1961年7月2日の録音から63年にもなろうとしているのに、
「Follow That Dream Recording Sessions」で録音された
ステレオマスターの多くが紛失した原因については
「Keith んとこ」などでも語られていません。
私などのように数十年前から「ステレオマスターの紛失」を
気にしている者もいれば、人工的にステレオ化された音源に
興味を持つファンもいるわけで、その人達向けに
MRS「Follow That Dream (In Living Stereo)」が発表されるようです。
今回なぜかMRSレーベルでのリリースを目立たせないような
発売前の宣伝をしている印象を持っているのですが気のせいでしょうか
さて、まずは現在知られている情報をまとめますと・・・
Follow That Dream Recording Sessions
1961年7月2日 ナッシュビルRCAスタジオ
M2WW 0873 | Angel |
---- ---- | Angel (vocal overdub - Binaural) |
M2WW 0874 | Follow That Dream |
M2WW 0875 | What A Wonderful Life |
M2WW 0876 | I'm Not The Marrying Kind |
M2WW 0877 | A Whistling Tune |
A Whistling Tune (w/ Ray Walker's Whistling) | |
M2WW 0878 | Sound Advice |
1.低予算映画
映画「Follow That Dream (夢の渚)」は
低予算作品だったのでサントラ録音はRCAに任され、
ナッシュビルRCAスタジオでレコーディングが行われました。
2.現在残されて(発見されて)いる録音テープは3種類。
ステレオミックス(別テイク + Angel (Take7) & A Whistling Tune (Take4))
モノラルミックス(RCAマスターテイク)
バイノーラル(「Angel」のLFS x2)
3.ステレオ・マスターの巻きつき
「Keith んとこ」には記されていませんが、一説には
ハサミで切り出したステレオミックスのマスターテイクを
1本に繋ぎ合わせたものの、テープリールに巻きついてしまい、
「Angel」以外のRCAステレオマスターが失われたとされています。
以上の情報をふまえ、考察を加えてみましょう。
a. ボーカル録音時に回されたレコーダーは、2台!?
レコーダー #1
2chレコーダーの1台は、ビル・ポーター技師の”名人芸”である
「ダイレクト・ステレオミックス」に設定され、
ここから切り出されたRCA向けのステレオマスターテイクが
リールに巻きついて、使用できなくなったのであろう。
レコーダー #2
結果的に、失われたステレオマスターテイクを
再生成できなかったということは
もう1台のレコーダーは、3ch以上録音可能な機器ではなく、
やはり2chレコーダーが使用されて、映画会社が求めた
バイノーラルの設定で回わされいたのではないでしょうか。
b.バイノーラル録音
現在残されて(発見されて)いるバイノーラル録音は
エルヴィスが歌うのを止めた「Angel」の2テイクだけであり、
この事実をヒントに想像を膨らさませてみます。
映画での使用目的から言えば、こちらがメインのテープになるわけですが
バイノーラル設定(ボーカル + 演奏・コーラス)でまわされて
「Angel」が、7テイクでマスターとなったあとにすぐ、
映画バージョンとして、テイク7の「演奏・コーラス」に合わせて
エルヴィスはあらためて「Angel」を歌い直すことになったのですが
エルヴィスが発したビル・ポーター技師への呼びかけ方「Bill !」の
ニュアンスからすると、その後のコメントはテープに残っていませんが
「どうして歌い直さなければならないのか?」の疑問が続いた気がするのです。
かくして映画バージョン向けの歌い直しは中止されて
ダイレクトに録音されたバイノーラル録音テープがそのまま
映画会社に引き渡されることになった。
従ってRCAに残されたバイノーラル録音は「Angel」のLFS x2だけと、
つじつまが合う話になります。
まあここまで「Bill !」のニュアンスから、「バークレー氏の想像力」が抑えきれずに
つじつまが合うストーリーを書いただけですから、「一説」と考えて下さい。
そして想像力は、さらに細かなストーリーを仕立てます。
c.生き残ったステレオマスター #1 : 「A Whistling Tune (Take4)」
「A Whistling Tune (Take4)」のステレオマスターが現存する理由は簡単で
テープリールに巻きついてしまったのは、The JordanairesのRay Walkerが吹いた
口笛を加えたRCA]マスターだったからです。
結局、映画「Follow That Dream (夢の渚)」はには使用されなかったので
引き渡されたバイノーラルテープに「口笛付きマスター」が入っていたのか
「A Whistling Tune (Take4)」だったのかは分かりません。
録音委託された楽曲だったので引き渡されなかった可能性は低いでしょう。」
「A Whistling Tune (口笛吹いて)」は、次作映画「Kid Galahad
(恋のKOパンチ)」に引き継がれて、再録音されることになりました。
d.生き残ったステレオマスター #2 : 「Angel (Take7)」
「Angel (Take7)」のステレオマスターが現存する理由について
私の頭には、3通りのパターンが思い浮かんでいます。
パターン #1 : 巻きつきを逃れた!?
