海岸沿いの寂れた村に
漁師の家族があった。
小さな舟で魚を釣る。
その日は
タコもつかまえた。
タコは…
すぐ食べなくてもと
桶に入れてフタをし
台所の隅に置いておいた。
次の日
野菜が減っている。
イモやゴボウなど
料理していないもので
外部から人の入った跡もない。
「タコが…食ったのではないか?
夜に陸に上がって
畑のナスを食べるという話を
聞いたことがある」
ためしにと
麦飯や煮た豆を与えてみた。
タコは喜んで食べた。
ふるると揺れている。
貴重だが
ゆでた卵もやってみた。
それも食べたし
大根…菜っ葉も…
他に娯楽もなく
一軒家の暮らしなので
ひとつの面白さだった。
大きくはならなかったが
タコの皮膚が乾いてきた。
油を塗ったら
いい気分のようだった。
酒を飲ませると
妙な踊りのあと
だらしなく眠った。
しばらくすると…
毛が生えてきた。
野うさぎのように…
薄茶色。
なでると
いい手触りだった。
海に出ると
よく釣れるようになった。
食事のとき
タコにもわけてやった。
まるで
ペットであり…
マスコットであった。
噂を聞き伝え
見物に来る人もいる。
想像してたような
グロテスクさはなく
可愛らしいし
動作もおもしろい。
楽しんだお礼にと
何か置いてゆく人もあり
知人もふえた。
なごやかな生活が続いた。
べつに変事も悪事も
起こらなかった。
いや…
ながい目で見て
いい事を
もたらしたといえる。
主人は
それから…
六十年…
百歳ちかくまで生きた。
元気で
頭も
はっきりしていた。
主人が死んだ日…
タコは悲しそうな様子で
海へ帰っていった。
その後…
姿を見た者は…いない。
あれは…本当に
タコだったのだろうか…?

なにコラ〓たまこ〓たこコラ