につけこんで、トルコなどの支援のもとでイスラム国が公然とクルド人、その他のエスニシティ集団を否定したジェノサイドを展開する。自治区は、イスラム国やシリア自由軍が自治区を襲撃したため、民兵を組織して抵抗闘争に立ち上がり完全に自治区を奪還した。
この本を読んでいて、ロヴァジャ革命とその取り組みが旧ユーゴスラビアと似ているなと思った。ユーゴスラビアも大戦を経て6つの共和国、5つの民族、4つの宗教などがひとつにまとまった国家になる。
国内の異なる諸民族の統一により国外から来るナチスなどの侵略者から住民がパルチザンとなり立ち上がる。ユーゴの民族的多様性を認める独自の自主管理に基づく社会主義国家を作り上げる過程と似ているなという印象を持った。
ちなみにユーゴ内戦を予期しているようなマンガ『石の花』は逸品です!
本書をヒントに多民族共生社会や民主主義や身近な労働組合などの組織のあり方などもっと深められそうな気がした。
本書は編著であるが、共にクルド人の連帯活動を各国(アメリカ、ドイツ)で行うアクティビストであり、歴史家、思想家、フリーランスたちが内戦下のクルド自治区を取材して書きためたレポートである。