現代へのまなざし

日本とはなにかを探求します。

西洋の敗北-日本に民主主義は存在するのか-

2025-01-07 22:16:41 | 政治

 兵庫県知事選挙で、既存マスコミは信じられないとする大衆がネット情報に誘導され、ポピュリズムを体現するかのような投票行動を取り、パワハラが報じられていた斉藤前知事を新しい知事に選出した。この大衆の行動について、非常に参考になる記述が歴史人口学者であるエマニュエル・トッド氏の著作(「西洋の敗北 日本と世界に何が起きるのか」エマニュエル・トッド著 大野舞訳(文藝春秋、2024年))にあった。

 「ウクライナ戦争以前、西洋の民主主義は、ますます深刻化する害悪に蝕まれていると見られていた。この害悪によって、思想面と感情面において「エリート主義」と「ポピュリズム」という二つの陣営が激突するようになる。エリートは、民衆が外国人嫌いへと流されることを非難する。民衆は、エリートが「常軌を逸したグローバリズム」に耽っているのではと疑う。民衆とエリートが、ともに機能するために協調できなくなれば、代表制民主主義の概念は意味をなさなくなる。すると、エリートは民衆を代表する意思を持たなくなり、民衆は代表されなくなる。世論調査によれば、「西洋民主主義国」の大部分において、ジャーナリストと政治家は、「最も尊敬されてない職業」だという。いま陰謀論が蔓延しているが、これは、「エリート主義対ポピュリズム」、すなわち社会の相互不信によって形成される社会システムに特有の病理なのだ。  民主主義の理想は、「すべての市民の完全なる経済的平等」という夢にまでは至らなくとも、「人々の社会的条件をなるべく近づける」という観念を含んでいた。第二次世界大戦後、民主主義が絶頂にあった時期には、アメリカを始めとする多くの国で、「プロレタリア」と「ブルジョア」が「大規模になった中流階級」の中に溶け込むことすら想像できたのだ。ところがここ数十年、国によって程度に違いはあるが、私たちが直面してきたのは、格差の拡大である。自由貿易によってもたらされたこの現象は、既成の諸階級を粉砕したが、同時に物質的生活条件も悪化させ、労働者階級だけでなく中流階級の雇用へのアクセスまでも悪化させた。繰り替えすが、私のこうした考察は、誰もが同意するはずの至極平凡なものにすぎない。  今日の民衆の代表者、つまり、高等教育を受けた大衆化したエリートたちは、第一次産業および第二次産業に従事する人々を尊重しなくなり、どの政党に属していようが、根底では、自らが高等教育で身につけた価値観こそが唯一正統なものだと感じている。彼らにとっては、自分はエリートの一員であり、その価値観こそが自分自身であり、それ以外は何の意味もなさず、虚無でしかない。こんなエリートなら自分以外の何かを代表することなど絶対にできないだろう。」(上掲書 p.162~p.163)

 エマニュエル・トッドが引用している世論調査によれば、ジャーナリストと政治家は最も尊敬されていない職業だという。既存マスコミや既成政党が尊敬されておらず、社会の相互不信の中で陰謀論が蔓延しているのが、現在の西洋民主主義国の実態である。その結果、既成政党は選挙で敗北し、トランプ氏に支配された共和党や、極右ポピュリスト政党が選挙で議席数を増やしているのである。

 大卒エリート、日本では大卒の割合が25%程度であり、20代から30代では大卒割合が50%を超えているため、大卒はすでに大衆化された存在であるが、「高等教育を受けた大衆化したエリートたち」が有権者の意思を代表できず、高等教育で学んだことを金科玉条のごとく信奉し、大衆と乖離する存在となっていない状況では、既存マスコミも政治家も信頼されないだろう。そこに、ポピュリスト達が、既存マスコミや既存政党は信じられないという反エリート的な言葉をネットで繰り返し垂れ流す。そのポピュリストの言葉を有権者が盲信し、投票行動に移す。この現象が、東京都知事選挙や兵庫県知事選挙で見られたのだろう。

