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(雨乞岩から大平山と長沢背稜)
クリスマス寒波が襲来したこの日、名郷の集落は綺麗に晴れ渡っていた。数軒の民家と民宿、林業関係の会社と寺院で構成される集落は入間川奥地にあるものとしては大きなほうだ。綺麗に掃除のされた公衆トイレで用を足し、民家が立ち並ぶ車道を進む。この辺りは空が広い。民宿西山荘への道を見送った辺りから民家はなくなり、入間川の両岸が狭まってくる。川原には大鳩園のオートキャンプ場があるが、今は人気がない。入間川は冬場にもかかわらず水量は多い。コンクリートで嵩上げされた川底からは下流へ滝のように流れ落ちている。暗い杉木立の道を行くと車道が二又に分かれる。右は山中、左は白岩へと向かう。
大場戸橋を渡り、白岩への道に入る。両岸は更に狭まり、車道の付けられた左岸は切り立った崖となっている。右に大きくカーヴを描く地点では大きな崖が覆いかぶさるようにせり出している。崖に慄きながら進んでいると鉱山へと向かう大きなトラックが追い抜いていく。祝日ではあるものの、暦の上では今日は月曜日。鉱山の工場はいつも通り稼動しているのだろう。右岸に白岩渓流園のキャンプ場を見送りつつ、工場へと近づくと、やがて前方から聞き慣れない音が聞こえてくる。暗い杉木立を抜けると正面が開け、JFEミネラルの工場が見えてくる。大きな4連のタンクの上には白岩集落の象徴である大きな石灰岩が姿を現す。聞き慣れない音の正体はタンクからトラックの荷台へとタンカルを流し込む際に発生する音だった。
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(白岩沢の崖)
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(JFEミネラルの工場)
工場の事務所脇に付けられたハイキングコースを上がっていく。ジグザグに付けられた道は急激に高度を上げていく。振り返れば工場内を一望できるが、写真撮影は禁止されている。工場マニアとの間でいざこざでもあったのだろうか。一旦工場を離れ、杉木立の中を行く。送電鉄塔管理用の道を分けた所で再び工場の小屋が見えてくる。敷地と登山道との境にはモノレールがあり、上にある採掘場へとつながっているようだ。モノレールを潜ると道はジグザグを描いて上がっていく。結構傾斜が急で苦しい。白岩沢の支流を見送ると傾斜は少し緩くなる。前方は明るくなり、白岩の廃集落は近い。
壁のような斜面を乗り上げると白岩の廃集落に辿り着く。入ってすぐの小屋掛けの奥には大量の小石が積まれている。小石のある所へ行くと見上げる位置に大きな石灰岩がある。この小石の山は鉱山から落ちてきたものなのだろうか。1980年代に人が住まなくなったという集落内には今でも5棟ほどの建物が残されている。沢は近くにあるので水には事欠かないのかもしれないが、作物が作れるほどの土地がある訳ではない。一体この集落でどんな生活をしていたのだろうか。ボクには想像もできない。
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(白岩)
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(集落の廃屋)
白岩の廃集落を過ぎると道は中腹を横切るトラバース道となる。白岩沢を大きく高巻く。沢が次第に近づいてくると支流の沢を横切る。道は荒れているが、よく見れば踏み跡はある。一つ目の沢を渡ると傾斜がいくらか急になる。暗い杉林の中を行く道は変化がなく、苦しい。奥武蔵の中でもこの白岩から鳥首峠へと至る道は厳しいほうの部類に入るだろう。三つ目の沢を渡ると道は峠へ向かって長い九十九折となる。上が明るくなっている分、気が急いてしまう。高度を上げていくと空気が冷たくなってきた。歩き始めてからこれまであまり感じることのなかった冷たさだ。西側が雑木林となっている鳥首峠へと出た途端、西側から冷たい風が吹き付けてくる。あまりの冷たさに休むこともままならない。少し北側へ登ってみるものの、尾根上にいる限り風を受けてしまうらしい。
やむなく休憩を取らずに北に延びる尾根を登っていく。檜が覆い尽くす急な斜面の登りだ。休みを取らない体には厳しい登りだが、依然として風が冷たく立ち止まることはできない。喘ぎながらなんとか小さな岩が点在する小ピークへと上がる。いくらか風は弱まったようだ。ようやく休憩をとることにした。上着を着るほどではないが、凍傷が怖いので、手袋は厚手のものに変える。ここから先の1059のピークまでは比較的緩やかな尾根が続く。再び歩き始め、1059のピークに近づいた辺りで西側の展望が開ける。正面から尾根を二つに大きく分ける山はエアリアマップによると大平山というらしい。東側は雑木林の木の間越しに白岩の採掘場が見える。
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(展望地から大平山)
1059のピークを越えるとその先の鞍部に送電鉄塔が建つ。明るいが風が吹き抜け、あまりのんびりはできない。鞍部からは檜林の中をやや傾斜の急な登りとなる。落ち着ける所が無いだけに、精神的にも辛い。小ピークを登り切るとそこから先は雑木林となっている。緩くカーヴを描く尾根が優美だ。緩く登り返すと今度は細い岩尾根がウノタワへ向かって下りていく。雑木林の木の間越しに大持山と武甲山が見える。岩場の手前で道標があり、大持山から妻坂峠への尾根の向こうに武甲山が山頂部を覗かせている。岩場を右から巻いていくとまもなくウノタワが見えてくる。道は尾根に沿って西端へ延びていくが、歩きやすい所を適当に下っていく。
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(雑木林の道)
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(雑木林越しに大持山と武甲山)
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(岩場に立つ道標)
鵜の田とも呼ばれるウノタワは中心部が木の生えない緩やかな広い窪地となっている。ブナの木に混じり、真っ直ぐ幹を伸ばすのはカラマツだ。窪地は落ち葉の吹溜りの上が芝草の広場になっている。ウノタワにテントを張って寝泊りする人も多いという。確かに春や秋の頃は気持ちが良さそうだ。ただ真冬の今日は風が強く立ち止まっていられない。北東に延びる急斜面を上がっていく。西側が雑木林となっている尾根は斜面一杯に落ち葉が敷かれている。踏み跡が消され、歩きにくいことこの上ない。踏み跡らしき所を慎重に上がっていくが、ふとした拍子に足を滑らせる。1~2mほど滑り落ちてしまった。東側の檜につかまりながら上がっていくと上部は踏み跡が確りとしている。
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(ウノタワ)
