生活保護を必要としている本人にとっては、申請すると扶養照会が行われることは、大きな障壁である。なにしろ、「生活保護を申請した」ということを親族に知られてしまうのだ。それまでの関係が良好であっても疎遠であっても、生活保護と扶養照会によって関係が改善することは少ない。
それどころか、良好だった関係は壊れ、疎遠だった関係はさらに疎遠になる。「せっかく虐待やDVから逃げてきたのに、相手から逃れられなくなる」という事例もあった。
生活保護の申請を受け付ける福祉事務所にとっても、扶養照会は大きな負担である。3月に公開された調査結果によれば、現役福祉事務所職員のうち約70%が「扶養照会は負担」だと感じている。
扶養照会は必須とは言えないが、「しない」という判断には根拠が必要だ。根拠があやふやだと、監査の際に「なぜ、扶養照会しなかったんですか」と突っ込まれて困るかもしれない。
3親等内の親族全員に対して扶養照会を行えば、監査での突っ込みを避けることは可能だが、膨大な事務作業が必要になる。
今回、示された厚労省方針は、福祉事務所にとっても福音となるはずだ。
ところが調査によれば、「扶養照会をなくすべき」と考えているのは、現役福祉事務所職員のうち約20%に過ぎない。
約30%は「範囲を縮小すべき」と考えており、約50%は「現在のままでよい」と考えている。合計約80%は、「何らかの形で、扶養照会を行うべき」と考えているのだ。
「負担だけど、必要」とされる理由は、どこにあるのだろうか。
● 面倒で大変で実りが少ないのに 扶養照会はなぜ「必要」?
扶養照会に関するこの調査は、生活保護の現場で働く福祉事務所職員を中心とする団体「全国公的扶助研究会」が、会員を対象として、本年2月に行ったものである。
まず、誰を扶養照会の対象としているのだろうか。
調査結果によれば、「配偶者および未成熟子の親」「親および成人した子」「兄弟姉妹」は、95%以上が対象としている。「おじ・おば・甥・姪などに対しても扶養照会を行う」という回答は、10%にとどまる。「3親等内の親族の全員に対して、手当り次第に扶養照会」という運用をする福祉事務所は、少数派なのかもしれない。
厚労省はもともと、長期入院患者・専業主婦・未成年者・高齢者・長期間音信不通といった親族には、「扶養照会を行わなくてよい」としてきた。仕送りは期待できないからである。また、「要保護者の生活歴などから特別な事情があり、明らかに扶養ができない」「夫の暴力から逃れてきた母子」「虐待などの経緯がある者」などに対しても、扶養照会の必要がないものとして「差しつかえない」としてきた。
調査結果を見ると、DVや虐待がある場合は、99%が扶養照会を行っていない。長期入院患者などでも、70%以上が扶養照会を行っていない。また61%は、申請者の同意が得られない場合には扶養照会を行っていない。そして、扶養照会が「仕送りに結びついた」という回答は0.9%である。どう見ても、負担が重く、効果は薄く、当事者との関係構築を困難にする「不要」照会であろう。
その一方で、「扶養照会はなくすべき」と考えている回答者は全体の19%にとどまり、47%は「現状でよい」と回答している。扶養照会が必要な理由としては、「何かあったときの連絡先」(89%)と「精神的援助の可能性」(71%)が圧倒的多数である。それらは確かに、必要であり重要であろう。しかしながら、貧困の当事者はしばしば、「それなら、生活保護と生きることを諦めよう」と考えてしまうのだ。
自分や家族以外を養う余力はない。
扶養紹介は出したくないから家族や親類に押し付けて生活保護法をねじ曲げ、予算を別なことに使いまくり使い切るのが目的だ。