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(仙元峠)
前回城峯山に登った際、奥武蔵の概念について考察したのだが、今回歩く三ツドッケ(天目山)と蕎麦粒山も微妙な立ち位置にある山だ。奥武蔵の南端である都県境尾根の内、棒ノ嶺が奥武蔵に入ることはあまり異論がない。しかしそこから西に延びる尾根上のピークについてはどこまでが奥武蔵に入るのか、人によって意見が異なるところだろう。ボクは「山と高原地図」にしたがって酉谷山までを奥武蔵の一部と考えている。したがって都県境上にある三ツドッケと蕎麦粒山も当然奥武蔵に入れている。今回はこの二つの山に登るため、東京都の奥多摩町日原から入山し、帰りは仙元峠から秩父市浦山へと下る予定だ。このルートは明治大正期の地形図にも道形が描かれた古い峠道でもある。どんな道なのか楽しみに出かけた。
奥多摩駅から一杯水避難小屋へ
奥多摩駅のホームに降りると乗客が一斉に駆け出していく。何事かと思い、彼らを追って改札を出ると駅前広場のバス乗り場に長い行列ができていた。日原行きのバスに乗るのは実に8年ぶりだが、その際に訪れたときも長い行列が出来ていたのを思い出す。他の乗客に釣られてやって来たせいか、列の中ほどに納まることができた。バスに臨時便が出て、また運の良いことにその臨時便で座っていくことができた。バスは奥多摩の深い谷を縫うように進む。途中川乗橋で半分ほどの乗客を降ろした後は、東日原へ向かって只管進んでいく。やがて前方の大きな採掘場が見えてくれば東日原に間も無く到着する。日原集落は日原川の左岸に作られた日当たりの良い所で、8年前と変わらず、それなりの活気があるようだ。
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(日原集落)
身支度を整え、登山口に向けて歩き出す。地形図を見る限りでは交番の少し先に登山口はあるらしい。交番の前には備え付けの登山届の用紙がある。ボクは登山計画書を家族に預けていくので、登山口に用紙が設けられているときはそこで書いていくことにしている。山慣れた登山者が多いのか、事前に用意したものを出していく人が多い。交番のすぐ先が仙元峠・天目山登山口であり、電柱にも墨書きされている。集落内の舗装路を上がっていくと道標があり、擁壁の上に道が延びている。ここからが事実上の登山道と言えよう。擁壁上はよく整備されていて、道が水流などで崩されないようにするためなのか、石を敷き詰めている所がある。ところがこの石に度々突っかかって歩き難い。そんな道沿いにも数軒の建物があり、何かで利用されている形跡もある。やがて九十九折に上がっていくと配水所のタンクが見えてきた。どうやら建物は水源保持のために使われているらしい。
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(擁壁の上の道を行く 花が綺麗だった)
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(ゴロゴロとした石にちょくちょく引っ掛かる)
配水所を過ぎると杉林の中の山道となる。まずは標高差150メートルを九十九折に登っていく。傾斜はやや緩めに切ってあるが、それでもこの九十九折は体力的に厳しい。それでも15分ほど登れば右手に採掘場のフェンスが見えてきて、しばらくは西へトラバースしながら上がっていく。周囲も落葉樹が多くなり、少しの変化ではあるが、退屈な登りの中でも気は紛れる。トラバースが終わり、尾根に上がった地点が標高約940メートル。今歩いている日原から一杯水避難小屋をつなぐヨコスズ尾根のルートは、滝入ノ峰を過ぎるまでは九十九折と巻き道が多い。このやや急な尾根はそれほど長くなく、道標の立つ辺りから長い巻き道へと変わる。
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(九十九折を登る なかなかきつい)
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(右手に採掘場のフェンスが見える)
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(この道標辺りから巻き道に変わる)
巻き道は整備が行き届いていて、見通しが良いせいか先行者の姿がチラチラと目に入る。でも今日は長い道のりなので、他人のペースに惑わされずに歩きたい。巻き道は斜面側(谷側)が暗い杉檜林で、尾根側(山側)は明るい落葉樹林となっている。尾根上は落葉樹の緑が美しそうではあるけれども、地形図を見るとそのアップダウンの酷さに挑戦する気は萎えてしまう。快適な巻き道を進んでいくと小さなアンテナ施設が立つ尾根に出る。滝入ノ峰の南東へと延びる尾根だ。ここを越えると落葉樹の細道となり、山側に岩が露出するようになる。若干の怖さはあるが、美しい道だ。山側の崖が徐々に低くなっていくと唐突に細い尾根に出る。振り返ると細い崖の上に踏み跡があり、滝入ノ峰へと延びているようだ。一応ここが分岐になるのだろう。今日は先が長いので、滝入ノ峰へは足を延ばさない。
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(尾根上の落葉樹林が美しい)
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(歩きやすい巻き道を行く)
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(アンテナが立つ尾根を越える)
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(露岩の巻き道 ちょっと怖い)
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(一応滝入ノ峰分岐)
分岐から先は落葉樹林の細い尾根が続く。この落葉樹林の長い尾根というのが奥多摩の大きな魅力の一つである。奥武蔵も落葉樹林がないわけではないが、ここまで長大なものはない。ところが奥多摩はこうしたルートがそこかしこにあり、登山者を楽しませてくれる。但し手軽に登れる奥武蔵と異なり、こうした尾根を楽しむにはそれなりの苦労もしなければならないのもまた奥多摩の特徴である。それにしてもこのルートは歩きやすい。最初の九十九折こそやや体力的にきつい所があるが、それを越えれば巻き道も尾根道も厳しい所はない。流石は古から峠道として使われてきただけのことはある。この辺りの落葉樹林は戦時中薪炭林として使われた影響で自然林はあまり残っていないとのことであるが、巨木として育ちつつあるものも多く、そういったものを見て歩く楽しみもある。
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(美しい落葉樹林内に延びる細尾根)
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(サラサドウダンツツジの花)
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(美しい尾根道を行く 傾斜も緩く歩きやすい)
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(小ピークは巻いていく)