尾根を登り切ると白い幹の木がその白さを輝かせながら迎えてくれる。白い木の前は広い伐採地となっている。左から葉を落とした雑木林の上に緩やかな武川岳・前武川岳の尾根が延び、奥はグリーンラインの尾根が関東平野へと向かって高度を落としていく。平野の奥に見える尾根は筑波山だ。名郷から前武川岳への尾根のすぐ後ろには無骨な形の伊豆ヶ岳と端整な三角形の古御岳が姿を見せる。子の権現から大高山・天覚山などもウノタワの林の向こうに見えているらしい。平野部には薄っすらとだが都心のビル群が見える。その中を一際高くスカイツリーが空に向かって屹立している。伐採された丸太が落ちているので、ここで少し休みをとっていくことにした。
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(ウノタワ上の木)
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(伐採地から伊豆ヶ岳と古御岳)
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(スカイツリー)
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(奥に筑波山)
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(ウノタワ上の伐採地からのパノラマ)
伐採地から先、横倉山までは奥武蔵でも有数の雑木林が広がる。秋は紅葉が美しい所だ。緩やかなアップダウンの続く道は冬枯れの今、気持ちの良い陽だまりの道となっている。春にはカタクリの花が咲くが、今日は花らしきものは全く無い。その代わり山栗のイガが大量に落ちている。モノトーンに近い景色に色を添えるのは常緑広葉樹のアセビの葉くらいのものだ。横倉山へと向かう所で今日初めて人と擦れ違う。中高年の男性だが、どこから登ってきたのだろう。ゆるゆると登り、横倉山(1197)に着く。尾根の高まりといった感じで、プレートがなければ山頂と気付かないだろう。
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(横倉山への道)
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(栗が多い)
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(横倉山)
檜の生える暗い鞍部へと下り、大持山の肩へと登り返す。今日の行程の中では一応最後の急坂である。西が雑木林、東が檜林でその間の防火帯を登っていく。上部は常に明るく、雲が空を覆うのが見える。東側が大きな伐採地となるとまもなく大持山の肩に着く。南東側の眺めが良い。ウノタワ上の伐採地からの眺めと似ているが、ここでは蔦岩山から武川岳への伸びやかな尾根が見渡せるのが良い。名郷の集落を挟んで越し方を望めば、鳥首峠から向こうの橋小屋の頭までが見え、そこから蕨山へと高度を落としていく。橋小屋の頭から蕨山への尾根の背後に見える三角形に突き出した山は棒ノ折山(棒ノ嶺)だ。
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(大持山の肩)
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(大持山の肩からのパノラマ)
冷たい風が吹き付ける大持山の肩を早々に辞し、山頂へと向かう。明るい雑木林の尾根が続き、風は寒い。山頂手前で一回り位年上のカップルと擦れ違う。皆暖かそうな格好をしている。大持山の山頂(1294.1)に着くと誰も居なかった。雑木林に囲まれた山頂だが、東西にそれぞれ切り開きがある。西側は大平山とその背後の長沢背稜が見えている。酉谷山からは矢岳・熊倉山への尾根が二本に分かれているのがわかる。熊倉山への尾根の背後に見える平たい山は和名倉山だろうか。北側斜面はどこも雪が残っている。東側は前武川岳の背後に伊豆ヶ岳と古御岳が見え、更に関八州見晴台から顔振峠辺りまでが呼称の内にある。冬枯れの時期ということもあり、眺めはそこそこ良いが、その分風が冷たい。休まずに小持山へと向かう。
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(大持山の山頂から大平山方面)
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(大持山の山頂から伊豆ヶ岳方面)
大持山の直下は広い尾根が延びる。やがて尾根は狭まり、タフな岩尾根が続く。明るい雑木林が中心だが、松やアセビなどの常緑樹も目立つ。紅葉の時期に歩いてみたいという気持ちになる。人がギリギリ通り抜けられるほどの幅の岩の間を抜けると、東側が開けた露岩のピークに出る。振り返ると武川岳や伊豆ヶ岳・古御岳、グリーンラインなどが見える。特に大持山から武川岳へと連なる尾根の途中妻坂峠で大きく落ち込むのがよくわかる。伊豆ヶ岳はいつの間にか大分遠くなったように感じる。グリーンラインの向こうには筑波山が相変わらず見える。
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(露岩のピークから武川岳方面)
一旦下ったところで再び露岩のピークを登る。この辺り地形図には反映できないほどに細かなアップダウンがある。露岩のピークははじめ東側が少し開けるが、檜の木を回り込むと西側が大きく開けた露岩(雨乞岩)が突き出している。ちょうど中高年の女性グループが休憩が終わり、立ち去るところだった。代わりに眺めを楽しむことにする。大平山と長沢背稜が見えるのは大持山と同じだが、更に北東にある鋸の歯のような両神山が見えるのが特徴だ。眺めは良い所だが、西側にせり出した岩は高度感たっぷりな上、風が恐ろしく冷たい。それに天候もやや怪しくなってきた。急ぎ小持山へと向かう。
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(雨乞岩)
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(雨乞岩から両神山方面)
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(雨乞岩からのパノラマ)
大持山から小持山へはあまり距離はないはずなのだが、急いでいるときはやたらと長く感じる。尾根が左に屈曲する辺りでようやく武甲山が端整な三角形の山容を現す。背後には大霧山から釜伏山までの尾根も見える。所々凍りついて滑る岩尾根を慎重に下っていく。一人二人擦れ違う人も居て、この時期にしては人も多い。斜めに突き出した一枚岩を越えると前回は直登した大きな岩が見えてきた。今回は右から巻くことにする。岩に取り付くとすぐに右へ踏み跡がある。十分な幅はあるものの、慎重に行きたい。回り込むように岩の上に出ると小持山の肩のような部分に出る。ここで初めて武川岳から二子山への尾根が見渡せる。肩の部分から少し登れば小持山の山頂(1273)だ。武甲山と背後の大霧山と笠山・丸山・堂平山の三連の眺めが良い。大分疲れが溜まっているので、ここで少し休憩を取る。