 新自由主義がもたらした格差の拡大、その結果による中流階級の衰退がこのようなポピュリズムの蔓延を招いてるのである。一部の富裕層のための新自由主義が中流階級をぶち壊し、ポピュリズムを蔓延させている状況を変えなければ、民主主義の崩壊を止めることはできないだろう。

 既存マスコミも既存エリートとなり、庶民を代表する存在でなくなっている。既存マスコミの記者達は自分たちの価値観こそが絶対的に正しいという信念のもとで報道を繰り返すことから、既存マスコミの報道は庶民感覚とは乖離したものとなり、その結果、庶民は既存マスコミを信じることなく、逆にネットでの陰謀論に引き寄せられるのである。

 新自由主義によって、株主が大きな存在となり、株主配当を増やし続けている企業、そして補助金のバラマキや法人税減税などにより企業優遇を続ける政府。他方で、格差が拡大し、中流階級は細っていき、可処分所得が減り続け、日々の生活に精一杯になる多くの人達。

 マスコミは、日本は自由で民主主義の国だと言うが、実態は、エマニュエル・トッド氏が指摘するように、国民の代表である国会議員が国民を代表することなく、官僚は国民の実態を踏まえることなく、他方で企業経営者や富裕層を代表するという、民主主義ではなく寡頭制政治が実態となっているのである。民主主義国家には国民の意見を代弁する代議士によって成り立つ国会があり、国会は国民の信託を踏まえて国民の意見を代表して論議する国権の最高機関であるはずなのに、国会議員が国民の意見を代弁することなく企業や富裕層の声を代弁する実態をふまえれば、日本は民主主義ではなく寡頭制政治と言えるだろう。

 日本の状況もまた、西洋と同じ状況であり、日本の民主主義も敗北しているのであろう。民衆の意見を尊重せず、自分が身につけている価値観こそが唯一正統なものだと感じている大衆化したエリートであるジャーナリストが記事を執筆する既存メディアもまた、あらゆる階層の意見を尊重する民主主義を捨て、寡頭制政治を代弁する存在に成り下がったのだろう。

 日本の民主主義を再生するためには、中流階級の再形成が必要である。そのためには、差別主義的な新自由主義から決別し、民主主義に必要な所得の再配分を公正に行うことができ、また、庶民の実態を体感できる人達を増やし、まともなジャーナリズムとまともな政治家取り戻すことが必要なのである。

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マスコミへの不信-兵庫県知事時選挙と自由民主主義的価値観-

2024-12-03 20:12:18 | 政治
 11月に実施された兵庫県知事選挙で、パワハラの証言があり議会から不信任決議を受けた斉藤前知事がネットでの異常な支持によって再選された。ネットでのデマは別にして、「既存マスコミは信用できない。ネットで真実を知った」という有権者が斉藤前知事に投票した事実がある。
 「ネットde真実」という情報リテラシーもなく、論理的思考もできない人達の支持によって選挙結果が左右されるという、民主主義の欠陥を露わにした選挙結果であった。民主主義が衆愚政治に陥った状況を目の当たりにし、民主主義の将来を危惧する人達も多数存在するだろう。しかし、何が「既存マスコミは信頼できない」という感情を抱かせたのか、この部分を明確にしなければ、大衆が誤った判断をすることは止められないだろう。

 朝日新聞や読売新聞、日経新聞など日本のメジャーな全国紙は、自由と民主主義をその基本的な価値観として紙面を作成している。アメリカの民主党の主張を見ても、自由と民主主義に基づき、多様性の尊重、その結果として少数派の権利尊重、さらに言えばLGBTQの権利を尊重し、多様な意見、多様な価値観の尊重を基本的な価値観としている。
 また、個人の尊重も重視しており、その結果として能力主義(メリトクラシー)を無意識的に採用しているように思える。すなわち、各個人が自分の努力によって勉強をし、その結果、有名大学に進学し、給料の高い企業に就職する。格差は能力主義の結果であって、低所得の人達も頑張れば高所得になることができる。低所得の人達はもっと頑張らなければならない。
 他方で、貧困に陥っている非正規労働者を救済しなければならない、あるいは、貧困な高齢者を救済する必要がある、ヤングケアラーを救済しなければならない等の主張も行っているが、能力主義と弱者救済がどのような関係にあるのかについては触れることはない。