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(ちょっと樹相が変わる所もある)
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(小ピークは二か所あるが、どちらも巻いていく)
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(巨木になりそうな大きな木が多い)
出発して2時間が経ち、傾斜も少し急になってきたので、道端にザックを下ろして休憩を取る。あとどれくらいで避難小屋に着くのだろうか。ザックを背負い直して再び歩き始めると斜面を登りきったところで建物の屋根が見えてきた。なんと休憩地のすぐ先が一杯水避難小屋であった。小屋下にベンチがあるので、ちょっと損した気分だ。小屋のある辺りは標高1440メートルくらいある。小屋周辺は日当たりが良いが、5月下旬だと十分に涼しい。小屋内部は一層しかないが、広い板張りで窓も多く快適そうだ。
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(一杯水避難小屋)
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(小屋内部 清掃が行き届いていて綺麗)
三ツドッケへ
一杯水避難小屋から三ツドッケへは山と高原地図を見ると小屋裏から南東のピークに取り付くルートと、巻き道を一旦西へ進んで稜線に上がってから西にあるピークを越えるルートの二つが描かれている。どうせ避難小屋へ戻ってくる予定なので、巻き道ルートを採ることにした。都県境尾根の巻き道も落葉樹が多く、よく整備されていて歩きやすい。それでも道標の立つ三ツドッケへの分岐に出るまでに20分ほどを要した。地形図を見ているとスケールが小さいのでどうしても近い距離だと錯覚してしまう。
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(三ツドッケの巻き道)
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(稜線に上がった所 ここから三ツドッケへの道が延びる)
山頂へ続く尾根は急斜面の登りで思わず溜息が出てしまう。何とか我慢して登ると三ツドッケの西に位置する小ピークに出る。三ツドッケという名称は本峰である中央峰の周りにある北・西・南東の小ピークによって遠望したときにどこからでも三つのピークが並び立つように見えることから付けられたらしい。鞍部へ下ると50メートル近い標高差を一気に登っていかなければならない。急な斜面を直線的に登っていくと明るく開けた三ツドッケの山頂(1576.0)に出る。ここは以前もっと鬱蒼とした山頂だったそうだが、違法伐採によって見晴らしが良くなったという(sanpoさんの「山の散歩道」参照)。
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(三ツドッケ西にあるピーク)
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(三ツドッケ山頂)
梅雨入りも近い時期で水蒸気が多く、遠望は利かないが、それでも眺めが良いことがわかる程度には楽しめる。北峰のすぐ近くに見える三角形の山は位置的に武甲山であろう。そこから右に見ていくと広く伐採が入った鳥首峠から有間山にかけての尾根が見渡せる。その手前に大きく盛り上がり、尖った山頂を突き出しているのがこれから向かう蕎麦粒山だ。蕎麦粒山の右後ろに見えているのは川苔山らしい。南側も眺めが良く、大岳山と御前山は薄くシルエットになっていてもわかりやすい。しかしそれ以外の山は馴染みが無く、どの辺りなのか見当も付かない。山頂は先行者で憩っていたが、羽虫が多く、あまりのんびりとしていく人は多くないようだ。ボクもここで休憩を取ろうかと思っていたのだが、あまりに虫が多く諦めた。
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(武甲山から有間山にかけての展望)
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(蕎麦粒山と川苔山など)
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(奥の白く煙った尾根が大岳山と御前山)
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(南西側 どの辺りかはよくわからない)
一杯水と仙元峠
三ツドッケの山頂からは東へ下る。こちら側は山ツツジが多く、朱色の花を沢山付けていた。今年は4月に山歩きしなかったから花を見る機会がほとんどなかった。今日を終えると後は秋まで花見はお預けとなりそうだ。鞍部から急な斜面をよじ登って南東の小ピークに着く。ここから都県境沿いにも踏み跡が付いているが、一杯水に寄ってみたいので、一旦避難小屋へ戻るために南に延びる尾根を下る。sanpoさんによると以前は藪っぽい道だったそうだが、現在は割と明瞭な踏み跡が延びている。但し傾斜は結構きつい。20分をかけて避難小屋へ戻ってくる。三ツドッケに登るだけで1時間もかかってしまったな。浦山大日堂を14時に出るバスに乗るのは難しくなった。
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(山頂から東へ下ると赤いヤマツツジの花が満開であった)
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(咲き残りのトウゴクミツバツツジ)
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(三ツドッケ南東の小ピーク)
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(一杯水避難小屋への道 それなりに急)
避難小屋からは東に延びる巻き道を行く。尾根と尾根に挟まれた丁度中間辺りに一杯水の水場がある。地理院地図だとわかりにくいが、紙の地形図だと●で描かれているので幾分かはわかりやすい。一杯水へ着くと沢地形の真ん中にホースを引っ張り石の桝へ流れ込むようになっている。水は枯れておらず、結構な勢いで流れ出している。手で掬って飲んでみると癖の無い美味い水だ。
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(一杯水)
三ツドッケの南東峰を巻くと都県境尾根に出る。主に北側が落葉樹になっていてこの時期は美しい。ただ以前日向沢ノ峰を歩いた際に感じた緩やかな尾根ではなく、細かなアップダウンが忙しなく続く。檜が多い南側斜面を巻く所も多いので、のんびりと落葉樹林を楽しめる雰囲気もあまりない。1449のピーク近くには崩壊地もあり、整備されているとはいえ、その上を歩くのは気分の良いものではない。都県境尾根に出てから30分あまりで道標が立つ仙元峠分岐に着く。この時、道標をよく見ていなかったので気付かなかったのだが、巻き道をそのまま進んでも蕎麦粒山へと行くことができる。ボクはそれを知らずに仙元峠へ律儀に登っていった。疲れた身体にはしんどい急坂を登りきると木の根元に石祠が祀られた仙元峠の山頂(1444)に着く。通常峠というと鞍部を指すが、ここは権次入峠と同じように峠道が分岐する山頂である。林野庁や秩父市などが共同で立てた案内板によると秩父と多摩を結ぶ唯一の峠として三峰講や富士講を目的とする人達が越えたという。そして石祠は富士のご神体である木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)を祀ったものであるそうだ。
