〔よしなしごと)『言葉の宝箱』《かくしごと》

※不定期公開

運の良い方、縁の有る方、勘が働く方。

ご覧戴けたら幸いです。

古内一絵【大人になった途端、魔法はあっけなく解けてしまった。宝ものだと思っていたものは、全部他愛のないガラクタに変わってしまった。大人になればなるほど、簡単には幸せになれなくなっていく】

2025-01-31 11:45:00 | 古内一絵


『キネマトグラフィカ』古内一絵(東京創元社2018/4/27)









『キネマトグラフィカ』古内一絵(東京創元社2018/4/27)

老舗映画会社に新卒入社した"平成元年組"六人の男女が2018年春、地方の映画館で再会する。
今はそれぞれの道を歩む同期の彼らが思い出の映画を鑑賞しながら26年前に起きた"全国フィルムリレー"に思いを馳せる。
映画がフィルムだった頃六人は自分の信じた道をそれぞれ必死に前に進もうとしていた。
フィルムはデジタルに、劇場はシネコンに。四半世紀の間に移り変わる映画の形態。そして映画と共に生きた彼らの人生もまた。
あの頃思い描いていた自分に今なれているだろうか。追憶と希望、働く人の心を熱くするエンターテイメント。


・自分に気のない異性を相手に独り相撲を取る虚しさ P87

・大人になった途端、魔法はあっけなく解けてしまった。
シンデレラの馬車がカボチャに戻ったように、
宝ものだと思っていたものは、全部他愛のないガラクタに変わってしまった(略)
大人になればなるほど、簡単には幸せになれなくなっていく P89

・やっぱり、違う。全然違う。
けれどどこへ行けば、“違わない”ものに出会えるのか、それがさっぱり分からない P90

・やりようがないのではなく、自分にはやれないのだ(略)
社会では、知識以上に、打たれ強さと、ある種の腕っぷしがものをいう。
自分には、それがない P123

・色々なことを棚に上げられるだけ上げて、
それでも最終的には、本当に世俗から切り離されるような生き方はできない P163

・長いものには巻かれればいいし、
強いものには逆らわなければいいし、
相容れないものとは関わらなければいい(略)
本当に好きなのは、優秀な人ではなく、己をおだててくれる人のはずだ。
だったらそこを擽ればいい。
それが一番簡単で有効な、楽して生きていくための方策だ P175

・楽して生きていくなんて、簡単だ。
すべてを建前と冗談で済ませればいい P194

・持ってる人はね、最初からなにも気づかないの。
奪うばかりで、奪われる人の気持ちを知ろうともしないんだよ P255

・昔を懐かしいって思えるのは、今の自分に納得してるからなんだよ P268

・頑張れば、努力さえすれば、決して仕事は裏切らない――。
ずっとそう思ってきたんだけど、どうやら、そうでもないみたい(略)
既得権を固辞し、規律が乱れることを恐れる人たちの多くは、
往々にして自分に馴染みのない新奇なものを嫌う。
だから、少しでも違和感を覚えるものが現れると、分かりやすい名目をさがして人まとめに括ろうとする。
そうしてしまえば、多少は安心してそれを扱えると思うのかもしれない P273

・お手軽で結構。
私は悟ったの。
理想通りのものなんて、この世界にはどこにもないって。
だったら加工して作ればいいじゃん。
そのほうが、違う、違うって、ないものねだりしてるより、精神的にも楽だし P281



吉永南央【ありのままの自分を認めれば、力は抜ける。力が抜ければ、押し上げてくれる力に気付く。いい大人が素直になるには恥もともなう】

2025-01-31 10:00:14 | 吉永南央


『初夏の訪問者 紅雲町珈琲屋こよみ⑧』吉永奈央(文藝春秋2020/8/30)

 

5月、草が営むコーヒー豆と和食器の店『小蔵屋』の
近所のもり寿司は味が落ちた上、新興宗教や自己啓発セミナーと組んでの商売を始め、評判が悪い。
店舗一体型のマンションも空室が目立ち、経営する森夫妻は妻が妊娠中にも関わらず不仲の様子。
それを見て、草は自らの短かった結婚生活を思い出したりしている。
そんな折、紅雲町に50歳過ぎの男が現れ、
新規事業の調査のためといって森マンションに短期で入居している男は親切で、街中で評判になっていた。
その男が草のもとにやってきた。店の売却・譲渡を求められるのかと思った草に対し、男は「自分は良一だ」と名乗る。
良一とは草の息子。
夫や婚家との折り合いが悪く、草が一人で家を出た後、3歳で水の事故で亡くなったはずだったが、その男によると
「良一は助け出されたものの、父と後妻の間に子供が生まれ居場所がなくなり、女中だったキクの子として育てられた」という。
その証拠として草と別れた夫との間で交わされた手紙や思い出の品を取り出して見せる。
男の言うことは本当なのか、本当に我が子なのか。草の心は千々に乱れる。
嘘は人生の禍となるが、救いとなることもある。甘いばかりではなく苦みを伴う。シリーズ第8弾。


