若竹屋酒造場&巨峰ワイナリー 一献一会 (十四代目日記)

何が酒の味を決めるのか。それは、誰と飲むかだと私は思います。酌み交わす一献はたった一度の人間味との出逢いかもしれません。

アフターダーク 村上春樹

2004年10月03日 | 読んでる十四代目
アフターダーク

講談社

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僕はハルキストというほどではないが、彼の作品はよく読んだ。最初に読んで、そして今でも最も好きな作品は「中国行きのスロウ・ボート」。今でもたまに読み返す。この本を読んだのは確か83年だと思うけど、当時18歳の僕の日記を読み返してみると恥ずかしいほど村上調(のつもり)で心境を書き綴っている(笑)。「僕は毎日をプリズムの眼鏡をかけて過ごしている。何もかも纏まりのない映像の中を彷徨って足元が見えない」なんて。そんな日記を書いた18歳の僕を今の僕は恥ずかしくも微笑ましく思う…けど、ここはツッコミを入れないでクダサイ…(笑)。

「アフターダーク」は手に取ろうかどうか考えたけど、ちょうど飛行時間に読み切れるだろう、と思い買ってみた。羽田空港から福岡空港まで、きっちり1時間半で読み終えた。村上春樹は読み終える時間が読めるのがいい。深夜に読み初めても朝になることがないのがいい。初の長編「風の歌を聴け」から数えて25年目の作品ということで賛否両論あるようだけど、素直に読めた。僕の中にある村上春樹を楽しめたし、18歳の時の自分を思い出しもしたし。うん、今でも好きな作家だと言えるな。

一瞬の光 白石一文

2004年10月02日 | 読んでる十四代目
一瞬の光

角川書店

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福岡空港から羽田空港経由、常磐線で水戸まで。結構あるからちょっと厚手の文庫でもいいな。と、手にしたのがコレ。そういえば何か話題になったような気もする。そうだ、福岡出身の作家でデビュー作が文庫化されたって言ってたな。

著者の白石一文は58年生まれで福岡出身。現在も文藝春秋の編集者らしい。そういや「世界の中心で…」の片山恭一は59年生まれで、九州大学卒の福岡在住とか。んん?最近読んだ「パイロットフィッシュ」の大崎善生は57年生まれか。ここのところ何故かこの世代の作家のものを読んでいるなあ。スマッシュヒット作ではなくてロングセラーでじわりと売上が伸びたという点も似てる? あそうか。書店の「手書き風」オススメPOPで選んじゃってるんだ…。これはイカンかな…。

物語は文体に粗さは感じるものの、デビュー作としては充分な読み応え。ただ主人公像のせいで読者を選ぶような気はする。なにせ主人公は日本を代表する大企業(どう読んでも三菱重工?)で若くして充分以上の地位と権力を得ているハンサムで仕事の出来るオトコときているから。それでも人間の持つ情欲と愛とアイデンテティへの渇望や相克といったものが巧く織り成されていて面白かった。この作家なら他の作品も読んでみたいかな。


一年ののち  フランソワーズ・サガン

2004年09月25日 | 読んでる十四代目
 
今日のニュースでサガンが死去したことを知りました。享年69歳。ニュースで観た映像では、とても可愛らしい感じの人ですね。大好きな映画「ジョゼと虎と魚たち」で主人公ジョゼ(池脇千鶴)が大好きだった本がサガンの『一年ののち』です。サガンの3作目にあたる作品で、またジョゼを主人公とする三部作をサガンは著しています。

映画「ジョゼ虎」のシーン。
足の不自由な主人公ジョゼが愛読している『一年ののち』には続編がある。オバアがゴミ捨て場から拾ってくる本しか読んだことの無いジョゼは、続編がゴミ捨て場に捨てられるのを心待ちにしている。それを知った恒夫(妻夫木聡)が古本屋で続編である『すばらしい雲』を見つけてきてジョゼに渡す。切望していた本を一心不乱に読むジョゼがフト微笑みをこぼした。それを見た恒夫が「笑ったよ…」と嬉しげにつぶやく。

