松凬からくり帖

松凬さんが73年の人生と吟道50年からの体験や、これから起こるであろう!未体験談を写真と共にお届け!

福井藩士【橋本左内】を知りたくば「城中の霜」を読むべし!

2017-12-14 17:24:21 | 日記

わたし谷藤松凬が詩吟の世界に飛び込んで52年になります

この間にいろんな出会いがあり、また別れもあった

今は唯、この52年間に感謝有るのみです

この世界に入って、私ほど功徳をもらった人間はいないと思っている

中学しか出ていない私が、詩吟のお陰で「文部大臣賞」まで頂いた

詩吟を志していなかったら、とてもとても考えられない事でしょう

この受賞が、昭和46年で、山本周五郎の「城中の霜」を知ったのが

それから5年程後の事、東京の友人に教えてもらったのであった

その当時から橋本左内が大好きで、「獄中の作」をよく吟じていた

『谷藤さんがそれほど「橋本左内」が好きなら「城中の霜」を読むべきです』

京都に帰って、早速購入して読みました、あの時の感動・・今だ忘れまじき

   

日々平安と云う山本周五郎の短編集の一番最初に登場するのが「城中の霜」です

この当時、詩吟のお弟子さん達に是非読んで頂きたくて、文庫本を拡大する・・

文庫本ではお年寄りには字が小さくて読みづらいのでB4サイズで本にしました〈勿論コピーで〉

またまた、前振りが長くなって申し訳ありません・・・

この本は、橋本佐内が安政の大獄で処刑された〈安政6年10月7日〉一日のお話です

冒頭は、赤鬼と攘夷派から嫌われていた井伊直弼が無理やり「左内」を処刑にするところから始まる

内容は橋本左内が処刑の時に「泣いた」・・・事を取り上げています〈もちろん創作ですけど〉

この中では、橋本左内には「香苗」と云う許嫁が居た設定になっています

山本周五郎は【左内】の人間像をこんな形で「香苗」に紹介させています

香苗がまだ12歳の時だった、少し前を左内が書物の包みを左手に抱かえながら歩いていた

立ち止まって見ていると、まるで「左内」を護送している様に【青竜組】と称した乱暴者がつけている

暫くして雑木林に入ると「左内」を中心に円陣を作った。

暫くあって、左内と香苗は猥らな仲だとリーダー格の蒔田金吾が言った

左内は静かな声で『それは嘘だ!根も葉もない事を云う者でない、自分は男だからよい、

女には取り返しのつかぬことになる、それだけは取り消せ』

『取り消す必要はない』金吾の声より疾く左内は刀を抜いた。

不意を衝かれた少年たちは四方へ逃げ出したが、左内は切先をつけて金吾を動かさない

『金吾、今の言葉を取り消せ』声は静かだが、その眼は烈火のごとく金吾に張り付いていた

香苗は今でもその時の感動を忘れない。自分の名誉の為に刀を以って立ち向かってくれた事を

そして、いよいよ左内の死体を引き取りに行った者たちが、左内の涙を知るのだ

それは、左内が処刑されるときに泣いたと云うのだ・・・先程の金吾が再び登場して

『才はあったが、医者の倅だし、つい先頃まで外科手術だの種痘だのと、

薬匙を手にとび回っていた男だ、武士らしい死に方を知らんのは当然かも知れぬよ』

他の者も、金吾に合わせて、武士の誇りを持たないとか、長袖者とか左内を揶揄するのだ

ここで香苗が登場する、そして金吾に対して・・・

『左内さまは仰せの通り医者としてお育ちになりましたけれど、いざという場合に

命を惜しむような方ではございませんでした、それは蒔田金吾さまがよくご存知の事』

ここからの香苗の言葉が・・・まさに周五郎ワールドであり、圧巻ですので全文を

~『いまのお話を熟くお聞きくださいまし、左内さまは太刀取りを押止め、

  静かに御藩邸を拝し、声を忍んで泣かれたのです、刑場に曳かれた以上、

  泣こうと喚こうと逭れるすべのないことは三歳の童でも知って居りましょう、

  多少なり御国のために働くほどの者が、其の場に臨んで、

  命が惜しくて泣くと思召しますか、・・・未練で泣くと思召しますか、・・・

  強盗無類の下賤でも笑って死ぬことが出来ます、けれど断頭の刃を押止め、

  静かに面をおおって泣く勇気は、左内さまだから有ったのです、・・・

  御国を思って泣いたとも申しませぬ、お家を思って泣いたとも申しません、

  けれどけれど、わたしには分かります、卑怯でも、未練でもない、

  否えもっとお立派な、本当の命を惜しむ武士の泪だということが、わたしには分かります』

最後に、山本周五郎は香苗の心からの左内への言葉として・・・

~左内さま、あなたは、少しの偽りもなく、あなたらしい生き方をなさいました、

  あなたらしい死に方をなさいました、あなたはもう再び、

  香苗の心から去っておゆきにはなりませんわ。~

香苗は生きた彼に呼びかけるようにそう呟いて、ふところから辞世の詩を取り出した。

そして、第三の句に至ると、噎びあげながら静かにこう吟んだ。

「・・・昨夜、城中、霜始メテ隕ツ。・・・昨夜城中霜始メテ隕ツ」

どうですか、橋本左内がいっそう好きになりましたか

次回には少年時代の左内らしいお話を中心に・・・お楽しみに

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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