(大平山北東の緩斜面)
奥武蔵の西端に秩父市浦山という地区がある。現在は浦山川の流れを堰き止めた秩父さくら湖(浦山ダム)で有名な所であるが、元々は浦山村という独立した自治体であった。現在の浦山地区は浦山ダムを起点として高ワラビ尾根・小持山・大持山・有間山・蕎麦粒山・三ツドッケ・矢岳・大反山などを含む尾根がぐるりと取り囲む地域で、奥武蔵の中では上級者向けの山域といえる。大平山はそうした秩父さくら湖を取り囲む尾根から外れた所に位置し、一般的な登山対象から外れてしまったやや不遇な山である。しかし古い地形図を見ると麓の川俣集落辺りから大平山への登路が描かれており、浦山から奥多摩へ至るルートの一つとして使われていたようだ。生活路として廃れた後は道が整備されることは無く、昭和50年代には猛烈な藪山となっていたという(「山と旅への招待」を参照)。近年は藪の勢いが弱まり、バリエーションルートの一つとして歩かれるようになってきた。今回は2018年にも歩いた奥多摩町日原からアプローチし、都県境尾根(長沢背稜)から大平山に登ることにする。下山路は上述の川俣への尾根道(峰ノ尾根)を使う予定だ。
日原から一杯水避難小屋
11月3日、文化の日は晴れの特異日と言われている。夜も明けぬうちに所沢を出た時は曇天だった空も奥多摩駅に着く頃にはすっきりと晴れていた。明日は平日ということもあり、いつもは混みあう駅前のバス停も登山者の姿は多くない。女性車掌によると川乗谷の林道(川乗線)が通行止めとのことで、川苔山は鳩ノ巣駅からしか登れないという。乗客の少なさはそうした影響もあるのかもしれない。立客がほとんどいない状態でバスは出発し、日原川が作り出した深い谷を抜けていく。崖地に作られた道路は臆病なボクには何とも不安な気分にさせられる。倉沢から長いトンネルを抜けると明るい日原集落に着く。急斜面にへばり付くように家が立ち並ぶ所ではあるが、この明るさのおかげで閉塞感はない。都県境尾根へのアプローチ道となっているヨコスズ尾根の入口はバス停から少し道を戻った所にある。前回はバス停から更に上り、交番の先からヨコスズ尾根に入ったが、距離としてはこちらのほうが少し近いようだ。
(東日原バス停 バス停上に見える道がヨコスズ尾根へのアプローチ道)
道標に従い集落内の道路を上がると八丁山から鷹ノ巣山への尾根が眼前に聳える。かなり良い感じに紅葉していて、ヨコスズ尾根も期待できそうだ。再び道標が現れ、擁壁上を行くように指示がある。ここからは2018年にも一度歩いたことのある道だ。石がゴロゴロとした歩きにくいトラバース道を上がっていく。落葉樹林に入ると山道となり、あれほど多かった石も無くなる。道沿いには住宅が点在するせいかいくつか分岐があるが、道なりに歩いていけば問題ない。最後の民家で九十九折が始まり、日原第二配水所を過ぎると杉林の中をジグザグと登っていく。朝一の登りとしてはなかなか厳しいが、道は良く整備されていて歩きやすい。奥多摩は稜線に出てしまえば比較的歩きやすい道が続くが、稜線に出るまでは急で危険な所が多い。ヨコスズ尾根はそんな奥多摩のアプローチ道としては安全に下れるほうだと言っていい。
(集落内の道を上がる 紅葉が盛り)
(日原集落を見下ろす)
(落葉樹林のトラバース道)
(いくつか民家がある)
(この配水場から本格的な九十九折となる)
(歩きやすい九十九折)
採石場のフェンスが右手に見えてくると一旦傾斜が緩む。すると先を行く男性の姿が見える。フェンスから外れるように西へ長いトラバース道を登っていくと尾根に出る。ここで男性に追いつく。年恰好からすると60歳過ぎくらいだろうか。道を譲ってもらい尾根を登り始める。多少傾斜が緩んだとはいえ、厳しい登りであることに変わりはない。ただ落葉樹が多くなってきたのは慰めにはなる。道標が立つ辺りから再びトラバース道が始まる。道標の近くから尾根に上がって滝入ノ峰を目指すこともできるが、先が長いのでトラバース道を行く。地図を見るとわかるように滝入ノ峰を巻き終わるまで長いトラバース道が続く。道を挟んで尾根側は落葉樹、谷側は杉林となっていて、本格的な紅葉を楽しむには滝入ノ峰を巻く辺りまで行く必要がある。誰もいない道をのんびり登っていると後ろからクマ鈴の音が聞こえてくる。さっきのオジサンかなと振り返ると袖を肩まで捲ったTシャツ姿の男性がやって来る。傾斜の緩い斜面で待っているとあっという間に追い抜いて行った。
(右に採石場のフェンスが見える)
(尾根に出た辺り 紅葉が美しい)
(短い区間だが傾斜の急な尾根を登る)
(長いトラバース道を行く)
(山側は落葉樹林となっている)
(昔から使われていた生活道なので整備状態は良い)
アンテナが立つ滝入ノ峰南東の尾根を越えると待望の落葉樹林に入る。黄色く色づいた葉は朝日に照らされて、林の中でも淡く輝いている。滝入ノ峰山頂付近の巻き道は岩の露出する急斜面で落ち着いて紅葉を眺められる雰囲気ではないが、それでも時折足を止めてしまうほどに美しい。滝入ノ峰を巻き終わると一旦尾根に出る。ここから山頂方面に上がることができるようだが、今回もパス。一杯水避難小屋まで続く長い尾根は落葉樹が多く、新緑・紅葉を存分に楽しめる。尾根道といっても所々小ピークがあり、どれも上手い具合に巻き道が付けられている。落葉樹林をのんびりと楽しめるのは良いことなのだが、行けども行けども登った感じがせず、避難小屋が近づいてきているのか不安になる。
