「この列車は青森駅を定刻に発車致しました。それではこの列車の停車駅と到着時刻をご案内致します。」車掌の型通りの案内放送が済むと、喧噪の青森駅を出た列車はほどなく静寂に包まれ、夜の闇の中、単調な振動を繰り返しながらひた走る。早くも下段の寝台からは寝息が聞こえる。 札幌駅を発っておよそ11時間余り、ほとんど寝てはいない。 かねてからの念願だった単身での旅が実現して、神経は冴えわたり、寝てる暇などないといった心境だった。 学生服にウールの半コート、大きなバッグを抱え、気分だけはもはや、大学生にでもなったかのように、大人の週刊誌など買い求め、親元から離れた自由な身とは、かくも開放的なものかと思ったものだ。隣の寝台の中年男が「学生さんはどこまで?」「東京の学校かい?」 などと尋ねられた私は、途端に大人になったような気恥ずかしい思いをしたのだった。