つらつら日暮らし

夏至と仏教の話(令和4年度版)

今日6月21日は夏至である。

以前から、何度も記事にしているように、仏教というか禅宗では「冬至」については良く説法の題材になる。その理由として、この日から夜の時間が短くなり、昼の時間が少しずつ長くなることで、いわば闇が退き、明が進むことになる。言い換えれば、迷いが退き、悟りが進む。よって、我々が仏道の道理を得るという状況に親しみやすい。だからこそ、説法の題材となったのだ。

一方、「夏至」については、その逆となるので、説法の題材にしているところを見たことがない。もしかしたら、存在しないのかも・・・と思えるほどだ。まぁ、ありとあらゆる時代の文献を見ていくと、あるかもしれないので、有無の判断は保留しておく。

それで、夏至に限らないのだが、ちょっとした文脈を見出したので、それを見ていきたい。

 大婆羅門よ、我れ今、更に昼夜の分数、長短の時節を説く。汝、当に善く聴くべし。
 冬十一月、其の日最短なり。昼夜分別すれば、三十分有り。昼は十二分、夜は十八分なり。
 五月の夏至の日、昼は十八分、夜は十二分なり。
 八月・二月は、昼夜、等に停まる。
 五月自従り、日退き夜進む。
 十一月に至って、夜退き日進む。
 五月に至って、日夜進退し、亦た一分進み、亦た一分退く。
    『摩登伽経』「明時分別品第七」


密教部の経典なのだが、多分に占いを行う必要などもあり、この辺の天体に関する記述は詳細である。それで、面白いのは、一日の長さを「三十分」していることであり、そこから、夏至の時には「昼十八:夜十二」であるという。これは妥当なのだろうか?現代の観測では、夏至の時の昼夜は以下の時間に分けられている。

夏至の日の昼:14時間35分(875分)
夏至の日の夜:9時間25分(565分)

875:565 = 175:113


まぁ、確かにだいたい18:12といって良いくらいにはなるということか。実際、この辺の天文に関する記述は、かつてのインド・中国(日本も?)では、かなり正確に表現されていることは分かっており、こういう経典に載っていることも、信用には値することも分かっているので、確認してみたわけである。

さて、「夏至」について言及した禅問答があるので、見ておきたい。

問う、蓮華未だ出水せざる時、如何。
曰く、未だ冬至を過ぎざるに寒と道うこと莫れ。
云く、出水後、如何。
曰く、未だ夏至を過ぎざるに熱と道うこと莫れ。
云く、出ずると未だ出でざるの時、如何。
曰く、三十年後、錯挙することを要せず。
    『嘉泰普灯録』巻16「湖州道場正堂明辯禅師」章


この正堂明辯禅師(1085~1157)という人について、当方は詳しくないのだが、『嘉泰普灯録』から探ると、仏鑑慧懃禅師(1059~1117)の法嗣であるという。この慧懃禅師はかの五祖法演禅師(?~1104、臨済宗楊岐派で法嗣に圜悟克勤禅師を輩出)の法嗣である。なお、慧懃禅師は法嗣に何山守珣禅師(1079~1134)がいる。

話を戻すが、先に挙げた問答だが、「蓮の華」を扱った問答である。知っての通り、蓮の華は水底にある「蓮根」から茎が伸びてきて、華が咲く頃には水の上に出ているわけだが、その様子を問答にしたわけである。だいたいの意味を採れば、或る問者が、「蓮華が未だ水から顔を出していないときはどうですか?」と聞くと、明辯禅師は「まだ冬至を過ぎていないのに、寒いなんていってはいけないぞ」と答えた。問者が「それでは水から顔を出したときはどうですか?」と聞くと、明辯禅師は「まだ夏至を過ぎていないのに、暑いなんていってはいけないぞ」と答えた。

最後に、問者は「顔を出していて、しかも顔を出していないときはどうですか?」と尋ねた。まぁ、これは先に挙げた「未出水」「出水」を分別と見て、その状況を破ろうとしたのだが、さも作られた問答で、かえって分別に把われている印象もある。そのためか、明辯禅師は「三十年後にあたふたすることがないように」とクギを刺したのである。

ようやくこの一則は見付けたものの、他には特記すべき問答は見当たらなかったので、夏至に因んだ説法は、禅宗にも多くないことが理解出来た。

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