務のよしなしごと

ハンプトン・コート宮殿の人々(完成時期未定)
「オペラ座の怪人」勝手に解説
住んでいる近辺の紹介

ハンプトン・コート宮殿の人々 — ヘンリー8世と周囲の人々-1

2021-10-19 | うんちく・小ネタ

トーマス・ウルジー (Thomas Wolsey, 1475-1530)

トーマス・ウルジーはヘンリー8世の治世初期において彼に大きな影響を与えた側近の一人で、当時のイギリスの政界及び宗教界で最高の地位まで上り詰めた人物である。生年については諸説あり、1472年、1473年という説もある。イギリス東部イプスウィッチの肉屋の息子として生まれた下層階級の出である。

下層階級の出ではあるが、学問に関しては才能を発揮し、15歳までにはオックスフォード大学の学位を取得した。大学では神学の他に財務管理も学んだようで、後にヘンリー8世の統治に役立ったとされる。

下層階級出身者が王位を除く最高の地位に簡単に上り詰めることができないのはウルジーについても言えることであるが、彼が自分の地位を上げていくことができたのは、彼の知的能力の高さが権力者の注意を引き彼らの期待通りの成果を上げることができ、運が運を呼んだという側面もある。25歳頃に司祭の地位に就き、その後オックスフォード大学を構成する神学校の学部長、学長を務め、1502年にはカンタベリー大司教下の牧師として働いた。そして1507年にはヘンリー8世の父であるヘンリー7世(1457-1509)に宮廷付き司祭として仕えることになる。ヘンリー7世に仕えたのは約2年であるが、その間、スコットランドとの関係改善に外交手腕を発揮したりして王に重要な人物として認識されるようになった。

1509年にヘンリー8世(1491-1547)が王座に就くと、ウルジーは枢密院(Privy Council)の議席を与えられた。若いヘンリー8世は戦士王(worrior king)としての実力を誇示するために外国と戦争をしたがっていたが、ヘンリー7世時代からの枢密院議員は多くの者が戦争に慎重な態度であった。ウルジーも最初は戦争に対して慎重な考えを持っていたが、戦争することに賛成すればヘンリー8世は自分を更に重要視すると考え、枢密院の会議では王の意向に沿う発言を多くして他の議員たちを説得した。また、この間1512年から1514年にかけての英仏戦争においてウルジーは兵站を滞りなく担当するとともに外交的手腕を発揮しフランスとの間に一時的平和を確保した。これが功を奏したようで、1515年には大法官(Lord Chancellor)になり、官僚としてトップに上り詰めた。この間聖職者としても、1511年にウィンザーのカノン(ミサを仕切る立場)、1514年にリンカーンの司教、同じ年にヨークの大司教になり、1515年にはローマ教皇レオ10世によって枢機卿(Cardinal)に任命された。

この時代までのハンプトン・コートは14世紀に建てられたマナー・ハウス(荘園領主の邸宅)で、賃貸物件だったようだ。ウルジーは1514年に賃貸を引き継いだらしいが、1515年から1521年にかけての大改修の規模から、そしてその後の使用状況やヘンリー8世への献上の経緯から、結局ウルジーが買い取ったと考えるのが妥当である。彼は財力に物を言わせて、それを宮殿のような豪華な造りに変え、後にヘンリー8世などイギリスの王が実際に宮殿として使用した(王の所有物になった経緯は後述)。

 

 

 


ハンプトン・コート宮殿の人々 — はじめに

2021-10-06 | うんちく・小ネタ

人々の話に進む前に・・・ハンプトン・コート宮殿とは

ロンドンの南西約20km、テムズ川沿いの赤レンガの大きな宮殿。

ロンドンの中心部からだと交通状況によって車で約1時間から2時間で到着。ウォータール駅からは直通列車で1時間弱。他に地下鉄と鉄道を乗り継いでロンドン市内からは1時間から1時間20分で行ける。ロンドン・パスという観光パス(英国国外でのみ入手可能)を購入すればいちいち入場料を払わなくてもいいし、ロンドン市内の公共交通機関のプリペイドカード(Vistor's Oyster Card)が使える範囲内でもある。