 しかし、多くの民衆の生活状況はどのようなものなのだろう。高学歴で大企業に就職している人達は年収600万円以上で年収1000万円以上の人達も多くいる。その人達にとっては能力主義は当然で、頑張ったから高収入なのだという前提がある。そして自由や民主主義の重要性を認識しているため、多様性は重要であるという認識を持っているだろう。一方で、多くの民衆は年収が600万円以下で、生活も苦しく、自分の生活をどう維持するのか、今後の生活がどうなるのかという不安がある。
 日常生活で精一杯、将来どうなるか不安を抱えている人達に、他人の権利を守ることが重要だという意識が薄くなるのはやむを得ないだろう。なぜ自分の生活が不安定なのか、将来どうなるのだろうか、そういう不安を抱える人達が、多様性が重要とか、少数派の権利を守る必要があるというマスコミ報道に違和感を抱くのは当然だろう。

 多くの民衆が、自分の日常生活を念頭に置けば、既存マスコミが報道していることは事実なのか?事実をねじ曲げた偏向報道なのではないか?という疑念を抱くのもやむを得ないだろう。
 自分が学校生活を送った記憶をたどっても少数派が尊重されることはなかった(少数派がイジメのターゲットになっていた)、自分が勤務している会社ではパワハラやセクハラが存在しており、マスコミが報道しているような綺麗事は現実とは異なる。自分は一生懸命仕事をしているが、給料が大きく増えることなく年収も低いままだ。何か、既得権益があって、既得権益を有している人達が自分たちをないがしろにしているのではないか。マスコミの報道と事実は全く違う、マスコミは真実を報道していないのではないか、大衆がこのような意識を抱いてもおかしくは無い。

 マスコミ報道と自分たちの生活実感が異なれば、違和感を抱き、マスコミは間違った報道をしているのではないかという意識が多くの民衆に深く刻み込まれるだろう。

 アメリカでは、トランプ前大統領の主張は高学歴層などからバカにされる。トランプ支持者達も高学歴層からバカにされる。しかし、民主主義では1人1票なので、バカにされる人達が高学歴層などよりも多ければトランプ前大統領が大統領選で勝利するのは当然である。

 この現象が兵庫県でも起こったのである。既存マスコミが自由と民主主義を基本的価値観として様々な報道をしても、多くの民衆には違和感のある報道であり、受け入れられていなかった。そこへ、ネットを利用して民衆の感情に訴えかけるデマが飛び交えば、既存マスコミへの違和感を抱いていた民衆はそのデマを真実として受け入れるだろう。その結果「ネットde真実」が拡散するのである。

 既存のマスコミが民衆の体感を無視し、自由と民主主義に基づいた報道を繰り返せば繰り返すほど、民衆との距離が大きくなり、民衆からの支持を失うのである。マスコミが、ステレオタイプな言葉を報道し続ける限り民衆からの支持は得られない。民衆の鬱憤も踏まえた上で、自由と民主主義という価値観と民衆の望みをどのように解決するのか深く考えた上で報道する必要があるだろう。
 もっとも、本来的にそれを行うのは政治家であるが、日本では政治家が少なく政治屋が多いため国会議員等には困難である。その点を踏まえても、マスコミの報道は重要である。
 既存マスコミがそういった面を認識できなければ、今回の兵庫県知事選挙のような、デマに欺される民衆によって選挙結果が左右されるという、ポピュリズム、衆愚政治が今後の日本で全面的に展開されるだろう。
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権威主義が残る日本-自民党保守派の権威主義的性格-

