ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

モンスターフルーツの熟れる時

2011年10月11日 | 文学

 私は当代の小説家では、小林恭二を最も偏愛しています。
 「電話男」でのデヴュー以来、奇抜でエキセントリックでどこか切ない物語世界を紡ぎだしてきました。

 中でも、「モンスターフルーツの熟れる時」は、ある到達点に達しているものと思われます。
 渋谷猿楽町を舞台に、めったやたらに性交を繰り返す女や、妖しげな店を経営する女など、4つの物語が同時並行的に語られます。
 やがてその4人は幼馴染であり、子ども時代に「わたし」が交わしたある約束を実現するため、ある者は霊となって、またある者は美を実現した女神となって、「わたし」の下に集います。
 彼らは言わば、「わたし」の使徒。
 そして「わたし」が約束した将来の夢とは、破壊の王になること。
 破壊の王となって、ヒトラーですら成し遂げられなかった、「我々は世界を焼き尽くす」という夢を実現すること。

 ここに、大人に成りきれないモラトリアム人間の悲哀を見るのは、うがち過ぎでしょうか。
 その夢は、プロ野球選手になりたい、とか、宇宙飛行士になりたいとかいう、少年の日の戯言に過ぎません。
 しかし「わたし」は、大真面目に、その野望を果たそうとするのです。
 絶対に実現不可能な夢を描くのは、少年の特権。
 それを実現しようなんて、切ないですねぇ。

 小林恭二の小説には、荒唐無稽のようでいて、どこか切ない雰囲気が漂います。
 最新作「麻布怪談」にも、40ちかくなって江戸で遊学する学生とこの世ならぬ者の恋が語られ、それは怪談というよりも、幻想美の世界としか言いようのないものです。

 でも不思議ですね。
 私が偏愛する作家や歌い手は、あんまり売れないのですよ。
 近代最高の作家だと私が考える石川淳なんかも、その文学世界は高く評価されても、多くの読者を得られないのですねぇ。
 石川淳「紫苑物語」など、神話的な題材を、軽妙な戯作風の文体で描き、読む者を圧倒します。

 そういう意味ではここ何年もノーベル文学賞候補に挙げられている村上春樹など、恵まれていますね。
 出版すれば即ベストセラーですからねぇ

 いつか小林恭二の作品がベストセラーになることがありましょうか?
 ちょっと無理かなぁ。

モンスターフルーツの熟れる時
小林 恭二
新潮社
電話男 (ハルキ文庫)
小林 恭二
角川春樹事務所
麻布怪談
小林 恭二
文藝春秋
紫苑物語 (講談社文芸文庫)
立石 伯
講談社

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