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(尾根上から武甲山)
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(大きな岩 右に巻く)
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(小持山の肩部分から武川岳から二子山への尾根)
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(小持山から城峯山辺り)
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(小持山から手前に二子山、奥は笠山・丸山・堂平山)
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(小持山からのパノラマ)
休憩を取っていると同年代の男性が登ってきた。そろそろ出発しよう。小持山直下は雪の付いた急斜面だ。滑らないようにゆっくりと下る。武士平分岐では若い女性二人組がやってくる。ボクが山歩きを始めた頃に比べると登山者層の若返りが感じられる光景だ。武士平分岐を過ぎると細い岩尾根が続く。北斜面のせいか雪が残り、多くは凍り付いてアイスバーンとなっている。転げ落ちれば大怪我では済まされない可能性が高い。恐る恐る下っていく。軽アイゼンは持っているが、使わなければならないほどには凍り付いていないように感じる。…などと考えていたら見事に滑った。ストックがなければどこか怪我をしていただろう。但しコケたことで少し落ち着きが出てきた。潅木と雑木林の続く尾根なので、眺めの良い所で立ち止まりながら進む。ちょっとした露岩からは二子山がその名の通り双耳峰の姿を見せていた。伊豆ヶ岳から見るのとではやはり違う。
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(シラジクボへの下り)
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(二子山が見える)
一頻り下ると尾根が広くなる。再び急斜面となるが、その後はシラジクボまで緩やかな尾根が続く。檜林と雑木林が混在する尾根は急な岩尾根を下ってきた身には心落ち着く所だ。1088のピークに上がるとシラジクボが眼下に見えてくる。急な下りかと思ったのだが、意外と緩やかで安心した。武甲山と小持山の鞍部に当たるシラジクボからは長者屋敷の頭と持山寺跡へ向かってそれぞれ道が延びている。今回の山歩きの最大の目的は持山寺跡へのルートを歩くことにある。武甲山は今回で七度目の登頂となり、正直それほどの拘りは無い。時間も既に12時半を回っている。迷ったが武甲山の山頂を前にして登らない手は無い。意を決し、山頂を目指すことにした。
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(緩やかな尾根)
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(シラジクボ)
武甲山の山頂へは防火帯の広い薄原を只管登っていく。最初は緩やかだが、偽ピークへ向かって一旦急斜面となる。尾根の西側は広くカラマツ林が広がり、陽だまりの暖かな道が続く。風は思ったよりも弱く、むしろ暑いくらいだ。偽ピークに上がったところで大きなカメラを抱えた中高年の男性と擦れ違う。ここは小持山を撮るのに良い所だ。偽ピークから先は武甲山の肩に当たる十字の出合まで急斜面が続く。疲れた体にはしんどい道だ。半分くらい登ったところで足が止まる。残りはあと50メートルくらいなのだが、足が上がらない。だましだまし登っていくと白いものがキラリと光って見える。おそらく十字の出合にある看板の類だろう。休まずに登り続けると予想したとおり十字の出合に出た。ここまで来れば山頂は近い。
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(武甲山への登り 左はカラマツ)
武甲山の肩から山頂までは広い小平地のようになっている。暗い檜林を抜けると秩父御嶽神社の境内となっている。明るい境内を抜けていくとフェンスで囲まれた山頂付近に出る。疲れもピークにあるので、今日は第一展望台だけ寄っていくことにする。やや滑りやすい岩場を抜けると武甲山の第一展望台(1304)だ。転落防止用に二重に張られたフェンスの向こうには秩父盆地が眼下に望める。真っ白に見える所は全て採掘場だ。遠くに目を転じれば、双耳峰の御荷鉾山とその右手前の城峯山が顕著だ。秩父盆地に横たわる蓑山の右には登谷山から秩父高原牧場までの尾根が見渡せ、大霧山が一際高く頭をもたげている。時間は気になるものの、とりあえず昼食のカップラーメンを作ることにした。昼食を作る間常時二、三人の登山者が行き交い、人気の山であることを改めて感じさせられた。
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(第一展望台)
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(展望台から秩父盆地を見下ろす)
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(奥は御荷鉾山)
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(左に蓑山 右に大霧山そこから左へ登谷山への尾根が延びる)
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(展望台からのパノラマ)
昼食も取り終わり、帰りの分のお茶も作り終わったところで下山することにした。展望台に掛けられた温度計に気付き、気温を確かめてみると氷点下4度を示していた。どおりで寒い訳だ。往路を戻り、十字の出合までやってくる。正面に大持山から妻坂峠への尾根が見える。ここから見るとやはり大持山は小持山よりも標高が高い。シラジクボへと高度を下げていくとそうは見えないのが不思議だ。大持山よりも小持山が大きくなるのを眺めながら、シラジクボへと再び下り立つ。
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(十字の出合から大持山)
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(段々と小持山が大きくなる)