2024-10-20 09:36:43 | 政治

 国連の女性差別撤廃委員会は17日、日本の女性政策を審査する会合をスイス・ジュネーブで開いた。委員からは選択的夫婦別姓の導入に向けた取り組みを問う声や、男女平等の観点から皇室典範の見直し検討を促す意見が上がった。(「夫婦別姓、皇室典範に言及 女性差別撤廃委が対日審査―国連」(時事ドットコムニュース))
 これに対し、日本政府の代表は「国民の意見や国会の議論を注視しながら、司法の判断も踏まえさらなる検討を進める」と述べるにとどめた。また、男系男子のみに皇位継承を認める皇室典範について問われると、政府担当者は「歴史や伝統を背景に国民の支持を得て今日に至っている」として、同委で扱うことは「適切ではない」と主張した。(「時事ドットコムニュース」から)

 男系男子のみに皇位継承を認める皇室典範、男女同姓を強制する民法、これらの法律の改正に取り組まない日本政府代表の言い訳には、今の日本の後進性が物語られている。

 まず、選択的夫婦別姓については国民の多くが支持しているが、旧安倍派に代表される自民党保守派と言われる人達や、自民党岩盤支持層と言われる人達は、家族の一体性を壊すものだとして反対をしている。つまり、多くの国民は支持しているものの、一部の保守派が反対することで実現できていない制度なのである。
 次に、皇室典範であるが、これは明治時代の家父長制を色濃く残しているものであり、夫婦同姓と男系男子による皇位継承は根を一つにするものである。つまり、家父長制では当然のことながら男系長男が家の家長となり、家を存続させるのである。これを皇室に適用すれば、男系男子が皇位を継承することになるのである。この皇室典範の存在を知っている国民がどれだけ存在するだろう。また、世論調査結果では女性天皇を認める国民が多数であり、政府担当者の答弁は事実に基づいていないと言えるだろう。(「皇室に関する意識調査」(NHKによる意識調査))
 上記のことから、日本政府は、EBPM(Evidence Based Policy Making(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)。証拠に基づく政策立案)を主張しているものの、実態はエビデンスを無視し、自分達の政策に添って都合の良い証拠を作っている=証拠を捏造した上で政策立案をしていることがわかる。(=Policy Based Evidense Making)。

 家父長制では家長に一切の権限があり、家族の構成員は家長の許可無く婚姻も財産の処分もできない。つまり家長を最高権威者として認め、最高権威者である家長の指示に従う制度であり、非常に権威主義的な制度なのである。
 この家父長制を国家制度にすることで、家長が天皇になり、天皇が最高権威者として国家を統治してきたのが明治維新以降の日本なのである。
 第2次世界大戦で敗北した日本は、戦勝国であるアメリカ合衆国と同様、自由と民主主義を最高の価値観とし、家父長制から転換したはずであるにも関わらず、旧安倍派に代表される自民党保守派や自民党岩盤支持層は自由や民主主義ではなく、家父長制を支持しているのである。

 果たして日本は民主主義国家と言えるのか。安倍政権以降、自民党保守派が自民党の中で大きな地位を占めており、日本の政策が権威主義的な家父長制に影響されているのは、国連の女性差別撤廃委員会での日本政府の代表の発言でも明確になっている。それは、安倍元総理が「戦後レジームからの脱却」を主張したことに象徴されている。
 戦後レジームとは、日本の敗戦後、日本国憲法の制定や民法の改正によって自由と民主主義を基本的な価値観として作り上げられた体制であり、この戦後レジームからの脱却は、明治維新以降の家父長制を中心とする権威主義的制度による体制の構築を意味している。

 自由と民主主義を基本的価値観とする先進国にあって、日本の後進性、権威主義的な性格を守り続けているのが、旧安倍派に代表される自民党保守派であり自民党岩盤支持層なのである。先進国の中で夫婦同姓を強制している国は日本だけであり、皇位継承を男系男子に限定しているのも日本だけである。
 この権威主義的な日本という後進性を維持し続ける日本は、先進国標準から取り残されているのは当然である。このため、日本が先進国から衰退途上国となり、やがて後進国に転落するような状況に置かれているのではないか。

