ジャパリ星雲 トキワの国

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謎深まるレレレのおじさんの過去

2021-06-05 20:51:10 | 赤塚不二夫






レレレのおじさんは、「天才バカボン」の名脇役である。
いつも路上を掃除しつつ、パパたちに「おでかけですか?」などと声をかける、とぼけた感じが人気のおじさんだ。



基本的にチョイ役であるが時折目立った活躍をすることもある。
また神出鬼没のキャラであり、夜中でも路上に布団を出して寝ていたり、地中を掘り進んでいるとそこに突然現れたりすることもある。

ここで気になるのが、レレレのおじさんの「過去」だ。チョイ役ながら度々そのキャラが掘り下げられるレレレのおじさんだが、そこでのそれぞれの情報を総合すると彼が非常に謎の多い人物であることに気付かされるのだ。一度、その辺りについてまとめて考察してみたい。

…尚、長期連載作品において後付設定が増えて辻褄が合わなくなるというようなことはよくある話であり、まして天才バカボンはギャグ漫画なのだから、真面目に考察することはそれこそナンセンスなのかもしれないが、あえてそんな誰も触れることがなかったことに触れるというのは面白いんじゃないかということで、あえて今回はこの話題で真面目に語っていきたい。

さらに、レレレのおじさんは少なくともマガジン掲載分までの原作ではレレレのおじさんとは呼ばれず殆どは「おでかけのおじさん」と呼ばれているのだが、ここでは現在の公式名称であり一般認知度も圧倒的である「レレレのおじさん」の名称を使うことにする。
また、本編の時間軸は便宜上「現在」と呼び、「●年前」などの表現は非常に大雑把に用いる。

原作中にある「過去」

まず、レレレのおじさんの過去エピソードとして比較的有名だと思われる「はじめてあかす おでかけのおじさんの意外な過去なのだ‼︎」(竹書房文庫第19巻、月刊少年マガジン1975年11月号)から紹介しよう。
レレレのおじさんが、いつも道端で掃除をしている理由が明かされる回だ。

これによれば、レレレのおじさんは50年前に結婚し、そこからさらに5年後(つまり45年前)には最終的に25人もの子供に恵まれたという。現在はすでに全員、独り立ちする年齢にまで育っており、妻とは死別している。掻い摘んで言えば、たくさんの子供たちの相手をするのに箒を使っており、子供たちが巣立っても妻に先立たれても、その時の癖が抜けずに外をずっと掃除している…ということだ。

ここでの情報をまとめれば、レレレのおじさんは50年前には既に結婚するほどの歳になっており、子供たちも現在の時点で少なくとも45歳くらい(パパと大して変わらないはず)となる。レレレのおじさんは現在で推定70代ほどといったところか。おじさん、と言いつつほぼ「おじいさん」の年齢だ。
子供たちの自立の後、妻に先立たれたようなので、だいたい30年前に子供たちが自立、20年前に妻が死去と考えて問題はなかろう。
最も「正史」として扱うべきは、やはりこれだろうか。

次に紹介するのは「わしの初恋の若さなのだヤマちゃん」(竹書房文庫第9巻、週刊少年マガジン1971年11月21日48号)。これはパパとママの馴れ初めエピソードだ。パパもママもまだ学生なので、概ね20年ほど前だろう。学生寮にいるパパがママにラブレターを渡しに行くときに、パパと同じ学生帽学生服のレレレのおじさんがお掃除をして「おでかけですか?」と見慣れた調子で声をかける。パパはその後、「いまおでかけのおじさんにあったので」と言っているので本人の可能性が高い。パパと大して変わらないように見えるので20歳くらいか。

ここでの情報では、レレレのおじさんは約20年前に20歳くらい、現在で40代程度か。…この時点で「あれ?」と思った方は多いと思う。それが、まだまだ序の口なのだ。

パパとママの馴れ初めから新婚までのエピソードは3部作で実質一続きになっている。
新婚エピソード「新婚はヤキモチだらけなのだ」(竹書房文庫第9巻、週刊少年マガジン1971年12月5日50号)でもレレレのおじさんは登場する。この時点でレレレのおじさんは現在とほぼ変わらない姿だ。学生時代から大して時間は経過していない…多めに見積もっても5年くらいじゃないかと思うが、その間にレレレのおじさんは完成しているのだ。まぁ、ママももうこの時点で現在と殆ど変わらないので、これはあまり不自然ではないのかもしれない。