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(落葉樹林が美しい都県境尾根)
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(崩壊地もあるが、よく整備されている)
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(仙元峠分岐 道標を見た限りでは巻き道を行っても蕎麦粒山には登れる)
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(仙元峠)
蕎麦粒山、そして下山
仙元峠から大きく下って道標のある辺りで巻き道と合わさるが、そのまま尾根道を行く。蕎麦粒山への登りもそれなりにしんどいが、仙元峠ほどには苦労もせずに山頂(1472.8)に出る。三角点が埋設された山頂は岩がいくつか露出しており、以前登った日向沢ノ峰に似た雰囲気もある。蕎麦粒という名称は遠望したときの山の形であるとも言われているが、露岩の一つが蕎麦粒の形に似ているからというのが尤もらしい感じがする。東側が少し開けていて、日向沢ノ峰とそこへ至る縦走路がはっきりと見渡せるが、特筆すべきものでもない。ここも羽虫が多いので、休憩は取らず、仙元峠へ戻ることにした。
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(蕎麦粒山へ向かって)
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(蕎麦粒山頂上)
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(東側の眺め 手前のピークに防火帯として切り開かれている縦走路が見える)
仙元峠へ戻る道は予想通り厳しく、短い距離にもかかわらず時間を取られる。仙元峠から浦山大日堂へは山と高原地図だと2時間半の行程となっている。普通に歩けば15時ちょっと前に着くことになる。そうすると最終の16時のバスが来るまで1時間以上待つことになる。できれば14時のバスに乗りたい。ヨコスズ尾根くらい歩きやすい道であれば可能性もあるが、果たしてどうなることやら。まずは仙元峠から北に延びる仙元尾根を下る。峠に道標も立っていたので方向はわかるが、踏み跡が薄く心許ない。ヨコスズ尾根に比べると歩く人はかなり少ないのだろう。その代わり傾斜は地形図を見て予想したほどには急ではない。途中トラロープが設けられた所が一箇所あるが、東側から巻いて下ることができる。
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(仙元峠の看板)
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(ここを下っていく 踏み跡は不明瞭)
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(トラロープもある 但しここは右手から巻ける)
順調に100メートルほど下った所で少々道に迷う。尾根を東に曲がる所までは踏み跡がはっきりとしているのだが、その先傾斜が急になる所から踏み跡がわからなくなる。この先は尾根が北東寄りに延びていくのだが、傾斜が急なので下手に下ることもできない。踏み跡が薄くなり始めた所まで戻ってみると、道が右に折れてその後九十九折に下っていくのがわかった。落ち葉で踏み跡が覆い隠されていてわかり難くなっていたのだ。ここを下りきるとしばらくはわかりやすい尾根道が続く。途中何故か立木に張り紙があり、「迷っても沢に下りるな、滑落するぞ!」と書かれている。新潟で起きた事故も記憶に新しく、登山道になっていない沢は下りるまいと改めて思う。
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(よく見ると踏み跡がある 但しこれでも明瞭なほう)
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(「迷っても沢に下りるな、滑落するぞ!」の張り紙がある)
張り紙の先の尾根を上がると東側に大きな崩壊地が現れる。踏み跡があったであろう尾根の真上までもが崩壊しており、現在は多少迂回する形になっている。崩壊地上からは武川岳から有間山にかけての眺めが良いのだが、あまりのんびりと眺めていたい場所ではない。細くなった尾根を下っていくと明治神宮の名が記された看板が立つ大楢に着く。時計を見ると仙元峠からここまで40分かかっており、山と高原地図が設定した時間通りに下ってきたことになる。もう13時を過ぎているので、14時のバスに乗るのはほぼ絶望的だ。
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(崩壊地)
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(崩壊地上からの眺め)
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(大楢)
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(大楢にある明治神宮の看板)
それでも何とか足掻いてやろうと東の急斜面を下り始める。ところがここでもまた道に迷う。どうにも急斜面になっている所はもともと薄い踏み跡が更に薄くなっていてわかりにくい。先ほどに比べると道の付け方は単純だが、巻き道のスタート部分を探さなければならないので、ここも踏み跡を外して下っていくわけにはいかない。じっくり踏み跡を探して歩くとやがて北へと延びる巻き道へと変わる。ここまで来れば踏み跡探しで迷いそうな所はほぼ無い。ヨコスズ尾根ほどではないものの、比較的歩きやすい巻き道が続き、峻嶮そうな小ピークは悉く巻いてしまうので、段々と歩くスピードも上がっていく。大楢を出て40分弱で送電鉄塔の下に着く。少し開けた所で、午前中に歩いた三ツドッケの山頂と北峰が良く見える。
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(巻き道 ここは割と明瞭なほう)
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(不明瞭な所だとこんな感じ)
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(最初に見えてくる送電鉄塔)
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(三ツドッケを望む)