いよいよ持山寺跡への道へと入る。未踏の道に入るときにいつも感じる怖さ・緊張感が襲ってくる。暗い檜林の道は明瞭ながらも踏み跡を雪が覆っている。谷側へ傾いたトラバース道なので、転落しそうで怖い。雪の上に足跡が散見されたので、歩く人は多いらしい。トラバース道が広がってくれば、緊張も解けてくる。西日も差さず、終始暗かった檜林が切れる所で尾根に乗っかる。ここまで来れば、何故かもう恐ろしい所はないような気がした。そのまま尾根を下ると林道らしき道に合流する。ディジタル地形図だと相当上部まで林道が延びているようだ。道標にしたがい林道脇の横道に入ると持山寺跡の分岐に出る。当然ここは持山寺跡へと向かう。
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(シラジクボから持山寺跡への道)
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(凍りつくトラバース道)
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(林道に出たところ 右にハイキングコースが延びる)
杉木立の中、トラバース道を進む。午後になったせいか余計陰鬱な雰囲気が増したような感じだ。それほど時間も掛からないうちに持山寺跡が見えてきた。意外に広い小平地であることに驚く。中央には宝篋印塔が置かれ、また案内板によると竹林・滝・池跡などがあるという。案内板にも書かれている松平長七郎については史実上の人物ではないと言われている。江戸からも離れたこの地とどのような縁があって、伝説上の人物の謂れが残るようになったのであろうか。
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(持山寺跡)
石碑のある分岐に戻り、道標にハイキングコースと書かれた尾根上の道を下る。やや急な斜面を下ると雑木林となる。久しぶりに浴びる光が眩しい。広い道を下ると再度林道に出る。雪の残る林道だが、舗装されていないので、滑って転ぶようなことはない。少し下ると右側に道標があり、ここから再びハイキングコースが延びる。最初こそ直線的に付けられた道も斜面が急になると長い九十九折となる。長者屋敷の頭から橋立川へと下りる際に通る九十九折と雰囲気は似ているが、こちらのほうが格段に歩きやすい。九十九折を下りきり、鉄板の橋を渡れば、表参道の舗装路に出る。ここまで来れば一安心だ。
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(石碑のある分岐)
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(急斜面の雑木林)
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(奥に林道が見える)
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(九十九折を下る)
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(鉄板の橋)
ここから横瀬駅までは全面舗装された足には厳しい道が延々と続く。当初は妻坂峠を越えて名郷へと戻る予定だったのだが、最初にシラジクボへ下りた時点で既に諦めていた。細い舗装路を下っていくと右側に十二丁目と彫られた石柱が立っている。この石柱は表参道の目印として武甲山の肩辺りまで置かれている(確か52丁目くらいあったはず)。八丁目石の辺りで道は右岸へと移る。養鱒場か養鯉場らしき池があり、生川(うぶがわ)へと水が流れ込んでいた。一の鳥居への道があったようだが、完全に見落とし、更に車道を下る。傾斜が緩くなり、いくらか足には優しい。妻坂峠への分岐を見送ると一の鳥居前に出る。コンクリート製の鳥居の向こうに15,6台は置ける駐車場がある。鳥居の手前には狛犬が置かれており、前二体は狼、後二体は犬のように見える。駐車場の案内板前に置かれたベンチで一息つく。
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(十二丁目石)
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(養鱒場?)
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(妻坂峠分岐)
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(一の鳥居)
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(狛犬)
一の鳥居から先は広い道路となる。途中武川岳側に祠の置かれた水場があり、延命水と名付けられている。手を洗い、掬って飲んでみるとなかなか美味い。武甲山周辺はみな癖の無い水だ。人気の無い別荘地を過ぎるとやがて前方に白い煙が上がっているのが見える。火事ということはないだろう。近づくとそれは巨大な鉱業所から吐き出される煙であった。生川を渡るとダンプカーが悠に擦れ違えるほどの二車線道路になる。道路は石灰の粉で白くなっている。稼働中の鉱業所を眺めつつ歩いているとダンプカーが次々と通る。その度に白い粉が舞い上がる。コミュニティバスも停まるガソリンスタンドまで来れば、石灰工場地帯も終わる。振り返れば、武甲山の採掘場が凄まじい傷跡を見せている。今は宙に突き出す岩もやがて消えてなくなっていくのだろう。民家の点在する住宅地を抜け、西武秩父線に沿って歩けば横瀬駅に着く。こうして今年一年の山歩きが終わった。
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(延命水)
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(生川)
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(石灰工場群)
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(ガソリンスタンドから武甲山)
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(二子山)
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(武甲山)
DATA:
飯能駅(国際興業バス)名郷8:10~8:23大場戸橋~8:50JFEミネラル~9:08白岩廃村~9:44鳥首峠~10:27ウノタワ~
11:17大持山~11:32雨乞岩~11:52小持山~12:28シラジクボ~12:54武甲山13:23~13:42シラジクボ~14:00持山寺跡~
14:23持山寺跡入口~14:38妻坂峠分岐~14:41一の鳥居~14:52延命水~15:57横瀬駅
地形図 原市場 武蔵日原 秩父
歩数 40,816歩
