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小野寺史宜の小説『ライフ』感想。当事者には大問題連続の平凡な日常

小野寺史宜著『ライフ』あらすじ・ネタバレ感想。
端から見れば平坦で山場はないが、当事者にとっては大問題で、大事で、ショッキングな日常が一人一人にあって各家庭にある。
夫の浮気、離婚、パワハラ、単身赴任、進学、就職などなど、『ライフ』というタイトル通りありふれた日常が描かれている。


『ライフ』

著者:小野寺史宜
発行:株式会社ポプラ社
ひなたぼっこする鳥の写真 tataraworks

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『ライフ』あらすじ・ネタバレ感想


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『ライフ』あらすじ 

井川幹太は、1Kのアパート[筧ハイツ]にもう9年も住み続けている。
筧ハイツに住んでいた同じ大学の友達は就職を機にみんな出て行った。
大学卒業後、パン好きの幹太は大手製パン会社に勤務するも体育会系上司と合わず退職、すぐに家電会社に就職したがそこでも上司と合わなかった。
それからはやりたいこともなく、何となくコンビニでバイトをしている。


ある日、幹太の部屋の真上にやたらと足音がうるさい住人が住み始める。
幹太は心の中で“がさつくん”と呼ぶ。
そのうちにがさつくんの部屋に小さな子供達と妻らしき女性が訪れるようになり、幹太の部屋には遠慮の無いドタバタが響く。
幹太は上階の騒音を避ける為、図書館で時間をつぶすようになる。


その日、子供達が訪れた気配を感じた幹太が図書館へ行こうと部屋のドアを開けた瞬間、子供が大声で泣きわめいた。
どうやら幹太が開けたドアに子供が激突したらしい。
泣き声を聞きつけ、上から男がおりてきて……。

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『ライフ』ネタバレ感想 

例えば夫が浮気をしたとして、それが大問題になるのはその家庭の中だけだ。
家の外では「よくある話」で終わる。
幹太が高校生の頃、公務員だった父の太二がスナックのママ・船木雅代と浮気…というか本気の恋をしたらしく、妻の睦子と離婚が決まる。
その直後、太二がガンであることが分かると雅代は去り、結局井川夫婦は離婚せず睦子が太二の面倒をみた。
幹太には、母親が父の保険金を受け取る為に離婚しなかったように思えた。
母親が父の死後2年程であっさり再婚したこともあり、幹太は家族に対して冷めたところがある。


幹太は人間関係につまづいて会社を辞める。
深い付き合いをしようとか分かり合う努力をしようという気力がない。
父親と母親の関係が影響したのか、おそらく人に期待をしていないのだろう。
両親を見ていて、人付き合いは最終的に「金」の問題であって「愛」など胡散臭くて信用できないと結論づけたのかもしれない。
だから、仕事も簡単に辞められるし、彼女との関係を修復しようとか追いすがる気もないし、同じアパートに住んでいた友達と疎遠になってもどうということもない。
幹太は、悪さを働くわけでもない常識人だが根っこの部分が寒くて何もない。


そんな幹太の前に現れた“がさつくん”が幹太の生活を徐々に変えていく。
がさつくん、名前は戸田愛斗と言い、妻子と別居中の身だ。
戸田は何やかんやと失敗をする人だ。
幹太は戸田の2人の子供の面倒を見たりしているうちに、アパートの他の住人とも何となく接点ができる。
そして、自分の体に異変が起き死を意識して初めて亡くなった父の心情を思う。
世の中に期待せず、人にも期待せず、ほぼ諦めでできていたような幹太でも、死にたくないと思ったことで、父親が抱えていた恐怖が想像できたのだ。


心が冷えている状態の幹太だったが、戸田一家やアパートの人達、近所の人達と接点を持つことで心に小さな灯がともる。
心の中が温かくなると動く気力もわくのだろう。
父のことを確かめようと浮気相手だった雅代に会いに行く。
保険金欲しさに父の面倒をみた母・睦子を蔑み、そうされても致し方がないと父・太二を蔑んでいた幹太は、雅代の話を聞いて両親が最も優先したものが何かを知る。
幹太が動かなければ、一生分からないままで、幹太のその後の人生は27歳の今よりもっと寂しくなったのではないかと思う。


人間関係が原因で会社を辞めた幹太にとってコンビニのアルバイトは都合が良く、積極的に仕事を探そうとしなかった。
だけど、人は心が満たされたらフットワーク軽く動けるようになるのかもしれない。
321ページで幹太は「惹かれた」と表現しているが、それまで何かに惹かれるほど心が動くことが無かったのだ。
ほんのちょっとでも、例えそれが挨拶に毛が生えた程度でも他人と関わることで、気持ちが動き出すことがあるのかもれない。

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ご訪問ありがとうございました(人´∀`*)

コメント一覧

tataraworks-lynx50
@29qlove ラムネちゃんとキーちゃんのママん様、コメントありがとうございます。
そうなんですよね、体は元気でも心が元気じゃないと動けないんですよね。
主人公は就職した会社で二度とも上司に恵まれなかったこともあり、人間関係を気にしなくてすむコンビニのバイトの楽さを捨てる気力がないのです。
それが面倒だと思っていた人と関わることで徐々に心が動き始めて、自分が本当にやりたかった仕事が何か気づきます。
自分と向きあうのも他人と向きあうのと同じくらい気力がいるのかもしれませんね(ーー;)
29qlove
心って、大事ですね。
心が元気でない人は少なからず負の波形を出して他人に嫌な空気を送ったり、結局自分だけでは済んでない何かがあるような気がします。他人に迷惑をかけてないし、かけられるのも嫌だと言ったところで、何かしらな他人様には迷惑をかけて生きてるという事、感謝の気持ちがない心の貧しさを恥じなければ前進できないような気がします。
結局、ワガママなんでしょうね。ワガママな人は自分が好きな人、でも延長線で行くと人が好きな人なんだと思う今日この頃です。(^^)

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