さらにややこしくなるのが、パパの赤ちゃん時代を描いた2部作「わしの生まれたはじめなのだ」「わしの天才がバカになったのだ」(竹書房文庫第10巻、週刊少年マガジン1972年1月1日1号・1月9日2号)である。
パパの赤ちゃん時代なので推定約40年前。なんとここでは両編ともレレレのおじさんは現在と変わらない姿で登場する。後編では赤ちゃんパパに「あなたはこれからもずーっとおそうじしてますよ‼︎」と言われているので本人だろう。

ここでの描写から解釈するなら、レレレのおじさんは約40年前で30〜40代で、現在70〜80代ほどと考えるのが自然だろうか。50年前に結婚して子供が生まれたとなると年齢上は一応無理はないが、子供たちはまだまだ巣立っていくような年齢にはなってないだろうし…?

そして直接「過去」が描かれているわけではないが、驚くべきなのは「竜宮カメちゃんわしのものなのだ」(竹書房文庫第9巻、週刊少年マガジン1971年9月19日39号)だ。現在の話ながら、ここではなんと、レレレのおじさんの「むすこ」が2コマだけ登場しているのだ。10歳にも満たない感じで、明らかに先述の50〜45年前にできた子供たちの中の1人ではない。60代で授かった子供ということになる…?またレレレのおじさんは25人の子供を産んだ奥さんには先立たれているので、再婚した可能性すら浮上する。

分析

さて、閲覧者の皆さん。いささかややこしい話に、頭がこんがらがったのではないでしょうか。自分も書きながら、多少混乱してしまった。ここで、これまで挙げた情報を、時系列順に並べてみよう。


①50年前:結婚。まず5人の子供ができる。(推定20代くらい)
②45年前:子供が25人まで増える。(①からプラス5歳)
③約40年前:既に現在と変わらない風貌で外を掃除している。子供や妻はどうなっているのか不明。(推定30〜40代)
④約30年前:子供たちが自立。(推定40代くらい)
⑤-1 約20年前:妻に先立たれる。(推定50代くらい)
⑤-2 約20年前:お掃除はしているが、見た目も若く学生服姿で、当時のパパと同じくらい、つまり大学生。(20歳くらい)
⑥約15年前: 既に現在と変わらない風貌で外を掃除している。(⑤-2からプラス5歳くらい)
⑦10年未満前:息子が生まれる。(60代??30代??)
⑧現在:我々もパパやバカボンたちもよく知る、レレレのおじさん。(70代?40代?)

こうして並べたら、明らかにおかしいことはわかっていただけるだろう。これが全て事実で、全て同じ人だとすれば、突然若返ったり、かなり遅くに再婚して子供を作ったりしていることが考えられるのだ。

現在の年齢の説が2通りあるため、複数のパターンに分けて考えようにも、③でパパの赤ちゃん時代に現在と変わらない様子でいるレレレのおじさんだけはどうにも解釈が難しくなる。
そもそも何種類も存在すると考えることができてしまうレレレのおじさんって一体…。

やはり謎は尽きず、これだけでは結論も出そうにない。

疑惑

ここで、振り出しに戻るような形にはなるが、このことについて考えてみよう。

そもそも、これらの過去のエピソードは、どこまで信用に値するものなのだろうか?

こうしたエピソードが紹介される時は、殆どの場合はあの世界における「正史」として疑われることもなく語られるが、果たして本当に「正史」なのだろうか?よくよく見ればこれらのエピソードには、食い違い的な矛盾以外にも、描写としておかしな部分がいくつかあるのだ。

まず「はじめてあかす(以下略)」では、その過去や心情から照らし合わせると不可解な行動をとったレレレのおじさんに対してパパが「なんだかわかったようなわからないような話なのだ・・・・」と首を傾げるというオチになっており、微妙に疑わしいものを残している。