(滝入ノ峰南東の尾根を越える辺り ここから落葉樹林をじっくり楽しめる)
(美しい紅葉)
(頭を覗かせるのは笙ノ岩山だろうか)
(滝入ノ峰の巻き道は岩がちだが落葉樹林に覆われている)
(滝入ノ峰を巻き終わった)
(都県境尾根辺りは紅葉の見頃を過ぎているようだ)
(ヨコスズ尾根は落葉樹が多い)
(意外と赤く染まった紅葉は少なかった)
1388m峰を巻く辺りから針葉樹が混じり始める。最後の小ピークを西から巻くと傾斜が急になる。2018年の時は避難小屋のすぐ手前で我慢できずに休憩を取ってしまったことを思い出していると暗い檜の林を抜けた先に避難小屋が現れる。予想外に早く着いてしまった。小屋前には先ほどボクを追い抜いて行った男性がいて、都県境尾根を目指して出発するところであった。小屋周りには誰もいないようなので、休憩を取る前に一杯水で水を汲みに行く。黄色く色づいたカラマツ林から暗い檜の林をトラバースしていくと3分ほどで一杯水に着く。水が涸れることもあるらしいが、今日は流れが細いながらもしっかりと出ている。自宅から水筒とプラティパスを併せて1ℓ持ってきていたが、水筒は満水まで足し、プラティパスは1ℓを汲みなおした。多少重くなるが、これで水の心配は無くなった。
(1388m峰を巻く)
(一杯水避難小屋に着いた)
(一杯水 流れは細いけど出てました)
都県境尾根を経て七跳山
避難小屋に戻り、ベンチで少し休憩を取る。普段の祝日なら歩く人がいても良さそうなのだが、誰一人やって来る気配はない。こうなると「山と高原地図」にも登山者は少ないと書かれている長沢背稜(都県境尾根)では誰にも会わないかもしれず、ちょっと不安になる。避難小屋から三ツドッケ西の尾根に出るまでは一度歩いたことのある道だ。決して傾斜の急なトラバース道ではないのだが、どうにも歩みは捗らない。避難小屋まで来るペースが少々早すぎたらしく、太腿やふくらはぎが痛い。これ以上痛みが出ないようゆっくりと登り、尾根に出る。尾根上は葉を落とした木が多く、周囲の状況を観察しやすい。北側を見ると都県境尾根から東へ尾根を延ばした先に大平山ののっぺりした山容が見える。一見すると近そうに見えるが、どのくらい掛かるのだろうか。
(三ツドッケ・一杯水避難小屋分岐)
(都県境尾根の紅葉は見頃過ぎ 針葉樹も多い)
(大平山が見える)
都県境尾根は落葉広葉樹だけでなく、カラマツや常緑の針葉樹も多い。比較的広い尾根で下草も無く、歩きやすい道が続く。しかし「山の写真集」の金森さんによるとかつてはもっとスズタケなどの藪が生い茂る所で、道が尾根の南側を巻いているのもその藪を避けるためだったという(「タワ尾根から酉谷山・三ツドッケ」の記事を参照)。とにかく巻き道が付いているおかげで一々小ピークを越えていく必要が無いのはありがたい。1553m峰は大したピークでもないので山頂を踏んでいくが、それ以降は巻き道に入る。地形図を見ながら歩いていても小ピークが多く、現在地はわかりにくい。
(1553m峰付近 尾根が広くて良い雰囲気)
(左に見えるのが巻き道 体力を温存するなら巻き道を行くのが良い)
(巻き道の様子)
暗い針葉樹林に道標が立つ辺りで南西に道が分岐している。明るいので南西の道に入ってみると広い展望が得られる岩の上に出る。現在地がわからないのでスマホの地図ロイドで調べると1591m峰の南東の尾根が屈曲する辺りにいるようだ(後で山と高原地図で調べたところによるとハナド岩という展望地だった)。ボクは奥多摩の地理には詳しくないのだが、奥に見える長い尾根が石尾根で、中間辺りで山頂を突き出しているのが鷹ノ巣山、更に右に行った一番高い山が雲取山であるようだ。ハナド岩を過ぎると1591m峰(大栗山)に差し掛かるが、ここも巻き道を行く。そもそも山頂へ向かう踏み跡らしきものはなかった。
(ハナド岩)
(ハナド岩から見える紅葉)
(ハナド岩からのパノラマ)
大栗山を巻き終わるとやや細い尾根になる。岩記号の塊がある小ピークは実際岩壁がそそり立つ岩山で、巻き道には四か所木製の橋が架けられている。こういう光景を見ると雲取山から将監小屋へ向かう際に見かけた巻き道の桟橋を思い出す。荷が重かったらかなり緊張を強いられたに違いない。無事岩山を巻き終わると七跳山へと続く尾根に差し掛かる。当然巻き道が付いているのだが、敢えてここは尾根を直登してみることにした。巻き道を進んで山頂への分岐を見落としてしまうのが嫌だったのだ。尾根に踏み跡は無いのでやや急な斜面をジグザグに歩いていく。急斜面を登りきるとしばらくは緩やかな登りとなる。再び急斜面が現れるが、今度はそれほど長くない。山頂手前までやって来ると緩斜面が広がる。特に北東方向へ長い緩斜面が延びていて、大平山への尾根であることを窺わせる。とはいえ一先ず七跳山(ななはねやま 1651)の山頂に上がる。落葉広葉樹に覆われた静かな山頂で、南西側にはまだ黄色く色づいた葉を残した木々もある。時間を確認するとまだ11時半を回っておらず、ここまでのところは結構良いペースで歩けている。とりあえずここで一旦昼食を取ることにする。
(大栗山を巻き終わると尾根は細くなる)
(大平山)
(岩山には巻き道が付いている)
(ここの尾根を登れば七跳山に至る)
(尾根に藪は無い)
(七跳山の頂上が見えてきた)
(山頂付近の様子 七跳尾根方面を見ている)
(七跳山頂上)
大平山から川俣
