スポイチ編集長日誌

最近はGTAオンラインの攻略ばっかりです。
日付そのままで修正・追記したりします。

論文とブログしか書いたことがない人のための「書籍原稿の書き方」

2010年01月24日 | その他
最近はやたらと「今年は電子書籍元年」ということが言われていて、既存の出版社よりもAmazonが著者に保証する印税率のほうが高く設定される予定なので、電子書籍前提でAmazonで本を書けば出版社の中抜き分が無くなるからお得だよ~、みたいな話も出たりしていますね。
こういうニュースがたくさん出て来ると、「よーし私も電子書籍でベストセラーを書いて印税生活でウハウハしちゃうぞー」てなことを考えてる人もきっといることと思います。

だが、ちょっと待って欲しい。

本を書くには、ブログや論文とはまた違った、いくつかの約束事があります。
その約束事というのは、内容としては、「日本語の書き方」「文章の書き方」みたいな本や、「編集必携」みたいな本に出ているので、知っている人はたぶんもう知っていることだと思います。

が、自費出版レベルでなく、商業ベースで実際に書店に並ぶ本などを見ても、約束事が分かっていない、あるいは堂々と無視している、または約束事を無視した原稿を苦心して書籍レベルに仕立てたのではないかと思われる本が結構あります。

一方、今後、電子書籍が普及したら、そこら辺の泡沫ブロガーとか、自分のニッチな研究の過程をネットで細々と発表している大学院生などにも執筆依頼が来るかもしれません。
そういう時に、「書籍用の原稿に要求される約束事」が分かっていれば、原稿の修正(校正)も、内容に関する部分に集中でき、結果として校正期間も短縮できますので、そういった「分かっている」書き手には執筆依頼も集中するかもしれません。

それ以前に、「まずは分かりやすい文章を日本語で書きたい!」という人は、『日本語の作文技術』などの本でも読んでください。参考になります。


では、以下に論文とかブログしか書いていない人が、書籍用の原稿を執筆するときに意識しておくとよい点を挙げていこうと思います。
なお、ここでの書籍執筆とは、主に「ビジネス書・参考書」等の実用書の原稿を念頭に置いていますので、小説、随筆、エッセイ等の執筆には必ずしも当てはまらない部分があります。


1.本はページ単位で作られている
当たり前だと思われるかもしれませんが、本には「ページ」というものがあります。
本を読む人は、1ページを読み終わると、ページをめくって次のページへと進みます。このプロセスは電子書籍においても基本的に変わりません。
当然の話のようですが、ブログなどのネットの文章では、ページを分けていないことも多いですし、また、どこでページを分けるかも、サイト作成者の気分次第ということもよくあります。ネットでは「1ページあたりの分量」は決まっていないのです。
論文の場合も、「なりゆきで改ページする」のが普通ですし、しかも最近はPDF等の電子データ化が前提だったりするので、改ページ箇所をいちいち意識しながら論文を書くという人はあまり居ないと思います。

ですが、本を書く場合は、ページという単位を意識しておく必要があります。
ブログ・論文と、書籍との間のこういった違いは、割りと軽視されがちです。


2.本は「見開き」で考える必要がある
本は基本的に「見開き」で構成されます。
「見開き」というのはつまり、左右2ページで1単位ということになります。
ということは、タテ書きなら右ページから、ヨコ書きなら左ページから始まるということです。
ページの途中から章や節が始まることはありませんし、ページの末尾に章タイトルや見出しが来ることもありません(後述)。
また、書籍によってはページの頭に必ず見出しが入って、文章の開始位置も置かなければいけない場合があります。
さらに、「2ページで1単位」なので、校正の途中で1ページ分だけ原稿を追加した場合、以降のページは左右がズレることになります。これは校正の時に覚えておくべきポイントです。


3.ブログや論文と、本の違いを意識しないで執筆すると、大抵こうなる
では、ここからは例をあげていきます。
「ブログや論文しか書いたことがない」という人が書籍用の原稿を書いて、そのまま本のフォーマットに組版すると、まずだいたい次のようになります。

その1、パラグラフやセンテンスの分量がバラバラ
たとえば以下のような場合です。

―――――――――――――――――――――――――――――――

第○章

1節

 長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文長い本文……(中略)本文終わり。

2節

 本文ほんのちょっと。終わり。

―――――――――――――――――――――――――――――――

こういう文章があったとしても、これ自体は間違いではないですし、ブログや論文ならありがちな構成ですが(論文であっても、たぶん指導教官からの注意を受けると思いますが)、本にすると一気に素人くさくなります。
同様に、パラグラフの「数」が多い章と少ない章との差が極端にありすぎるのも、あまり好ましくありません。章によってパラグラフ数のバラつきが大きい場合は、何より目次が激しくかっこ悪くなります。ネット書店が普及し、電子書籍が一般化しようという時代には、目次の見栄えは結構重要です。
特に、結論やその根拠について説明している部分が、他の部分よりも異常に短かったり尻切れトンボだったりすると、内容云々以前に「構成が下手」という評価につながり、結果として主張自体の信ぴょう性にも関わります。

もちろん、内容によってはパラグラフの分量や数にばらつきが出ざるを得ない場合もありますが、基本的には一部分に分量が偏り過ぎないようにしたほうが、構成が玄人っぽくなります。


その2、「ページの末尾に見出しが来る」

これは、やってはいけないページ構成の基本として知っている人も多いと思いますが、つまり以下のような場合です。

―――――――――――――――――――――――――――――――
ページ開始


…本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。


次のセンテンスの小見出し
―――――――――――――――――――――――――――――――
改ページ
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 ここから本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。……