 日本が先進国から取り残される状況をもたらしているのは、権威主義に侵されている旧安倍派に代表される自民党保守派や自民党岩盤支持層が政策決定に影響力を持っているからであり、先進国の一員として国際社会で活躍するためには、旧安倍派に代表される自民党保守派や自民党岩盤支持層の影響を排し、自由と民主主義に基づいた政策を日本の基本的な政策とする必要があるのである。

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台湾有事とはー日本はウクライナと同じ道を歩むのかー

2024-09-07 19:31:24 | 政治
2022年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻を開始してから既に2年5ヶ月以上が経過した。
 このロシアによるウクライナ侵攻に関して、フランスの歴史人口学者であるエマニュエル・トッドは「第三次世界大戦はもう始まっている」(文春新書)の中で、貴重な見解を示している。次の文章は文藝春秋のサイトに掲載されている同書の紹介文章だ。

「戦争を仕掛けたのは、プーチンでなく、米国とNATOだ。
 「プーチンは、かつてのソ連やロシア帝国の復活を目論んでいて、東欧全体を支配しようとしている。ウクライナで終わりではない。その後は、ポーランドやバルト三国に侵攻する。ゆえにウクライナ問題でプーチンと交渉し、妥協することは、融和的態度で結局ヒトラーの暴走を許した1938年のミュンヘン会議の二の舞になる」――西側メディアでは、日々こう語られているが、「ウクライナのNATO入りは絶対に許さない」とロシアは明確な警告を発してきたのにもかかわらず、西側がこれを無視したことが、今回の戦争の要因だ。

 ウクライナは正式にはNATOに加盟していないが、ロシアの侵攻が始まる前の段階で、ウクライナは「NATOの〝事実上〟の加盟国」になっていた。米英が、高性能の兵器を大量に送り、軍事顧問団も派遣して、ウクライナを「武装化」していたからだ。現在、ロシア軍の攻勢を止めるほどの力を見せているのは、米英によって効果的に増強されていたからだ。

 ロシアが看過できなかったのは、この「武装化」がクリミアとドンバス地方の奪還を目指すものだったからだ。「我々はスターリンの誤りを繰り返してはいけない。手遅れになる前に行動しなければならない」とプーチンは発言していた。つまり、軍事上、今回のロシアの侵攻の目的は、何よりも日増しに強くなるウクライナ軍を手遅れになる前に破壊することにあった。

 ウクライナ問題は、元来は、国境の修正という「ローカルな問題」だったが、米国はウクライナを「武装化」して「NATOの事実上の加盟国」としていたわけで、この米国の政策によって、ウクライナ問題は「グローバル化=世界戦争化」した。」


 ロシアのウクライナ侵攻に対抗するため、西側諸国はロシアへの強力な経済制裁を行い、また、ノルドストリームはウクライナなどによって破壊され、さらに、ノルドストリーム2は中止となり、ドイツはエネルギー不足などによって経済打撃を受け、2023年度のドイツのGDP成長率は-0.3%とマイナスになったのである。


 さて、日本では台湾有事が物語られている。

 中国と台湾の問題で、基本的なことを書いておきたい。
 中国政府は、台湾は中国と一体ということを過去から言い続けている。アメリカと中国が国交を回復した際も、日本と中国が国交を回復した際も、中国は中国と台湾が一体だと主張している。
 これに対し、アメリカは「中国はただ一つであり、台湾は中国の一部分であると主張していることを認識している。アメリカ政府は、この立場に異論をとなえない」としている。
 日本は「この中華人民共和国政府の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」としている。

