晴耕雨読

晴れの日は耕し、雨の日は読む。

実践・私の中国分析―「毛沢東」と「核」で読み解く国家戦略

2015年01月10日 | カスタマーレビュー

実践・私の中国分析―「毛沢東」と「核」で読み解く国家戦略

単行本 – 2012/12

 

最も参考になったカスタマーレビュー


10 人中、10人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
 
投稿者 閑居人 殿堂入りレビュアートップ50レビュアー 投稿日 2013/2/12

一般には、著者は、特異な中国軍事問題研究者と見なされているであろう。しかし、その独自で的確な予測能力には、誰もが多くの敬意を抱いてきたはずだ。
本書は、二つの部分から成る。一つは、「尖閣」に揺れる西太平洋の覇権問題を含む中国共産党の世界戦略の分析である。そしてもう一つは、「中国分析を可能にする平松メソッド」の検証である。これは後輩たちへ贈る「考えるヒント」であろう。
まず、著者は、現在の「尖閣危機」は、中国海軍の本当のねらいをそらす「陽動作戦」であるという。もちろん弱腰日本をたたけるならいずれ「沖縄併合」まで視野に入るし、何より国民が熱狂する。しかし、中国海軍の本来の目標は「台湾」であり、「西太平洋」だ。
中 国海軍の中期的目標は、「第一列島線」を突破して「第二列島線」に至ることにある。青島や寧波に拠点を置く「北海艦隊」「東海艦隊」は、沖縄と宮古島の間 を抜けて、フィリピンの南のバシー海峡を抜けてきた「南海艦隊」と沖ノ鳥島西方海域で合流して「連合艦隊」を編成する。このことのために日米の世論を「尖 閣危機」に釘付けにしておく。春暁ガス油田もヘリポートがあり、いざというときにミサイル基地化できることが重要である。中国海軍が「第二列島線」まで 「中国の海」にすることが可能ならば、2020年代に、「台湾」の併合は現実化されるだろう。1996年に「李登輝」の総統選を巡って中国とアメリカが台 湾海峡で火花を散らしたが、この海域の中国支配が進めばアメリカは口出しできなくなるだろう。完全に包囲してから、中国は執拗な「話合い」と統一工作で 「中華民国・台湾」を「中華人民共和国台湾省」として平和的に獲得できる。
著者は、「毛沢東の国家戦略」は、もっと注目されるべきであると主張す る。毛沢東が行った「大躍進政策」「人民公社運動」「文化大革命」などは批判の嵐にさらされたが、「核開発」を始めとする「国家100年の計」を1949 年の建国に際して立てたのは毛沢東であり、それがトウ小平以下に引き継がれたのだ。貧しい1950、60年代を「核戦略」と「人民戦争戦術」の併存で乗り 切り、日米と台湾の離間に成功し、アフリカ諸国の支援を得て国連安保理事国の座を奪い、日本のODA援助をかすめ取って1990年代以降の「宇宙戦略」と 「海軍力増強」に向かう。建国以来、毛沢東は、国際戦略の最重要ポイントを確実に把握し、どんな無理をしてでも実現してきた。遠回りしているように見えて も、それが、今、実を結ぼうとしている事実は否定できないのではないか。

一方、日本人の生存と国家の存立を考えたときに、これから少なくとも数十年間の日中関係は、「偶発的局地戦」も視野に入れた神経戦、「日中冷戦」時代に入った。もはや「日米安保」に寄りかかって安心していられる状況ではない。
著者は、現在の日本の防衛政策について、以下の提言をする。
「憲法改正」は自明の前提であるが、少なくとも次の三条件が必要である。「日本の核武装(核ミサイルを搭載した原子力潜水艦の配備)」「日米安保の強化」「最低限の中国との友好関係」。
それに加えて、日本が、今後、「台湾を守るのか」という問題は「現在のシーレーンの確保を日本経済の生命線と捉えるのか」ということと結びついている。受け身でいれば、「中華民国・台湾」は中国に吸収されるだろう。それで本当にいいのかという問題がある。
「尖閣防衛」で事足りる問題ではない。今からでも遅くはないから、宮古島や西表島、尖閣諸島に自衛隊を配置しなければならないと著者は説く。何より日本にも「積極的な中長期的海洋戦略」と「機動的な海上戦力」が必要なのである。
考 えて見れば、1980年代には「シーレーン防衛」は常識であった。それがなし崩しに中国海軍に浸食され、日本の政策が後手後手にまわっている。このことが 本当の危機である。日本が毅然として臨めば、中国からはありとあらゆる罵声が浴びせられ、同時に国内メディアからは「危険な賭」と中傷されるだろう。しか しそこで萎縮すれば、「日本」という国家は無くなってしまう。永遠に変わらない繁栄など無い。中国の属国になって生きることができない以上、「日本」が生 きるか死ぬかの覚悟が必要なのだ。

さて、平松氏の研究方法「平松メソッド」については、直接本書をお読みいただくことが最も効果的だろ う。氏が書かれていることの一例を挙げれば、「人民日報」と「解放軍報」の精読である。基本はこの二つの「一次資料」の徹底的な読み込みである。もちろ ん、著者の履歴や研究歴の中に著者の独自性を育む要因があったことは言うまでもない。著者の個人的履歴も披瀝されていてまことに興味深いものがある。

コメント このレビューは参考になりましたか?

1 人中、1人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
 
投稿者 まちゃまちゃ 投稿日 2014/7/29

 中国軍事の専門家である著者が、どうやって中国を分析してきたかという方法論がまとめられていて非常に興味深い。こういったテーマでまとめられた本は非常に珍しいと思う。
  著者の研究方法は一言で言えば非常にオーソドックス。秘密情報の取得や独自の情報ルートなどを模索せずに、新聞をはじめとする公開情報をコツコツと収集 し、行間に書かれていることを読み解き、パズルを一つずつはめていくことで、中国の目指している方向を導き出して行っている。それはまさに職人の如くであ る。情報に踊らされる学者や評論家が多い昨今、こういった職人的研究者は貴重であろう。
 専門家や研究者は自分独自の方法で事象を分析しているので、著名な人物のメソッドをシリーズ化したらと思う。