またパパは「天才バカボン」の初期の頃は「〜なのだ」という口調で話しておらず、時間が経つにつれてそうした口調が定着していった。つまり時系列的に言えば「天才バカボン」本編開始前の学生時代や赤ちゃん時代(バカになった後)はこの口調を会得(?)していないはずなのだが、ここで紹介した過去編ではいずれも既に「なのだ」口調になっている。

さらに、「わしの生まれた(以下略)」ではパパは生まれた直後に喋り出すほどの超天才児だったことになっているが、竹書房1巻「しゃべりハジメなのだ」にてハジメちゃんが生後2週間で初めて喋った時にパパは「わしゃ十三ではじめてしゃべったのに!」と語っている。

極めつけは「わしの天才が(以下略)」である。
この回の中で、茶々を入れてくるウメボシ仮面に対してパパのパパが「劇のじゃまをするな‼︎」と言って蹴っ飛ばすくだりがある。
言葉の意味が不明瞭で扱いに困るからか殆ど注目されていないが、これは聞き捨てならない台詞である。我々は、劇を見せられていたのだろうか。

ここでは割愛するが、これ以外にも過去編におけるおかしな部分はまだまだたくさんあるのだ。

もしかして…

パパのパパの発言は、実は大きな手がかりになる可能性がある。

我々はやはり、パパのパパの言葉にある通り、過去のエピソードを見せられているとずっと思っていたが、パパたちによる演劇のようなものを見せられていたのではないか。

考えてみれば、ここで紹介したエピソードはいずれも、「ドラえもん」のようにタイムマシンで実際の様子を見に行っているわけではない。

そして赤塚漫画はスターシステムを多用する漫画だ。「おそ松くん」で顕著だが、「天才バカボン」でも度々見られる。スターシステムというと、いわばキャラクターたちは役者であり、作品中で様々な役を演じるということである。
というか、バカボンには「漫画というのは役者が演技をしているもの」という前提で展開されるエピソードすらある(竹書房14巻「天才ハカホン」)。
そうした一貫として、パパたちが一種の再現ドラマを演じているのではないだろうか。
その場合、どこまでが正しい出来事なのかということの判断も難しいところだが…。

これが正しければ、レレレのおじさんが過去のエピソードにて度々登場するのも納得がいくのだ。

…などと書いておいて、気がついた。この仮説だと、パパの赤ちゃん時代や学生時代の話については説明がつかなくもないが、
「現在」の時間軸にて現れた、小学生くらいのレレレのおじさんの息子に対する不自然さは消えないことになる…。
レレレのおじさんが頑張ったと考えれば全く考えられないでもないが…。

う〜む。
この話題は収拾がつかないまま終わることになりそうだ。
「謎深まるレレレのおじさんの過去」という題に偽りはないので、いいのかな?

改めて

結論が出たようで出ていないような記事になってしまったが、いかがだっただろうか。

「天才バカボン」はギャグ作品といえど、キャラ設定や世界観や時系列はちゃんと存在する作品なので、そこでのレレレのおじさんの過去に関する謎めいた描写について前々から疑問を持っていたので、それを分かち合いたいと感じてこの記事を書いた。

とはいえやはり、「天才バカボン」はギャグ作品なのである。
そしてレレレのおじさんは先述の通り神出鬼没のキャラであり、いわば登場するだけでギャグになるともいえるキャラだ。
その神出鬼没さは過去のエピソードでも変わらないというだけなのだ。

レレレのおじさんは、時空を超えて作品に現れ、ぼくらを笑わせてくれるのである。


…というわけで、レレレのおじさんの過去は「はじめてあかす おでかけのおじさんの意外な過去なのだ‼︎」のみを正史として、あとはギャグとして深く考えない、とすれば問題ないと思います。


最後の最後に余談。

これまでは過去について紹介したが、未来についてもひとつ紹介しよう。
「20年後のお話なのだ(前編)」(竹書房文庫第10巻、週刊少年マガジン1972年1月30日6号)にて20年後のレレレのおじさんが登場。なんと「レレレ電気商会」の社長として登場するのだ。社長という事実もさることながら、どの時点で社長だったのか、という点も気になるし、何より現在で70代だとすれば20年後は90代になるはずで、そんな高齢でも変わらぬバイタリティを持っている。

つくづく不思議なお人である…。