つらつら日暮らし

出家作法に対する或る苦言

ちょっと面白い文章を見たので、記事にしておきたい。

 縵、三用に通ず。然るに本と是れ沙弥衣なり。律、沙弥に制して、二つの縵衣を著く。
 一つには七条入衆に当たれり。
 一つには五条作務に当たれり〈衣相、未だ正しからず。故に但だ当当と云へり。字、去るか〉。
 今時、剃髪すれば、即ち五条を著く。僭かに大僧を濫りにす。深く本制に乖けり。師長・有識、請うらくは聖教に依れ。
 及び受戒に至りては、多く衣・鉢無し。律には師をして弁ぜしむ。誰か復た依行せんや。但だ時に臨むに至り、人従り瓦盆の油鉢、陳朽の大衣を借り受くるのみ。沙弥、是非を識らず。闍梨、何ぞ曾て検校せんや。
 律に云く、若しくは無し、若しくは借りれば、受具と名づけず。豈に少許の資財を惜しむことを得て、一生をして無戒ならしめんや。虚食・信施して、万劫に沈流す。実に悲痛すべし。
 往く者と雖も、諫ぶべからず。而も来る者、猶お追うべし。
    霊芝元照『仏制比丘六物図』「九明作衣法」


縵衣というのは、いわゆる条が無い袈裟のことを指し、沙弥という見習い出家者が身に着けるべきものとされている。そこで、上記内容を見ると、その辺の扱いが曖昧になっていることを、霊芝元照(1048~1116、律宗)が以上のように批判したものである。

具体的には、元照がいうには、律では沙弥が「2つの縵衣」を用いるという。これは、大きさの違いであり、まずは入衆衣としての「七条衣」、そして、作務衣としての「五条衣」である。ところが、元照が指摘するように、これらは、いわゆる正式な袈裟としての作り方ではないことを注意している。

ところが、その当時、剃髪すれば、ただ「五条衣」を授けていたという。これは、縵衣ではなくて、正式な五条衣だったのだろう。そのため、みだりに大僧(比丘)と同じ扱いをしていると批判しており、更には、本来の制戒に背いているという。そのため、師となる者は、聖教に依る形で、正しく縵衣を授けるべきだとしているのである。

それから、受戒する時にも、袈裟や鉢(食器)が無い場合があるとしており、律では師の側で準備すべきだとしている。しかも、準備がされていないので、先輩となる僧侶などから、消耗品の土器であるとか、古くなった大衣などを借り受けて形ばかりの出家・受戒をしているが、「律」ではそれらが無かったり、借り受けただけであれば、「受具」とはしないという。

この辺だが、他の文献でも以下のような一節を見たことがある。

受戒の法は、応に三衣・鉢具并びに新浄の衣物を備うべし。新衣無きが如きは、浣染して浄めしめよ。入壇受戒は、衣鉢を借賃することを得ざれ。〈中略〉若し衣鉢を徣借すれば、登壇受戒すると雖も、竝びに得戒せず。
    『禅苑清規』巻1「受戒」項


こちらでも、やはり袈裟や鉢盂を借りてはダメだと書いてある。そこで、典拠となる律の文章を探してみたのだが、どうやら以下の一節のようである(複数の律に同じような文脈があるので、ほぼ同じように伝えられていたのだろう)。

 爾の時、衣・鉢無き者、出家し具足戒を受く、諸もろの比丘、語りて言わく、「汝、村に入りて乞食せよ」。
 彼言わく、「我れ衣・鉢無し」。
 時に諸もろの比丘、此の事を以て往きて仏に白す。
 仏言わく、「自今已去、衣・鉢無き者、具足戒を受くることを得ず」。
 時に他に衣・鉢を借りて具足戒を受けること有れば、受戒し已れば其の主還取す。裸形にして蹲り、羞慚なり。
 時に諸もろの比丘、以此の因縁を以て往きて仏に白す。
 仏言わく、「自今已去、他の衣・鉢を借りて具足戒を受けることを得ず、若しくは衣を与える者、乞い与えよ。与えざれば、当に価直を与うべし」。
    『四分律』巻34「受戒犍度之四」


以上の通りである。確かに、これは、出家・受戒時に衣・鉢が無い場合を批判し、借り受けての受戒を禁止していることが分かる。しかも、借り受けたが故に実際の問題が起きた様子も見て取れる。まず、最初の問題は鉢(食器)であり、出家受戒した後で、他の比丘に、「乞食」を命じられたものの、鉢が無いので出来なかったのである。後者については衣(袈裟)であるが、出家時に一時的に借り受けたものの、受戒の儀式が終わったら持ち主に取り返されてしまい、裸でうずくまってしまったという。

なお、「衣」については特に、師の側が与えるような文章になっているし、もし、実物が無かったとしても、それに相当する「価値」の物(金銭?或いは交換物?)を与えるように指示している。よって、『四分律』の研究を進めていた元照は、この辺の見解を引いて、先のような主張をしたということなのだろう。

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