16世紀初め、大司教であったトーマス・ウルジーが大規模な改築を始め、後にヘンリー8世に献上した。ウルジーに関する展示はとても少なく、その時代に関する展示はほとんどヘンリー8世に関するものである。建物は基本的にルネサンス様式とされるが、素人でも2つの外観の違いが分かる。それはヘンリー8世の時代のものと、メアリー2世とウィリアム3世の共同統治時代(17世紀末)に大改修されたものである。

16世紀初めの様式
西側 West Gate

 

17世紀末の様式
南側ファサード

 

17世紀末の様式
東側ファサード

画像:ウィキペディア        

上の画像は宮殿西側の West Gate と 南側そして東側から見たファサードである。観光客は West Gate 手前約150mの所にある門から入り、すぐ左手の平屋の建物で入場手続きをし、West Gate 開口部から入る。

建物は時代ごとに大きく3つの区分で公開されている。入場手続きの際に地図が貰えるのでそれを見ながら進んで行けばいい。
まず、ウルジーとヘンリー8世の時代(1514年頃 - 1547)であるが、この区分には主に次の展示が含まれている。
①若かりし頃のヘンリー8世の資料
②大ホール
③謁見室
④顧問会議室
⑤ヘンリー8世の台所という名の調理場
等である。ヘンリー8世後はしばらく王宮として使われず、次に王宮として使われるのは約150年後であった。

王宮としての次の時代は、名誉革命後のメアリー2世とウィリアム3世の時代(1689 - 1702)で、建築家のクリストファー・レンの設計による大改修が行われた。この区分には次の展示がある。ヘンリー8世に関する展示と比べると規模が小さく数が少ないが見ごたえがある。
①王の階段
②王の衛兵室
③寝室(権勢と財力を示すためのもの)
④ガーデンテラスと呼ばれる長い廊下
等である。ウィリアム3世の次の君主、アン女王はほとんどここに住まず、ロンドン市内のセント・ジェームズ宮殿に住んだ。

王宮としての最後の時代は、ウィリアム3世の崩御(1702)後、アン女王時代の12年間の空白を経てやってきた。ハノーバー朝初代ジョージ1世から2世の時代(1714 - 1760)である。この時代に関する展示は次のものがある。
①女王の階段(メアリー2世のための階段だが、事情があってこの時代区分に属している。)
②女王の衛兵室
③公開食堂
③寝室(権勢と財力を示すためのもの)
④女王のギャラリー
等である。関心の向けどころにもよるが、ジョージ2世夫妻と息子のフレデリック皇太子との確執に関する説明もあって、面白い。

ジョージ2世崩御後、この宮殿は王宮として使われず、1838年に大ホールの復旧工事が終わるとビクトリア女王によって一般開放されて今日に至る。

ハンプトン・コート宮殿の見どころは建物だけではなく、周囲の庭なども一見の価値がある。詳しくは二宮孝嗣氏の記事を参照されたい。

① ハノーバー朝時代の展示を見た後、階段を下り Fountain Court と反対側の東側ファサードへ出て正面が Great Fountain Garden である。ウィリアム3世とメアリー2世の時代に造成されたものでイチイの大木が整然と並んでいる。

②東側ファサードを背に右側の角を曲がり南側に行くと次に見えてくるのが Privy Garden である。フランス庭園の様式による左右対称の幾何学的なつくりが特徴。

③南側を西に向かって進むと右手壁の脇に小さな Knot Garden が現れる。これも幾何学模様のつくりになっている。

④Knot Garden から西にほんの少し行った左手、生け垣の間から見えてくるのが2つの庭から成る Pond Gardens である。手前の庭がその奥の Banqueting House (今でも使われていいるが、一般には非公開)と共に絵葉書に使われるほど美しく、これも幾何学的なつくりの庭。隣に進むとこれも幾何学的なつくりで、花が主体ではなく低い灌木を切りそろえた庭が見える。これら2つの庭はヘンリー8世の時代には養殖用の池で、後に埋め立てられたのでサンクン・ガーデン(Sunken Gardens)とも言う。ポンド・ガーデンの近く(向かい側)には珍しい植物を植えていた温室のような機能を持ったオランジェリーがある。

⑤更に進むと、庭ではないが、世界最古のブドウの木がある大きな温室 Vineyard (又は Great Vine)がある。良く手入れがされていて、1768年に植えられた木が今でも実をつける。その実は8月末から9月にかけて宮殿内の売店で売られている。