↑このような構成は、NGとされます。
さすがに市販されている本では、こういう構成はあまり見かけませんが、執筆直後の原稿を書籍のレイアウトに当てはめると、たとえ執筆者が完全原稿だと思っていてもこういう部分が出てきます。

さっきも書いたように、論文やブログというのは、基本的にはひと続きのテキストデータとして扱われるので、
「どこで改ページするか?」
なんてことは全く気にしなくても書けるのです。
しかし、書籍の場合は、改ページ位置を考えて文章をつくるということも、時には必要になります。


その3、「1文字あふれ」

これも有名なNGパターンです。つまり以下のような場合です。

 本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文です。本文で
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改ページ
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す。

以下空白






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改ページ
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↑このような、「1文字だけ次のページに送って、そのページは以下空白」という状況になってしまう場合は、編集で文字詰めを調節して前ページに収めるか、文章を削って対処する場合がほとんどです。

編集とか書籍作りに関する本を読めば、上のような「1文字あふれ」や、「1行あふれ」で空白の多いページができてしまうのは避けるべき、ということが書いてあるはずです。
しかし、1文字ではなく、「1行あふれ」程度の場合は、そのまま「1行だけ送ってあとは空白」というページを平気で作っている本も結構あります。文字数調整がめんどくさかったのか、あるいは「ページ数水増しすれば印税ウマー」という誤解が著者にあったのかもしれませんが、単行本の印税は「1冊の販売価格につきいくら(%)」で決まる(版元との契約内容による)ので、無駄な改行や、大きな文字を使いまくる小細工で著者がページ数を稼ごうとしても意味は無いです(ただし、ページ数が増えれば当然、販売時の定価にも反映されるので、執筆時よりも販売価格が上がれば印税も上がる可能性はあります。もっとも、販売価格が上がれば当然売れにくくなるのでマイナスになることもありえます)。


他にも「約束事」はいっぱいあるのですが、書籍のジャンルや形式によっても違いますし、普通は書籍の体裁や「1行あたりの文字数×1ページあたりの行数」などについて、版元や担当編集者から細かい指示がなされるはずです。
まあ、思いついたら追記するかもしれません。

ですが、論文やブログしか書いたことのない人は、おそらく「そんなの意識してたら書けない」という状態になってしまうと思います。
そのあたりをサポートするのが優れた編集者の役割なんだろうなと思います。
編集というのは、著者が絞り出して作り出して育て上げてきた、生の原稿というカタマリ肉を、ページという一つ一つの箱の中に、見栄えよく、お客さん(読者)に分かりやすいように整形して押し込んで、一冊の書籍という商品に仕立て上げる作業だと言えます。


では最後に、「ブログやネット上で活動していて、これから新たに執筆依頼が来そうな人」とはどんな人かを考えたいと思います。

どんな書き手が書籍執筆に向いているか、なんてことは一概には言えませんが、
「身元や経歴が明らかで、何かしらの専門分野を持っていて、その方面に関する知識が深い人」
は強い、ということは確実に言えるでしょう。
「分かりやすい」文章が書けるにこしたことはありませんが、文章がうまいかどうかは基本的にあまり重要ではないです。
逆に、「徒然なるままに政治社会芸能音楽スポーツ等なんでも語る匿名ブログ」みたいなのは、どんなに内容が面白かったとしても書籍にはしずらいと思います。

また、ネットやメールは必須として、
「簡単な図やグラフ、絵コンテぐらいなら自分でちゃっちゃと作れる人」は確実に重宝されるでしょう。
同様に、「上記の目的のためにExcel、PowerPointを使える人」も有利。
一方、手書きの汚い字超達筆で「オレの文章いじるな(修整するな)」なんてのが許されるのは文学系の売れっ子だけです。

あと、意外かもしれませんが、Wordの機能をフル活用する必要はないです。
なぜかというと、ワードのデータはそのまま書籍作成用のデータにはならないからです。ふつう書籍の編集には専用の「レイアウトソフト」が使用されていますが、これにはワードなどのアプリケーションからテキストのみを抜き出して、レイアウトソフト上に貼り付ける(流し込み)という工程を経ます。
よって、ワード上で注釈機能やらスタイルやらを使いまくった原稿を仕上げても、あまり意味は無いです。

極端に言えば、「スタイルバリバリ、注釈バリバリな俺ルール.docx」よりも、「内容がきちんとしていて文字数の揃った.txt」のほうがよほどマシなのです。

たまに、ワードのテキストボックス機能を使って"完全原稿もどき"を作っている人を見かけるのですが、いくらワード上で「デザイン」しても編集用のレイアウトソフトのデータとはまったく互換性が無いので意味が無い(プリントアウト時のイメージ見本としてなら意味が無くはないが…)上に、ワードからのテキスト抜き出し時に余計な手間がかかるだけで、レイアウトソフトへのデータ移動時にテキストデータがトンでしまったり、あるいは逆に「執筆時に消したつもりでテキストボックスの余白に隠れていた余計な文章」が入り込んでしまったりと、トラブルの原因になるだけで誰にもメリットが無かったりします。


と、まあ、本を書くというのには、ブログや論文を書くのとはまた違った約束事に基づいためんどくささがあります。
でも、その約束事を「知って」いて、最初から書籍独特の約束事に則った原稿を作ることのできる人ならば、おそらく重宝され、うまくいけば執筆依頼殺到で印税ウハウハで講演依頼殺到なんてのも夢ではないと思います…。



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