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「遠慮することはないわ! 焼きつくしなさい!」
アーニャの号令で、ドレイクは大きく息を吸い込んだ。
「あー、んもう、あっついわね!」
白い上着を脱ぎ、中のブラウスを腕まくりしている。
さらには「ちょっとあっち、向いていなさい」
とストッキングも脱ぎ、上着とまとめて岩陰に隠していた。
まるで炎の精霊が暴れているかのような暑さの前に、アーニャは召喚する気ゼロっぽいし……
アーニャが僕の肩に乗り、窓からこっそりと覗く。
口には出せないけど、意外と重い……
「ど……どう? なにが見える?」
「ブルタスクだっけ? そいつらがいっぱいいるわ」
「何匹くらい?」
「ブタがブタを飼うとか、悲しくならないのかしら」
一匹の泥竜を見つけることが僕らの任務なんだけど……
ドロドロの沼を前に、僕らは途方に暮れていた。
「私は剣の中にいる。危機になったら呼ぶように」
「ああー! ずるいわよ、ドラジェ!」
消えるドラジェに対し、残されたアーニャの抗議の声。
「じゃあ、あたしは飛竜で空から調べることにする」
「くそ、アーニャのヤツ、逃げやがった。結局は男三人で汚れ作業かよ。はあああ、めんどくせえ」
僕はこの展開、予想してたけどね。
「うほ! いい泥竜! 見つけましたぞ!」
モンブランの指さす先。
巨大な大地色のドラゴンがこちらの様子をうかがっていた。
「確認もせずに襲ってくるなんて、どうかしてるわ!」
「いえ、でもライカの一族は人間の召喚術師を味方につけたって報告がありましたし……」
アーニャはあんまり人のこと言えないんじゃないかな。
「先手必勝だな! 強襲兵! 構え!」
隊長の命令で、幾人ものバードマンたちが槍の穂先に毒を塗り始めた。
「いや、ちょっと待ってよ! だから僕らは──」
そう言い掛けた僕の口を、アーニャが押さえつける。
「ほっとくのよ、ラインズベルが負けるはずないもの」
それはまるで風の精霊のいたずらか。
アーニャの赤いフレアスカートがめくれあがる!
「ナイスですぞ! ブリオ殿!」
「え? いや、ちが……」
そんなセリフ言っちゃったら、僕がやったみたいになっちゃうじゃないか!
ロックのあまりの大きさに、僕はぽかーんと口を開けていた。
青い瞳がなんとも素敵。
「でかいからってなによ! あたしだってゲオルギウスを召
喚すれば──」
「なに言ってるんだ、アーニャ。ボケてんのか? あいつはこないだ、休眠期に入ったじゃねえか」
「アーニャ、ここからは歩きだ。足は大丈夫か?」
動かなくなったアイドルを踏みにじり、ラインズベルがあたしの心配をしてくれる。
余計なお世話だけど。
モンブランはくるくると空中で回転した後、まるでムササビのようにマントを両手両足を使って広げ──
「げ! こっちこないでよ! エロぐるみ!」
わざわざアーニャの胸元めがけて飛び込んだ。
あたりに響きわたる、アーニャの悲鳴に似た声。
それは当然、周囲にいる暗殺者にも聞こえるわけで。
「イライラしたときとか、興奮したとき、なんでもできるような気がするでしょ? それがこの呪文の源なの」
「これは、依頼どころの話ではなくなってきましたな!」
「でも依頼は依頼よ! あたしは意地でもライカに会って、連合加入に調印してもらうわ!」
こういうとき、アーニャの強い信念はかっこいいと思う。
まるで純粋な妖精かなにかのように、懇願するアーニャの大きな目は、卑怯だと思う。
「ねえ、いいでしょ?」
「わかったよ。この唐揚げはアーニャにあげる」
「きれいな蓮! それにこんな大きいの初めて見たわ」
「近づいちゃダメだよ、アーニャ! そいつは……」
アーニャが不思議そうな表情で僕に振り返ったそのとき、巨大な白い蓮の花びらが、大きな拳のように──
「空を得意としているのは、なにもキミだけではないってことだよ、竜騎士くん」
「なるほど、ヒポグリフってわけか! ――アーニャ、振り落とされんなよ!」
「あのギャルとナイスガイをくっつけるですねー!」
「あれはアーニャとアレックスだよ、違うって!」
「ぽっくんの愛の矢はすごいですよー! えーい!」
騎兵の砲撃が、アーニャの竜を撃ち落とす。