美味い朝飯を食いにかジョゼに対する好奇心か、しょっちゅう家に出入りしていた恒夫がジョゼに渡したプレゼント。恒夫はこの本、読んだのかな。ジョゼはこの本にも続編があるってわかったろうか。恒夫と別れてからもジョゼはこの本を読み続けたのかな。ひとりで外に出ること出来る様になったジョゼが、『失われた横顔』も読めていたらいいな。そんなことを想った。

F・サガンさん死去 仏ベストセラー作家 (共同通信) - goo ニュース

半落ち 横山秀夫

2004年09月01日 | 読んでる十四代目


講談社

半落ち
 
『このミステリーがすごい!2003年版』(宝島社)と『傑作ミステリーベスト10』で第1位を獲得、40万部を超えるベストセラーとなってたこの作品ですが、僕は横山作品は初めて読みました。

なぜ最近になって手に取ったのかというと、「骨髄バンク」がキーワードになっているからです。今年の6月に(社)浮羽青年会議所で「骨髄バンク支援事業」をしました。その事業のあと僕もドナー登録をしたのですが、そのときに調べた「日本骨髄バンク」のネットにあった「バンクニュース(23号)」でこの作品を知ったのでした。

物語は…妻殺しで自首した元警部が自供をするが、ある2日間だけその行動を黙秘し続ける。なぜ彼は事件に直接関与しない2日間について頑なに自供を拒むのか…、といった内容です。完全自供の「完落ち」に対して一部自供を取れない状態を「半落ち」というのですが、その2日間を巡っての人間模様を描いたミステリーというよりは社会派小説ですね。面白かったですよ。

実はこの作品、第128回直木賞の候補になってたのですが落選しました。落選の評を巡って横山氏が「直木賞決別宣言」をしたことでも話題になったもの。その経緯のほうが面白かったりして…。

夏の朝の成層圏 池澤夏樹

2004年08月31日 | 読んでる十四代目
 
スウリさんのコメントにもあったので今日は池澤夏樹。

僕が初めて読んだ彼の作品が「夏の朝の成層圏」(1984年9月:中央公論社)でした。淡々とした乾いた文体と精緻な構成が読むリズムをつくって気持ちよかった。その後の彼の作品にも良く出るモチーフ「南の島」にいる「精霊」との会話や、現代文明との同一性障害(笑)みたいな感じに惹かれましたね。当時18歳の僕は未だに大人になりたくなくて、無人島に漂着したらどうやって生活するか、なんて考えていたから、この本はとても愉しんで読んで(十五少年漂流記を読むトシでもなかったしな~)、その後すっかり考えさせられたのデシタ。

それ以来、好きな作家となった池澤夏樹なのですが、ちっとも作品が出なくて。いきなり88年に「スティル・ライフ」で芥川賞をとったから「ふふん、やはし」なんて思ったりして。彼の書評や評論が読める素敵なサイト「カフェ・インパラ」があります。

空中ブランコ  奥田英朗

2004年08月17日 | 読んでる十四代目
空中ブランコ

文藝春秋

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新刊も読みます。「直木賞」とか「芥川賞」とか、「このミステリーが面白い!」なんかは、とりあえず読みます。ミーハーですから(笑)。

で、本年度直木賞のこの作品、飛行機の中で読みました。破天荒な主人公、精神科医・伊良部が巻き起こす(巻き込まれる?)患者とのやりとりに現代社会のストレスを軽~く笑い飛ばす…といった内容でしょうか。

突拍子もない非現実的なキャラクターを破綻無く物語りにしちゃうところは作家の力量をすごく感じる…んだけど…そんな読み方をしちゃって余り笑えませんでした、ゴメンナサイ。書評には「爆笑!」と書いてあるんですが、ゲラゲラ笑うよりもクスリとくる程度じゃないかなぁ。

前評判を聞きすぎると期待感が強すぎて「素」で読めないんですよね、ゴメンナサイ。じゃあ「賞」モノ読むなよって…。

モモ~時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語

2004年08月16日 | 読んでる十四代目
モモ―時間どろぼうとぬすまれた時間を人間にかえしてくれた女の子のふしぎな物語

岩波書店

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ここ最近でもっとも楽しんで読んでいる一冊がこれです。

著者はミヒャエル・エンデ。エンデの作品では「はてしない物語」が映画化されてヒットしたので(ネバーエンディングストーリー)有名ですね。「モモ」も映画化されているようですが、観る気には…。