三ツドッケが見える鉄塔下から先は鉄塔管理道となっている。このとき地形図を見て、送電鉄塔が立っているのはあと2か所と考え、もう少し頑張れば14時のバスに間に合うものと思い込んでいた。ところが小ピークを西から巻くと再び送電鉄塔が現れる。次の鉄塔に行くまでには大きく尾根が西へ曲がるはずなのだが、何故こんな所にあるんだ?そこで地形図をよく見てみると今いる辺りで送電線が折れ曲がっている。送電線は空中で折れ曲がることはないから、どう考えても鉄塔が立っていることになる。うわぁ、見落としていたか…。時計を見るとさきほどの鉄塔からここまで5分ほどかかっている。14時まではあと10分余りしかない。ここで止む無くギブアップ。ここまで無理して飛ばしてきたので、足の指をだいぶ痛めてしまった。ゆっくりモードで下ることにしよう。
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(歩きやすい鉄塔管理道)
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(見落としていた2つ目の送電鉄塔)
2つ目の送電鉄塔を過ぎると次の鉄塔まではしばらく緩やかな道が続く。地形図を見た限りでは最後の鉄塔を過ぎるまでは緩やかな道が続いていそうだ。標高を下げるにつれて檜林が優勢となり、奥山感はだいぶ薄らいできた。最後の鉄塔が立つピークの手前の鞍部から急な九十九折の下りが始まる。足の指が何ともなければそれなりに歩きやすい九十九折だと思うのだが、痛めている状態では地獄のような辛さだ。トラロープが張られた細い踏み跡もあり、冷や汗をかかされる。それでも整備された木段が現れれば終わりは近い。長い九十九折を下りきると浦山大日堂のお堂の裏手に着く。
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(鉄塔があるうちは歩きやすい)
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(3つ目の送電鉄塔 藪の切り開きに道がある)
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(下部は檜林へと変わる)
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(最後の鉄塔 手前の鞍部から右へ下る)
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(傾斜の急な九十九折が続く)
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(トラロープが張られた所もある ここはしんどかった)
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(木段が見えてくれば浦山大日堂は近い)
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(浦山大日堂)
浦山川沿いを歩く
浦山川を渡ると浦山集落で数軒の民家と入漁券を売っている管理棟らしき建物がある。バス停がどの辺りにあるのかわからないので、道路を下っていくと渓流荘と書かれたバス停がある。どうやら浦山大日堂のバス停は管理棟らしき建物の更に奥へ行った所にあったようだ。時刻表を見ると16時台のバスが来るまで1時間半ほどある。ちょっと歩いてみるか。路線図を見ると茶平入口まで歩けばダム湖も眺められそうだ。待合所のある金倉橋の停留所を過ぎると川俣・毛附の集落だ。民家が多く、行き交うクルマも多いので、人口も多いようだ。川俣から毛附に入る際、民家から放し飼いの犬が出てきたのには驚いた。こういうときは目を合わさず、しかし背中を向けて走って逃げてはいけないことを思い出す。トンネル手前で犬から解放されたが、山間では犬の放し飼いが多いので、犬が盛んに吠えているときは注意したに越したことはない。
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(浦山川を渡る 浦山集落も結構民家が多い)
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(川俣集落にはユーモア溢れるオブジェがある)
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(毛附集落から浦山川を望む)
大神楽・武士平への分岐を過ぎると大塚山を巻くように道路が延びる。途中左岸に栗山、右岸に大摑という集落があるそうだが、どちらも山の中腹に位置しているらしく、道路からは存在を確認できなかった。栗山バス停に来ると浦山川の対岸に大きな岩場が見える。昔の地形図を見てみると、この辺りはダムができる以前とほとんど変わりがないようなので、旅人はその威容に驚かされたことであろう。ダムを眺めながら橋を渡り、寄国土(いすくど)トンネル手前の茶平入口バス停に着く。まだ30分以上あるが、ここでバスを待つことにした。遠くから夕焼け小焼けのメロディが聞こえてくるとバスがやって来る。マイクロバスくらいの大きさをイメージしていたのだが、バンを改造した車であった。バスは二車線の道路をスイスイと下り、途中ダムの辺りで一人乗せた以外は渋滞に捕まることもなく、西武秩父駅近くで降ろしてくれた。駅前ロータリーまで入ってくれないのは少し残念だが、御花畑駅から歩くよりも近い。祭の湯でお土産を買い込み、ホームへやって来るとそれほど待たずに電車に乗ることができた。
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(栗山集落近くからの浦山川)
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(大きな岩場 写真だとスケールの大きさが伝わりにくい)
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(秩父さくら湖)
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(寄国土トンネル)
DATA:
奥多摩駅(西東京バス)東日原バス停7:57→8:03仙元峠・天目山登山口→9:24滝入ノ峰分岐→10:06一杯水避難小屋→10:35三ツドッケ(天目山 1576.0)10:44→11:04一杯水避難小屋→11:07一杯水(水場)→11:47仙元峠(1444)→12:00蕎麦粒山(1472.8)→12:19仙元峠12:26→13:05大楢→14:32浦山大日堂→15:34茶平入口(秩父市営バス)西武秩父駅入口→西武秩父駅
地形図 武蔵日原 秩父
水場 一杯水(枯れることがあるので要注意)
トイレ 一杯水避難小屋 浦山大日堂
交通機関
西武新宿・拝島線 新所沢~拝島 270円
JR青梅線 拝島~奥多摩 550円
西東京バス 奥多摩駅~東日原 460円
秩父市営バス 茶平入口~西武秩父駅入口 300円(ゾーンをまたぐ場合なので一律300円)
西武秩父・池袋線 西武秩父~小手指 500円
今回歩いたルートは全て一般向けで、概ね歩きやすいと思います。
ヨコスズ尾根は踏み跡明瞭で整備状態が良いので、下り登りどちらでも安全に利用できます。但し長いので体力的にはやや厳しいところもあります。
三ツドッケから蕎麦粒山にかけての都県境尾根もよく整備されており、危険個所は特にありません。
仙元尾根は本文中にもあるように尾根が折れて傾斜が急になる辺りの踏み跡が薄くなっています。登りであれば何の問題もありませんが、下りに使う際は踏み跡を見失う危険もあるので十分に注意しましょう。また崩壊地にはできるだけ近づかないほうがよいでしょう。