ハンプトン・コート宮殿の北側にも多くの庭や施設がある。ヘンリー8世時代から使われてきた Royal Tennis Court、庭師養成のための 20th Century Garden、迷路のある遊び場でもあった Wilderness、ヘンリー8世も参加して馬上槍試合が行われた Tiltyard の一部、後にその会場を分割して設けられた、Magic Garden、kitchen Garden、Rose Garden がある。

この宮殿の所有者である王に関する話題の規模から勝手に順位づけると、1位がヘンリー8世と周囲の人々、2位がジョージ2世と彼に関係する人々、3位がウィリアム3世とメアリー2世になろう。予定としては、時代順に、ヘンリー8世、ウィリアム3世とメアリー2世、ジョージ2世という具合に進めて行きたい。


「オペラ座の怪人」第2幕 第9場 -2(ミュージカル最後の場面)

2021-10-05 | 趣味

※当ブログのシステム設定により、行途中でのスペースが意図したとおりに表示されないことがあります。英語の台詞や歌詞及び和訳ではおかしな表示が現れることになりますが、ご容赦ください。

(クリスティーン、ラウルを救うために今後怪人と共に過ごすのか、それとも怪人の申し出を断るのかの選択を迫られ、少し間を置くが、初めは静かに、そして徐々に感情を込めて言葉を発する。)

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CHRISTINE:(クリスティーン)
Pitiful creature of darkness...            暗闇のかわいそうな生き物...
What kind of life have you known...?       どんな生き方をしてきたの?
God give me courage to show you - you are not alone...
神はあなたに教える勇気をくれた —— あなたは孤独ではないと...
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(クリスティーンはゆっくりと立ち上がり、怪人に近づき、長いキスをする。怪人は悲しみと戸惑いの表情を浮かべる。ラウルは恐怖と驚きの表情を浮かべる。二人は抱き合った後再びキスをし、ラウルは目を閉じて苦悶の表情を浮かべる。
やや長い抱擁の後、怪人はクリスティーンから身を離す。舞台裏から人々の行進を模したスネヤドラムや声が聞こえる中、怪人は悲しげな顔をしてゆっくりとオルガンへと行き、そこの蝋燭に1本火をつける。クリスティーンはその場で怪人の行動を黙って見ている。怪人はラウルに近づき、一瞬クリスティーンの方を見た後、天井から伸びてラウルの首を吊っている縄の上部、ラウルの頭の上の部分に蝋燭の火を当てる。すると縄が切れてラウルが崩れ落ち、怪人は彼の首から縄を外す。)

MOB:(人々の声)
Track down this murderer - he must be found!       殺人鬼を追え!   必ず見つけるんだ!

PHANTOM:(怪人)
Take her - forget me - forget all of this...
彼女を連れて行け —— 私を忘れろ —— このことは全て忘れろ...

(と言ってラウルをクリスティーンのところに突き出すように行かせる。二人は抱き合う。)

MOB:(人々の声)
Who is this monster?!  He must be found.        化け物は誰だ?  必ず見つけるんだ。

PHANTOM:(怪人)
Leave me alone - forget all you've seen...        私を一人にしろ —— 見たもの全てを忘れろ...
Go now - don't let them find you!         さぁ、行け —— 彼らには見つかるな!

(クリスティーン、怪人に対峙しようとするラウルの手を引き、二人は下手側階段から出て行く。)

MOB:(人々の声)
Revenge for Buquet!      Revenge for Piangi       ブケの仕返しだ!    ピアンジの仕返しだ!

PHANTOM:(怪人)
Take the boat – swear to me never to tell       ボートを使え —— 誰にも言わないと誓え!

MOB:(人々の声)
This is the man now that we know          これが我々の知っている男だ

PHANTOM:(怪人)
... of the secret you know ...            ...知り得た秘密を...(誰にも言わないと誓え)

MOB:(人々の声)
The Phantom of the Opera is here        オペラ座の怪人はここにいる

PHANTOM:(怪人、絶叫する。)
... of this Angel of Hell!  Go!  Go now, and leave me!
...この地獄の天使のことを!(誰にも言わないと誓え)行け!さぁ、私を放って行け!