国際興業バス 飯能駅~名郷 790円
大持山~小持山間と小持山~シラジクボ間は冬場凍結に注意してください。軽アイゼンの持参推奨。シラジクボから持山寺跡のルートはエスケープに良いと思います。生川基点にクルマを置いて周回するのも良さそうです。
持山寺の詳細についてはこちら(http://www.town.yokoze.saitama.jp/about/culture/40.html)を参照して下さい。
クリスマス寒波が襲来したこの日、名郷の集落は綺麗に晴れ渡っていた。数軒の民家と民宿、林業関係の会社と寺院で構成される集落は入間川奥地にあるものとしては大きなほうだ。綺麗に掃除のされた公衆トイレで用を足し、民家が立ち並ぶ車道を進む。この辺りは空が広い。民宿西山荘への道を見送った辺りから民家はなくなり、入間川の両岸が狭まってくる。川原には大鳩園のオートキャンプ場があるが、今は人気がない。入間川は冬場にもかかわらず水量は多い。コンクリートで嵩上げされた川底からは下流へ滝のように流れ落ちている。暗い杉木立の道を行くと車道が二又に分かれる。右は山中、左は白岩へと向かう。
大場戸橋を渡り、白岩への道に入る。両岸は更に狭まり、車道の付けられた左岸は切り立った崖となっている。右に大きくカーヴを描く地点では大きな崖が覆いかぶさるようにせり出している。崖に慄きながら進んでいると鉱山へと向かう大きなトラックが追い抜いていく。祝日ではあるものの、暦の上では今日は月曜日。鉱山の工場はいつも通り稼動しているのだろう。右岸に白岩渓流園のキャンプ場を見送りつつ、工場へと近づくと、やがて前方から聞き慣れない音が聞こえてくる。暗い杉木立を抜けると正面が開け、JFEミネラルの工場が見えてくる。大きな4連のタンクの上には白岩集落の象徴である大きな石灰岩が姿を現す。聞き慣れない音の正体はタンクからトラックの荷台へとタンカルを流し込む際に発生する音だった。
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(白岩沢の崖)
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(JFEミネラルの工場)
工場の事務所脇に付けられたハイキングコースを上がっていく。ジグザグに付けられた道は急激に高度を上げていく。振り返れば工場内を一望できるが、写真撮影は禁止されている。工場マニアとの間でいざこざでもあったのだろうか。一旦工場を離れ、杉木立の中を行く。送電鉄塔管理用の道を分けた所で再び工場の小屋が見えてくる。敷地と登山道との境にはモノレールがあり、上にある採掘場へとつながっているようだ。モノレールを潜ると道はジグザグを描いて上がっていく。結構傾斜が急で苦しい。白岩沢の支流を見送ると傾斜は少し緩くなる。前方は明るくなり、白岩の廃集落は近い。
壁のような斜面を乗り上げると白岩の廃集落に辿り着く。入ってすぐの小屋掛けの奥には大量の小石が積まれている。小石のある所へ行くと見上げる位置に大きな石灰岩がある。この小石の山は鉱山から落ちてきたものなのだろうか。1980年代に人が住まなくなったという集落内には今でも5棟ほどの建物が残されている。沢は近くにあるので水には事欠かないのかもしれないが、作物が作れるほどの土地がある訳ではない。一体この集落でどんな生活をしていたのだろうか。ボクには想像もできない。
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(白岩)
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(集落の廃屋)
白岩の廃集落を過ぎると道は中腹を横切るトラバース道となる。白岩沢を大きく高巻く。沢が次第に近づいてくると支流の沢を横切る。道は荒れているが、よく見れば踏み跡はある。一つ目の沢を渡ると傾斜がいくらか急になる。暗い杉林の中を行く道は変化がなく、苦しい。奥武蔵の中でもこの白岩から鳥首峠へと至る道は厳しいほうの部類に入るだろう。三つ目の沢を渡ると道は峠へ向かって長い九十九折となる。上が明るくなっている分、気が急いてしまう。高度を上げていくと空気が冷たくなってきた。歩き始めてからこれまであまり感じることのなかった冷たさだ。西側が雑木林となっている鳥首峠へと出た途端、西側から冷たい風が吹き付けてくる。あまりの冷たさに休むこともままならない。少し北側へ登ってみるものの、尾根上にいる限り風を受けてしまうらしい。
やむなく休憩を取らずに北に延びる尾根を登っていく。檜が覆い尽くす急な斜面の登りだ。休みを取らない体には厳しい登りだが、依然として風が冷たく立ち止まることはできない。喘ぎながらなんとか小さな岩が点在する小ピークへと上がる。いくらか風は弱まったようだ。ようやく休憩をとることにした。上着を着るほどではないが、凍傷が怖いので、手袋は厚手のものに変える。ここから先の1059のピークまでは比較的緩やかな尾根が続く。再び歩き始め、1059のピークに近づいた辺りで西側の展望が開ける。正面から尾根を二つに大きく分ける山はエアリアマップによると大平山というらしい。東側は雑木林の木の間越しに白岩の採掘場が見える。
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(展望地から大平山)
1059のピークを越えるとその先の鞍部に送電鉄塔が建つ。明るいが風が吹き抜け、あまりのんびりはできない。鞍部からは檜林の中をやや傾斜の急な登りとなる。落ち着ける所が無いだけに、精神的にも辛い。小ピークを登り切るとそこから先は雑木林となっている。緩くカーヴを描く尾根が優美だ。緩く登り返すと今度は細い岩尾根がウノタワへ向かって下りていく。雑木林の木の間越しに大持山と武甲山が見える。岩場の手前で道標があり、大持山から妻坂峠への尾根の向こうに武甲山が山頂部を覗かせている。岩場を右から巻いていくとまもなくウノタワが見えてくる。道は尾根に沿って西端へ延びていくが、歩きやすい所を適当に下っていく。
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(雑木林の道)
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(雑木林越しに大持山と武甲山)
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(岩場に立つ道標)
鵜の田とも呼ばれるウノタワは中心部が木の生えない緩やかな広い窪地となっている。ブナの木に混じり、真っ直ぐ幹を伸ばすのはカラマツだ。窪地は落ち葉の吹溜りの上が芝草の広場になっている。ウノタワにテントを張って寝泊りする人も多いという。確かに春や秋の頃は気持ちが良さそうだ。ただ真冬の今日は風が強く立ち止まっていられない。北東に延びる急斜面を上がっていく。西側が雑木林となっている尾根は斜面一杯に落ち葉が敷かれている。踏み跡が消され、歩きにくいことこの上ない。踏み跡らしき所を慎重に上がっていくが、ふとした拍子に足を滑らせる。1~2mほど滑り落ちてしまった。東側の檜につかまりながら上がっていくと上部は踏み跡が確りとしている。