映画「Follow That Dream (夢の渚)」で「Angel」は
映画の後半に使われていますので、録音委託時の楽曲リストでも
「Angel」が最後に掲載されていた可能性がありますが
エルヴィスのレコーディング・セッションに見られる傾向として
エルヴィスが「歌いたい・歌うべき」などの判断で
スタート曲を決めていた気がします。(あくまでもバークレーの見方)
ちなみにレコーディングの最後は「Sound Advice]ですね。
つまりステレオマスター集をリールに巻き取る際に
(こちらは再生時に巻き直しが必要になりますが)録音順で巻き始めても
映画会社の楽曲リストに合わせて巻き始めても
「Angel」が最もリール中央に近い場所に巻かれたことになり、
かろうじて巻きつきを逃れたのではないかと考えるのが「パターン #1」です。
パターン #2 : 「Take7」をシングル盤用テープBOXに!?
「Angel」がシングル候補にもなりうる楽曲だったので
サントラ用テープには入れずに、シングル向けとして保管したために
「巻きつき」から逃れたのではないかと考えるのが「パターン #2」です。
まあ通常の録音テープの管理方法からすると可能性は低そうですが
可能性を潰しておくのも「エルヴィス考古学」的アプローチには必要な作業です。
パターン #3 : 巻きついたのは「Take7」ではなかった!?
テープリールに巻きついたのは、口笛を加えたRCAマスターだったから
「A Whistling Tune (Take4)」のステレオミックスが残ったことをふまえると
(このストーリーが語られたのを海外サイトでも読んだことありませんが)
もしかすると「Angel」にも何らかの編集が加えられて、それがRCAマスターとなり、
テープリールに巻きついたので、未編集の「Angel (Take7)」が残ったと
考えるのが「パターン #3」です。
ここで「Keith んとこ」をチェックしてください。
「テイク3のアナウンスが飛ばされて録音されなかった」ことに
なっていますが、私は、忘れずに録音された「Take3」が
編集に使われたのではないかと 疑っているのです。
当初、オケを用いた歌い直しをしてまで、レコードマスターと異なる
映画バージョンを作成しようとしていたわけですから
エルヴィスが歌い直しを拒んだことで、別マスターの作成を
行っていたとしても、さして不思議な話ではありません。
一応、「Take7」と途中まで歌われたバイノーラル録音のオケを
音声解析しましたら(↓)同一の「演奏・コーラス」でしたから
「Take3 + Take7」による「編集オケ」の可能性は極めて低く、やはり
エルヴィスが歌い直しを拒んだ」 → 「編集による別マスター作成」の
順序にもつじつまが合うと思います。
【 Keep a-movin, move along 】 : 「とととと」の移動
ここでRCAマスターの「Angel (Take7)」(↑)を聞いてみてください。
♪ エェンジェル~ 、(ギター or クリックベースの)とととと
の「とととと(必殺くち三味線 )がずっと中央で聞こえ続けますが
エルヴィスのボーカルがブレイクする(休む)1分24秒目から一端、左側に移動します。
「もしかして編集されて・・」なんてな疑いを持ったのですが
「とととと」の移動は、テイク4から既に始まっていました。
つまり編集による位置の移動とは思えないのです。
明確な理由は分かりませんが、これも今後の研究課題として記しておきます。
【 もしもマルチトラックレコーダーが 】
もしも「Follow That Dream」セッションでマルチトラックレコーダーが
回されていたら・・いや。映画「Follow That Dream」が低予算作品ではなく
たとえばラジオレコーダーズでサントラセッションが行われていたら
テープの巻きつきが起きても、ステレオマスターの紛失は避けられたでしょう。
遅くとも1963年5月にはナッシュビルRCAスタジオでも
マルチトラックレコーダーが回されていたことは
FTD盤で発表された別ミックスの「Witchcraft」を聞いて理解しました。
しかし1963年5月のセッションでもメインで回されていたレコーダーは
依然としてダイレクト・ステレオミックスの設定で・・
長くなるから今回はここで終えておきます。
【 まとめ 】
まあ視力低下で拡大鏡片手に、誤字・脱字のチェックがままならぬ状況下で
よくぞこんなにも「よく分かっていない話」を長々と書けたもんだと
呆れられたり、いくらか論理性を必要とする話に
頭がつぃていかないと嘆かれたりする気もしています。
まあそれでも、いつの日にか新情報が出てきた時に
あの時の予測が「合っていただぁ間違っていただぁ」の楽しみ方が
人工的にステレオ化された音源に興味を持つようなファンにも知ってもらえたら幸いです。
そして全てが「Sound Advice」に終わらぬことを祈るのです
エルヴィスのブログでシロチンとケロチンもBeach Bird BluesてえんだからFTDだって・・ by TiBITA (タイビットA)02 17 25 26 39 42
A.たま~に、ちゃんとした記事を書いた場合にも
毎日、どうでもよい日記がその記事を
奥へ奥へと追いやりますから。 ブログ左側(←)の
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