(怪人は下手側階段下で崩れ落ちる。するとオルゴールが「マスカレード」を奏で始める。怪人は呟くように声を出し、オルゴールに触れる。)

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PHANTOM:(怪人)
Masquerade...      Paper faces on parade...         マスカレード...     紙の仮面のパレード...
Masquerade...      Hide your face, so the world will never find you...
マスカレード...      顔を隠して、そうすると世間からは分からない...

(怪人がふと横を見ると、そこにはクリスティーンがいつの間にか戻っていた。怪人が立ち上がり、彼女へ近づくと、彼女は指輪を外し、悲し気な表情で怪人に差し出す。)

PHANTOM:(怪人)
Christine, I love you...          クリスティーン、愛してる...
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(と言って怪人は指輪を受け取る。クリスティーンは泣きそうになりながら俯く。そして怪人の手にキスをし、彼の顔を見ず階段を上り始める。怪人は悲し気な顔でクリスティーンを見送る。するとクリスティーンは途中で怪人を振り返る。二人は互いに泣きそうな顔をして見合った後、再びクリスティーンが階段を上り始める。怪人は後ろに向き直り、崩れるように膝をつく。)

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CHRISTNE:(クリスティーン)
Say you'll share with me, one love, one lifetime...
私と一つの愛、一つの人生を共にすると言って...

(下手側階段の上部にはラウルがクリスティーンを待っていて彼女に手を差し延べている。そして二人で階段を上って行く。)

RAOUL:(ラウル)
Say the word and I will follow you...
その言葉を言って      そうしたら僕は君について行く...

CHRISTNE:(クリスティーン)
Share each day with me, each night, each morning...
私と毎日、毎晩、毎朝共にして...

PHANTOM:(怪人、膝をついたまま両手でベールを持ち上げ・・・)
You alone can make my song take flight - it's over now, the music of the night...
お前だけが私の歌を羽ばたかせることができる —— 今や夜の音楽は終わりだ…
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(怪人はベールを床に置き、オルガンの傍の椅子に座る。そして黒い大きな布で全身を頭から覆う。メグが下手側階段下、燭台の間から現れ、辺りを見回すと黒い布が掛けられた椅子を見つける。その布を取ると椅子には怪人が使っていた仮面が残されている。彼女はそれを手に取り辺りをゆっくりと見回す。会場から拍手が起こり、舞台が暗くなって第2幕及びミュージカルの終了。)

最終場面の動画


「オペラ座の怪人」第2幕 第9場 -1

2021-10-05 | 趣味

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(地下にある怪人の隠れ家。下手側階段から白いドレスを着たクリスティーンが走りながら下りて来る。その後を追って仮面を付けていない怪人が白く薄い大きいな布を持って下りて来る。舞台中央付近まで来て、クリスティーンが着ているのはウェディングドレス、怪人が手に持っているのはベールであることが分かる。)

※第9場は第1幕第4場と同じセットを使っているが、二人はボートで登場しない。第8場で使ったアニータ役の衣装も短時間のうちに白いドレスに替わっている。通常の劇場公演でも、ボートで隠れ家に来る場面、そして着いてからドレスに着替える(怪人に着替えさせられる)場面も観客の推測に任されている。また通常の劇場公演では部屋に置いてある等身大の花嫁人形も第1幕同様に置かれていない。)

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CHRISTINE:(クリスティーン)
Have you gorged yourself at last, in your lust for blood?
ついに血を求めて欲望を露わにしてきたのね
Am I now to be prey to your lust for flesh?
私は今やあなたの肉欲の餌食ね

PHANTOM:(怪人)
That fate, which condemns me to wallow in blood has also denied me the joys of the flesh
血を求めるその運命が同時に肉体の喜びを否定してきたのだ

(クリスティーン、聞きたくないかのように怪人から顔を背ける。怪人はベールを両手で持ってゆっくりとクリスティーンに近づく。)

- this face - the infection which poisons our love...
この顔は我々の愛を毒する病なのだ...

(クリスティーン、さまざまな思いに悩む表情。)

This face, which earned a mother's fear and loathing... この顔、母に恐怖と嫌悪をもたらし...
A mask, my first ... 仮面、初めて身に着けた不快な衣服...