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(ウノタワ)
尾根を登り切ると白い幹の木がその白さを輝かせながら迎えてくれる。白い木の前は広い伐採地となっている。左から葉を落とした雑木林の上に緩やかな武川岳・前武川岳の尾根が延び、奥はグリーンラインの尾根が関東平野へと向かって高度を落としていく。平野の奥に見える尾根は筑波山だ。名郷から前武川岳への尾根のすぐ後ろには無骨な形の伊豆ヶ岳と端整な三角形の古御岳が姿を見せる。子の権現から大高山・天覚山などもウノタワの林の向こうに見えているらしい。平野部には薄っすらとだが都心のビル群が見える。その中を一際高くスカイツリーが空に向かって屹立している。伐採された丸太が落ちているので、ここで少し休みをとっていくことにした。
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(ウノタワ上の木)
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(伐採地から伊豆ヶ岳と古御岳)
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(スカイツリー)
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(奥に筑波山)
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(ウノタワ上の伐採地からのパノラマ)
伐採地から先、横倉山までは奥武蔵でも有数の雑木林が広がる。秋は紅葉が美しい所だ。緩やかなアップダウンの続く道は冬枯れの今、気持ちの良い陽だまりの道となっている。春にはカタクリの花が咲くが、今日は花らしきものは全く無い。その代わり山栗のイガが大量に落ちている。モノトーンに近い景色に色を添えるのは常緑広葉樹のアセビの葉くらいのものだ。横倉山へと向かう所で今日初めて人と擦れ違う。中高年の男性だが、どこから登ってきたのだろう。ゆるゆると登り、横倉山(1197)に着く。尾根の高まりといった感じで、プレートがなければ山頂と気付かないだろう。
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(横倉山への道)
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(栗が多い)
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(横倉山)
檜の生える暗い鞍部へと下り、大持山の肩へと登り返す。今日の行程の中では一応最後の急坂である。西が雑木林、東が檜林でその間の防火帯を登っていく。上部は常に明るく、雲が空を覆うのが見える。東側が大きな伐採地となるとまもなく大持山の肩に着く。南東側の眺めが良い。ウノタワ上の伐採地からの眺めと似ているが、ここでは蔦岩山から武川岳への伸びやかな尾根が見渡せるのが良い。名郷の集落を挟んで越し方を望めば、鳥首峠から向こうの橋小屋の頭までが見え、そこから蕨山へと高度を落としていく。橋小屋の頭から蕨山への尾根の背後に見える三角形に突き出した山は棒ノ折山(棒ノ嶺)だ。
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(大持山の肩)
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(大持山の肩からのパノラマ)
冷たい風が吹き付ける大持山の肩を早々に辞し、山頂へと向かう。明るい雑木林の尾根が続き、風は寒い。山頂手前で一回り位年上のカップルと擦れ違う。皆暖かそうな格好をしている。大持山の山頂(1294.1)に着くと誰も居なかった。雑木林に囲まれた山頂だが、東西にそれぞれ切り開きがある。西側は大平山とその背後の長沢背稜が見えている。酉谷山からは矢岳・熊倉山への尾根が二本に分かれているのがわかる。熊倉山への尾根の背後に見える平たい山は和名倉山だろうか。北側斜面はどこも雪が残っている。東側は前武川岳の背後に伊豆ヶ岳と古御岳が見え、更に関八州見晴台から顔振峠辺りまでが呼称の内にある。冬枯れの時期ということもあり、眺めはそこそこ良いが、その分風が冷たい。休まずに小持山へと向かう。
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(大持山の山頂から大平山方面)
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(大持山の山頂から伊豆ヶ岳方面)
大持山の直下は広い尾根が延びる。やがて尾根は狭まり、タフな岩尾根が続く。明るい雑木林が中心だが、松やアセビなどの常緑樹も目立つ。紅葉の時期に歩いてみたいという気持ちになる。人がギリギリ通り抜けられるほどの幅の岩の間を抜けると、東側が開けた露岩のピークに出る。振り返ると武川岳や伊豆ヶ岳・古御岳、グリーンラインなどが見える。特に大持山から武川岳へと連なる尾根の途中妻坂峠で大きく落ち込むのがよくわかる。伊豆ヶ岳はいつの間にか大分遠くなったように感じる。グリーンラインの向こうには筑波山が相変わらず見える。
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(露岩のピークから武川岳方面)
一旦下ったところで再び露岩のピークを登る。この辺り地形図には反映できないほどに細かなアップダウンがある。露岩のピークははじめ東側が少し開けるが、檜の木を回り込むと西側が大きく開けた露岩(雨乞岩)が突き出している。ちょうど中高年の女性グループが休憩が終わり、立ち去るところだった。代わりに眺めを楽しむことにする。大平山と長沢背稜が見えるのは大持山と同じだが、更に北東にある鋸の歯のような両神山が見えるのが特徴だ。眺めは良い所だが、西側にせり出した岩は高度感たっぷりな上、風が恐ろしく冷たい。それに天候もやや怪しくなってきた。急ぎ小持山へと向かう。
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(雨乞岩)
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(雨乞岩から両神山方面)
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(雨乞岩からのパノラマ)
