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アマゾンレビュー:八幡和郎「本当は分裂は避けられない!? 中国の歴史 (SB新書)」

2016年08月28日 | 書評


アマゾンレビュー:八幡和郎「本当は分裂は避けられない!? 中国の歴史 (SB新書)」

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『分裂』云々よりも殷王朝から共産党王朝までの歴史概論. 投稿者 LAW人 #1殿堂トップ50レビュアー 投稿日 2015/4/19

形式: 新書
八幡氏の著書は何冊か読んでいるが、本書のタイトルは本書 の趣旨を正しく表象していない。著者は「はじめに」において、「本書のタイトルですが、中国が分裂してくれた方が良いという意味ではありません……史上最 大級の巨大国家でありながら、脆弱性をもった中国の将来が心配……中華国家と中国人を客観的にとらえよう」とする意図を吐露している。概ね時間軸に沿った 中国の歴史を客観的に綴っているものと言うべきで、タイトルや右に言う「脆弱性」の懸念に示唆されるような「分裂」の蓋然性を明確に論じるものではない。 率直な私見を言えば、中国史におけるいわゆる王朝と諸民族の“合従連衡”の繰り返しの歴史性をして、「分裂」の歴史的潜在性を指すものと観るべきか些か迷 うところでもある。けだし著者は「エピローグ」において、「中国などとは関わらない方がよいなどというのはとんでもない暴論……両国の世界における立ち位 置が変わり過ぎて混迷し、互いに気まずくなっている……日本経済が再び活性化すれば、日中関係も自然とよくなる」等とした、(私見では)些か楽観論を展開 しているからである。中国のこのところの“海洋覇権”主義(海軍装備の増強、東・南 シ ナ 海問題ほか)などを鑑みれば、事態は著者の言うほど単純な経済情況で片付くものではないと考える。本書はかかる中国外交・政治論ではないのでこれ以上の右 「エピローグ」の是非は措くとして、殷王朝から共産党王朝までの歴史概論というスタイルである。構成・内容はこのページの「商品の説明」及び「目次を見 る」に譲り、以下個人的に興味を惹いたトピックを紹介したい。

まず全体的に(著者は歴史研究系の履歴は見えないが)、他書にも見えるが (近現代史は格別)史資料の考証・参照に不充分な傾向がある。具体的には、著者の推論・論説においては如何なる史資料に依ったものか、たとい本書が歴史概 論であっても重要トピックでは明示すべきであろう。私が通読する限り、珍説・俗説はないように見えるが、例えば日本人のルーツ論(59〜62頁など)で は、最近のDNA分析による弥生人と縄文人との関係の研究結果(学説)にも言及した方が良いだろう。他方興味深いのが「志 那」の語源(23頁以下)、当事国の意思は別論としても「差別用語」のように扱うのは著者と全く同感である。現に海洋名(東・南)に用いられていることと 整合性が取れない。また「夏王朝」と「二里頭遺跡」(文化)の関連性など議論のあるところだが、懐疑的な筆致はほぼ有力説に従っているが、依拠資料等が明 示されれば説得性の増す論説だろう(52〜55頁)。元王朝(モンゴル民族)の評価についても興味深く、宮崎正勝氏の近著(『空間から読みとく世界史』) と同旨で「モンゴル帝国」の果たした世界史的意義ーー中国・ロシア・インドといった広域における歴史起源性ーーを説いている(160頁以下)。尤も宮崎氏 はより広い「モンゴル帝国」の歴史的意義を考察しており詳しい。本書における著者のスタンスは客観的(中立的)と観て良いだろうが、前記「エピローグ」は 別論として、史資料考証の不充分と近現代史にボリュームの薄さを感じるが、歴史概論としては要所を重点にしており読みやすいと思う。
 
 

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