・時のふるいにかけられたら、いいものしか残れないでしょう? P17


・恋愛は人を変える。
身と心で否応なく学ぶからだ P19

・人を偽るのと、自分を偽るのと、どちらが難しいのだろう P23

・隠しごとは、騙していることになるのだろうか。
嘘のうちに入るのだろうか。
嘘になるのだとしたら、それは誰に対しての嘘なのだろう P40

・変な顔をしていると、声まで変になる P50

・正しさに縛られていては、味わえないものがある P88

・良きにつけ悪しきにつけ、人の口には戸は立てられない P95

・時は流れ、いいことも悪いことも永遠には続かない P98

・きちんとした服装が鎧に見えた P100

・考え抜いた末の答えだろう重みがあった。
経営が苦しいのは今なのに、一ノ瀬はその先を見据えている。
彼の態度には、自由さと、揺るがないものとが同居していた P102

・日本のテレビのあれ、
ニュースかい? 
天気、グルメ、芸能。
肝心なことは、ろくに報道しやしない。
御上に気を使ってるつもりかね(略)
戦争の時、ニュースが嘘だとわかっていても信じました?(略)
信じたふりをしたほうが楽だからね。
あとで言い訳もできる。
騙されたんだ、私は悪くない、って P112

・離婚しようと、
子を亡くそうと、
接客に集中すれば忘れていられ、
客が笑顔になればうれしく、
その時間の積み重ねが傷を癒す薬になった P118

・命って、
私たちが思うより、
もっと自由なのかもしれないわね P190

・嘘は千里を走り、真実はおいてけぼり(略)
自分の目で確かめるのは、いいことです P196

・きっかけは嘘でもいい。
そんなことでだめになるようでは、だめなんだと思います(略)
再浮上するには、まず自分の非力を認めなくては(略)
ありのままの自分を認めれば、力は抜ける。
力が抜ければ、押し上げてくれる力に気付く(略)
いい大人が素直になるには恥もともなう P199

・夫婦は縄跳びね。
いつか女でも男でもなくなって、
違う方を見て走りながら、
でも来る縄を迎えて、
その時だけ息を合わせて、
手に手をとって、
どうにか跳び越える。
その繰り返し。
馬鹿馬鹿しいようだけど、
そんなこと他の人とは無理なのよ P213



額賀澪【やり直しなんてできないけど、失敗が許されないわけじゃないんだ】

2025-01-31 08:18:50 | 額賀澪


『イシイカナコが笑うなら』額賀澪(角川書店2019/3/1)

どの生徒にも慕われ、保護者対策もぬかりなく、同僚にも羨望の眼差しを送られる有能教師の菅野だが、
内心はいつも虚しいものが渦巻いていた。
自分には教師に必要な他人への共感や思い入れが全く存在しないのに
天性の要領の良さだけで周りをたらし込み、日々を凌いでいるのだ。
そんな彼の前にかつての同級生の幽霊、イシイカナコが現れる。
「ねえ、イシイカナコの「人生やり直し事業」に参加しない?」
菅野は17歳の自分が生きる時間軸へと飛ばされたが、菅野本人ではなく、同級生の依田として。
イシイカナコの手違いに怒り狂う菅野(依田)だが、なんとか高校生の自分を説得して進路を変えさせようと試み始める。
同じクラスには生前の石井可奈子がおり、幽霊のカナコには別の思惑があった。
やり直しのきかない人生の生き方を問う物語。
『イシイカナコはやり直す』『塩原雪乃は告白する』『細谷宏一は甘酸っぱい』
『菅野京平は痛感する』『石井加奈子はもういない』『イシイカナコが笑うなら』6話


・大人ってのはな、納得できなくても理解するくらいできるんだよ P30

・言った言わないで揉めるなんて、一番不毛だ P35

・高校受験や大学受験みたいに、自分の置かれた環境をがらりと変えるチャンスが、大人にはない P46

・受験と就職と結婚なんだとさ(略)
何かあったときに振り返る人生の三大後悔ポイント P88

・優しさを振りまいているうちに、いろんなものが限界値まで行っちゃった P135

・自分がなりたかったものに絶対なれないって気づいたとき、
昔の自分を裏切ることになるのが、きっと一番辛いんだろうな。
人生間違ったな、みたいにさ P138

・せめて自分で自分のことを満更でもないなと思えるように、生きていくしかないんだよ P237

・やり直しなんてできないけど、失敗が許されないわけじゃないんだ P245