昼食のカロリーメイトを食べ終え、人心地付いた。大平山へと向かうとしよう。山頂手前で見かけた北東に延びる広い尾根に入る。尾根が広すぎるせいなのか中央が少し凹んで谷のようになっている。谷を進み過ぎないようにできるだけ高い所を踏んでいく。踏み跡は全く見当たらないが、一帯は葉を落とした落葉樹林で尾根を見つけるのは然程難しくない。傾斜が急になる手前でちょっとした小ピークがあり、初めてコンパスで方向を見定める。小ピークを北から巻くとその先も広い尾根が下っていく。岩が突き出た辺りはやや細い尾根となるが、ここは唯一岩の北側に明瞭な踏み跡がある。天目山林道の西にある小ピークに出ると背の低い常緑樹が尾根を覆っている。明瞭な踏み跡は無いので、藪の薄い所を適当に進む。ここが今回の行程で一番藪っぽい所であった。
(山頂から大平山へ向かっては尾根の中央が窪んでいる)
(ここの荒れた小ピークは左から巻く)
(左側に踏み跡が付いている)
(大クビレ西にある尾根を上がる)
(背の低い常緑樹に覆われている)
常緑樹の藪を抜けると眼前に大平山が見えてくる。大平山との間には特段の踏み跡も無い急斜面が下っているだけだ。コンパスで方向を見定め木々の間をジグザグに下りていく。5分ばかり下ると道路らしき灰色の線が見え、人のものらしき声も聞こえてくる。声のするほうを目指して下ると天目山林道が越える大クビレに下り立つ。ここは七跳山と大平山との鞍部に当たり、かなり広く、数台のクルマが止まっている。先ほどから聞こえていたのはこれらのクルマのドライバーたちの声であった。ここまでクルマで簡単に上がって来られることについては複雑な気分ではあるが、エスケープルートとして使えるのは間違いない。
(大平山が見える 大クビレへ向かってはかなりの急斜面)
(大クビレ 右に見える二つの瘤は三ツドッケ)
大クビレから大平山へは明瞭な尾根が延びる。と同時に南側を広い林道が延びている。林道も高度を上げていく感じはあるが、とりあえず尾根を行く。落葉樹林の尾根は傾斜が緩く、疲れた身体でも何とか登っていける。尾根が一旦下ると林道と合流する。ここまでは林道も使えたということか。合流点より先はやや急な坂道となるが、10分弱で大平山(1603.0)の山頂に着く。これまでの尾根と同じように落葉樹林に覆われた頂上で、いくらか黄色い葉を残した木もある。地形図で見ると広い山頂のように感じるが、三角点のある部分から北側には掘割のような窪地があり、思ったよりも狭く感じる。
(大平山への尾根)
(大平山の頂上)
(山頂は落葉樹に覆われている)
(ここの山頂も窪地がある)
目標としていた大平山に到達したので、あとは下山するだけだ。まだ12時を回っておらず、予定通り川俣へと下ることにする。川俣から西武秩父駅へと向かうバスは14時と16時があり、できれば早いほうに乗りたい。標高差は1100m以上あるが、あと2時間で辿り着けるだろうか。山頂から窪地に下り、登り返すと明瞭な尾根が延びる。「画廊天地人」の大平山の記事を見るとスズタケの生える尾根だったようだが、現在は全くその痕跡がない。大平山の北の肩のような所から北東方向へ緩斜面を下る。踏み跡も全くなく、唯々広い緩斜面だけが視界に入る。コンパスで方向を定めて下っているものの、正しい所を歩いているのか不安になる。目印となるのはこれまでもあったピンクテープと新たに登場した赤ペンキのマーキングだ。しかしこれらも頻繁にあるわけではない。
(赤ペンキのマーキングがある)
傾斜は緩く、時間に追われて早足で歩いても転ぶ危険はない。快調に下ってきたが、右手に尾根が分かれる辺りでどこを下りたらよいかわからなくなる。地図ロイドで現在地を確認するが、受信状態が悪くなかなか安定しない。とりあえず左右の尾根の中間を下っていくと左手に緩斜面がまだ下っているのが見える。その緩斜面を下るとフラットな広い尾根となる。この辺りだけ薄く踏み跡らしきものがあり、これを辿っていくと次第に尾根が細くなって1469m峰に着く。
(広い緩斜面 どこを歩いているかわからなくなる)
(緩斜面の北寄りは広い尾根が続いている)
(フラットな広い尾根を行く この辺りだけは薄く踏み跡がある)
(1469m峰)
1469m峰より先は尾根が二手に分かれる。ここも踏み跡は全くない。コンパスで方向を見定めると幸いにも地形図上で想像したよりは急でない斜面が下っている。ここで安心したのが良くなかったのか、足早に下っていると滑って転ぶ。特に怪我はしなかったが、何だかドッと疲れが出て足が止まってしまう。時計を見るとまだ12時半は回っていない。あと1時間半で川俣に着く自信は無い。もう16時台のバスでも良いと割り切って再び歩き始める。斜面を下りきる頃、前方の尾根に瘤のようなアップダウンがあるのが見える。地形図に小ピークが連続する所があり、正しい尾根を下りてきているのは間違いない。一つ目の小ピークを東から巻き、二つ目の小ピークに上がる。ここも尾根が二つに分かれているが、川俣へ下る尾根のほうは傾斜が緩くわかりやすい。
(1469m峰からの急斜面を下りきった所)
(こんな具合に尾根は続く)
(大平山周辺図 出典:国土地理院発行2.5万分1地形図 地理院タイルに文字等を追記して掲載)