なお秩父市営バスには両替機が無いので、出来る限りつり銭は用意しておきましょう。
前回城峯山に登った際、奥武蔵の概念について考察したのだが、今回歩く三ツドッケ(天目山)と蕎麦粒山も微妙な立ち位置にある山だ。奥武蔵の南端である都県境尾根の内、棒ノ嶺が奥武蔵に入ることはあまり異論がない。しかしそこから西に延びる尾根上のピークについてはどこまでが奥武蔵に入るのか、人によって意見が異なるところだろう。ボクは「山と高原地図」にしたがって酉谷山までを奥武蔵の一部と考えている。したがって都県境上にある三ツドッケと蕎麦粒山も当然奥武蔵に入れている。今回はこの二つの山に登るため、東京都の奥多摩町日原から入山し、帰りは仙元峠から秩父市浦山へと下る予定だ。このルートは明治大正期の地形図にも道形が描かれた古い峠道でもある。どんな道なのか楽しみに出かけた。
奥多摩駅から一杯水避難小屋へ
奥多摩駅のホームに降りると乗客が一斉に駆け出していく。何事かと思い、彼らを追って改札を出ると駅前広場のバス乗り場に長い行列ができていた。日原行きのバスに乗るのは実に8年ぶりだが、その際に訪れたときも長い行列が出来ていたのを思い出す。他の乗客に釣られてやって来たせいか、列の中ほどに納まることができた。バスに臨時便が出て、また運の良いことにその臨時便で座っていくことができた。バスは奥多摩の深い谷を縫うように進む。途中川乗橋で半分ほどの乗客を降ろした後は、東日原へ向かって只管進んでいく。やがて前方の大きな採掘場が見えてくれば東日原に間も無く到着する。日原集落は日原川の左岸に作られた日当たりの良い所で、8年前と変わらず、それなりの活気があるようだ。
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(日原集落)
身支度を整え、登山口に向けて歩き出す。地形図を見る限りでは交番の少し先に登山口はあるらしい。交番の前には備え付けの登山届の用紙がある。ボクは登山計画書を家族に預けていくので、登山口に用紙が設けられているときはそこで書いていくことにしている。山慣れた登山者が多いのか、事前に用意したものを出していく人が多い。交番のすぐ先が仙元峠・天目山登山口であり、電柱にも墨書きされている。集落内の舗装路を上がっていくと道標があり、擁壁の上に道が延びている。ここからが事実上の登山道と言えよう。擁壁上はよく整備されていて、道が水流などで崩されないようにするためなのか、石を敷き詰めている所がある。ところがこの石に度々突っかかって歩き難い。そんな道沿いにも数軒の建物があり、何かで利用されている形跡もある。やがて九十九折に上がっていくと配水所のタンクが見えてきた。どうやら建物は水源保持のために使われているらしい。
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(擁壁の上の道を行く 花が綺麗だった)
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(ゴロゴロとした石にちょくちょく引っ掛かる)
配水所を過ぎると杉林の中の山道となる。まずは標高差150メートルを九十九折に登っていく。傾斜はやや緩めに切ってあるが、それでもこの九十九折は体力的に厳しい。それでも15分ほど登れば右手に採掘場のフェンスが見えてきて、しばらくは西へトラバースしながら上がっていく。周囲も落葉樹が多くなり、少しの変化ではあるが、退屈な登りの中でも気は紛れる。トラバースが終わり、尾根に上がった地点が標高約940メートル。今歩いている日原から一杯水避難小屋をつなぐヨコスズ尾根のルートは、滝入ノ峰を過ぎるまでは九十九折と巻き道が多い。このやや急な尾根はそれほど長くなく、道標の立つ辺りから長い巻き道へと変わる。
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(九十九折を登る なかなかきつい)
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(右手に採掘場のフェンスが見える)
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(この道標辺りから巻き道に変わる)
巻き道は整備が行き届いていて、見通しが良いせいか先行者の姿がチラチラと目に入る。でも今日は長い道のりなので、他人のペースに惑わされずに歩きたい。巻き道は斜面側(谷側)が暗い杉檜林で、尾根側(山側)は明るい落葉樹林となっている。尾根上は落葉樹の緑が美しそうではあるけれども、地形図を見るとそのアップダウンの酷さに挑戦する気は萎えてしまう。快適な巻き道を進んでいくと小さなアンテナ施設が立つ尾根に出る。滝入ノ峰の南東へと延びる尾根だ。ここを越えると落葉樹の細道となり、山側に岩が露出するようになる。若干の怖さはあるが、美しい道だ。山側の崖が徐々に低くなっていくと唐突に細い尾根に出る。振り返ると細い崖の上に踏み跡があり、滝入ノ峰へと延びているようだ。一応ここが分岐になるのだろう。今日は先が長いので、滝入ノ峰へは足を延ばさない。
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(尾根上の落葉樹林が美しい)
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(歩きやすい巻き道を行く)
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(アンテナが立つ尾根を越える)
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(露岩の巻き道 ちょっと怖い)
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(一応滝入ノ峰分岐)
分岐から先は落葉樹林の細い尾根が続く。この落葉樹林の長い尾根というのが奥多摩の大きな魅力の一つである。奥武蔵も落葉樹林がないわけではないが、ここまで長大なものはない。ところが奥多摩はこうしたルートがそこかしこにあり、登山者を楽しませてくれる。但し手軽に登れる奥武蔵と異なり、こうした尾根を楽しむにはそれなりの苦労もしなければならないのもまた奥多摩の特徴である。それにしてもこのルートは歩きやすい。最初の九十九折こそやや体力的にきつい所があるが、それを越えれば巻き道も尾根道も厳しい所はない。流石は古から峠道として使われてきただけのことはある。この辺りの落葉樹林は戦時中薪炭林として使われた影響で自然林はあまり残っていないとのことであるが、巨木として育ちつつあるものも多く、そういったものを見て歩く楽しみもある。
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(美しい落葉樹林内に延びる細尾根)
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(サラサドウダンツツジの花)
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(美しい尾根道を行く 傾斜も緩く歩きやすい)
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(小ピークは巻いていく)
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(ちょっと樹相が変わる所もある)