それは珊瑚色のアザラシたちがくつろぐ、南西の楽園。
「なんであたしが、あんな恥ずかしい格好……」
「お願いだよアーニャ。ヴァローカに入るためには、アーニャに巫女になってもらうしかないんだよ」
精強なる人馬の騎兵を見て、アーニャがぼそり。
「ケンタウロスなのに、騎兵っておかしくない? 騎乗している兵だから、騎兵って言うのよね?」
翼を持った蛇……という印象が強いその生物は、大きな頭をアーニャのほうにすり寄せてくる。
「そっか、この子もドラゴンなのね」
「昔はワイアームの竜騎士もいたって話だ」
「アーニャ殿の影にはこやつを忍ばせてくだされ」
「墓所を守護しているのは、死神騎士団だよね。であるなら、オシリス王があそこにいる確率は高いね」
「正面から行くわけにも行きませんし……弱りましたな」
アーニャがいなくて、本当に良かったと思う。
「そう、あの子たちもガンロックの一族。太古の巨神を護るトロールの亜種族よ!」
アーニャはそう叫ぶと同時に、召喚の門を開く。
「どうする気!? まさか戦うつもりじゃないよね?」
「うげえ、あれってミミズよね?」
ウォームの姿を見て、露骨にイヤな顔をするアーニャ。
「あたし、ああいう足のないのとか、パス。ブリオ、キミがなんとかしなさい。これ、師匠の命令よ」
「バードマンの一族の中には、雷神を信仰する変わった部隊がいると聞いたことがありますな」
「あいつらがアーニャのカバンを盗んだやつらか」
言うが早いか、ラインズベルが飛竜に乗って空に舞う。
「ぐふふふ、ではアーニャ殿。この薬をお飲みくだされ」
「行くわよ、アスモデウス。ここにもう用はないわ」
「ちょっとキミ、待ちなさいよ!」
剣の魔神の肩に乗って空に舞う少女を追うため、アーニャが大いなる翼の飛竜を召喚する。
大天使の振りかざした巨大な剣を、アレックスが見事な回し蹴りでたたき落とす。
「ここはワイにまかせんかい! ブリオちゃんはさっさと胸なしちゃんを助けにいったりや!」
「みなぎってきたでえええええ!!」
アーニャの唱えた呪文に、アレックスの目が血走る。
「しかしまた、土の呪文を覚えたいとは……」
「アーニャが火だからね、僕は守りを固めようかと」
恐る恐るこちらを伺っていたのは、黒いキツネだった。
「かわいい! 黒いキツネなんて珍しいわね! こっちおいで!
るーるるるー」
「おい待てアーニャ! ここはキツネの里だろ、もう少し警戒したほうが……」
「ここは僕に任せて! アーニャはみんなを!」
たまにはかっこいいところを見せなきゃ。男だし。
「前から思ってたんだけどよ、アーニャ。 ドラゴンとトカゲの違いってなんだ? 見た目はかわんねえよな」
「キミねぇ、飛竜に乗ってるくせに、そんなこともわからないの? 可愛いのがドラゴン、それ以外がトカゲよ」
「……なあ、アーニャ。あれもドラゴンなのか?」
「そうよ多頭竜! 爬虫類じゃこうはいかないわ」
「その呪文は……アーニャいつの間に聖呪文も?」
「あたしだってサボってたわけじゃない。ブリオ、反撃!」
「バステトなのにどうして火も使うの?」
「清らかなる聖、勇気ある火。これらが重なっての獅子です。 アーニャ殿のイメージも近いですな。きっと気が合うと思いますぞ」
「そうだね。アーニャはドラゴンだと主張しそうだけど」
「ほむほむ。オマエが、黄金熊の言っていた、召喚術師だね。 話は聞いている、ささ、急ごう」
「ペ、ペンギンがしゃべってる……」
「ぬいぐるみが饒舌な時代に何を驚くのだ、竜姫」
「アーニャ、気をつけて。この村の人全部……」
「うん、みんなやられちゃってるわね」
「リーダー格が来た! アーニャ、いったん引こう!」
「アーニャ! 僕がここは聖なる盾で防ぐ!」
「火のエナジーに対する、土のオーラってわけね!」
「左様です、竜姫様」
「僕が水呪文を勉強すれば、アーニャとの連携でできることが増えるってことか。……がんばらなくちゃ」
「アーニャ、この呪文のカードを使って、早く!」
「水の呪文? あたしの趣味じゃないけど」
風切蟲が舞う中、大いなる存在――空に滲むようにドラゴンがゆらり姿を現す。
「あたしはシルヴィアの血を引く者、アーニャ! 風神竜
ベオウルフ、話を聞いて!」
「胸を張りなさい、キミの爆撃は無敵なんだから!」