さて「モモ」ですが、小学生の頃に読んだと言う人も多いようです。僕は読んだことがありませんでした。読んでみたいと思ってたのですが機会のないまま大人になってしまいました。で、ちょっと前に「経営品質」を勉強している中の参考図書にこの本の名前があったのをきっかけに手に取りました。

こどもの頃に読んでおけば良かった!と思いました。そして今読めてよかった、とも。物語がとにかく面白いです。宮崎駿作品が楽しめる人は問題なく面白く読めるはず。その上で、チャップリンの「モダンタイムス」のような風刺と警告が感じられ、さらに「星の王子様」のように私たちの心の奥にある大切なものに深く気づかせてくれます。安易な効率化は結局全てを失わせる…。人と人との信頼関係や目に見えないもの、時間の意味…。

“時間どろぼう”と主人公モモの戦いは手に汗握るところですが、僕はジジがモモに語る物語とかの前半部分もかなりお気に入りです。切なくてホロリと涙が出てしまいました…。ここのところ泣いてばかりですね~。

世に棲む日日

2004年08月13日 | 読んでる十四代目
世に棲む日日 (1)

文芸春秋

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新撰組なら司馬遼太郎の「燃えよ剣」は良いデスよ。

司馬遼太郎は好きデス。学生の頃「竜馬が行く」ではまりましたが、同じような経験を持つ人は多いでしょうね。いくつも好きな作品がありますがその一つ、「世に棲む日日」は大好きです。もともと吉田松陰が好きだったのですが、この本を読んで高杉晋作のファンにもなりました。松蔭も晋作も「狂」という字であらわしたいほど、自分の生き方を貫いている。そんな姿に憧れずにいられません。

今の僕らと同世代の人間が世の中を転換するそのダイナミズムが時代を超えて幕末という時代を魅了するのでしょう。・・・が、みんな早死にしてますよね~。陽明学を学ぶものは早死にするってジンクスでもあるんじゃないかな。

先日、永松先輩とある会合でご一緒したとき車に同乗させていただいたら、車内に司馬遼太郎の「太閤記」が。ボロボロになって読み込まれた感があった。うれしいなぁ、こういうの。

青年は荒野をめざす

2004年07月16日 | 読んでる十四代目
 
沢木耕太郎の「深夜特急」といえばノンフィクション旅行記の傑作として名高い作品。86年に「深夜特急第一便・黄金宮殿」が刊行された時、僕は東京で学生してました。

それから6年後、92年に2ヶ月に渡る欧州バックパッキングに旅立つことになるのですが、そのきっかけの一つの本です。…ですが、それ以前より僕は「旅」が大好きでした。

小学1年生の時に田主丸から久留米まで(約20キロ)を自転車コギコギ行ったのが最初の旅かな。中学生の時にはやはり自転車で長崎市内から田主丸まで(120キロ)をツーリング。高校の時に親に黙って買った原チャリ(名車スズキ・マメタン)で九州内をツーリング。大学生になってからはバイク(愛車はカワサキGPZ)で日本全国を走り回りました。

92年に欧州に渡ろうとした時は、シベリア鉄道で行こうと計画していました。それは五木寛之の「青年は荒野をめざす」を読んでいたせいだと思います。

恵まれた家庭に育ったジュンはトランペッターを目指している。しかしあるライブハウスで「テクは申し分ないがお前の音にはソウルがない」と指摘されたジュン。音楽とは、SEXとは、人間とは?シベリア鉄道で北欧を目指す放浪の旅を通してジュンは自分自身を探し始める。旅することで少年は青年への階段を上っていく。そんなグローイングアップ・ストーリーです。ジュンの葛藤は僕の葛藤だったな。

若竹屋と作家たち

2004年07月13日 | 読んでる十四代目
深夜特急〈1〉香港・マカオ

新潮社

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田辺聖子さんといえば、昔、若竹屋に来られた事があるんですよ。その時の思い出を文章にして頂いたことがあります。「元禄の酒」という題です。