(クリスティーンは悲しさと哀れみの入り混じった顔でゆっくりと怪人の方に顔を向ける。怪人は激情を止めることができないかのように大きな声で言う。クリスティーンは何かを考えるような表情になる。)

Pity comes too late - turn around and face your fate: an eternity of this before your eyes!
哀れみは遅すぎる。こっちを向いて目の前にある永遠の運命と向き合え!

(怪人はベールを黙って立っているクリスティーンの後ろから頭に被せるが、彼女は抵抗することもなく別なことを考えている様子。彼女が目を閉じて両手をベールに持って行くと、怪人は彼女の左腕を取り自分に向かせる。クリスティーンは冷静な表情で彼の顔を見る。)

CHRISTINE:(クリスティーン)
This haunted face holds no horror for me now...
この幽霊のような顔はもう私には恐ろしくはない...
It's in your soul that the true distortion lies...
本当に歪んでいるのはあなたの魂だわ...
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(ここで怪人は突然ラウルが来たことに気づく。ラウルは下手側階段の途中まで下りて来る。)

※通常の劇場公演では、地底湖を泳いで渡り、舞台中央奥(の岸)から上がって来るような設定で登場する。また、部屋と湖の境には格子の柵が下りて来るように舞台道具が設置されている。

PHANTOM:(怪人)
Wait! I think, my dear, we have a guest!         待て、お客が来たようだ!

(ラウルに向かって・・・)

Sir, this is indeed an unparalleled delight! I had rather hoped that you would come. 
この上ない喜びだ!私はあなたが来るだろうと期待していた。
And now my wish comes true - you have truly made my night!
今私の願いが叶ったのだ。おかげで本当に楽しい夜になった。
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(ラウルが駆け寄ろうとすると怪人はクリスティーンの首を掴む。ラウル、階段を下りたところで動作を止める。)

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RAOUL:(ラウル)
Free her!  Do what you like, only free her!      Have you no pity?
彼女を離せ!  他はともかく彼女を離せ!  憐れむ心はないのか?

PHANTOM:(怪人、クリスティーンに・・・)
Your lover makes a passionate plea!          お前の恋人は情熱的な嘆願をしているな!

CHRISTINE:(クリスティーン)
Please, Raoul, it's useless...        ラウル、やめて、無駄よ...

RAOUL:(ラウル)
I love her!  Does that mean nothing?        彼女を愛している!    意味のないことなのか?
I love her!  Show some compassion...        彼女を愛しているんだ!    憐れみを示せ...

PHANTOM:(怪人)
The world showed no compassion to me!          世間は私を憐れんではくれなかった!

RAOUL:(ラウル)      Christine... Christine...          クリスティーン... クリスティーン...

(怪人に向かって)

Let me see her...         彼女に会わせろ...
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PHANTOM:(怪人)
Be my guest!        勝手にしろ!

(と言って怪人はクリスティーンの首から手を離す。ラウルは彼女に駆け寄る。怪人は二人を見ながら・・・)

PHANTOM:(怪人)
Monsieur, I bid you welcome!       お前を歓迎だ!
Did you think that I would harm her!        私が彼女に危害を与えると思ったのか!
Why should I make her pay for the sins which are yours?
お前が犯した罪のため、なぜ私が彼女につけを払わせるべきなのか?

(と言って怪人はラウルの背後から彼の首に縄をかける。そしてラウルを上手側階段を数段上がったところまで引き上げる。ラウルは首を縛られ、天井から吊るされるが、足が階段を踏んでいる状態なのですぐに死ぬようなことにはなっていない。)

PHANTOM:(怪人、ラウルの耳元であざけるように・・・)
Order your fine horses now!         さぁ、良い馬を準備しろ!
Raise up your hand to the level of your eyes!        手を目の高さまで上げろ!
Nothing can save you now - except perhaps Christine...
今や、多分クリスティーン以外はお前の命を救うものはない...

(怪人はクリスティーンに駆け寄り選択を迫る。)

Start a new life with me - Buy his freedom with your love!
私と新しい命を始めるのだ —— お前の愛で彼の自由を買え!

(怪人はクリスティーンを引き寄せ・・・)

Refuse me, and you send your lover to his death!
拒めばお前の恋人を死へ送ることになる!
This is the choice - This is the point of no return!
これが分かれ道 —— ここから先は引き返せない!