北に延びる尾根は細く、下りに使っても迷う所はない。尾根が広がり、瘤のように突き出た所には標石があるが、基準点となるようなものではないらしい。再び尾根が狭まり、傾斜も急になる手前に1340mと書かれたピンクテープが木に巻き付けられている。何故こんな所に目印を付けたのだろう?やや急な斜面を下り切り、登り返した所に独標と書かれたプレートが掛けられている。プレートには小さく1315とも書かれていて、ここが地形図上の1315m峰であることがわかる。独標も一応尾根の分岐点となっているが、北東の尾根が明瞭なので別段難しくない。次に尾根が北と東に分かれる所が大ドッケなのだが、先を急ぐあまり大ドッケのプレートを確認するのを忘れてしまった。14時のバスに間に合わせるため、方向を見定める以外に注意を払う余裕が無かったのだ。
(標石はあるが設置理由等は不明)
(尾根が広くなる辺りにも標石がある)
(1340のテープ)
(独標)
大ドッケ付近を過ぎてからは落葉樹林の葉も茂り出す。東向きで西日が当たりにくい尾根なので、紅葉は今一冴えない。やはりこの尾根は朝登りに使うほうが良いのだろう。北東へ下る尾根は一様に傾斜が急というわけではなく、緩斜面と急斜面を繰り返す。尾根の南側に檜の林が広がるようになるとフラットな尾根となる。フラットといっても実際は細かなアップダウンがあり、また少しずつ下ってもいるはずなのだが、時計の高度計はなかなか1000m以下にならない。フラットな尾根が終わり、急斜面に差し掛かる。ここも分岐に当たるのだが、考える間もなくコンパスを使って方向を定める。本来は落ち着いて現在地を把握すべきだが、踏み跡が無い以上、機械的にコンパスで方向を定めたほうが間違いは少ないように思う。
(段々尾根は細くなる)
(下るにつれて葉を付けた落葉樹も多くなる)
(一様に傾斜が急というわけではない)
(フラットな道が続く 高度がなかなか下がっていかない)
急斜面はすぐに終わり、緩斜面が続く。落葉樹林から暗い杉檜の林が優勢になる辺りで884m峰への尾根を分ける。ここから先は地蔵峠まで分岐はない。時計を見ると14時まであと残り40分。何とか間に合うか。地形図上でもわかるくらい等高線が密である急な尾根は意外と歩きやすく、どんどん高度を下げていく。尾根上には薄く踏み跡のようなものもあり、あまりに急な所では尾根を南から巻く道も付けられている。傾斜が緩むと頭上に送電線が張られているのが見える。地形図を見ると送電線から川俣までの距離は近い。残り時間は20分あまりだが、早足なら間に合うはずだ。
(ここで884m峰への尾根を分ける)
(ここから右手の巻き道を下る)
(巻き道はこんな具合で歩きやすい)
(送電鉄塔を見上げる)
送電鉄塔を南に巻くと鉄塔管理用ポストが立ち、明瞭な道が延びる。ジグザグに付けられた管理道を下り、再び尾根上を行くようになると道が左右に分かれる地蔵峠に着く。峠の先の瘤にはお地蔵様と庚申塔が置かれ、反対側には石祠が置かれている。峠からは毛附と細久保の集落へそれぞれ道が延びているが、現在は細久保側のみが使われているようだ。細久保側の道は九十九折となって下っていく。下り始めてすぐに南西へトラバースする道があり、これが細久保集落へと続いているようだ。現在でも住んでいる人がいるのか定かではないが、今日はそれを確かめている時間もない。下るにつれて眼下に建物らしき屋根が見えてくる。フェンスが設けられたトラバース道を下るようになれば川俣の集落は近い。民家の立ち並ぶ舗装路に出る。時計を見るとまだ14時になっていない。走って橋を渡る。バス停はどこだ?浦山川を遡ると道の向かいに渓流荘のバス停がある。ギリギリでバスに間に合った…。ザックを下ろして一息吐こうとすると「富士山」のメロディが流れてくる。上流側に目をやると秩父市営バスのワゴン車がやって来る。息を整える間もなく、手を上げてワゴン車に乗り込むのだった。
(送電鉄塔の下には管理用ポストがある)
(九十九折を下っていく)
(地蔵峠)
(地蔵峠の石祠 かつて後ろにあった大木は折れて朽ちていた)
(フェンスが設けられたトラバース道を下る よく見ると街灯がある)
(渓流荘バス停付近)
(独標から地蔵峠 出典:国土地理院発行2.5万分1地形図 地理院タイルに文字等を追記して掲載)
DATA:
奥多摩駅→(西東京バス)→東日原バス停7:54→8:11九十九折→8:33尾根に出る→9:13滝入ノ嶺分岐→9:46一杯水避難小屋10:00→10:18都県境尾根(三ツドッケ西)→10:35ハナド岩→11:17七跳山11:22→11:43大クビレ→11:54大平山→12:21 1469m峰→12:49独標→13:47地蔵峠→13:58渓流荘バス停→(秩父市営バス)→西武秩父駅
地形図 武蔵日原
トイレ 東日原バス停
交通機関
西武新宿・国分寺・拝島線 新所沢~東村山~小川~拝島 272円
JR青梅線 拝島~奥多摩 561円
西東京バス 奥多摩駅~東日原 472円
秩父市営バス 渓流荘~西武秩父駅入口 310円(ゾーンをまたぐ場合なので一律310円)
西武池袋・秩父線 西武秩父~小手指 503円
東日原から都県境尾根までは一般ルート。下りに使っても安全だと思います。
三ツドッケから西に長沢背稜を辿るルートも道は明瞭で特に難しくはないでしょう。ただ歩く人は少ないようです。
七跳山と大平山の間は大クビレへ下る急斜面だけが難しいかもしれません。
大平山から川俣へ下るルートは奥武蔵のバリエーションとしては難しい部類に入ります。ただ道迷いさえ気を付ければ急斜面などの危険個所は少ないように感じます。登りに採る場合、ルートファインディングに関する難易度は大幅に下がりますが、標高差1100mを登りきる脚力が必要です。
関連記事:
平成30年5月26日三ツドッケと蕎麦粒山 日原から浦山へ
