1983年2月2日、香港のポリグラムレコードから「淡淡幽情(タンタンヨウチン)」と名付けられた、ひときわ異彩を放つアルバムがリリースされています。
このアルバムは、南唐や宗時代の詞を現代の音楽に乗せテレサ・テンが歌い、古典詞を現代によみがえらせ、中国文化を伝えてゆくという壮大なテーマのもとに製作されたものです。
非常に高い評価を得たこのアルバムは、香港のアルバムオブザイヤーに輝きました。
テレサ・テンが中国においても大変高い評価を得ている一つの理由は、中国文化を現代によみがえらせた「淡淡幽情」というアルバムの完成によるところも大きいのではないでしょうか。
テレサにとって、中国大陸は両親の故郷であり、その中国大陸の文化を後世に伝えてゆくことには、大きな意義を感じていたと思われます。
「淡淡幽情」の続編の構想も練っていたようですが、残念ながら続編がリリースされる前に、彼女は1995年に他界してしまいました。
彼女の部屋の本棚に残された「宗詩選」「唐詩選」「清詩選」のカラフルな装幀の詩集が目を引いたと有田芳生さんも著書「私の家は山の向こう」の中に書かれています。
中国文化を愛し、それを現代によみがえらせ、大衆の中で歌われる歌として根付かせていったテレサ・テンの功績は、実に大きいものがあると思います。
これも、日本でテレサの歌を聞いたり、カラオケで唄ったりしているだけの一般的な日本人には決して分かり得ない、彼女の大きな功績の一つだと思います。
この「淡淡幽情」を聴いてみると、ゆったりとしたメロディーに乗せて歌うテレサの発声が実に美しく、優雅で、悠久の時の流れの中で培われてきた中国の歴史の中に、自分が投げ入れられたように感じ、現代のせわしない時間の中にいることを忘れ、思わず中国古典詞の世界に引き込まれてしまいます。言葉の意味が理解できない日本人の私が聴いても、そんな感じを受けるのです。
時には、「淡淡幽情」のテレサの歌を聴き、日常にはない、過去へと流れる「時の流れに身をまかせ」てみるのもいいのではないでしょうか。
※参考資料
『私の家は山の向こう』有田芳生著 文芸春秋刊
『テレサ・テンが見た夢』 平野久美子著 筑摩書房刊