(怪人はクリスティーンを床に投げつけるようにし、オルガンへと向かう。クリスティーンはうずくまったまま厳しい顔つきになり大きな声で叫び出す。)

CHRISTINE:(クリスティーン、怪人に向かって叫ぶ。)
The tears I might have shed for your dark fate grow cold, and turn to tears of hate...
あなたの暗い運命を思って流してきた涙は冷たくなり嫌悪の涙に変わってきたわ...
※might have shed 流したかもしれない(過去の推量)← 今まで同情や哀れみ等の情があったかもしれないが、実際にはそんな感情はなかっただろうと暗に言っている。しかし彼女はかつて彼の音楽への理解、彼の悲しみに対する同情や運命への哀れみの感情を持っていた。

(ここから3人がそれぞれ自分の思いを同時に口にする。)

RAOUL:(ラウル)
Christine, forgive me, please forgive me... クリスティーン、僕を赦してほしい
I did it all for you, and all for nothing. 全て君のためにしたことだけど、何にもならなかった

CHRISTINE:(クリスティーン、怪人に向かって・・・)
Farewell, my fallen idol and false friend...       地に落ちた理想像そして偽りの友、さよなら...
We had such hopes and now such hopes are shattered...
私たちには希望があったけど、今やそれは粉々になった...
※such hopes そのような希望  such という語によって、怪人にはクリスティーンを一流のオペラ歌手に育てるという夢、クリスティーンにも一流の歌手になるという共通の夢があったことを示している。その一線を越えた所に怪人のクリスティーンに関する生身の苦悩があり、クリスティーンの生きている人間としての怪人に関する理解や同情、哀れみがあって、軋轢や問題を起こしてきたのである。

PHANTOM:(怪人、クリスティーンに・・・)
Too late for turning back, too late for prayers and useless pity...
引き返すにはもう遅い、祈りや無駄な哀れみももう遅い...

RAOUL: (ラウル、クリスティーンに・・・)
Say you love him, and my life is over!       彼を愛していると言えば僕の命は終わる!

※この時点でクリスティーンの選択肢は2つ。Yes (彼=怪人を愛している)、そして No(愛してはいない)のどちらかを怪人に言うことである。前者であれば、仮に怪人がラウルを解放したとしても、クリスティーンは怪人と一緒にこれからを過ごすことになり、ラウルは絶望し、生きていくことができなくなる。後者であれば、怪人はその場でラウルを殺し、クリスティーンは永遠に囚われの身になる。

PHANTOM:(怪人)
Past all hope of cries for help: no point in fighting –
助けを求める希望の叫びを越え、戦いには意味がなくなる

RAOUL:(ラウル、クリスティーンに・・・)
Either way you choose, he has to win...       どちらを選んでも彼が勝つ…

PHANTOM:(怪人)
For either way you choose, you cannot win!
どちらを選んでもお前は勝つことができない!

(怪人、再びクリスティーンを掴む。)

So, do you end your days with me, or do you send him to his grave?
だから、私と共に命を終えるか、彼を墓場に送るかだ

RAOUL:(ラウル、怪人に・・・)
Why make her lie to you, to save me?        私を救うために彼女に嘘をつかせるのか?

CHRISTINE:(クリスティーン)Angel of Music...        音楽の天使...

(怪人とクリスティーンは言い合いを続け、ラウルが合間に言葉を入れる。)

PHANTOM:(怪人)Past the point of no return -    戻れないポイントを越え

RAOUL:(ラウル)
For pity's sake, Christine, say no!        お願いだ、クリスティーン、「ノー」と言って!

CHRISTINE:(クリスティーン)Who deserve this?        誰がこんなことをしていいの?

PHANTOM:(怪人)...the final threshold...        ...最後の入り口...

RAOUL:(ラウル)
Don't throw your life away for my sake...        僕のために命を投げ出さないで...

CHRISTINE:(クリスティーン)Why this torment?        なぜこんな苦しみを?

PHANTOM:(怪人)
His life is now the prize which you must earn         彼の命はお前が貰う褒美だ

CHRISTINE:(クリスティーン)
Why do you curse mercy?          なぜ慈しみを呪うの?

