〇 これだけは知っておきたい、USB充電器の基礎知識。
最近はスマホやタブレットだけでなく、ノートパソコンやデジタルカメラなどあらゆるデジタル機器がUSB充電器で充電する仕様に変わってきている。もはやUSB充電器は生活に不可欠といっても過言ではない。
しかし、USB充電器にはいろいろな種類があり、製品選びにはそこそこの知識が必要だ。いいかげんに選ぶと、意図した用途にまったく向かないといった失敗も起こり得る。市場にある製品は大きさや形から対応ワット数、充電端子の種類と数まで千差万別。AC電源コンセントに挿す充電器だけでなく、電池を内蔵したモバイルバッテリーもある。本特集では買った後で泣くことがないように、USB充電器およびモバイルバッテリーの基礎知識から製品の選び方までを解説していく。
どこでどう使うのか 選ぶ際は目的を明確に。
自宅や会社などAC電源コンセントがある場所で使うなら、コンセントに接続する通常タイプの充電器を選べばよい(図1)。コンセントがない場所で充電したいならモバイルバッテリーが必要になる(図2)。なお、モバイルバッテリー自身はUSB充電器で充電するので、どのみちUSB充電器は必要だ(図3)。USB充電器には持ち歩きを前提としたタイプとそうでないタイプがある。モバイルバッテリーにしても、小型で持ち歩きやすい製品からそうでない大型製品までさまざま。自分がどう使うかを明確にして製品を選ぼう。
図1、自宅や会社、ホテルなど、コンセントがある場所でスマホなどを充電したい場合は、携帯性が良くコンセントに直接挿せる小型の充電器が重宝する。自宅の机の上などで多くの機器をまとめて充電したい場合は、充電端子が多い据え置き型が適している。
図2、コンセントがない場所で充電したい場合はモバイルバッテリーの一択。常に携帯するなら小型かつ軽量な製品がよい。自宅で停電に備えるなら、なるべく大容量な製品を選択する。
図3、モバイルバッテリー自体の充電にはUSB充電器が必要だが、別売の製品が多い。手元にないなら充電器とセットで製品を選ぼう。
USB充電器の役割は家庭用コンセントの100V交流電圧を、スマホやパソコンなどのデジタル機器が対応する5~20Vの直流電圧に変換すること(図4)。対応する電圧や電流、最大出力(電力)は製品ごとに異なる。そのため、充電器を選ぶ際は、充電したい機器が必要とする電力を把握しておくことが肝心。機器の充電に必要な電力と同等以上の出力に対応した充電器を選択する必要がある(図5)。また、同時に複数の機器を充電したい場合は必要とする電力の合計のほか、充電器側の端子それぞれの出力も重要になってくる(詳細は後述)。
図4、USB充電器は家庭用コンセントの100V交流電圧を5〜20Vの直流電圧に変換する。出力できるW数(電圧[V]×電流[A])は製品によって異なる。
図5、充電器やモバイルバッテリーを購入する際は、何を充電したいかを明確にすることが重要。複数の機器を同時に充電したい場合は、合計の電力を考慮して選ぶ。
充電したい機器に対応したケーブルを用意する。
USB充電器には、取り外し可能なUSBケーブルが付属する製品とケーブルがじか付けのタイプ、ケーブル別売の3種類がある(図6)。ケーブルが取り外せるタイプと別売タイプは、USBケーブル次第でさまざまな機器を充電できる。充電器にはUSBタイプAとCの一方または両方の端子が装備されている。各端子に接続できるUSBケーブルは図7の通りだ。ケーブルが取り外せないタイプも変換ケーブル(アダプター)を利用すれば異なる端子の機器の充電に対応できる場合がある(図8)。
図6、USB充電器にはケーブルが取り外せるものと取り外せないものがある。ケーブルが取り外せる製品にはケーブルが付属する製品と付属しない製品がある。
図7、ケーブルが着脱可能なUSB充電器には、出力端子としてUSB Type-AかType-Cのいずれか、または両方が備わっている。Type-Aで直接充電する機器は現状ないので、変換ケーブルを使ってMicro BもしくはType-Cの機器、およびLightningの機器(旧型のiPhoneやiPadなど)を充電することになる。Type-Aは電力が小さいので、充電できるType-C機器は小電力のものに限る(詳細は後述)。Type-C端子では通常、Type-Cの機器を充電するが、変換ケーブルでMicro BやLightningの機器も充電可能。Type-Cは大電力なので、電力は出力先の機器に応じたものになる。
図8、ケーブルが取り外せない充電器も同様(Type-Aケーブルがじか付けの充電器はない)。Micro Bから変換した最大電力は基本的にはMicro Bの最大電力(7.5W)になる。
なお、タイプC端子をA端子に変換するアダプターやケーブルもあるが、これはデータ転送、もしくはパソコンからSSDなどへの電力供給用に設計されている(図9)。充電器のタイプC端子をA端子に変換してパソコンのA端子に接続すると最悪、パソコンが壊れる可能性がある。