奥武蔵の西端に秩父市浦山という地区がある。現在は浦山川の流れを堰き止めた秩父さくら湖(浦山ダム)で有名な所であるが、元々は浦山村という独立した自治体であった。現在の浦山地区は浦山ダムを起点として高ワラビ尾根・小持山・大持山・有間山・蕎麦粒山・三ツドッケ・矢岳・大反山などを含む尾根がぐるりと取り囲む地域で、奥武蔵の中では上級者向けの山域といえる。大平山はそうした秩父さくら湖を取り囲む尾根から外れた所に位置し、一般的な登山対象から外れてしまったやや不遇な山である。しかし古い地形図を見ると麓の川俣集落辺りから大平山への登路が描かれており、浦山から奥多摩へ至るルートの一つとして使われていたようだ。生活路として廃れた後は道が整備されることは無く、昭和50年代には猛烈な藪山となっていたという(「山と旅への招待」を参照)。近年は藪の勢いが弱まり、バリエーションルートの一つとして歩かれるようになってきた。今回は2018年にも歩いた奥多摩町日原からアプローチし、都県境尾根(長沢背稜)から大平山に登ることにする。下山路は上述の川俣への尾根道(峰ノ尾根)を使う予定だ。
日原から一杯水避難小屋
11月3日、文化の日は晴れの特異日と言われている。夜も明けぬうちに所沢を出た時は曇天だった空も奥多摩駅に着く頃にはすっきりと晴れていた。明日は平日ということもあり、いつもは混みあう駅前のバス停も登山者の姿は多くない。女性車掌によると川乗谷の林道(川乗線)が通行止めとのことで、川苔山は鳩ノ巣駅からしか登れないという。乗客の少なさはそうした影響もあるのかもしれない。立客がほとんどいない状態でバスは出発し、日原川が作り出した深い谷を抜けていく。崖地に作られた道路は臆病なボクには何とも不安な気分にさせられる。倉沢から長いトンネルを抜けると明るい日原集落に着く。急斜面にへばり付くように家が立ち並ぶ所ではあるが、この明るさのおかげで閉塞感はない。都県境尾根へのアプローチ道となっているヨコスズ尾根の入口はバス停から少し道を戻った所にある。前回はバス停から更に上り、交番の先からヨコスズ尾根に入ったが、距離としてはこちらのほうが少し近いようだ。
(東日原バス停 バス停上に見える道がヨコスズ尾根へのアプローチ道)
道標に従い集落内の道路を上がると八丁山から鷹ノ巣山への尾根が眼前に聳える。かなり良い感じに紅葉していて、ヨコスズ尾根も期待できそうだ。再び道標が現れ、擁壁上を行くように指示がある。ここからは2018年にも一度歩いたことのある道だ。石がゴロゴロとした歩きにくいトラバース道を上がっていく。落葉樹林に入ると山道となり、あれほど多かった石も無くなる。道沿いには住宅が点在するせいかいくつか分岐があるが、道なりに歩いていけば問題ない。最後の民家で九十九折が始まり、日原第二配水所を過ぎると杉林の中をジグザグと登っていく。朝一の登りとしてはなかなか厳しいが、道は良く整備されていて歩きやすい。奥多摩は稜線に出てしまえば比較的歩きやすい道が続くが、稜線に出るまでは急で危険な所が多い。ヨコスズ尾根はそんな奥多摩のアプローチ道としては安全に下れるほうだと言っていい。
(集落内の道を上がる 紅葉が盛り)
(日原集落を見下ろす)
(落葉樹林のトラバース道)
(いくつか民家がある)
(この配水場から本格的な九十九折となる)
(歩きやすい九十九折)
採石場のフェンスが右手に見えてくると一旦傾斜が緩む。すると先を行く男性の姿が見える。フェンスから外れるように西へ長いトラバース道を登っていくと尾根に出る。ここで男性に追いつく。年恰好からすると60歳過ぎくらいだろうか。道を譲ってもらい尾根を登り始める。多少傾斜が緩んだとはいえ、厳しい登りであることに変わりはない。ただ落葉樹が多くなってきたのは慰めにはなる。道標が立つ辺りから再びトラバース道が始まる。道標の近くから尾根に上がって滝入ノ峰を目指すこともできるが、先が長いのでトラバース道を行く。地図を見るとわかるように滝入ノ峰を巻き終わるまで長いトラバース道が続く。道を挟んで尾根側は落葉樹、谷側は杉林となっていて、本格的な紅葉を楽しむには滝入ノ峰を巻く辺りまで行く必要がある。誰もいない道をのんびり登っていると後ろからクマ鈴の音が聞こえてくる。さっきのオジサンかなと振り返ると袖を肩まで捲ったTシャツ姿の男性がやって来る。傾斜の緩い斜面で待っているとあっという間に追い抜いて行った。
(右に採石場のフェンスが見える)
(尾根に出た辺り 紅葉が美しい)
(短い区間だが傾斜の急な尾根を登る)
(長いトラバース道を行く)
(山側は落葉樹林となっている)
(昔から使われていた生活道なので整備状態は良い)
アンテナが立つ滝入ノ峰南東の尾根を越えると待望の落葉樹林に入る。黄色く色づいた葉は朝日に照らされて、林の中でも淡く輝いている。滝入ノ峰山頂付近の巻き道は岩の露出する急斜面で落ち着いて紅葉を眺められる雰囲気ではないが、それでも時折足を止めてしまうほどに美しい。滝入ノ峰を巻き終わると一旦尾根に出る。ここから山頂方面に上がることができるようだが、今回もパス。一杯水避難小屋まで続く長い尾根は落葉樹が多く、新緑・紅葉を存分に楽しめる。尾根道といっても所々小ピークがあり、どれも上手い具合に巻き道が付けられている。落葉樹林をのんびりと楽しめるのは良いことなのだが、行けども行けども登った感じがせず、避難小屋が近づいてきているのか不安になる。
(滝入ノ峰南東の尾根を越える辺り ここから落葉樹林をじっくり楽しめる)
