初夏の燧ケ岳 333 × 242 F4号
時折酒を飲み懐かしく画家を志しバイトと、絵画制作に明け暮れていた若き日の我が姿を思い出す。
勿論、自己の姿を直視することは出来ないが、誰かが撮った数枚の私を写した写真があるのでその写真に写る
自身を思い出すのである。
土日は必ずや横浜大黒埠頭へ出かけ制作したいた。
この埠頭には顔見知りの私のように画家を夢見る数人と日曜画家などが作業に勤しんでいる。
ある年の夏のある日見かけない美男美女のカップルの姿を認めた実にゆったりとした振舞いでお互いの腕を組みこちらへ歩み来る。
おしゃれな服装が場違いな風景には目立つが決してこの場から飛び出すようなファッションではなくシックな装いは
無味乾燥で雑多な港ではむしろハマりすぎるのだ。
制作途中のカンバスを覗きながら女性が言う。
「この港には多くの画家さんがいるのですね」
「そうです。ほとんどは顔見知りですよ」私は応える。
女は「貴方素敵な絵よ。仕上がればきっと素敵な絵よ」と腕組む男に言う。
男は「君が言うんだったらその通りだと思う」と女にこたえる。
男の顔は絵とは違う方向に向いている、なので興味は別の所に有るんだなと思った。
男のサングラスに夏の太陽が反射する。
女が「どうもありがとう」と軽く会釈をしながら来た時と同じように大型貨物船が浮かぶ岸壁へと歩み行く
姿をただ何となく見送った。
横浜の関内駅で私は降り階段を下りて改札をくぐると親しくなったご夫婦は既に待っていた。
埠頭で何度か世間話をするうちにすっかり互いに打ち解けて合っていたのです。
ご主人はプロのカメラマン、奥さんはJALのCAをしていて今は英会話教室をしているという。
「後、数日でこの人の目は見えなくなるの」と主人のサングラスをしている顔を覗ながら妻は切なげに呟いた。
「 エ ッ!」と思わず私は声にならない声を漏らした。
「 残念だけど もう覚悟はしてるよ」主人はキッパリ言う。
「 だから私CAを辞め英会話を教えているの」妻は主人の手を握り返しながら希望の先を見つめながら言う。
そんな話のなかで港の花火大会の写真を最後に撮るので一緒にと、誘われ今ご夫婦と待ち合わせた。
その夜の港の花火を複雑な思いで私は鑑賞し愛用のカメラを向けた。
あの日の風景はすでに無い港独特の異世界感とノスタルジックな世界観。
貨物列車の引込線の入り組んだアブストラクトの絵画のような風景は新たな時代に置き換わった。
主人の花火を撮る時のアドバイス
1、カメラのシャッターは解放にする。
2、厚めのボール紙15cm四方を用意する。
3、墨又はマジックの黒で両面塗りつぶす。
4、黒紙をレンズにあてがいながら花火に向けチャンスを見つけて一瞬黒紙をレンズから離す。
これを何度か繰り返すと同じコマに花火が多重に写る。
どうぞお試しください。
では、これまで失礼します。