野老の里

奥武蔵をメインに日帰りの山歩きを中心としたブログです

人口減少社会と野生動物の出没を考えてみる

2023年10月25日 | tokoroの日常
今年はツキノワグマ出没のニュースが多い。それに伴って人身事故も増えており、テレビニュースで特集が組まれることも増えている。ただそれらを見て気になっているのはクマの行動が変質したと捉えられている点だ。そもそも昨年木の実が豊作だったことから出産ブームでクマが人里に大量に出没する可能性は年初めの頃には既に予想されていたし、また今年逆に木の実が不作になったことでその可能性がより高まっていたのだ。つまりクマの大量出没自体は自然のサイクルに過ぎない。

問題はこれまでクマの目撃情報がなかった所に多く出没していることだ。その点こそがクマの行動が変わってきたと言われがちな点なのだが、ボクは変わったのは人間社会の有り方のほうだと考えている。そしてクマの出没範囲が広がった一番の原因は山間地域の縮小と地方の高齢化の影響が大きいのではと推測している。山間地域の集落が縮小していることについては、かつてボク自身「都心のシカと埼玉の廃集落」という記事で飯能市の人口推移を例にとっているように統計的に明らかになっていることである。また地方ほど高齢化率が高くなっているのはもはや周知のとおりだろう。

山間地集落の縮小が野生動物の生息範囲を広げているのは想像に難くない。上記の記事でも廃集落に野生動物が入り込んでいることを指摘しているのだが、ボクが挙げた廃集落はあくまでハイキングコース脇にあるものがほとんどだ。集落への登山道が草藪へと移り変わった廃集落はもはや完全に野生動物の生息域となっているのは間違いない。かつて人間の領域だった所が侵食されるということは都市と自然との緩衝地帯がどんどん無くなっていくことを意味する。町田市のキャンプ場にクマが出没したというニュースは緩衝地帯が狭くなってクマの生息域が市街地の間近に迫っているという一例だといえるだろう。

もう一点、特にクマに関しては高齢化が状況をより深刻化させるのではないかと考えている。ボクは山の中でクマ・イノシシ・シカ・カモシカ・サルという比較的大型の野生動物と出遭ったことがある。だがいずれの動物に関しても相手のほうが逃げていって特に被害を受けることはなかった。これはボクが大人だけれど高齢者でない男性だったからだ。サルやかつて生息していたオオカミのような集団行動を取る動物は別としても、基本的に野生動物というのはある程度大柄の強そうな相手には喧嘩を売ってこない。人身事故が増えている秋田県のケースを見ても襲われているのは高齢者・女性・子供(女子中学生)、と野生動物から見て弱いと認識されるような相手が多いのだ。市街地の高齢化が進めば比較的臆病とされるクマですら市街地へと頻繁に出没するようになっても不思議ではない。

野生動物の出没に関しては概して山の環境を壊した人間が悪いと言われがちである。しかし日本社会の歴史を紐解けばむしろ山で生活していた日本人が治水を行って平地へと生活を移していったことがわかる。都市部の快適な生活(主に電気・ガス・水道や道路などのインフラ)を維持するためにコンパクトシティ化を進めることはますます山と都市との生活を切り離すことにつながるだろう。山林の皆伐やメガソーラーの建設が野生動物の生活環境を悪化させるという意見もあるが、ボクはそれ以上に人間社会の縮小化のほうが先へ進むと思っている。そして都市に暮らす人間が山の生活を切り離せたと思う頃には、都市への野生動物の出没が当たり前のものになっているのではないかと予想している。

参考資料:令和4年版統計はんのう
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2 コメント

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Unknown (奥武蔵の山人 (好日奥武蔵))
2023-11-01 21:42:52
こんばんは
 ここ何日か熊の目撃情報が伝ってきました。
一部にはカモシカを見間違えたと思うようなのもありましたが、クマの出没は(里に)確実に増えているように思えます。
 tokoroさんのこの記事を拝見し、確かにそうだなあと思っています。今年は山に木の実が少ないからといわれていますが、それは短絡的な一因でしょうが、根底には人の生活(範囲)の変化がありそうですね。よくお調べになり、考察されて素晴らしいです。
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コメントありがとうございます (tokoro)
2023-11-02 22:22:45
山人さん、こんばんは。

>今年は山に木の実が少ないからといわれています

事実としては何も間違っていないのですが、一部の動物愛護団体が主張するような「山林の破壊→山の実りが少ない」という図式は明らかに誤りです。環境破壊が原因ならクマが周期的に大量出没するという現象が起きるのは不自然です。むしろ継続的に大量出没が起きるのが自然でしょう。

そもそも山林が大きく破壊されたのは高度経済成長期からバブル期にかけてです。杉・檜への植え替えやスキー場・ゴルフ場建設はバブル期までがピークで、逆にスキー場・ゴルフ場は00年代半ばから減少傾向にあります。2006年からクマの大量出没が問題となってきましたが、山間地の大規模施設が自然に戻っていったのも影響としては小さくないかと思います。

>人の生活(範囲)の変化

人間の行動に影響を受けて野生動物の行動が変化する例として人間が冬場に撒く融雪剤からサルやシカがミネラル分を補給していることが確認されています。クマの行動に変化が生じているのであれば人間側にも何かしらの原因があると考えられておかしくないところなのですが、何故かハンター数の減少・高齢化ばかりが指摘されているように感じています。専門家の中には里山の荒廃を原因と看做している人もいますが、それは詰まるところ山間集落の縮小や高齢化が背景にあるわけです。

そう考えると専門家が対策として挙げる里山の整備はもう間に合わないのではないかという疑問も生じますし、また対症療法として里に下りてくる野生動物を積極的に駆除することはやむを得ない措置として受け入れざるを得ない段階に達しているのではないでしょうか。
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