アーニャの号令で、ドレイクは大きく息を吸い込んだ。
「あー、んもう、あっついわね!」
白い上着を脱ぎ、中のブラウスを腕まくりしている。
さらには「ちょっとあっち、向いていなさい」
とストッキングも脱ぎ、上着とまとめて岩陰に隠していた。
まるで炎の精霊が暴れているかのような暑さの前に、アーニャは召喚する気ゼロっぽいし……
アーニャが僕の肩に乗り、窓からこっそりと覗く。
口には出せないけど、意外と重い……
「ど……どう? なにが見える?」
「ブルタスクだっけ? そいつらがいっぱいいるわ」
「何匹くらい?」
「ブタがブタを飼うとか、悲しくならないのかしら」
一匹の泥竜を見つけることが僕らの任務なんだけど……
ドロドロの沼を前に、僕らは途方に暮れていた。
「私は剣の中にいる。危機になったら呼ぶように」
「ああー! ずるいわよ、ドラジェ!」
消えるドラジェに対し、残されたアーニャの抗議の声。
「じゃあ、あたしは飛竜で空から調べることにする」
「くそ、アーニャのヤツ、逃げやがった。結局は男三人で汚れ作業かよ。はあああ、めんどくせえ」
僕はこの展開、予想してたけどね。
「うほ! いい泥竜! 見つけましたぞ!」
モンブランの指さす先。
巨大な大地色のドラゴンがこちらの様子をうかがっていた。
「確認もせずに襲ってくるなんて、どうかしてるわ!」
「いえ、でもライカの一族は人間の召喚術師を味方につけたって報告がありましたし……」
アーニャはあんまり人のこと言えないんじゃないかな。
「先手必勝だな! 強襲兵! 構え!」
隊長の命令で、幾人ものバードマンたちが槍の穂先に毒を塗り始めた。
「いや、ちょっと待ってよ! だから僕らは──」
そう言い掛けた僕の口を、アーニャが押さえつける。
「ほっとくのよ、ラインズベルが負けるはずないもの」
それはまるで風の精霊のいたずらか。
アーニャの赤いフレアスカートがめくれあがる!
「ナイスですぞ! ブリオ殿!」
「え? いや、ちが……」
そんなセリフ言っちゃったら、僕がやったみたいになっちゃうじゃないか!
ロックのあまりの大きさに、僕はぽかーんと口を開けていた。
青い瞳がなんとも素敵。
「でかいからってなによ! あたしだってゲオルギウスを召
喚すれば──」
「なに言ってるんだ、アーニャ。ボケてんのか? あいつはこないだ、休眠期に入ったじゃねえか」
「アーニャ、ここからは歩きだ。足は大丈夫か?」
動かなくなったアイドルを踏みにじり、ラインズベルがあたしの心配をしてくれる。
余計なお世話だけど。
モンブランはくるくると空中で回転した後、まるでムササビのようにマントを両手両足を使って広げ──
「げ! こっちこないでよ! エロぐるみ!」
わざわざアーニャの胸元めがけて飛び込んだ。
あたりに響きわたる、アーニャの悲鳴に似た声。
それは当然、周囲にいる暗殺者にも聞こえるわけで。
「イライラしたときとか、興奮したとき、なんでもできるような気がするでしょ? それがこの呪文の源なの」
「これは、依頼どころの話ではなくなってきましたな!」
「でも依頼は依頼よ! あたしは意地でもライカに会って、連合加入に調印してもらうわ!」
こういうとき、アーニャの強い信念はかっこいいと思う。
まるで純粋な妖精かなにかのように、懇願するアーニャの大きな目は、卑怯だと思う。
「ねえ、いいでしょ?」
「わかったよ。この唐揚げはアーニャにあげる」
「きれいな蓮! それにこんな大きいの初めて見たわ」
「近づいちゃダメだよ、アーニャ! そいつは……」
アーニャが不思議そうな表情で僕に振り返ったそのとき、巨大な白い蓮の花びらが、大きな拳のように──
「空を得意としているのは、なにもキミだけではないってことだよ、竜騎士くん」
「なるほど、ヒポグリフってわけか! ――アーニャ、振り落とされんなよ!」
「あのギャルとナイスガイをくっつけるですねー!」
「あれはアーニャとアレックスだよ、違うって!」
「ぽっくんの愛の矢はすごいですよー! えーい!」
騎兵の砲撃が、アーニャの竜を撃ち落とす。
それは珊瑚色のアザラシたちがくつろぐ、南西の楽園。
「なんであたしが、あんな恥ずかしい格好……」