(美しい紅葉)
(頭を覗かせるのは笙ノ岩山だろうか)
(滝入ノ峰の巻き道は岩がちだが落葉樹林に覆われている)
(滝入ノ峰を巻き終わった)
(都県境尾根辺りは紅葉の見頃を過ぎているようだ)
(ヨコスズ尾根は落葉樹が多い)
(意外と赤く染まった紅葉は少なかった)
1388m峰を巻く辺りから針葉樹が混じり始める。最後の小ピークを西から巻くと傾斜が急になる。2018年の時は避難小屋のすぐ手前で我慢できずに休憩を取ってしまったことを思い出していると暗い檜の林を抜けた先に避難小屋が現れる。予想外に早く着いてしまった。小屋前には先ほどボクを追い抜いて行った男性がいて、都県境尾根を目指して出発するところであった。小屋周りには誰もいないようなので、休憩を取る前に一杯水で水を汲みに行く。黄色く色づいたカラマツ林から暗い檜の林をトラバースしていくと3分ほどで一杯水に着く。水が涸れることもあるらしいが、今日は流れが細いながらもしっかりと出ている。自宅から水筒とプラティパスを併せて1ℓ持ってきていたが、水筒は満水まで足し、プラティパスは1ℓを汲みなおした。多少重くなるが、これで水の心配は無くなった。
(1388m峰を巻く)
(一杯水避難小屋に着いた)
(一杯水 流れは細いけど出てました)
都県境尾根を経て七跳山
避難小屋に戻り、ベンチで少し休憩を取る。普段の祝日なら歩く人がいても良さそうなのだが、誰一人やって来る気配はない。こうなると「山と高原地図」にも登山者は少ないと書かれている長沢背稜(都県境尾根)では誰にも会わないかもしれず、ちょっと不安になる。避難小屋から三ツドッケ西の尾根に出るまでは一度歩いたことのある道だ。決して傾斜の急なトラバース道ではないのだが、どうにも歩みは捗らない。避難小屋まで来るペースが少々早すぎたらしく、太腿やふくらはぎが痛い。これ以上痛みが出ないようゆっくりと登り、尾根に出る。尾根上は葉を落とした木が多く、周囲の状況を観察しやすい。北側を見ると都県境尾根から東へ尾根を延ばした先に大平山ののっぺりした山容が見える。一見すると近そうに見えるが、どのくらい掛かるのだろうか。
(三ツドッケ・一杯水避難小屋分岐)
(都県境尾根の紅葉は見頃過ぎ 針葉樹も多い)
(大平山が見える)
都県境尾根は落葉広葉樹だけでなく、カラマツや常緑の針葉樹も多い。比較的広い尾根で下草も無く、歩きやすい道が続く。しかし「山の写真集」の金森さんによるとかつてはもっとスズタケなどの藪が生い茂る所で、道が尾根の南側を巻いているのもその藪を避けるためだったという(「タワ尾根から酉谷山・三ツドッケ」の記事を参照)。とにかく巻き道が付いているおかげで一々小ピークを越えていく必要が無いのはありがたい。1553m峰は大したピークでもないので山頂を踏んでいくが、それ以降は巻き道に入る。地形図を見ながら歩いていても小ピークが多く、現在地はわかりにくい。
(1553m峰付近 尾根が広くて良い雰囲気)
(左に見えるのが巻き道 体力を温存するなら巻き道を行くのが良い)
(巻き道の様子)
暗い針葉樹林に道標が立つ辺りで南西に道が分岐している。明るいので南西の道に入ってみると広い展望が得られる岩の上に出る。現在地がわからないのでスマホの地図ロイドで調べると1591m峰の南東の尾根が屈曲する辺りにいるようだ(後で山と高原地図で調べたところによるとハナド岩という展望地だった)。ボクは奥多摩の地理には詳しくないのだが、奥に見える長い尾根が石尾根で、中間辺りで山頂を突き出しているのが鷹ノ巣山、更に右に行った一番高い山が雲取山であるようだ。ハナド岩を過ぎると1591m峰(大栗山)に差し掛かるが、ここも巻き道を行く。そもそも山頂へ向かう踏み跡らしきものはなかった。
(ハナド岩)
(ハナド岩から見える紅葉)
(ハナド岩からのパノラマ)
大栗山を巻き終わるとやや細い尾根になる。岩記号の塊がある小ピークは実際岩壁がそそり立つ岩山で、巻き道には四か所木製の橋が架けられている。こういう光景を見ると雲取山から将監小屋へ向かう際に見かけた巻き道の桟橋を思い出す。荷が重かったらかなり緊張を強いられたに違いない。無事岩山を巻き終わると七跳山へと続く尾根に差し掛かる。当然巻き道が付いているのだが、敢えてここは尾根を直登してみることにした。巻き道を進んで山頂への分岐を見落としてしまうのが嫌だったのだ。尾根に踏み跡は無いのでやや急な斜面をジグザグに歩いていく。急斜面を登りきるとしばらくは緩やかな登りとなる。再び急斜面が現れるが、今度はそれほど長くない。山頂手前までやって来ると緩斜面が広がる。特に北東方向へ長い緩斜面が延びていて、大平山への尾根であることを窺わせる。とはいえ一先ず七跳山(ななはねやま 1651)の山頂に上がる。落葉広葉樹に覆われた静かな山頂で、南西側にはまだ黄色く色づいた葉を残した木々もある。時間を確認するとまだ11時半を回っておらず、ここまでのところは結構良いペースで歩けている。とりあえずここで一旦昼食を取ることにする。
(大栗山を巻き終わると尾根は細くなる)
(大平山)
(岩山には巻き道が付いている)
(ここの尾根を登れば七跳山に至る)
(尾根に藪は無い)
(七跳山の頂上が見えてきた)
(山頂付近の様子 七跳尾根方面を見ている)
(七跳山頂上)
大平山から川俣