図9、USB Type-Aの規定でホスト(パソコン)側の電力は出力専用と定められている。つまり、Type-Aによるパソコンの充電は規格外。Type-C装備のポータブルSSDなどをType-Aで接続するためのType-C→Type-A変換アダプターがあるが、これはデータ転送専用だ。これで充電器のType-Cをパソコン側のType-Aに接続すると、パソコンが壊れる危険がある。
現行のUSB充電器とモバイルバッテリーに装備されているUSB充電端子はタイプCとタイプAの2種類(図10)。この2つは出力(電力)に大きな違いがある。
図10、充電器とモバイルバッテリーには出力(充電用)端子としてUSB Type-CとType-Aの端子が装備されている。この2つは出力できる電力量に大きな違いがある。
タイプA端子は小電力向け 大電力のPDが大本命。
充電器とモバイルバッテリーのタイプA端子は通常のものとは違い、充電用規格である「Battery Charging(バッテリーチャージング)1.2」をサポートしている。だが、それでも電力は最大7.5Wと小さい(図11)。タイプA端子は基本的に小電力機器向けと考えていい。
図11、充電器のType-A端子は「Battery Charging 1.2」をサポートしており、出力は最大7.5W。USBの標準化団体であるUSB-IFが定めた急速充電規格で、通常のType-A(USB 3.2 Gen 1)の4.5Wより大きい。とはいえ、充電できるのはスマホやワイヤレスイヤホンなどの小電力機器に限られる。
なお、サードパーティの急速充電規格に対応して7.5W以上を出力できるUSBタイプA端子もある。例えば、クアルコムの急速充電規格「Quick Charge(クイックチャージ)」をサポートしていれば最大36Wを出力できる(図12)。
図12、プロセッサーメーカーなどの急速充電規格をサポートして7.5W以上の出力に対応するType-A端子もある。例えば、充電器と機器の両方がクアルコムの「Quick Charge」(上のロゴ)をサポートしている場合は最大36Wでの充電が可能となる。
USBタイプC端子は15Wと出力が大きいが、拡張規格であるUSB PD(ピーディー=パワーデリバリー)をサポートしていればより大きな出力が可能(図13)。USB PD 3.0対応なら最大100W、同3.1対応なら最大240Wを出力できるので、パソコンなどの大電力機器も充電できる。
図13、通常のType-Cは最大15Wだが、拡張規格であるUSB PD(Power Delivery)をサポートしていれば100W以上の出力が可能。パソコンやタブレットなど大電力を必要とする機器も充電できる。逆にいうと、USB充電器によるパソコンの充電にはPDが不可欠で、パソコン側もPD対応のType-C端子を備えている必要がある。
USB PDは機能面でも優れている。PD対応の機器と充電器をタイプCケーブルで接続すると、ケーブルのCCラインを使って機器側が対応する電力(電圧/電流)と充電器側が供給可能な電力の情報が交換され、最適な方法で急速充電が始まる(図14)。さらに、機器と充電器の両方がUSB PDの拡張規格である「PPS(プログラマブルパワーサプライ)」に対応していれば、より高効率かつ低発熱量での急速充電が可能だ(図15)。
図14 、Type-Cには「CC」と呼ばれる充電用の信号ラインがあり、例えばPD充電に対応したパソコンとPD対応充電器を接続すると、パソコンが求める電力と充電器の供給能力の情報が交換される。そして充電器の供給能力の範囲で最適な急速充電が開始される仕組みだ。
図15、USB PDの拡張規格である「USB PD PPS(Programmable Power Supply)」では、機器からの要求に応じて細かく電圧や電流を調整する。充電器と機器のPDがPPSに対応していれば、無駄な発熱などを抑えられる。
クアルコムのクイックチャージもバージョン4以降はUSB PD互換になった(図16)。今後、急速充電の規格はUSB PDに統合されていくと目されている。
図16、独自規格だったQuick Charge(QC)も2016年に登場したバージョン4.0からはUSB PD互換となった。例えばQC 4.0対応のスマホはQC対応充電器だけでなく、PD対応充電器でも急速充電できる。このように各種急速充電規格はUSB PDへの統合が進んでいる。
60Wを超えるPDでは特別なケーブルが必要になる。
パソコンをUSB PDで充電する場合はタイプCケーブルの選択も重要だ(図17)。60W(20V×3A、図13参照)を超える場合は、対応アンペア(A)情報を機器に伝達するチップ「eMarker(イーマーカー)」を内蔵した5A対応のタイプCケーブルが必要。そうでないと5Aの電流が流れない。また、100Wを超えて充電する場合は、USB PD 3.1の規格である「EPR(エクステンデッドパワーレンジ)」の認証を取得したタイプCケーブルが必要になる。
図17、60Wを超えるパソコンを充電する際は要注意。対応する電流(A=アンペア)の情報を機器に伝達するチップ「eMarker(イーマーカー)」を内蔵した5A対応のType-Cケーブルが必要だ。また、100Wを超える機器を充電する場合は、「USB PD EPR(Extended Power Range)」の認証を取得したType-Cケーブルが必要になる。