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中山七里著『総理にされた男』あらすじ・感想。ただの替え玉だったのに…

中山七里著『総理にされた男』あらすじ・ネタバレ感想。
売れない舞台役者が他人のそら似で総理大臣の替え玉をやらされて……。
青臭いお話ではあるのだが、これくらいまともな政治をやってくれたらなぁと思わずにはいられない。
解説は池上彰さんが書かれている。


『総理にされた男』

A man who was made to become the prime minister
著者:中山七里
発行:株式会社宝島社
宝島社文庫『このミス大賞シリーズ』



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『総理にされた男』あらすじネタバレ感想




『総理にされた男』あらすじ 

売れない舞台役者の加納慎策は、内閣総理大臣・真垣統一郎と瓜二つであることから舞台の前説を任されている。
総理そっくりの男が漫談をする。
それがウケて動画をSNSにアップされたり慎策目当ての客まで現れた。
裏方しかさせてもらえなかった頃とは待遇に格段の差だ。


慎策は真垣の模写の研究に余念が無い。
ある晩、真垣が森林浴を楽しんでいたところ雑菌に冒され顏半分が腫れ上がり包帯を巻いているニュースを目にする。
あの様子も真似しようと考えていたが、翌日、マンションを出た慎策は筋肉隆々の2人組の男に両脇を挟まれた。
男達は停めてあったクラウンの後部座席に慎策の体をねじ込む。
助けを呼ぶ間もなく拉致された慎策。


クラウンが向かった先は首相官邸だった。
慎策の前に現れた内閣官房長官・樽見政純は、しばらくの間でいいから真垣総理を演じるよう慎策に頼む。
真垣の病状は深刻でとても人前に出られる状態ではない。
その為、真垣の模写をしている慎策に替え玉をやらせようと言うのだが……。



『総理にされた男』ネタバレ感想 

たまたま顔立ちがそっくりだった売れない役者が内閣総理大臣の替え玉になる。
そんなバカにゃ、という設定だ。
経済知識がサッパリの慎策は、友達で准教授の風間を補佐に抜擢。
そして政治的な流れは樽見に、経済関連は風間にレクチャーしてもらう。
主人公が政治の素人だけあって難しいことが誰にでも簡単に分かるような説明文がたくさんつけられているのだが、これが読者にもたいへん分かりやすいのだ。
こんなふうに言ってくれたら私だってもっと政治に興味をもつし、経済だって理解しやすいのにと思った。


やっぱり無知では生きづらい。
無知で得することなんて絶対ない。
でも、自分のおつむでは法律だとか経済だとかなかなか理解しがたい。
だから、この本の解説を書かれている池上彰さんのような分かりやすい説明をしてくれる人は有り難い存在なのだ。


さて、本物の真垣が元気になったら入れ替るつもりで真垣を演じていた慎策だがそういうわけにはいかなくなる。
そして、うまいこと慎策を操り人形にしてトップとして手腕を振るってやろうと考えていた官房長官の樽見も自分の思惑は二の次でニセモノを支えねばならなくなる。
樽見は慎策を支える為なら手段を選ばない。
風間がうっかり秘密をもらすのではないかと考えると正式な手続きに則ってイギリスに飛ばしてしまう。


慎策が真垣になりすましている最初のうちは閣僚や野党議員との対面でボロを出さないようにするのが使命だった。
ところが、だんだんとニセモノがホンモノになっていく。
慎策が自分の考えでものを言うと、その青臭さに心を動かされる人が出てくる。
私も159ページ以降の【官僚】【テロ】を読みながら、政治や経済の十分な知識がある上で青臭いと思えるほど国民の為に働こうと考える政治家が本当にいればこの国も捨てたもんじゃないのになと思った。


慎策は素人であくまで自分は真垣の物まねをしている役者だという意識がある。
立場上は最高権力者であるが権力に溺れるような勘違いをしない。
むしろ、自分が持っている力は他者の為に使うべきものだと考えている。
真垣統一郎を演じるという舞台から降りられれなくなってもそこは変わらない。
自分の考えを口にするようになっても、自分勝手な考えからではなく困っている人を放っておけなくて働こうとする。


最終的に慎策を支えてくれていた風間も樽見もいなくなり、慎策はたった一人でテロの問題に挑むことになる。
テロなんて素人には絶対無理。
私だったら行方をくらませるかもしれない。
ところが、慎策は苦しみながらも絶対に逃げないのだ。


この小説を読みながら、そう言えばこんな問題もあんな問題も日本の政治は解決していないなぁと今更気づいた。
日本の政治家や官僚が日本の為にもの凄くよく働いたのは戦後だけ。
今、国家国民の為に働いて、何とかしようと汗を流している人なんていない。
私利私欲の方が優先されるからだ。


慎策が総理を演じている間、様々な問題が起こり緊張が緩むことはない。
こんな素人がどうするつもりかとドキドキするし早く先を読みたくなる。
問題から逃げ隠れもしなければ、解決を先延ばしにしない慎策の姿に胸がすく。
新型コロナウイルス蔓延前に書かれた小説だが、どうして今世の中がこんな状態なのかこの本を読んでいるとよく分かる。

☆…☆…☆…☆…☆…☆…☆

ご訪問ありがとうございました

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