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(小ピークは二か所あるが、どちらも巻いていく)
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(巨木になりそうな大きな木が多い)
出発して2時間が経ち、傾斜も少し急になってきたので、道端にザックを下ろして休憩を取る。あとどれくらいで避難小屋に着くのだろうか。ザックを背負い直して再び歩き始めると斜面を登りきったところで建物の屋根が見えてきた。なんと休憩地のすぐ先が一杯水避難小屋であった。小屋下にベンチがあるので、ちょっと損した気分だ。小屋のある辺りは標高1440メートルくらいある。小屋周辺は日当たりが良いが、5月下旬だと十分に涼しい。小屋内部は一層しかないが、広い板張りで窓も多く快適そうだ。
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(一杯水避難小屋)
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(小屋内部 清掃が行き届いていて綺麗)
三ツドッケへ
一杯水避難小屋から三ツドッケへは山と高原地図を見ると小屋裏から南東のピークに取り付くルートと、巻き道を一旦西へ進んで稜線に上がってから西にあるピークを越えるルートの二つが描かれている。どうせ避難小屋へ戻ってくる予定なので、巻き道ルートを採ることにした。都県境尾根の巻き道も落葉樹が多く、よく整備されていて歩きやすい。それでも道標の立つ三ツドッケへの分岐に出るまでに20分ほどを要した。地形図を見ているとスケールが小さいのでどうしても近い距離だと錯覚してしまう。
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(三ツドッケの巻き道)
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(稜線に上がった所 ここから三ツドッケへの道が延びる)
山頂へ続く尾根は急斜面の登りで思わず溜息が出てしまう。何とか我慢して登ると三ツドッケの西に位置する小ピークに出る。三ツドッケという名称は本峰である中央峰の周りにある北・西・南東の小ピークによって遠望したときにどこからでも三つのピークが並び立つように見えることから付けられたらしい。鞍部へ下ると50メートル近い標高差を一気に登っていかなければならない。急な斜面を直線的に登っていくと明るく開けた三ツドッケの山頂(1576.0)に出る。ここは以前もっと鬱蒼とした山頂だったそうだが、違法伐採によって見晴らしが良くなったという(sanpoさんの「山の散歩道」参照)。
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(三ツドッケ西にあるピーク)
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(三ツドッケ山頂)
梅雨入りも近い時期で水蒸気が多く、遠望は利かないが、それでも眺めが良いことがわかる程度には楽しめる。北峰のすぐ近くに見える三角形の山は位置的に武甲山であろう。そこから右に見ていくと広く伐採が入った鳥首峠から有間山にかけての尾根が見渡せる。その手前に大きく盛り上がり、尖った山頂を突き出しているのがこれから向かう蕎麦粒山だ。蕎麦粒山の右後ろに見えているのは川苔山らしい。南側も眺めが良く、大岳山と御前山は薄くシルエットになっていてもわかりやすい。しかしそれ以外の山は馴染みが無く、どの辺りなのか見当も付かない。山頂は先行者で憩っていたが、羽虫が多く、あまりのんびりとしていく人は多くないようだ。ボクもここで休憩を取ろうかと思っていたのだが、あまりに虫が多く諦めた。
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(武甲山から有間山にかけての展望)
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(蕎麦粒山と川苔山など)
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(奥の白く煙った尾根が大岳山と御前山)
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(南西側 どの辺りかはよくわからない)
一杯水と仙元峠
三ツドッケの山頂からは東へ下る。こちら側は山ツツジが多く、朱色の花を沢山付けていた。今年は4月に山歩きしなかったから花を見る機会がほとんどなかった。今日を終えると後は秋まで花見はお預けとなりそうだ。鞍部から急な斜面をよじ登って南東の小ピークに着く。ここから都県境沿いにも踏み跡が付いているが、一杯水に寄ってみたいので、一旦避難小屋へ戻るために南に延びる尾根を下る。sanpoさんによると以前は藪っぽい道だったそうだが、現在は割と明瞭な踏み跡が延びている。但し傾斜は結構きつい。20分をかけて避難小屋へ戻ってくる。三ツドッケに登るだけで1時間もかかってしまったな。浦山大日堂を14時に出るバスに乗るのは難しくなった。
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(山頂から東へ下ると赤いヤマツツジの花が満開であった)
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(咲き残りのトウゴクミツバツツジ)
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(三ツドッケ南東の小ピーク)
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(一杯水避難小屋への道 それなりに急)
避難小屋からは東に延びる巻き道を行く。尾根と尾根に挟まれた丁度中間辺りに一杯水の水場がある。地理院地図だとわかりにくいが、紙の地形図だと●で描かれているので幾分かはわかりやすい。一杯水へ着くと沢地形の真ん中にホースを引っ張り石の桝へ流れ込むようになっている。水は枯れておらず、結構な勢いで流れ出している。手で掬って飲んでみると癖の無い美味い水だ。
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(一杯水)
三ツドッケの南東峰を巻くと都県境尾根に出る。主に北側が落葉樹になっていてこの時期は美しい。ただ以前日向沢ノ峰を歩いた際に感じた緩やかな尾根ではなく、細かなアップダウンが忙しなく続く。檜が多い南側斜面を巻く所も多いので、のんびりと落葉樹林を楽しめる雰囲気もあまりない。1449のピーク近くには崩壊地もあり、整備されているとはいえ、その上を歩くのは気分の良いものではない。都県境尾根に出てから30分あまりで道標が立つ仙元峠分岐に着く。この時、道標をよく見ていなかったので気付かなかったのだが、巻き道をそのまま進んでも蕎麦粒山へと行くことができる。ボクはそれを知らずに仙元峠へ律儀に登っていった。疲れた身体にはしんどい急坂を登りきると木の根元に石祠が祀られた仙元峠の山頂(1444)に着く。通常峠というと鞍部を指すが、ここは権次入峠と同じように峠道が分岐する山頂である。林野庁や秩父市などが共同で立てた案内板によると秩父と多摩を結ぶ唯一の峠として三峰講や富士講を目的とする人達が越えたという。そして石祠は富士のご神体である木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)を祀ったものであるそうだ。