若竹屋にご縁のある作家の方は結構いらっしゃるのですが、鬼籍に入られている方も多くいます。いま若竹屋の母屋を開放している食事処「和くら野」においで下さると、フスマの落書きが飾ってあります。そこには火野葦平さんの落書きがあります。田主丸を愛し、河童を愛した火野さんがお仲間とこの座敷で酒を呑みながら夜なべ談義をした名残です。

火野葦平・劉寒吉・岩下俊作らとともに「九州文学」を支えた原田種夫も若竹屋について寄稿しています。

沢木耕太郎氏に依頼をされてお中元を贈ったことがありました(関わりがあると言うにはちょっと強引ですが)。

沢木耕太郎の代表作の一つといえば「深夜特急」ですよね。この本を読んだ多くの若者が貧乏旅行に旅立ったことでしょう。僕もその一人でした。

ジョゼと虎と魚たち

2004年07月13日 | 読んでる十四代目
ジョゼと虎と魚たち(通常版)

角川エンタテインメント

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小説を読んで映画は観たくない、と思っているのに「アレをどう映像化するんだろ」とつい観てしまう。それでやっぱり落胆して「カネ返せ~」と何度思ったことか…。

しかし!中にはあります!「いや、これは映画も凄い!」と思うのが。その一つが「ジョゼと虎と魚たち」。田辺聖子の原作です。田辺作品は独特の色気があって好きなのですが、この「ジョゼ虎」も田辺エロティシズムを充分に楽しめるものです(友人には「田辺にエロ?そんな感じ方オカシイ!」と言われたこともありますが)。本は短編集で他の作品もすごく面白い。映画は妻夫木クンと池脇千鶴が主演。

学生・恒夫と足の不自由な女の子・ジョゼが互いに惹かれあっていく過程や、ジョゼのシニカルなのに純情でヤラシイところや、喧嘩なのに可笑しなやりとり、など小説で描かれている雰囲気はそのまま映像になっている。新宿ミラノ座で観たあとに映画を勧めてくれた友人に興奮してすぐ電話しちゃいました。

爽やかで可笑しくてせつない上質のラブストーリーです。これは小説でも映画でも満足できます(DVDは8月6日の発売)

ジョゼと虎と魚たち 公式サイト

壬生義士伝

2004年07月12日 | 読んでる十四代目
壬生義士伝〈上〉

文芸春秋

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浅田次郎なら「壬生義士伝」もお勧めです。98年の作品です。今年は新撰組がブームみたいだけど、大河ドラマを見る暇はなく「ふ~んそうなの?」でした。映画はお勧めできません(良かったという人もいます)。というか、僕は小説を読んだ後に観た映画で楽しめたものがほとんどないんです。

近藤、土方、沖田、といった主要人物に焦点を当てた作品は多くあるけど、吉村貫一郎という隊士はこの作品が出るまではほとんど知られていなかったでしょうね。

幕末という時代に、遠く京を離れた家族を想いせっせと送金する主人公の姿は「最後の侍」を自認する新撰組隊士たちに「守銭奴」と蔑まれる。笑われ、軽んじられながらも彼が貫こうとした「義」とは一体何だったのか。人間の生き方として考えさせられます。

英雄でも傑物でもない主人公に時代と漢と生き方を語らせる。さまざまな語り部によって浮き上がる吉村の心情。やっぱり浅田次郎、泣かせられます。参りました。

天国までの百マイル

2004年07月05日 | 読んでる十四代目
天国までの百マイル

朝日新聞社

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浅田次郎のタイトルだけど、数年ぶりに読み返しました。友人と話題に出て、本棚にあったのは憶えていたけど話の筋は忘れてしまっていたのです。

「え~と、サエない中年男がお袋さんを病院に連れて行く話だよね?確かヤクザに使われてるチンピラで奥さんが中国人??ん?あれ??」なんて、同著者の「ラブレター」とごっちゃになってました。

で、久し振りに読み返し始めたのですが…、これがもう止まらなくて、結局この深夜まで一気に読み通し、涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃです。気持ちが治まらずにココに書き込む始末。

友人は「何も考えずに泣きたい時に読むのだ」と言っていたが、その読み方は正しい。文庫にもなっているし、浅田作品未体験の方はぜひご一読を。