・・・ふと気付くと、僕は釣竿を握っていた。
いつもの堤防で、どうやら釣りの最中らしい。
隣には小さな男の子。
初めて見る顔だ。でも竿を振る姿は堂に入っている。
「やあ。」
と、僕は声を鰍ッた。
「釣り上手だね。いつも来てるの?」
「うん、でももうすぐこの釣り場は終わっちゃうんだ。ダメになってしまうんだ。」
男の子は悲しそうな顔で答えた。
「え?どうして?なんでダメになっちゃうの?」
「やつらが来るんだ。大勢で、やってくるんだ。」
男の子はおびえている。
「やつらって?・・・」
「来た!「虚無」だ!」
振り返ると、そこには数人のオヤジグループの姿。
「おう、ここ空いてるぞ。早くこっち来いや!」
といって、僕たちの横に強引に割り込んでくる。
出た!割り込みオヤジだ!
「後からあいつも来るから、その辺に場所取っといてやれや。」
出た!場所取りオヤジだ!
下品な声であたりかまわず騒ぎ立てるオヤジ達。
平気でゴミも捨てている。
堤防の上は、見る見るうちに険悪な空気に包まれていった。
「このままだと、じきに僕たちのファンタージェンは消えてしまうんだ。」
男の子がそう呟いたとき、突然、僕の竿が大きく曲がった。
きた!大物だ!
満月にしなる竿を必死に立てて、走る魚を止める僕。
よし、絶対獲るぞ。
そんな僕の姿を見ていたオヤジの一人が、くわえたばこを足で踏み消しながら馬鹿にしたような声でいった。
「ふん、どうせナマダ(ウツボ)に決まってらあ。」
なんて奴だ。
こんな奴が同じ釣り人だなんて、情けない。
体勢を立て直そうと一歩前へ踏み出したとき、僕の足は、オヤジのひとりが捨てたカップ酒の容器を踏みつけて宙に浮いた。
「ああっ!」
僕の体は大きくバランスを崩し、そのまま足元の海に落下した。
水の中でもがく僕。
だれか、助けてくれ。
その時、目の前を何か大きなものが横切った。
夢中でしがみつく僕。
そして次の瞬間・・・
僕の体は水中から飛び出して、大きく空に舞い上がった!
はるか下には、さっきまで僕がいた堤防が見える。
そして、僕がしがみついていたのは、真っ白い巨大なナマダ(ウツボ)だった。
「夢だ!これは夢だ!」
僕は思った。こんなことが現実のはずはない。
でも・・・釣り師が夢を見なくてどうする。
がつがつとあさましい釣りをしてどうする。
「そうだ!夢でいいじゃないか!夢を見ればいいんだ!」
「ぐわあおおおお~!」
その通りだ、と言わんばかりに白ナマダが吠える。
「ぐわあおおおお~!」
と、白ナマダの背中に跨った僕も吠える。
はるか下の堤防から、男の子がこちらを見上げて叫んでいる。
「ファルコーン!」
そうか、彼にも見えるんだ。
堤防の上では、さっきの迷惑オヤジ達がさらに傍若無人な振る舞いをしている。
ようし、やつらをこらしめてやろう。
「白ナマダ、じゃなかったファルコン、できるかい?」
白ナマダはいたずらっぽくウインクした。
「ようし、いけえ~っ!」
オヤジ達に向かって急降下する白ナマダ。
驚いて逃げ惑い、最後には次々と海に飛び込むオヤジ達。
「ぐわあおおおお~!」
と夢の中で吠える僕。
「ぐわあおおおお~!」
白ナマダも、愉快そうに吠えた。
Kajagoogoo & Limahl "The Singles And More" (1993)
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