大持山から小持山へはあまり距離はないはずなのだが、急いでいるときはやたらと長く感じる。尾根が左に屈曲する辺りでようやく武甲山が端整な三角形の山容を現す。背後には大霧山から釜伏山までの尾根も見える。所々凍りついて滑る岩尾根を慎重に下っていく。一人二人擦れ違う人も居て、この時期にしては人も多い。斜めに突き出した一枚岩を越えると前回は直登した大きな岩が見えてきた。今回は右から巻くことにする。岩に取り付くとすぐに右へ踏み跡がある。十分な幅はあるものの、慎重に行きたい。回り込むように岩の上に出ると小持山の肩のような部分に出る。ここで初めて武川岳から二子山への尾根が見渡せる。肩の部分から少し登れば小持山の山頂(1273)だ。武甲山と背後の大霧山と笠山・丸山・堂平山の三連の眺めが良い。大分疲れが溜まっているので、ここで少し休憩を取る。
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(尾根上から武甲山)
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(大きな岩 右に巻く)
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(小持山の肩部分から武川岳から二子山への尾根)
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(小持山から城峯山辺り)
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(小持山から手前に二子山、奥は笠山・丸山・堂平山)
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(小持山からのパノラマ)
休憩を取っていると同年代の男性が登ってきた。そろそろ出発しよう。小持山直下は雪の付いた急斜面だ。滑らないようにゆっくりと下る。武士平分岐では若い女性二人組がやってくる。ボクが山歩きを始めた頃に比べると登山者層の若返りが感じられる光景だ。武士平分岐を過ぎると細い岩尾根が続く。北斜面のせいか雪が残り、多くは凍り付いてアイスバーンとなっている。転げ落ちれば大怪我では済まされない可能性が高い。恐る恐る下っていく。軽アイゼンは持っているが、使わなければならないほどには凍り付いていないように感じる。…などと考えていたら見事に滑った。ストックがなければどこか怪我をしていただろう。但しコケたことで少し落ち着きが出てきた。潅木と雑木林の続く尾根なので、眺めの良い所で立ち止まりながら進む。ちょっとした露岩からは二子山がその名の通り双耳峰の姿を見せていた。伊豆ヶ岳から見るのとではやはり違う。
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(シラジクボへの下り)
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(二子山が見える)
一頻り下ると尾根が広くなる。再び急斜面となるが、その後はシラジクボまで緩やかな尾根が続く。檜林と雑木林が混在する尾根は急な岩尾根を下ってきた身には心落ち着く所だ。1088のピークに上がるとシラジクボが眼下に見えてくる。急な下りかと思ったのだが、意外と緩やかで安心した。武甲山と小持山の鞍部に当たるシラジクボからは長者屋敷の頭と持山寺跡へ向かってそれぞれ道が延びている。今回の山歩きの最大の目的は持山寺跡へのルートを歩くことにある。武甲山は今回で七度目の登頂となり、正直それほどの拘りは無い。時間も既に12時半を回っている。迷ったが武甲山の山頂を前にして登らない手は無い。意を決し、山頂を目指すことにした。
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(緩やかな尾根)
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(シラジクボ)
武甲山の山頂へは防火帯の広い薄原を只管登っていく。最初は緩やかだが、偽ピークへ向かって一旦急斜面となる。尾根の西側は広くカラマツ林が広がり、陽だまりの暖かな道が続く。風は思ったよりも弱く、むしろ暑いくらいだ。偽ピークに上がったところで大きなカメラを抱えた中高年の男性と擦れ違う。ここは小持山を撮るのに良い所だ。偽ピークから先は武甲山の肩に当たる十字の出合まで急斜面が続く。疲れた体にはしんどい道だ。半分くらい登ったところで足が止まる。残りはあと50メートルくらいなのだが、足が上がらない。だましだまし登っていくと白いものがキラリと光って見える。おそらく十字の出合にある看板の類だろう。休まずに登り続けると予想したとおり十字の出合に出た。ここまで来れば山頂は近い。
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(武甲山への登り 左はカラマツ)
武甲山の肩から山頂までは広い小平地のようになっている。暗い檜林を抜けると
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(第一展望台)
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(展望台から秩父盆地を見下ろす)
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(奥は御荷鉾山)
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(左に蓑山 右に大霧山そこから左へ登谷山への尾根が延びる)
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(展望台からのパノラマ)
昼食も取り終わり、帰りの分のお茶も作り終わったところで下山することにした。展望台に掛けられた温度計に気付き、気温を確かめてみると氷点下4度を示していた。どおりで寒い訳だ。往路を戻り、十字の出合までやってくる。正面に大持山から妻坂峠への尾根が見える。ここから見るとやはり大持山は小持山よりも標高が高い。シラジクボへと高度を下げていくとそうは見えないのが不思議だ。大持山よりも小持山が大きくなるのを眺めながら、シラジクボへと再び下り立つ。
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(十字の出合から大持山)
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(段々と小持山が大きくなる)
いよいよ持山寺跡への道へと入る。未踏の道に入るときにいつも感じる怖さ・緊張感が襲ってくる。暗い檜林の道は明瞭ながらも踏み跡を雪が覆っている。谷側へ傾いたトラバース道なので、転落しそうで怖い。雪の上に足跡が散見されたので、歩く人は多いらしい。トラバース道が広がってくれば、緊張も解けてくる。西日も差さず、終始暗かった檜林が切れる所で尾根に乗っかる。ここまで来れば、何故かもう恐ろしい所はないような気がした。そのまま尾根を下ると林道らしき道に合流する。ディジタル地形図だと相当上部まで林道が延びているようだ。道標にしたがい林道脇の横道に入ると持山寺跡の分岐に出る。当然ここは持山寺跡へと向かう。