RAOUL:(ラウル)I fought so hard to free you...        君を自由にするために戦ったが...

PHANTO M:(怪人)
You've passed the point of no return...        お前は戻れないポイントを越えたのだ...

(怪人は膝を落とす。クリスティーンも続いて膝まずく。)

CHRISTINE:(クリスティーン、強い口調で・・・)
Angel of Music...  ...you deceived me.  I gave my mind blindly...
音楽の天使...   ...私をだましたのね。  私は純粋に心を差し出したのに...

PHANTOM:(怪人、クリスティーンに・・・)
Blindly...   You try my patience - make your choice!
純粋に...  お前は私を試したのだ —— どちらか選べ!

(クリスティーン、少しの間沈黙する。)


「オペラ座の怪人」第2幕 第8場

2021-10-03 | 趣味

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(怪人がクリスティーンの手を引き、地下への階段を下っている。クリスティーンが改めて仮面の下の顔を見た瞬間に怪人は大声を出し、彼女の手首を掴みその場から連れ出した。クリスティーンは怪人が行こうとしている場所がどんなところであるかを知っていて、彼の持つ悲しみを理解し、彼への恩を感じてはいても、そこに行くことに恐ろしさを感じている。彼女は抵抗するが、力の差もあり、徐々に下へ下へと揉み合いながら降りていくことになる。)

※第1幕第4場で出現した階段に見立てた同じ通路を怪人とクリスティーンは上手側から下手側の端へ移動する。その移動の間に通路は徐々にオーケストラピットの辺りまで降りて来る。

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“DOWN ONCE MORE / TRACK DOWN THIS MURDERER”

PHANTOM:(怪人)
Down once more to the dungeon  of my black despair !       再び絶望の監獄へと戻るのだ!
Down we plunge  to the prison of my mind!                         心の牢獄へ飛び込むのだ!
Down that path into darkness deep as hell!                          その通路を下り地獄ほど深い暗闇へと!
Why, you ask, was I bound and chained in this cold and dismal  place?
お前は私がなぜこの冷たくうっとうしい場所に縛られ、抜け出せなかったのかと聞く
Not for any mortal  sin, but the wickedness  of my abhorrent  face!
死に値する罪を犯したわけではなく、忌まわしい顔のせいなのだ!

(人々が怪人を追いかける声が聞こえて来る。)

MOB:(人々の声)
Track down  this murderer!      He must be found!      殺人鬼を追え!   必ず見つけるんだ!

PHANTOM:(怪人)
Hound ed out by everyone!      Met with hatred everywhere!
皆に追い出され      どこでも嫌われ!
No kind word from anyone!     No compassion anywhere!
誰からも親切な言葉をもらえず    どこでも同情されず!
Christine, Christine...                    Why, why...?
クリスティーン、クリスティーン...  なぜ、なぜ?
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(ラウルとマダム・ジリーが、二人が通った通路上手側に現れる。)

GIRY:(マダム・ジリー)Your hand at the level of your eyes!        手を目の高さに!

RAOUL:(ラウル)..at the level of your eyes...              ...目の高さに...

MOB:(人々の声)Your hand at the level of your eyes!        手を目の高さに!

GIRY:(マダム・ジリー)
He lives across the lake, Monsieur. This is as far as I dare go.
彼は湖の向こうに住んでいます。私が来れるのはここまでです。

RAOUL:(ラウル)  Madame Giry, thank you.          マダム・ジリー、ありがとう。

(ラウルはマダム・ジリーと別れ下手側へと進む。人々の声が後を追うように響く。)

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MOB:(人々の声)
Track down this murderer - He must be found!       殺人鬼を追え!   必ず見つけるんだ!
Hunt out this animal, who runs to ground!              地下に逃げた獣を捕えろ!
Too long he's preyed on us  - but now we know:       長い間彼は我々を餌食にしてきたが我々はもう知っている
The Phantom of the Opera is there, deep down below...      オペラ座の怪人がこの下深くにいることを
He's here: The Phantom of the Opera...                                 オペラ座の怪人、彼はここだ...
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(人々の声だけが場内に聞こえる間、スモークが焚かれ、燭台やオルガン等が置かれている怪人の部屋、第1幕第4場と同じセットが用意されて、第8場が終了。)