 アメリカの署名な投資家であるジム・ロジャーズは、「2030年 お金の世界地図」(SBクリエイティブ )で次のように書いている。
 「私が台湾有事の可能性に注目しているのは、なぜかアメリカが戦争を望んでいるように見えるからである。
 世界地図を見ればわかるように、台湾はアメリカから約1万km離れている。
 仮に中国が台湾に武力攻撃を仕掛けた場合、中国は短期間のうちに台湾を占領出来る可能性が高い。当然、アメリカは台湾側を助けるという名目で軍事介入を行い、米中の衝突が起こることになる。
 アメリカが中国を攻撃し、台湾を奪還しても、中国の再攻撃に備えて台湾周辺での軍備を増強する必要があり、 膨大なコストを要することになる。繰り返すが、台湾とアメリカには物理的に相当な距離があるのだ。
 ペンタゴン(国防総省)のほとんどの研究では、諸々の条件を踏まえ、アメリカが敗北する可能性が高いと予測しているはずである。
 だが、それでもアメリカが中国を挑発し、台湾有事が起きる可能性はある。」(同書p.29~p.30)

 台湾から1万km離れているアメリカからではなく、台湾に近い、そしてアメリカの同盟国である日本や韓国に出動させる方が効果的であり効率的である。日本の自衛隊とアメリカ軍、韓国軍とアメリカ軍、そして台湾とアメリカ軍は集団的自衛権で繋がっているのである。
 台湾有事が発生すれば、日本の自衛隊と韓国軍が中国人民解放軍と対峙することになる可能性が高いのである。その結果、日本の経済状況は悪化し、さらには日本の本土が中国から軍事攻撃を受ける可能性もある。

 アメリカは、ロシアの帝国化を防ぎ、ドイツの国力を低下させるために、ウクライナを利用し、それによって、アメリカなどのNATO軍の兵器によってウクライナ人がロシアと戦っているが、台湾有事になるとウクライナ人ではなく、日本人や韓国人が中国と戦うことになるだろう。
 日本人がウクライナ人同様に、アメリカ軍の代わりに中国人民解放軍と戦う理由は全くない。中国と台湾の紛争に日本人が介入する理由などないのである。日本のウクライナ化は断固として拒否する必要がある。
 アメリカの属国のように振る舞う日本政府だが、日本人はアメリカの傭兵では無い。日本の国益を考えて行動して欲しいものである。

 日中国交回復の際に確認した事項を、再度よく確認し、中国と台湾は一つの中国だという認識があれば、台湾有事などというものは中国の国内問題であり、日本やアメリカが軍事的に介入するようなものではないと、しっかり認識して欲しいものである。
 台湾は独立国でもなく、中国の一部であるという中国の立場を理解し、尊重している日本は、台湾有事に対しては外交力で対応すべき問題だとしっかりと認識する必要がある。

 日本はウクライナのような愚かな国になってはいけない。日本の国益をよく考えて外交を進める必要がある。
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自由民主党の改憲草案と家父長制-民主主義からの逸脱-

2024-07-28 14:57:54 | 政治
 日本国憲法については、未だに自由民主党が改正を進めようとしている。しかし、自由民主党の憲法改正草案は民主主義を実現する憲法から逸脱し、個人の尊厳という価値観から家族主義による和(個人の尊厳よりも家族のための孝忠という価値観の重視への転換)へと退化するような内容を含んでいる。自由と民主主義という日本国憲法から自由の制限と家族主義という戦前的価値観に転換しようと企てていると考えられる。それはなぜか。

 現在の日本国憲法の大きな特徴は、「国民主権」「基本的人権の尊重」「平和主義」を掲げていることである。第2次世界大戦以前の大日本帝国憲法では、国民主権ではなく天皇主権、基本的人権は法律の留保によって大きく制限され、平和主義はそのかけらもなかった。
 自由民主党の憲法改正草案では、その前文で「国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって」と天皇をわざわざ特だしし、さらに「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。」と「和」や「家族」を記載しているのである。
 自由民主党の憲法改正草案の各条文を一つ一つ検討することは、その検討にも値しない草案であるため、労力を省く観点からも行わないが、天皇、家族という第2次世界大戦以前の、国によって定められた価値観が大きく盛り込まれているのである。「個人」という文言を削除している点も大きな特徴である。