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(落葉樹林が美しい都県境尾根)
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(崩壊地もあるが、よく整備されている)
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(仙元峠分岐 道標を見た限りでは巻き道を行っても蕎麦粒山には登れる)
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(仙元峠)
蕎麦粒山、そして下山
仙元峠から大きく下って道標のある辺りで巻き道と合わさるが、そのまま尾根道を行く。蕎麦粒山への登りもそれなりにしんどいが、仙元峠ほどには苦労もせずに山頂(1472.8)に出る。三角点が埋設された山頂は岩がいくつか露出しており、以前登った日向沢ノ峰に似た雰囲気もある。蕎麦粒という名称は遠望したときの山の形であるとも言われているが、露岩の一つが蕎麦粒の形に似ているからというのが尤もらしい感じがする。東側が少し開けていて、日向沢ノ峰とそこへ至る縦走路がはっきりと見渡せるが、特筆すべきものでもない。ここも羽虫が多いので、休憩は取らず、仙元峠へ戻ることにした。
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(蕎麦粒山へ向かって)
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(蕎麦粒山頂上)
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(東側の眺め 手前のピークに防火帯として切り開かれている縦走路が見える)
仙元峠へ戻る道は予想通り厳しく、短い距離にもかかわらず時間を取られる。仙元峠から浦山大日堂へは山と高原地図だと2時間半の行程となっている。普通に歩けば15時ちょっと前に着くことになる。そうすると最終の16時のバスが来るまで1時間以上待つことになる。できれば14時のバスに乗りたい。ヨコスズ尾根くらい歩きやすい道であれば可能性もあるが、果たしてどうなることやら。まずは仙元峠から北に延びる仙元尾根を下る。峠に道標も立っていたので方向はわかるが、踏み跡が薄く心許ない。ヨコスズ尾根に比べると歩く人はかなり少ないのだろう。その代わり傾斜は地形図を見て予想したほどには急ではない。途中トラロープが設けられた所が一箇所あるが、東側から巻いて下ることができる。
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(仙元峠の看板)
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(ここを下っていく 踏み跡は不明瞭)
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(トラロープもある 但しここは右手から巻ける)
順調に100メートルほど下った所で少々道に迷う。尾根を東に曲がる所までは踏み跡がはっきりとしているのだが、その先傾斜が急になる所から踏み跡がわからなくなる。この先は尾根が北東寄りに延びていくのだが、傾斜が急なので下手に下ることもできない。踏み跡が薄くなり始めた所まで戻ってみると、道が右に折れてその後九十九折に下っていくのがわかった。落ち葉で踏み跡が覆い隠されていてわかり難くなっていたのだ。ここを下りきるとしばらくはわかりやすい尾根道が続く。途中何故か立木に張り紙があり、「迷っても沢に下りるな、滑落するぞ!」と書かれている。新潟で起きた事故も記憶に新しく、登山道になっていない沢は下りるまいと改めて思う。
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(よく見ると踏み跡がある 但しこれでも明瞭なほう)
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(「迷っても沢に下りるな、滑落するぞ!」の張り紙がある)
張り紙の先の尾根を上がると東側に大きな崩壊地が現れる。踏み跡があったであろう尾根の真上までもが崩壊しており、現在は多少迂回する形になっている。崩壊地上からは武川岳から有間山にかけての眺めが良いのだが、あまりのんびりと眺めていたい場所ではない。細くなった尾根を下っていくと明治神宮の名が記された看板が立つ大楢に着く。時計を見ると仙元峠からここまで40分かかっており、山と高原地図が設定した時間通りに下ってきたことになる。もう13時を過ぎているので、14時のバスに乗るのはほぼ絶望的だ。
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(崩壊地)
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(崩壊地上からの眺め)
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(大楢)
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(大楢にある明治神宮の看板)
それでも何とか足掻いてやろうと東の急斜面を下り始める。ところがここでもまた道に迷う。どうにも急斜面になっている所はもともと薄い踏み跡が更に薄くなっていてわかりにくい。先ほどに比べると道の付け方は単純だが、巻き道のスタート部分を探さなければならないので、ここも踏み跡を外して下っていくわけにはいかない。じっくり踏み跡を探して歩くとやがて北へと延びる巻き道へと変わる。ここまで来れば踏み跡探しで迷いそうな所はほぼ無い。ヨコスズ尾根ほどではないものの、比較的歩きやすい巻き道が続き、峻嶮そうな小ピークは悉く巻いてしまうので、段々と歩くスピードも上がっていく。大楢を出て40分弱で送電鉄塔の下に着く。少し開けた所で、午前中に歩いた三ツドッケの山頂と北峰が良く見える。
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(巻き道 ここは割と明瞭なほう)
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(不明瞭な所だとこんな感じ)
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(最初に見えてくる送電鉄塔)
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(三ツドッケを望む)
三ツドッケが見える鉄塔下から先は鉄塔管理道となっている。このとき地形図を見て、送電鉄塔が立っているのはあと2か所と考え、もう少し頑張れば14時のバスに間に合うものと思い込んでいた。ところが小ピークを西から巻くと再び送電鉄塔が現れる。次の鉄塔に行くまでには大きく尾根が西へ曲がるはずなのだが、何故こんな所にあるんだ?そこで地形図をよく見てみると今いる辺りで送電線が折れ曲がっている。送電線は空中で折れ曲がることはないから、どう考えても鉄塔が立っていることになる。うわぁ、見落としていたか…。時計を見るとさきほどの鉄塔からここまで5分ほどかかっている。14時まではあと10分余りしかない。ここで止む無くギブアップ。ここまで無理して飛ばしてきたので、足の指をだいぶ痛めてしまった。ゆっくりモードで下ることにしよう。
