「のび太のママは、パパよりも年上の"姉さん女房"である」
さて、本当にそうだろうか?
言わずと知れた、国民的知名度を誇るパパとママだ。
父・野比のび助36歳、母・野比玉子38歳。
作中で年齢に関してそれぞれに記述や言及があり、そこから上記のように「ママの方が年上」という風に語られることがある。
しかし、僕はこれに異を唱えたいのだ。
結論から先に述べておくと、「長期連載中に設定に変化があったが、パパの方がわずかに年上であることは作品通して変わらない」と主張したい。
早速、本題に入ろう。
まず、パパ36歳・ママ38歳という具体的な設定年齢だが、作中ではそれぞれ1回ずつしか出てこない。
パパの方は
「地下鉄をつくっちゃえ」(小学一年生1973年12月号掲載、てんとう虫コミックス第2巻収録)
で、のび太とドラえもんが作った地下鉄用の定期券に、名前と一緒に年齢が書いてある。
ママの方は
「恐竜の足あと発見」(小学二年生1985年7月号、てんコミ44巻)
であり、対象物ができてから何年経過しているかがわかるひみつ道具「年代測定機」をママに使ったところ、38年と出た。
ご覧の通り、掲載時期としても単行本の巻数としても大きなスパンがあるのだ。この2つを比較するのは、いささか無理があるのではないか。
というか、無理があるのだ。
それ以外の描写を照らし合わせていくと、時間が経って設定が変化していることや、パパの方が年上であることを裏付ける証拠がたくさんあるのである。
まずは初期の作品から考察していこう。
パパの少年時代に行く初期話として「白ゆりのような女の子」(小学四年生1970年6月号、てんコミ3巻)がある。
この回でのび太たちが向かったのは昭和20(1945)年6月10日で、パパがのび太と同じくらいの年齢の頃だ。掲載年の1970年から数えて25年前。初期設定で36歳だとすれば当時は11歳程となり、辻褄が合うようになっている。
詳しい説明は割愛するが、「この絵600万円」(小学四年生1972年12月号、てんコミ6巻)も過去のパパに会う話であり、この時学生服姿でのび太よりやや年上に見えるパパが当時13歳ほどとすれば現在36歳で矛盾しないようになっている。
以上から、「地下鉄をつくっちゃえ」にて登場した、パパ36歳の設定は少なくとも初期のうちは疑う余地はないだろう。
一方ママだが、初期にて彼女の少女時代に行く話として「ママのダイヤを盗み出せ」(小学六年生1973年7月号、てんコミ7巻)がある。
ここでのび太たちが向かったのは昭和23(1948)年7月10日。掲載年から数えて25年前。この時のママは見た感じのび太より年下に見え、仮に8歳程だとするとこの時のママの設定年齢は33歳程で、36歳のパパより少し年下ということになる。
後に明かされた38歳という設定から逆算すると昭和23年時点でのママは13歳ということになるが、どう見てもそれほど大きくは見えない。
初期話においてはママの年齢について具体的な数字は出ていないが、以上からパパよりは下である可能性が高い。
ここまでが初期の描写による分析だ。
これから先は、後期(厳密には設定変化後)の描写から分析していこう。
初期の他にも、パパの過去が描かれる話がある。例えば「夢まくらのおじいさん」(小学六年生1976年12月号、てんコミ14巻)も、パパがのび太と同年代くらいの頃にタイムマシンで行く話で、具体的には「三十年ほど昔」と語られている。
原作全体の基本設定である4年生として考えても、掲載誌と同じく6年生と考えても、30年前に同じくらいだとすれば現在は40歳は超えていることになる。三十年「ほど」と少しぼかした表現なのは、36歳から40歳程度へと設定が変化している最中にある段階だからだろうか。
「タイム・ルーム 昔のカキの物語」(小学四年生1988年7月号、てんコミ40巻)は、部屋をまるごとタイムスリップさせる道具で、やはりパパがのび太と同じくらいの頃にタイムスリップしている。ここでは明確に「三十年前」となっている。30年前に10歳ほどなら、やはり現在は40歳程度となる。
「『スパルタ式にが手こくふく錠』と『にが手タッチバトン』」(小学五年生1984年1月号、てんコミプラス1巻)では、のび太の「おじさん」が登場し、自らが年男だと語っているので、まず間違いなくこのおじさんは36歳だろう。このおじさんがパパの弟であることもほぼ確実で、必然的にパパは36歳の弟よりは年上ということになるのだ。
アニメについても参考として紹介すると、「逆成長グラス」(1994年9月30日放送)でも、パパがのび太と同じくらいだった頃が30年前となっている。
このように、当初「36歳」とされたパパの年齢だが、後に「40歳くらい」へと改められたことが考えられるのだ。
最後に紹介するのは「のび太が消えちゃう?」(小学六年生1981年2月号、てんコミ43巻)だ。20年前、「運命の別れ道」にいるパパの所に行く話だ。
この時のパパは、詰襟姿で、おじいちゃんには「もう子どもじゃない」と言われ、金持ちから本格的に結婚を持ちかけられている…といった描写があり、これらを加味すると20歳以上かつ大学生ほどの年齢と考えるのが妥当だ。20年前にそれであれば、やはり現在は40歳ほどだ。
また同エピソードでは単行本化(奥付によると1992年1月25日初版第1刷)の際にママとの出会いのシーンが加筆されている。ママはこの時セーラー服を着ているため高校生ほどだろう。現在38歳だと20年前には18歳となり、矛盾はない。そしてやはり、パパよりは少し年下ということになるのだ。
以上をまとめると
初期はパパ36歳、ママ33歳前後。
後にパパ40歳くらい、ママ38歳へと変わった。
どちらにしても、パパの方がやや年上なのは変わらない。
ということになる。これはほぼ間違いないと思うのだが、いかがだろうか。
しかし…こうした分析も、あくまで第三者による推測にすぎず、作中で正確に書かれた数字の前には無力なのだろうか。いわば、「サザエさん」におけるフネ後妻説と似たようなものなのだろうか…。
(今直接関係ない話題ですが、「フネは波平の後妻でありサザエは波平の前妻の娘」という設定は「サザエさん」には存在しないのでご注意ください)
しかし、同時に、作中に明確な記述がないだけで根拠としては十分すぎるほどあるのではないかとも思う。
特に、後期にてパパがのび太と同じくらいの年齢なのが30年前になっているのは、それだけで設定の変化を示せるのではないか。
ここまで読んでくださった方にお聞きしたい。
今回の記事を読んだ上で改めて、「のび太のママはパパより年上の姉さん女房である」と思いますか?
自らの言説に自信がある…と言うと厚かましく思われるかもしれないが、それ以上に、他の人から見てこの話がどこまで信憑性や説得力を感じられるものなのか、というのが気になる。
これを読んでどう思ったか、是非お聞かせください。