昼食のカロリーメイトを食べ終え、人心地付いた。大平山へと向かうとしよう。山頂手前で見かけた北東に延びる広い尾根に入る。尾根が広すぎるせいなのか中央が少し凹んで谷のようになっている。谷を進み過ぎないようにできるだけ高い所を踏んでいく。踏み跡は全く見当たらないが、一帯は葉を落とした落葉樹林で尾根を見つけるのは然程難しくない。傾斜が急になる手前でちょっとした小ピークがあり、初めてコンパスで方向を見定める。小ピークを北から巻くとその先も広い尾根が下っていく。岩が突き出た辺りはやや細い尾根となるが、ここは唯一岩の北側に明瞭な踏み跡がある。天目山林道の西にある小ピークに出ると背の低い常緑樹が尾根を覆っている。明瞭な踏み跡は無いので、藪の薄い所を適当に進む。ここが今回の行程で一番藪っぽい所であった。
(山頂から大平山へ向かっては尾根の中央が窪んでいる)
(ここの荒れた小ピークは左から巻く)
(左側に踏み跡が付いている)
(大クビレ西にある尾根を上がる)
(背の低い常緑樹に覆われている)
常緑樹の藪を抜けると眼前に大平山が見えてくる。大平山との間には特段の踏み跡も無い急斜面が下っているだけだ。コンパスで方向を見定め木々の間をジグザグに下りていく。5分ばかり下ると道路らしき灰色の線が見え、人のものらしき声も聞こえてくる。声のするほうを目指して下ると天目山林道が越える大クビレに下り立つ。ここは七跳山と大平山との鞍部に当たり、かなり広く、数台のクルマが止まっている。先ほどから聞こえていたのはこれらのクルマのドライバーたちの声であった。ここまでクルマで簡単に上がって来られることについては複雑な気分ではあるが、エスケープルートとして使えるのは間違いない。
(大平山が見える 大クビレへ向かってはかなりの急斜面)
(大クビレ 右に見える二つの瘤は三ツドッケ)
大クビレから大平山へは明瞭な尾根が延びる。と同時に南側を広い林道が延びている。林道も高度を上げていく感じはあるが、とりあえず尾根を行く。落葉樹林の尾根は傾斜が緩く、疲れた身体でも何とか登っていける。尾根が一旦下ると林道と合流する。ここまでは林道も使えたということか。合流点より先はやや急な坂道となるが、10分弱で大平山(1603.0)の山頂に着く。これまでの尾根と同じように落葉樹林に覆われた頂上で、いくらか黄色い葉を残した木もある。地形図で見ると広い山頂のように感じるが、三角点のある部分から北側には掘割のような窪地があり、思ったよりも狭く感じる。
(大平山への尾根)
(大平山の頂上)
(山頂は落葉樹に覆われている)
(ここの山頂も窪地がある)
目標としていた大平山に到達したので、あとは下山するだけだ。まだ12時を回っておらず、予定通り川俣へと下ることにする。川俣から西武秩父駅へと向かうバスは14時と16時があり、できれば早いほうに乗りたい。標高差は1100m以上あるが、あと2時間で辿り着けるだろうか。山頂から窪地に下り、登り返すと明瞭な尾根が延びる。「画廊天地人」の大平山の記事を見るとスズタケの生える尾根だったようだが、現在は全くその痕跡がない。大平山の北の肩のような所から北東方向へ緩斜面を下る。踏み跡も全くなく、唯々広い緩斜面だけが視界に入る。コンパスで方向を定めて下っているものの、正しい所を歩いているのか不安になる。目印となるのはこれまでもあったピンクテープと新たに登場した赤ペンキのマーキングだ。しかしこれらも頻繁にあるわけではない。
(赤ペンキのマーキングがある)
傾斜は緩く、時間に追われて早足で歩いても転ぶ危険はない。快調に下ってきたが、右手に尾根が分かれる辺りでどこを下りたらよいかわからなくなる。地図ロイドで現在地を確認するが、受信状態が悪くなかなか安定しない。とりあえず左右の尾根の中間を下っていくと左手に緩斜面がまだ下っているのが見える。その緩斜面を下るとフラットな広い尾根となる。この辺りだけ薄く踏み跡らしきものがあり、これを辿っていくと次第に尾根が細くなって1469m峰に着く。
(広い緩斜面 どこを歩いているかわからなくなる)
(緩斜面の北寄りは広い尾根が続いている)
(フラットな広い尾根を行く この辺りだけは薄く踏み跡がある)
(1469m峰)
1469m峰より先は尾根が二手に分かれる。ここも踏み跡は全くない。コンパスで方向を見定めると幸いにも地形図上で想像したよりは急でない斜面が下っている。ここで安心したのが良くなかったのか、足早に下っていると滑って転ぶ。特に怪我はしなかったが、何だかドッと疲れが出て足が止まってしまう。時計を見るとまだ12時半は回っていない。あと1時間半で川俣に着く自信は無い。もう16時台のバスでも良いと割り切って再び歩き始める。斜面を下りきる頃、前方の尾根に瘤のようなアップダウンがあるのが見える。地形図に小ピークが連続する所があり、正しい尾根を下りてきているのは間違いない。一つ目の小ピークを東から巻き、二つ目の小ピークに上がる。ここも尾根が二つに分かれているが、川俣へ下る尾根のほうは傾斜が緩くわかりやすい。
(1469m峰からの急斜面を下りきった所)
(こんな具合に尾根は続く)
(大平山周辺図 出典:国土地理院発行2.5万分1地形図 地理院タイルに文字等を追記して掲載)