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(歩きやすい鉄塔管理道)
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(見落としていた2つ目の送電鉄塔)
2つ目の送電鉄塔を過ぎると次の鉄塔まではしばらく緩やかな道が続く。地形図を見た限りでは最後の鉄塔を過ぎるまでは緩やかな道が続いていそうだ。標高を下げるにつれて檜林が優勢となり、奥山感はだいぶ薄らいできた。最後の鉄塔が立つピークの手前の鞍部から急な九十九折の下りが始まる。足の指が何ともなければそれなりに歩きやすい九十九折だと思うのだが、痛めている状態では地獄のような辛さだ。トラロープが張られた細い踏み跡もあり、冷や汗をかかされる。それでも整備された木段が現れれば終わりは近い。長い九十九折を下りきると浦山大日堂のお堂の裏手に着く。
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(鉄塔があるうちは歩きやすい)
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(3つ目の送電鉄塔 藪の切り開きに道がある)
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(下部は檜林へと変わる)
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(最後の鉄塔 手前の鞍部から右へ下る)
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(傾斜の急な九十九折が続く)
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(トラロープが張られた所もある ここはしんどかった)
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(木段が見えてくれば浦山大日堂は近い)
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(浦山大日堂)
浦山川沿いを歩く
浦山川を渡ると浦山集落で数軒の民家と入漁券を売っている管理棟らしき建物がある。バス停がどの辺りにあるのかわからないので、道路を下っていくと渓流荘と書かれたバス停がある。どうやら浦山大日堂のバス停は管理棟らしき建物の更に奥へ行った所にあったようだ。時刻表を見ると16時台のバスが来るまで1時間半ほどある。ちょっと歩いてみるか。路線図を見ると茶平入口まで歩けばダム湖も眺められそうだ。待合所のある金倉橋の停留所を過ぎると川俣・毛附の集落だ。民家が多く、行き交うクルマも多いので、人口も多いようだ。川俣から毛附に入る際、民家から放し飼いの犬が出てきたのには驚いた。こういうときは目を合わさず、しかし背中を向けて走って逃げてはいけないことを思い出す。トンネル手前で犬から解放されたが、山間では犬の放し飼いが多いので、犬が盛んに吠えているときは注意したに越したことはない。
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(浦山川を渡る 浦山集落も結構民家が多い)
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(川俣集落にはユーモア溢れるオブジェがある)
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(毛附集落から浦山川を望む)
大神楽・武士平への分岐を過ぎると大塚山を巻くように道路が延びる。途中左岸に栗山、右岸に大摑という集落があるそうだが、どちらも山の中腹に位置しているらしく、道路からは存在を確認できなかった。栗山バス停に来ると浦山川の対岸に大きな岩場が見える。昔の地形図を見てみると、この辺りはダムができる以前とほとんど変わりがないようなので、旅人はその威容に驚かされたことであろう。ダムを眺めながら橋を渡り、寄国土(いすくど)トンネル手前の茶平入口バス停に着く。まだ30分以上あるが、ここでバスを待つことにした。遠くから夕焼け小焼けのメロディが聞こえてくるとバスがやって来る。マイクロバスくらいの大きさをイメージしていたのだが、バンを改造した車であった。バスは二車線の道路をスイスイと下り、途中ダムの辺りで一人乗せた以外は渋滞に捕まることもなく、西武秩父駅近くで降ろしてくれた。駅前ロータリーまで入ってくれないのは少し残念だが、御花畑駅から歩くよりも近い。祭の湯でお土産を買い込み、ホームへやって来るとそれほど待たずに電車に乗ることができた。
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(栗山集落近くからの浦山川)
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(大きな岩場 写真だとスケールの大きさが伝わりにくい)
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(秩父さくら湖)
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(寄国土トンネル)
DATA:
奥多摩駅(西東京バス)東日原バス停7:57→8:03仙元峠・天目山登山口→9:24滝入ノ峰分岐→10:06一杯水避難小屋→10:35三ツドッケ(天目山 1576.0)10:44→11:04一杯水避難小屋→11:07一杯水(水場)→11:47仙元峠(1444)→12:00蕎麦粒山(1472.8)→12:19仙元峠12:26→13:05大楢→14:32浦山大日堂→15:34茶平入口(秩父市営バス)西武秩父駅入口→西武秩父駅
地形図 武蔵日原 秩父
水場 一杯水(枯れることがあるので要注意)
トイレ 一杯水避難小屋 浦山大日堂
交通機関
西武新宿・拝島線 新所沢~拝島 270円
JR青梅線 拝島~奥多摩 550円
西東京バス 奥多摩駅~東日原 460円
秩父市営バス 茶平入口~西武秩父駅入口 300円(ゾーンをまたぐ場合なので一律300円)
西武秩父・池袋線 西武秩父~小手指 500円
今回歩いたルートは全て一般向けで、概ね歩きやすいと思います。
ヨコスズ尾根は踏み跡明瞭で整備状態が良いので、下り登りどちらでも安全に利用できます。但し長いので体力的にはやや厳しいところもあります。
三ツドッケから蕎麦粒山にかけての都県境尾根もよく整備されており、危険個所は特にありません。
仙元尾根は本文中にもあるように尾根が折れて傾斜が急になる辺りの踏み跡が薄くなっています。登りであれば何の問題もありませんが、下りに使う際は踏み跡を見失う危険もあるので十分に注意しましょう。また崩壊地にはできるだけ近づかないほうがよいでしょう。
なお秩父市営バスには両替機が無いので、出来る限りつり銭は用意しておきましょう。