「お願いだよアーニャ。ヴァローカに入るためには、アーニャに巫女になってもらうしかないんだよ」
精強なる人馬の騎兵を見て、アーニャがぼそり。
「ケンタウロスなのに、騎兵っておかしくない? 騎乗している兵だから、騎兵って言うのよね?」
翼を持った蛇……という印象が強いその生物は、大きな頭をアーニャのほうにすり寄せてくる。
「そっか、この子もドラゴンなのね」
「昔はワイアームの竜騎士もいたって話だ」
「アーニャ殿の影にはこやつを忍ばせてくだされ」
「墓所を守護しているのは、死神騎士団だよね。であるなら、オシリス王があそこにいる確率は高いね」
「正面から行くわけにも行きませんし……弱りましたな」
アーニャがいなくて、本当に良かったと思う。
「そう、あの子たちもガンロックの一族。太古の巨神を護るトロールの亜種族よ!」
アーニャはそう叫ぶと同時に、召喚の門を開く。
「どうする気!? まさか戦うつもりじゃないよね?」
「うげえ、あれってミミズよね?」
ウォームの姿を見て、露骨にイヤな顔をするアーニャ。
「あたし、ああいう足のないのとか、パス。ブリオ、キミがなんとかしなさい。これ、師匠の命令よ」
「バードマンの一族の中には、雷神を信仰する変わった部隊がいると聞いたことがありますな」
「あいつらがアーニャのカバンを盗んだやつらか」
言うが早いか、ラインズベルが飛竜に乗って空に舞う。
「ぐふふふ、ではアーニャ殿。この薬をお飲みくだされ」
「行くわよ、アスモデウス。ここにもう用はないわ」
「ちょっとキミ、待ちなさいよ!」
剣の魔神の肩に乗って空に舞う少女を追うため、アーニャが大いなる翼の飛竜を召喚する。
大天使の振りかざした巨大な剣を、アレックスが見事な回し蹴りでたたき落とす。
「ここはワイにまかせんかい! ブリオちゃんはさっさと胸なしちゃんを助けにいったりや!」
「みなぎってきたでえええええ!!」
アーニャの唱えた呪文に、アレックスの目が血走る。
「しかしまた、土の呪文を覚えたいとは……」
「アーニャが火だからね、僕は守りを固めようかと」
恐る恐るこちらを伺っていたのは、黒いキツネだった。
「かわいい! 黒いキツネなんて珍しいわね! こっちおいで!
るーるるるー」
「おい待てアーニャ! ここはキツネの里だろ、もう少し警戒したほうが……」
「ここは僕に任せて! アーニャはみんなを!」
たまにはかっこいいところを見せなきゃ。男だし。
「前から思ってたんだけどよ、アーニャ。 ドラゴンとトカゲの違いってなんだ? 見た目はかわんねえよな」
「キミねぇ、飛竜に乗ってるくせに、そんなこともわからないの? 可愛いのがドラゴン、それ以外がトカゲよ」
「……なあ、アーニャ。あれもドラゴンなのか?」
「そうよ多頭竜! 爬虫類じゃこうはいかないわ」
「その呪文は……アーニャいつの間に聖呪文も?」
「あたしだってサボってたわけじゃない。ブリオ、反撃!」
「バステトなのにどうして火も使うの?」
「清らかなる聖、勇気ある火。これらが重なっての獅子です。 アーニャ殿のイメージも近いですな。きっと気が合うと思いますぞ」
「そうだね。アーニャはドラゴンだと主張しそうだけど」
「ほむほむ。オマエが、黄金熊の言っていた、召喚術師だね。 話は聞いている、ささ、急ごう」
「ペ、ペンギンがしゃべってる……」
「ぬいぐるみが饒舌な時代に何を驚くのだ、竜姫」
「アーニャ、気をつけて。この村の人全部……」
「うん、みんなやられちゃってるわね」
「リーダー格が来た! アーニャ、いったん引こう!」
「アーニャ! 僕がここは聖なる盾で防ぐ!」
「火のエナジーに対する、土のオーラってわけね!」
「左様です、竜姫様」
「僕が水呪文を勉強すれば、アーニャとの連携でできることが増えるってことか。……がんばらなくちゃ」
「アーニャ、この呪文のカードを使って、早く!」
「水の呪文? あたしの趣味じゃないけど」
風切蟲が舞う中、大いなる存在――空に滲むようにドラゴンがゆらり姿を現す。
「あたしはシルヴィアの血を引く者、アーニャ! 風神竜
ベオウルフ、話を聞いて!」
「胸を張りなさい、キミの爆撃は無敵なんだから!」
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