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(シラジクボから持山寺跡への道)
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(凍りつくトラバース道)
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(林道に出たところ 右にハイキングコースが延びる)
杉木立の中、トラバース道を進む。午後になったせいか余計陰鬱な雰囲気が増したような感じだ。それほど時間も掛からないうちに持山寺跡が見えてきた。意外に広い小平地であることに驚く。中央には宝篋印塔が置かれ、また案内板によると竹林・滝・池跡などがあるという。案内板にも書かれている松平長七郎については史実上の人物ではないと言われている。江戸からも離れたこの地とどのような縁があって、伝説上の人物の謂れが残るようになったのであろうか。
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(持山寺跡)
石碑のある分岐に戻り、道標にハイキングコースと書かれた尾根上の道を下る。やや急な斜面を下ると雑木林となる。久しぶりに浴びる光が眩しい。広い道を下ると再度林道に出る。雪の残る林道だが、舗装されていないので、滑って転ぶようなことはない。少し下ると右側に道標があり、ここから再びハイキングコースが延びる。最初こそ直線的に付けられた道も斜面が急になると長い九十九折となる。長者屋敷の頭から橋立川へと下りる際に通る九十九折と雰囲気は似ているが、こちらのほうが格段に歩きやすい。九十九折を下りきり、鉄板の橋を渡れば、表参道の舗装路に出る。ここまで来れば一安心だ。
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(石碑のある分岐)
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(急斜面の雑木林)
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(奥に林道が見える)
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(九十九折を下る)
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(鉄板の橋)
ここから横瀬駅までは全面舗装された足には厳しい道が延々と続く。当初は妻坂峠を越えて名郷へと戻る予定だったのだが、最初にシラジクボへ下りた時点で既に諦めていた。細い舗装路を下っていくと右側に十二丁目と彫られた石柱が立っている。この石柱は表参道の目印として武甲山の肩辺りまで置かれている(確か52丁目くらいあったはず)。八丁目石の辺りで道は右岸へと移る。養鱒場か養鯉場らしき池があり、生川(うぶがわ)へと水が流れ込んでいた。一の鳥居への道があったようだが、完全に見落とし、更に車道を下る。傾斜が緩くなり、いくらか足には優しい。妻坂峠への分岐を見送ると一の鳥居前に出る。コンクリート製の鳥居の向こうに15,6台は置ける駐車場がある。鳥居の手前には狛犬が置かれており、前二体は狼、後二体は犬のように見える。駐車場の案内板前に置かれたベンチで一息つく。
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(十二丁目石)
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(養鱒場?)
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(妻坂峠分岐)
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(一の鳥居)
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(狛犬)
一の鳥居から先は広い道路となる。途中武川岳側に祠の置かれた水場があり、延命水と名付けられている。手を洗い、掬って飲んでみるとなかなか美味い。武甲山周辺はみな癖の無い水だ。人気の無い別荘地を過ぎるとやがて前方に白い煙が上がっているのが見える。火事ということはないだろう。近づくとそれは巨大な鉱業所から吐き出される煙であった。生川を渡るとダンプカーが悠に擦れ違えるほどの二車線道路になる。道路は石灰の粉で白くなっている。稼働中の鉱業所を眺めつつ歩いているとダンプカーが次々と通る。その度に白い粉が舞い上がる。コミュニティバスも停まるガソリンスタンドまで来れば、石灰工場地帯も終わる。振り返れば、武甲山の採掘場が凄まじい傷跡を見せている。今は宙に突き出す岩もやがて消えてなくなっていくのだろう。民家の点在する住宅地を抜け、西武秩父線に沿って歩けば横瀬駅に着く。こうして今年一年の山歩きが終わった。
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(延命水)
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(生川)
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(石灰工場群)
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(ガソリンスタンドから武甲山)
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(二子山)
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(武甲山)
DATA:
飯能駅(国際興業バス)名郷8:10~8:23大場戸橋~8:50JFEミネラル~9:08白岩廃村~9:44鳥首峠~10:27ウノタワ~
11:17大持山~11:32雨乞岩~11:52小持山~12:28シラジクボ~12:54武甲山13:23~13:42シラジクボ~14:00持山寺跡~
14:23持山寺跡入口~14:38妻坂峠分岐~14:41一の鳥居~14:52延命水~15:57横瀬駅
地形図 原市場 武蔵日原 秩父
歩数 40,816歩
国際興業バス 飯能駅~名郷 790円
大持山~小持山間と小持山~シラジクボ間は冬場凍結に注意してください。軽アイゼンの持参推奨。シラジクボから持山寺跡のルートはエスケープに良いと思います。生川基点にクルマを置いて周回するのも良さそうです。
持山寺の詳細についてはこちら(http://www.town.yokoze.saitama.jp/about/culture/40.html)を参照して下さい。