北に延びる尾根は細く、下りに使っても迷う所はない。尾根が広がり、瘤のように突き出た所には標石があるが、基準点となるようなものではないらしい。再び尾根が狭まり、傾斜も急になる手前に1340mと書かれたピンクテープが木に巻き付けられている。何故こんな所に目印を付けたのだろう?やや急な斜面を下り切り、登り返した所に独標と書かれたプレートが掛けられている。プレートには小さく1315とも書かれていて、ここが地形図上の1315m峰であることがわかる。独標も一応尾根の分岐点となっているが、北東の尾根が明瞭なので別段難しくない。次に尾根が北と東に分かれる所が大ドッケなのだが、先を急ぐあまり大ドッケのプレートを確認するのを忘れてしまった。14時のバスに間に合わせるため、方向を見定める以外に注意を払う余裕が無かったのだ。
(標石はあるが設置理由等は不明)
(尾根が広くなる辺りにも標石がある)
(1340のテープ)
(独標)
大ドッケ付近を過ぎてからは落葉樹林の葉も茂り出す。東向きで西日が当たりにくい尾根なので、紅葉は今一冴えない。やはりこの尾根は朝登りに使うほうが良いのだろう。北東へ下る尾根は一様に傾斜が急というわけではなく、緩斜面と急斜面を繰り返す。尾根の南側に檜の林が広がるようになるとフラットな尾根となる。フラットといっても実際は細かなアップダウンがあり、また少しずつ下ってもいるはずなのだが、時計の高度計はなかなか1000m以下にならない。フラットな尾根が終わり、急斜面に差し掛かる。ここも分岐に当たるのだが、考える間もなくコンパスを使って方向を定める。本来は落ち着いて現在地を把握すべきだが、踏み跡が無い以上、機械的にコンパスで方向を定めたほうが間違いは少ないように思う。
(段々尾根は細くなる)
(下るにつれて葉を付けた落葉樹も多くなる)
(一様に傾斜が急というわけではない)
(フラットな道が続く 高度がなかなか下がっていかない)
急斜面はすぐに終わり、緩斜面が続く。落葉樹林から暗い杉檜の林が優勢になる辺りで884m峰への尾根を分ける。ここから先は地蔵峠まで分岐はない。時計を見ると14時まであと残り40分。何とか間に合うか。地形図上でもわかるくらい等高線が密である急な尾根は意外と歩きやすく、どんどん高度を下げていく。尾根上には薄く踏み跡のようなものもあり、あまりに急な所では尾根を南から巻く道も付けられている。傾斜が緩むと頭上に送電線が張られているのが見える。地形図を見ると送電線から川俣までの距離は近い。残り時間は20分あまりだが、早足なら間に合うはずだ。
(ここで884m峰への尾根を分ける)
(ここから右手の巻き道を下る)
(巻き道はこんな具合で歩きやすい)
(送電鉄塔を見上げる)
送電鉄塔を南に巻くと鉄塔管理用ポストが立ち、明瞭な道が延びる。ジグザグに付けられた管理道を下り、再び尾根上を行くようになると道が左右に分かれる地蔵峠に着く。峠の先の瘤にはお地蔵様と庚申塔が置かれ、反対側には石祠が置かれている。峠からは毛附と細久保の集落へそれぞれ道が延びているが、現在は細久保側のみが使われているようだ。細久保側の道は九十九折となって下っていく。下り始めてすぐに南西へトラバースする道があり、これが細久保集落へと続いているようだ。現在でも住んでいる人がいるのか定かではないが、今日はそれを確かめている時間もない。下るにつれて眼下に建物らしき屋根が見えてくる。フェンスが設けられたトラバース道を下るようになれば川俣の集落は近い。民家の立ち並ぶ舗装路に出る。時計を見るとまだ14時になっていない。走って橋を渡る。バス停はどこだ?浦山川を遡ると道の向かいに渓流荘のバス停がある。ギリギリでバスに間に合った…。ザックを下ろして一息吐こうとすると「富士山」のメロディが流れてくる。上流側に目をやると秩父市営バスのワゴン車がやって来る。息を整える間もなく、手を上げてワゴン車に乗り込むのだった。
(送電鉄塔の下には管理用ポストがある)
(九十九折を下っていく)
(地蔵峠)
(地蔵峠の石祠 かつて後ろにあった大木は折れて朽ちていた)
(フェンスが設けられたトラバース道を下る よく見ると街灯がある)
(渓流荘バス停付近)
(独標から地蔵峠 出典:国土地理院発行2.5万分1地形図 地理院タイルに文字等を追記して掲載)
DATA:
奥多摩駅→(西東京バス)→東日原バス停7:54→8:11九十九折→8:33尾根に出る→9:13滝入ノ嶺分岐→9:46一杯水避難小屋10:00→10:18都県境尾根(三ツドッケ西)→10:35ハナド岩→11:17七跳山11:22→11:43大クビレ→11:54大平山→12:21 1469m峰→12:49独標→13:47地蔵峠→13:58渓流荘バス停→(秩父市営バス)→西武秩父駅
地形図 武蔵日原
トイレ 東日原バス停
交通機関
西武新宿・国分寺・拝島線 新所沢~東村山~小川~拝島 272円
JR青梅線 拝島~奥多摩 561円
西東京バス 奥多摩駅~東日原 472円
秩父市営バス 渓流荘~西武秩父駅入口 310円(ゾーンをまたぐ場合なので一律310円)
西武池袋・秩父線 西武秩父~小手指 503円
東日原から都県境尾根までは一般ルート。下りに使っても安全だと思います。
三ツドッケから西に長沢背稜を辿るルートも道は明瞭で特に難しくはないでしょう。ただ歩く人は少ないようです。
七跳山と大平山の間は大クビレへ下る急斜面だけが難しいかもしれません。
大平山から川俣へ下るルートは奥武蔵のバリエーションとしては難しい部類に入ります。ただ道迷いさえ気を付ければ急斜面などの危険個所は少ないように感じます。登りに採る場合、ルートファインディングに関する難易度は大幅に下がりますが、標高差1100mを登りきる脚力が必要です。
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