 第2次世界大戦で日本が負けるまでの、日本における家族制度とはどのようなものだったのか。
 「日本社会の家族的構成」(岩波現代文庫、川島武宜著、2000年)に収録されている「イデオロギーとしての「家族制度」」が詳しく説明しているので、その一部を抜粋したものが次の文章である。(p.153~p.157)

 「家族制度」は「家」および家父長制の二つの要素が離れがたく結びついている家族秩序である。そして「家」とは、「世帯の共同とは関係のない血統集団であって、構成員の死亡・出生・結婚等による変動はあってもその同一性を保持して存続してゆくものだという信念を伴うところのもの」と定義することができるだろう。

 「家」は次のような意識(信念体系・価値体系)によって支えられている。第一に、血統連続に対する強い尊重、及び祖先と子孫が一体であるという信念。第二に、その結果、多産の尊重、子を生まない妻の蔑視。第三に、祖先の尊重。第四に、伝統の尊重。第五に、個人に対する「家」の優位。第六に、家の外部においても個人をその属する家(特に「家格」)によって位置づけること(「毛並み」の尊重)。

 そして、家父長制は、家長が家族構成員に対して支配命令し、後者が前者に服従する社会関係である。その具体的内容は、第一に、家族構成員に対してその行動を決定し、それに服従させる家長の権力。第二に、この権力を保障するための道具としての、幼少時からのしつけ、及び家族内の「身分」の差別と序列。家長による財産の独占と単独相続性。

 この家と家父長制が結合しているということは、家族制度を特色づける。そのもっとも重要な点は家長の権力を神格化し、それを伝統の力によって補強し、且つ権力支配を外見的に見えにくい・あるいは外見的に穏和なものにする、ということである。


 このような家族制度が第2次大戦前のものであるが、敗戦によって家族制度がいきなり変化することもなく、昭和時代の家族には「家」と「家父長制」が色濃く残っていただろう。未だに、結婚式や葬式では「家」が持ち出されているため、今でも色濃く残っている家族があるかもしれない。

 そして、この「家」「家長」を国家に適用した場合、家長は言うまでもなく天皇であり、国民(当時は臣民と言われていた)は天皇の子供であり、天皇は家族に対し支配命令し、子供である国民は家長である天皇の命令に服従するということが絶対的な道徳(当時は「修身」と言われていた)であり、この道徳に反するものは徹底的に攻撃され排除されたのである。
 さらに、このような道徳(修身)を盛り込んだものが教育勅語にほかならない。自民党議員の一部が教育勅語を学ぶように主張するのは、このような第2次世界大戦前の天皇制支配の原理や家父長制を復活させようという意図があるからに他ならない。

 その前文で「和」や「家族」を持ち出している自由民主党の憲法改正草案とは、現在の日本国憲法の基本原則を変更し、第2次世界大戦以前の日本における支配原理、個人ではなく家を優先し、その結果、個人よりも国を優先するような支配原理を復活させようと意図したものにほかならない。
 しかし、このような大きな問題であるにも関わらず、表面的な議論に終始し、マスメディアなども問題を深く検討することもなく、権力に忖度したような報道を繰り返すであろうから、憲法改正論議には気をつける必要がある。
 国民の多くが、個人よりも「家」や「国家」を優先し、また、「家」や「家父長制」を支持し、その結果、天皇を特別な地位に就けることを支持するのであれば、自由民主党の改憲草案に賛成すればいいが、今の社会状況を考えれば、自由民主党の改憲草案は、自由、民主主義という日本社会の方向とは全く逆方向のものであることは間違いない。

 自由と民主主義をその価値観とする日本において、自由民主党の改憲草案は家父長制を復活させるような全く時代錯誤的なものである。個人の尊厳や基本的人権の尊重という戦後民主主義を否定し、戦前への回帰を意図するものが、自由民主党の改憲草案であると言わざる終えない。
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